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第二章:美少女魔法使いを育てる
第五話:雨降って脆く崩れる
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「ところでレインさん、一つ聞いても良いですか?」
サニィの故郷に向かう道中、巨木の森の中彼女はレインに質問をする。一目惚れという話もいまいちよく分からないけれど、少しばかり気になることがあるのだ。
「レインさんのその武器ってなんなんですか? 見たことがない刀身……」
その腰に提げた剣は一般的な80cm程の短めのロングソードの様だったが、柄も鍔も飾り気は無い無骨なものであるのに、それなりに細い刀身は黒く、金色の波紋の様なダマスカス紋様が輝いている。
「ああ、これか。これは村に伝わる宝剣。とは言え性能は一般的な業物と言ったところだ。特別なことはただ一つ。絶対に斬れ味が落ちない。と言うより、壊れない」
たったそれだけのものが宝剣と言うのも不思議なものだ。伝説的な村に伝わる武器ならもっと特殊なものであってもおかしくはないはずなのに。
「それって、勇者が持つ伝説の剣ってわけじゃないんですか?」
「その伝説の剣だ。別に勇者ってのは剣が強いからなれるものじゃない。たまたま勇者の能力に応えられる剣がこれってだけだ」
その答えにサニィが首を傾げると、レインは語り出す。
勇者となる者はその身体能力の高さだけでも異常の域に達する。よって、如何な業物であっても本気で振るえばその力に耐えられず破壊されてしまう。ただ凄いだけの武器を振るう勇者は、凄い武器が耐えられるだけの力しか振るえない。
それならば多少性能は落ちようとも、決して壊れない武器を使えば、勇者は全力を振るうことが出来る。
「ま、そんな所だ。俺も何本剣を壊したことか、見てみろ」
そう言うとその剣を抜いたレインは、手近な直径2m程もある木を一太刀で切り倒す。
「なるほど……」
やっぱりこの人は人外だったんだ。刀身より太い木をどうやって切ったんだろう。
そんな感想しか出てこないサニィだったが、その木が倒れる方向もしっかり計算されている。
しかも彼女には埃の一つもかからない見事な剣技を見ると、そこに惹かれるものがないわけでもない。
と言うよりも……。
「じゃあ俺からも少し質問をしたい」
「ひゃひ、はいっ」
本人はまだ認めないだろう。ただ、思わず本気で見惚れていた所を不意に話しかけられ、サニィは動揺する。そして、その後の質問はまた予想外のものだった。
「サニィは生まれも良さそうだが、婚約者とかがいるわけではないのか?」
「ふぇ、へっ? い、いな、いなないですよ?」
父親がずっと排除してきたおかげでサニィは同年代の男子とまともに話したこともない。しかし、そんな背景を知らない彼女はレインの突然の婚約者発言に、不意に話しかけられた時以上の動揺を見せる。
実際のところサニィは生まれも良かったし、この世界では18歳にもなっていれば婚約者が居ても、既に結婚していてもおかしくはなかった。そんな普通のことを前提にレインは質問しただけなのだが、動揺したサニィにそんな意図は伝わらない。
「そうか。それなら俺が貰っても問題は無いよな?」
「え、あの、え? あ、あの、あの、あ、え? あ……」
「落ち着け。俺はお前の町で両親に挨拶をしたいだけだ」
これ以上ない程に動揺してリズムを刻み始めているサニィに、レインは無慈悲にも追い打ちをかける。青年は基本的に自分勝手だ。自分勝手だと分かっていながら自分勝手を貫く天才肌である。よって、サニィが動揺しているのが分かっている。そして、追い打ちをかけているのも分かっている。しかし止めない。
「俺はお前に一目惚れをしたからな。本気だ。だから、必ず幸せにする。そして最期は一緒に迎えよう」
「へ、……へふん」
あまりにも真剣にそんなことを言うレインに、サニィは遂には限界を迎え、顔を真っ赤にしながらガクガクと膝を震わせると、その場に崩れ落ちた。
最初に一目惚れだと言われた時はまだ死にかけで、何も実感がなかったが、一晩経って落ち着いた所でこの攻撃に耐えられる程世間慣れしてはいなかった。
と、言うよりも彼女は両親のせいで、徹底的に初心だったのだ。
レインはガクガクしたまま動かなくなったサニィを抱き抱えると、何事もなかったかの様に歩き出す。
「ふむ。やはり可愛いな」などと言いながら。
やっぱり私を弄んで楽しんでるこの男からはいつか逃げないといけない。女たらし! 女の敵! 最早意地になったサニィはそんなことを思う。
しかし、その体はレインに預けたまま。昨日のことなど殆ど覚えていない彼女は、初めて男に抱き抱えられた緊張に更に力が入らなくなりながら、既に負けそうな決意を固めようと努力した。
自分を抱えながらも平然と歩くことなど、父親にも出来なかったことなのだ。
更にレインは一切息を乱さず、しかも衝撃は殆ど来ない。むしろ心地良い揺れだ。本当に達人の身のこなしでサニィを運搬する。
……今まで男と触れ合ったことなどまともになかったサニィはチョロかった。
その脆弱な意地の砦は瞬く間に崩れ落ち、いつの間にかレインに抱きかかえられたまま眠りに落ちる。心地よい揺りかごの中で、子供の頃の夢を見ながら。大好きな両親に大切にされている過去の夢。
……。
次に気が付いた時には、町の直前まで着いていた。まだ、町の様子は分からないが、町の直ぐ近くだということは流石に分かる。
