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第二章:美少女魔法使いを育てる
第八話:青年は決して裏切らない
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場所は再び巨木の森。
この森はサニィの町の南西を囲う様に広がっているので同じ場所ではないが、生えている木はどれもが直径1.5mを超える。大きいものは8m程にもなる。高さで言えば100mを超えるようなものも普通に生えている。
レインが斬ったものは比較的若いものなので、この森の中では細い木ということになる。
「そういえば昨日、明らかに刀身が届かない木を斬ってましたよね? あれって魔法じゃないんですか?」
「説明するのは難しいところだな。一応は技術に分類される。まあ、勇者と呼ばれる力を振るっている以上は魔法と大差ないのかもしれないが……。周囲への被害を考えなければそこの太いのでも斬れるけどな」
レインが指し示すのは近くにある直径8mを超える程の巨木だ。
流石にそこまでの大きさに育ってしまった物を斬るのは忍びないとのことで、比較的密集地域に生えていた2m程の若木を選んで斬り倒したのだが、それを斬ることなど息をするのと変わりないという。
それをほおぇー等と息を吐きながら見上げているサニィを見たレインは、一つの言葉を思い出す。
「よし、提案だ。朝強くなりたいと呟いていたな。訓練してやる。
お前は必ず俺が守る。しかしお前自身が強くなりたいのならば別だ。人生は有意義に過ごそう」
「は、はい! 私、今度は誰かを守りたいです!」
「良い返事だ」そう言うレインの瞳は邪悪に微笑んでいた。
青年はただやる気を出しただけだったが、少なくともサニィからはそう見えていた。
その不吉な予感通り、レインの訓練は壮絶なものとなる……。
「さて、先ずはあの木を倒してみようか。平常心だ」
レインが指し示すのは彼自身が斬り倒した木と同じ位の太さの若木だ。
サニィの全力でギリギリ行けるかどうかと言ったイメージ。マナの量は足りるものの、イメージ出来るかどうかと言えばギリギリと言ったところ。周囲にどんな被害を出しても全てレインが沈めると言う。如何な魔法でも良いので倒してみろ。そんなシンプルな課題。
「では行きます」そう言うとサニィは一度大きく深呼吸をし、杖を逆さに、半身に構え、飾りの付け根に左手を、腰幅程離れたところを右手で持ち、構える。そのまま杖を振り上げると、それを木に向かって振り下ろす。
すると杖の先端から白い空気の刃が飛び出し、2m程に広がると、若木を切り裂く。
杖を薙刀のようにイメージした切断の魔法なのだろう。
若木は袈裟斬りに真っ二つになると、そのままずり落ちる。
「やった!」
そう思ったのも束の間、若木は隣の木に当たると方向を変えサニィの方向に倒れてくる
「うっ」このままじゃ潰れちゃう。
サニィは咄嗟にレインの方を見るが、彼は腕を組んでのんびりうんうんと頷いている。
「えっ、レインさ、守って、ちょっ、っ嘘つきいいいいいい!!!」
そう叫んだサニィは、そのまま直径2m程ある木に押しつぶされた……。
――。
「気がついたか」
レインの顔が目の前にある。
「ひゃあっ!」
突然のことにサニィが動転していると、嘘吐きの青年はハッハッハと笑い始める。
周囲を見回してみると、どうやら彼女は嘘吐きの腕の中で気を失っていたらしい。
そして自分の方に倒れてきた木は、細切れに飛び散っている。
「俺の剣を見て斬るイメージを固めたのは素晴らしい。しかしやはりお前の弱点は動じ易いところだな。あれの対処が出来るまで続けよう。なあに、お前は必ず俺が守ってやるさ」
「ひ、ひいいいい」
本気で死ぬかと思った。走馬灯が見えた。
そう講義しても、レインの答えは「俺が守ってやるさ」の一言のみ。
それからは猛特訓だった。
巨木は一度倒したことで、深呼吸さえすれば様々な方法で倒せるようになった。しかし、それを倒すとレインがそれをサニィに向けて押し倒す様になる。必ず直前で助けてもらえるものの、それは額に当たった瞬間にようやく助けてくれる位。しゃがみこんでみてもそれは変わらない。
その日は一日、巨木の森にサニィの絶叫が響き渡った……。
――。
「よく頑張った。お前は圧倒的に実践が足りない。魔法使いの全てはイメージだ。平常心を失わなければお前は強い」
「ふ、ふあい……」
ぐったりとしな垂れたサニィに、レインはそう褒めながら作りたてのスープを差し出す。
その日一日の訓練は実戦ではないものの、動揺するには十分過ぎるものだった。
何せ、死なないとは言え病によって死への恐怖は増幅しているのだ。レインが少し遅れれば確実にやってくる死のイメージに大いに動揺し、サニィは倒れてくる木から自分を守るイメージを作り出すまでに、丸一日かかった。その間、恐怖と戦い続けたのだ。
「でも、最後は上手くいったな。魔法の出力も徐々に上がって行ってる。お前の両親は可愛いお前に怪我をさせたくなかったから制限させていた節があるな。お前の才能はまだ底を見せていない」
「うん、頑張りますーぅ」
やっぱりこの人は嫌いだ。
そんなことを思いながらも、実際には成長してしまった所が少し悔しい。
でも、怪我はただの一つもしていない。この人と居れば安全なのもまた確かだ。
やっぱりこの人は……。
