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第四章:生の楽園を突き進む
第三十二話:一つの違和感と成長速度
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サニィの魔法は飛躍的に成長していた。
ジャングルで覚えた透視の魔法も8km程先まで見られる様になっており、その距離まで一気に開花させることも普通になってきた。
しかし一方で、レインはサニィの魔法に一つの異常性を見出していた。出力が増えたことによって生じはじめた隙、違和感と言った方が良いのだろうか。
サニィの魔法のとある異常性。それは、出力が大きすぎる? マナ量に際限が無い?
いや、レインの見つけていた異常性はそこではないではない。
そんなものはサニィの能力の一端に過ぎない。魔法使いの勇者であれば魔王の時代に存在した極一部はその位の出力を持っていたし、丸一日マナが尽きない者もいた。
現代に当てはめればそれは十分に異常と言えるが、対魔王というドラゴンよりも遥かに規模の大きい戦闘が必要無い以上、勇者であるというだけで存分に戦える。
それ故に、その能力を真に開花させる者この国では居なかった。ただ、レインを除いて。
よって、それは勇者としても特別というわけではない。
彼女の異常性、それは杖が殆ど意味を成していないことにある。
イメージの手助けには確かになっているものの、それが蛇口のハンドルとしての役割を果たしているとは到底思えない。サニィは想いが込められた道具を持つということは魔法を使う為の条件だと言っていたはず。
確かに、ドラゴンすら自身の角や牙を道具代わり、ハンドルに見立てて魔法を使っていた。しかしサニィの魔法は杖を通して行使しているものの、それに意味を見いだせない。言い換えれば、杖など無くても同等の魔法が使えるのではないか。そんな疑問だった。
しかし、それを今彼女に伝えるべきか、レインは迷っていた。
彼女は不意の出来事に弱い。それは今まで見てきてずっと理解していたし、散々自分自身でそれを行なってしまっていたことを理解している。そしてサニィに出会ってから、非常識なことばかりを見せてきたことを、流石にレインも理解していた。
連続したパニック状態を作り続けることは好ましく無いだろう。
更に、彼女は杖に愛着を持っている。『フラワー2号』などと言うダサい名前ではあるが、それは正しく両親の形見。
それを必要無いと言うのは彼女の魔法にとっては好ましく無いようにすら思う。
元々レインは口の上手い方ではない。
現時点でサニィにそれを上手く伝える術は思い浮かばなかった。
とりあえず、現時点でサニィの成長は順調だ。
その為一先ずは壁に当たるまでは様子見で良いだろうという考えに至る。
――。
取り敢えず、そんな結論をレインは一人で出した今、考えるべきは次の目的地かもしれない。今は何も考えずにふらふらと南へ西へと歩きながら魔法の訓練をしていた。
ジャングルを抜けた今、ここからまっすぐ進めば海、西に進めば砂漠の方向、東に進めば死の山を迂回することになるのでその奥の火山地帯へと進むことが出来る。
どこに進むにしろ死の山よりも遥かに難易度の低いところではあるが、彼らはどこも未体験。
多少の困難と楽しみを得られることは間違いないだろう。
「ということで、どうする?」
「私、海を見たいです! まだ大陸を渡る、なんてことは考えてないですけど、海、見たいんです!」
「よし、そうしようか。それならその後は砂漠にでも行ってみるか? 反時計回りで大陸をまわって、ほかの大陸を目指そうか」
「良いですね。そろそろ一日の移動距離を伸ばしますか? 最近微妙にスタミナ強化というか、身体強化っぽい魔法を無意識に使ってるみたいなんです。しっかり休みさえとればレインさんのトレーニングを除けばスタミナ切れはほぼ無いみたい」
「そうしてみようか。今日は試しに100km程移動してみよう」
「はいっ」
そうして方針がすんなりと決まった。
今までの徒歩の移動距離は一日辺り平地で平均30-40km。それを倍以上に引き上げてみようという考えだ。
サニィはジャングルの中ではひたすらテンションを上げて動物観察をしていたため、直線距離にすれば10km程の移動だったが、実質的に歩いていた距離は平地と同じ40km程だった。その為、海へと向かう丘や小山程度の土地であれば100km進むことも体力的には殆ど変わらないだろう。そう考えていた。
どっちにせよ、サニィが疲れたら休憩するなりおぶるなりすれば問題ない。
「海か、俺も行ったことがないから楽しみだ」
「陸育ちが初めて見ると感動するものと言えば海ってよく言いますもんね。楽しみですー」
「俺の村ではそういう話はあまり聞かなかったが、果てが見えない程らしいな」
「そうなんですよー。しかも南の海といえば綺麗って話でしたし。ジャングルも楽しみでしたけど海はもっと楽しみ」
そうして若干の恍惚状態になるサニィを眺めるレイン。
彼女は基本的に元気が良い。精神面で若干の危うさは未だに残るものの、楽しいことに関してはとことん素直に楽しめる。それが一目惚れでは無い部分も魅力の一つだろう。
本気で楽しむ人間を見ているのは楽しい。
レインがそれに気づいたのも、サニィと旅をし始めてから得た感覚だった。
海までは残り200km。未だ見ぬ水平線に思いを馳せながら、二人は今日も旅をする。
残り【1800→1798日】
ジャングルで覚えた透視の魔法も8km程先まで見られる様になっており、その距離まで一気に開花させることも普通になってきた。
しかし一方で、レインはサニィの魔法に一つの異常性を見出していた。出力が増えたことによって生じはじめた隙、違和感と言った方が良いのだろうか。
サニィの魔法のとある異常性。それは、出力が大きすぎる? マナ量に際限が無い?
