雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
17 / 592
第二章:美少女魔法使いを育てる

第十七話:少女は強さの根源を見つめる

しおりを挟む
「戦闘訓練って具体的には何をやるんですか?」

 朝、再び歩き出した二人は相変わらず青い道を作りながら、街に向けて進む。
 魔法を扱う訓練は順調。すでに花の道は殆ど自然と作られるまでになっている。
 サニィに足りないものは咄嗟の対応力と経験、そして相手を倒すイメージだ。
 何故か倒すイメージはレインにはきっちりと向けられているが、それがどんな相手にも出来るとは限らない。
 ならば一先ずはある意味で暴力を振るっても許されるとサニィ自身が考えているレインを相手に戦うのが大きな経験となるだろう。
 今まではレインは常にサニィに対しては一定の笑みを崩さずに向かい合ってきた。しかし、それがただ少し真面目な顔をするだけでかかるプレッシャーは尋常なものでは無くなる。
 最初はその空気を経験することにする。

「だから、俺は一切何もしない。お前に向かって少々の防御をしながらゆっくり歩くだけ。それを止めてみせよ、ってのが戦闘訓練第一だ。安心しろ。殺気も発さなければ、傷つけることなど有り得ない」
「レインさんの守るとか、何もしないとか、正直嫌な予感しかしないんですけど……。ちなみに殺気を発するとどうなるんですか?」
「お前は確実に漏らす」
「……」
「お前は確実に漏らす」
「2回も言わなくて良いですから! この変態! 良いでしょう! 殺ってやりますよ!!」

 サニィの覚悟が完了したのを見ると、レインは150m程離れ、それまで湛えていた優しさを解く。笑みを止める。たったそれだけで、場の空気が凍りつくのをサニィは感じた。
 これで殺気を発してすらいない? ただ真顔になっただけ? 確かに殺されそうな感じはしないけれど、私は何を相手にしているの?
 私は、ロッククライミングにでも挑戦しようとしてたっけ?

 確かに、これならレインの言っていたことは事実だ。もし殺気を放たれたら……。
 冷や汗がサニィの頬を伝うのと同時、巨大な圧力が前方から迫り始めた。時速4kmほど。確かにゆっくりとした歩きだ。サニィの元にたどり着くまで3分弱。

(どうしよう、何をすればあれを止められる? 圧力で押し返す? いや、そんなの想像がつかない。じゃあ、昨日の様に植物で、いや、あれも平然と防がれたはず。どうしよう、どうしよう……)

 そんなことを考えている間にも、【それ】はどんどん近づいてくる。
 何も思い浮かばない。何故か、アレの方向に花は咲くけど。
 咄嗟にその派生、植物の魔法で止めようとしてみるものの、やはりあれを止められるイメージは出来ない。
 か、雷? でも、それも昨日みたいに避けられる……?

 一昨日覚えた刃の魔法を繰り出しても、それすらいとも簡単に止められる。
 そして【それ】はついにサニィの目の前まで辿り着くと、右手をあげる。
 「ひ、ひぃ!」思わず目を瞑って縮こまると、それまでの圧力はふっと消え、代わりに頭の上に優しく何かが置かれる。
 思わず涙を流しながら見上げると、そこには藍色の瞳の青年が全身を蔦に巻かれながらも、いつもの笑みをたたえてサニィを見下ろしていた。

「さて、今のが実戦に少しだけ近い空気ってやつだが、どうだった?」
「う……、ちょっと、怖かったです。何も出来ませんでした」
「そうだな。魔法の出力も昨日までより遥かに低かった。勝てないとイメージしてしまうとこうなる。ただ、最後は無意識に俺を蔦で抑えようとしてたな。それは合格だ」
「……あんまり嬉しくはないですけど。でも毎日やってください。私、強くなりますから」
「ああ、毎日頭を撫でてやろう」
「違います。と言うか何もしないって言っといて頭を撫でるなんてやっぱり嘘吐きじゃないですか!
 ……でも、情けなかった私への罰と言うことで今日は許してあげます」

「まあ、頭を撫でられたくなければ俺を止めてみせることだ」そんなことを言いながら歩き出すレインに付いて、再びサニィは青い花を咲かせる。
 この訓練は自然と防御の訓練へと繋がっている。それは確かに認められた。
 ならば、無意識にレインをも抑えられるような植物を咲かせられるまではこれを続けよう。
 どっちにしろ今は、マナの心配をしなくても良いんだし。
 サニィはほんの少しだけ掴んだことを、しっかりと心の中で復習していた。

 レインはサニィに無理をさせない。させてもほんの一時だけ。
 今日の緊張感に慣れてしまえば実戦で驕りが出てしまい、それは失敗を招く。
 圧力で殆どの魔物は今日のレインに劣るのだ。
 だから一日の戦闘訓練は一回だけ。それを彼女も分かっていた。
 努力は量ではなく質が重要だ。
「時間がないから効率的に行こう」
 再びそう言うレインを見て、サニィは少しばかり強くなるイメージが掴めた気がした。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 9

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...