二人が出会って三日、昨日のように不貞腐れたふりをしながら、サニィは寝袋へと潜り込む。
残り【1819→1818日】
この森はサニィの町の南西を囲う様に広がっているので同じ場所ではないが、生えている木はどれもが直径1.5mを超える。大きいものは8m程にもなる。高さで言えば100mを超えるようなものも普通に生えている。
レインが斬ったものは比較的若いものなので、この森の中では細い木ということになる。
「そういえば昨日、明らかに刀身が届かない木を斬ってましたよね? あれって魔法じゃないんですか?」
「説明するのは難しいところだな。一応は技術に分類される。まあ、勇者と呼ばれる力を振るっている以上は魔法と大差ないのかもしれないが……。周囲への被害を考えなければそこの太いのでも斬れるけどな」
レインが指し示すのは近くにある直径8mを超える程の巨木だ。
流石にそこまでの大きさに育ってしまった物を斬るのは忍びないとのことで、比較的密集地域に生えていた2m程の若木を選んで斬り倒したのだが、それを斬ることなど息をするのと変わりないという。
それをほおぇー等と息を吐きながら見上げているサニィを見たレインは、一つの言葉を思い出す。
「よし、提案だ。朝強くなりたいと呟いていたな。訓練してやる。
お前は必ず俺が守る。しかしお前自身が強くなりたいのならば別だ。人生は有意義に過ごそう」
「は、はい! 私、今度は誰かを守りたいです!」
「良い返事だ」そう言うレインの瞳は邪悪に微笑んでいた。
青年はただやる気を出しただけだったが、少なくともサニィからはそう見えていた。
その不吉な予感通り、レインの訓練は壮絶なものとなる……。
「さて、先ずはあの木を倒してみようか。平常心だ」
レインが指し示すのは彼自身が斬り倒した木と同じ位の太さの若木だ。
サニィの全力でギリギリ行けるかどうかと言ったイメージ。マナの量は足りるものの、イメージ出来るかどうかと言えばギリギリと言ったところ。周囲にどんな被害を出しても全てレインが沈めると言う。如何な魔法でも良いので倒してみろ。そんなシンプルな課題。
「では行きます」そう言うとサニィは一度大きく深呼吸をし、杖を逆さに、半身に構え、飾りの付け根に左手を、腰幅程離れたところを右手で持ち、構える。そのまま杖を振り上げると、それを木に向かって振り下ろす。
すると杖の先端から白い空気の刃が飛び出し、2m程に広がると、若木を切り裂く。
杖を薙刀のようにイメージした切断の魔法なのだろう。
若木は袈裟斬りに真っ二つになると、そのままずり落ちる。
「やった!」
そう思ったのも束の間、若木は隣の木に当たると方向を変えサニィの方向に倒れてくる
「うっ」このままじゃ潰れちゃう。
サニィは咄嗟にレインの方を見るが、彼は腕を組んでのんびりうんうんと頷いている。
「えっ、レインさ、守って、ちょっ、っ嘘つきいいいいいい!!!」
そう叫んだサニィは、そのまま直径2m程ある木に押しつぶされた……。
――。
「気がついたか」
レインの顔が目の前にある。
「ひゃあっ!」
突然のことにサニィが動転していると、嘘吐きの青年はハッハッハと笑い始める。
周囲を見回してみると、どうやら彼女は嘘吐きの腕の中で気を失っていたらしい。
そして自分の方に倒れてきた木は、細切れに飛び散っている。
「俺の剣を見て斬るイメージを固めたのは素晴らしい。しかしやはりお前の弱点は動じ易いところだな。あれの対処が出来るまで続けよう。なあに、お前は必ず俺が守ってやるさ」
「ひ、ひいいいい」
本気で死ぬかと思った。走馬灯が見えた。
そう講義しても、レインの答えは「俺が守ってやるさ」の一言のみ。
それからは猛特訓だった。
巨木は一度倒したことで、深呼吸さえすれば様々な方法で倒せるようになった。しかし、それを倒すとレインがそれをサニィに向けて押し倒す様になる。必ず直前で助けてもらえるものの、それは額に当たった瞬間にようやく助けてくれる位。しゃがみこんでみてもそれは変わらない。
その日は一日、巨木の森にサニィの絶叫が響き渡った……。
――。
「よく頑張った。お前は圧倒的に実践が足りない。魔法使いの全てはイメージだ。平常心を失わなければお前は強い」
「ふ、ふあい……」
ぐったりとしな垂れたサニィに、レインはそう褒めながら作りたてのスープを差し出す。
その日一日の訓練は実戦ではないものの、動揺するには十分過ぎるものだった。
何せ、死なないとは言え病によって死への恐怖は増幅しているのだ。レインが少し遅れれば確実にやってくる死のイメージに大いに動揺し、サニィは倒れてくる木から自分を守るイメージを作り出すまでに、丸一日かかった。その間、恐怖と戦い続けたのだ。
「でも、最後は上手くいったな。魔法の出力も徐々に上がって行ってる。お前の両親は可愛いお前に怪我をさせたくなかったから制限させていた節があるな。お前の才能はまだ底を見せていない」
「うん、頑張りますーぅ」
やっぱりこの人は嫌いだ。
そんなことを思いながらも、実際には成長してしまった所が少し悔しい。
でも、怪我はただの一つもしていない。この人と居れば安全なのもまた確かだ。
やっぱりこの人は……。
二人が出会って三日、昨日のように不貞腐れたふりをしながら、サニィは寝袋へと潜り込む。
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