いや、レインの見つけていた異常性はそこではないではない。
そんなものはサニィの能力の一端に過ぎない。魔法使いの勇者であれば魔王の時代に存在した極一部はその位の出力を持っていたし、丸一日マナが尽きない者もいた。
現代に当てはめればそれは十分に異常と言えるが、対魔王というドラゴンよりも遥かに規模の大きい戦闘が必要無い以上、勇者であるというだけで存分に戦える。
それ故に、その能力を真に開花させる者この国では居なかった。ただ、レインを除いて。
よって、それは勇者としても特別というわけではない。
彼女の異常性、それは杖が殆ど意味を成していないことにある。
イメージの手助けには確かになっているものの、それが蛇口のハンドルとしての役割を果たしているとは到底思えない。サニィは想いが込められた道具を持つということは魔法を使う為の条件だと言っていたはず。
確かに、ドラゴンすら自身の角や牙を道具代わり、ハンドルに見立てて魔法を使っていた。しかしサニィの魔法は杖を通して行使しているものの、それに意味を見いだせない。言い換えれば、杖など無くても同等の魔法が使えるのではないか。そんな疑問だった。
しかし、それを今彼女に伝えるべきか、レインは迷っていた。
彼女は不意の出来事に弱い。それは今まで見てきてずっと理解していたし、散々自分自身でそれを行なってしまっていたことを理解している。そしてサニィに出会ってから、非常識なことばかりを見せてきたことを、流石にレインも理解していた。
連続したパニック状態を作り続けることは好ましく無いだろう。
更に、彼女は杖に愛着を持っている。『フラワー2号』などと言うダサい名前ではあるが、それは正しく両親の形見。
それを必要無いと言うのは彼女の魔法にとっては好ましく無いようにすら思う。
元々レインは口の上手い方ではない。
現時点でサニィにそれを上手く伝える術は思い浮かばなかった。
とりあえず、現時点でサニィの成長は順調だ。
その為一先ずは壁に当たるまでは様子見で良いだろうという考えに至る。
――。
取り敢えず、そんな結論をレインは一人で出した今、考えるべきは次の目的地かもしれない。今は何も考えずにふらふらと南へ西へと歩きながら魔法の訓練をしていた。
ジャングルを抜けた今、ここからまっすぐ進めば海、西に進めば砂漠の方向、東に進めば死の山を迂回することになるのでその奥の火山地帯へと進むことが出来る。
どこに進むにしろ死の山よりも遥かに難易度の低いところではあるが、彼らはどこも未体験。
多少の困難と楽しみを得られることは間違いないだろう。
「ということで、どうする?」
「私、海を見たいです! まだ大陸を渡る、なんてことは考えてないですけど、海、見たいんです!」
「よし、そうしようか。それならその後は砂漠にでも行ってみるか? 反時計回りで大陸をまわって、ほかの大陸を目指そうか」
「良いですね。そろそろ一日の移動距離を伸ばしますか? 最近微妙にスタミナ強化というか、身体強化っぽい魔法を無意識に使ってるみたいなんです。しっかり休みさえとればレインさんのトレーニングを除けばスタミナ切れはほぼ無いみたい」
「そうしてみようか。今日は試しに100km程移動してみよう」
「はいっ」
そうして方針がすんなりと決まった。
今までの徒歩の移動距離は一日辺り平地で平均30-40km。それを倍以上に引き上げてみようという考えだ。
サニィはジャングルの中ではひたすらテンションを上げて動物観察をしていたため、直線距離にすれば10km程の移動だったが、実質的に歩いていた距離は平地と同じ40km程だった。その為、海へと向かう丘や小山程度の土地であれば100km進むことも体力的には殆ど変わらないだろう。そう考えていた。
どっちにせよ、サニィが疲れたら休憩するなりおぶるなりすれば問題ない。
「海か、俺も行ったことがないから楽しみだ」
「陸育ちが初めて見ると感動するものと言えば海ってよく言いますもんね。楽しみですー」
「俺の村ではそういう話はあまり聞かなかったが、果てが見えない程らしいな」
「そうなんですよー。しかも南の海といえば綺麗って話でしたし。ジャングルも楽しみでしたけど海はもっと楽しみ」
そうして若干の恍惚状態になるサニィを眺めるレイン。
彼女は基本的に元気が良い。精神面で若干の危うさは未だに残るものの、楽しいことに関してはとことん素直に楽しめる。それが一目惚れでは無い部分も魅力の一つだろう。
本気で楽しむ人間を見ているのは楽しい。
レインがそれに気づいたのも、サニィと旅をし始めてから得た感覚だった。
海までは残り200km。未だ見ぬ水平線に思いを馳せながら、二人は今日も旅をする。
残り【1800→1798日】
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