「ここからは自分の足で歩け」そう言うレインに頷くと、サニィは深く深呼吸をし、歩き出した。
サニィの故郷に向かう道中、巨木の森の中彼女はレインに質問をする。一目惚れという話もいまいちよく分からないけれど、少しばかり気になることがあるのだ。
「レインさんのその武器ってなんなんですか? 見たことがない刀身……」
その腰に提げた剣は一般的な80cm程の短めのロングソードの様だったが、柄も鍔も飾り気は無い無骨なものであるのに、それなりに細い刀身は黒く、金色の波紋の様なダマスカス紋様が輝いている。
「ああ、これか。これは村に伝わる宝剣。とは言え性能は一般的な業物と言ったところだ。特別なことはただ一つ。絶対に斬れ味が落ちない。と言うより、壊れない」
たったそれだけのものが宝剣と言うのも不思議なものだ。伝説的な村に伝わる武器ならもっと特殊なものであってもおかしくはないはずなのに。
「それって、勇者が持つ伝説の剣ってわけじゃないんですか?」
「その伝説の剣だ。別に勇者ってのは剣が強いからなれるものじゃない。たまたま勇者の能力に応えられる剣がこれってだけだ」
その答えにサニィが首を傾げると、レインは語り出す。
勇者となる者はその身体能力の高さだけでも異常の域に達する。よって、如何な業物であっても本気で振るえばその力に耐えられず破壊されてしまう。ただ凄いだけの武器を振るう勇者は、凄い武器が耐えられるだけの力しか振るえない。
それならば多少性能は落ちようとも、決して壊れない武器を使えば、勇者は全力を振るうことが出来る。
「ま、そんな所だ。俺も何本剣を壊したことか、見てみろ」
そう言うとその剣を抜いたレインは、手近な直径2m程もある木を一太刀で切り倒す。
「なるほど……」
やっぱりこの人は人外だったんだ。刀身より太い木をどうやって切ったんだろう。
そんな感想しか出てこないサニィだったが、その木が倒れる方向もしっかり計算されている。
しかも彼女には埃の一つもかからない見事な剣技を見ると、そこに惹かれるものがないわけでもない。
と言うよりも……。
「じゃあ俺からも少し質問をしたい」
「ひゃひ、はいっ」
本人はまだ認めないだろう。ただ、思わず本気で見惚れていた所を不意に話しかけられ、サニィは動揺する。そして、その後の質問はまた予想外のものだった。
「サニィは生まれも良さそうだが、婚約者とかがいるわけではないのか?」
「ふぇ、へっ? い、いな、いなないですよ?」
父親がずっと排除してきたおかげでサニィは同年代の男子とまともに話したこともない。しかし、そんな背景を知らない彼女はレインの突然の婚約者発言に、不意に話しかけられた時以上の動揺を見せる。
実際のところサニィは生まれも良かったし、この世界では18歳にもなっていれば婚約者が居ても、既に結婚していてもおかしくはなかった。そんな普通のことを前提にレインは質問しただけなのだが、動揺したサニィにそんな意図は伝わらない。
「そうか。それなら俺が貰っても問題は無いよな?」
「え、あの、え? あ、あの、あの、あ、え? あ……」
「落ち着け。俺はお前の町で両親に挨拶をしたいだけだ」
これ以上ない程に動揺してリズムを刻み始めているサニィに、レインは無慈悲にも追い打ちをかける。青年は基本的に自分勝手だ。自分勝手だと分かっていながら自分勝手を貫く天才肌である。よって、サニィが動揺しているのが分かっている。そして、追い打ちをかけているのも分かっている。しかし止めない。
「俺はお前に一目惚れをしたからな。本気だ。だから、必ず幸せにする。そして最期は一緒に迎えよう」
「へ、……へふん」
あまりにも真剣にそんなことを言うレインに、サニィは遂には限界を迎え、顔を真っ赤にしながらガクガクと膝を震わせると、その場に崩れ落ちた。
最初に一目惚れだと言われた時はまだ死にかけで、何も実感がなかったが、一晩経って落ち着いた所でこの攻撃に耐えられる程世間慣れしてはいなかった。
と、言うよりも彼女は両親のせいで、徹底的に初心だったのだ。
レインはガクガクしたまま動かなくなったサニィを抱き抱えると、何事もなかったかの様に歩き出す。
「ふむ。やはり可愛いな」などと言いながら。
やっぱり私を弄んで楽しんでるこの男からはいつか逃げないといけない。女たらし! 女の敵! 最早意地になったサニィはそんなことを思う。
しかし、その体はレインに預けたまま。昨日のことなど殆ど覚えていない彼女は、初めて男に抱き抱えられた緊張に更に力が入らなくなりながら、既に負けそうな決意を固めようと努力した。
自分を抱えながらも平然と歩くことなど、父親にも出来なかったことなのだ。
更にレインは一切息を乱さず、しかも衝撃は殆ど来ない。むしろ心地良い揺れだ。本当に達人の身のこなしでサニィを運搬する。
……今まで男と触れ合ったことなどまともになかったサニィはチョロかった。
その脆弱な意地の砦は瞬く間に崩れ落ち、いつの間にかレインに抱きかかえられたまま眠りに落ちる。心地よい揺りかごの中で、子供の頃の夢を見ながら。大好きな両親に大切にされている過去の夢。
……。
次に気が付いた時には、町の直前まで着いていた。まだ、町の様子は分からないが、町の直ぐ近くだということは流石に分かる。
「ここからは自分の足で歩け」そう言うレインに頷くと、サニィは深く深呼吸をし、歩き出した。
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