雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第一部第一章:二人の終末が始まる時

第一話:終末の始まりは雨模様

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「よし、それじゃあ俺は出発するぞジジイ。魔王を倒して、この世界を救う」

 一人の若い青年が村の長老である祖父に至極真面目な顔で宣言する。彼の名前はレイン。
 いつか両親の様な冒険者になると心に誓い、今まで修行をしてきた村一番の戦士だ。
 レインの剣術は自己流だが、産まれた時から非凡な反射神経と空間把握能力を持ち、村の近くに出没する魔物を殆ど一人で倒していくうち、いつしか剣術そのものの腕も王国有数となっていた。

 一流の条件は努力と才能。そのどちらが欠けても二流止まり。
 どちらが大事? そんな問いは必ずどちらかが欠けている人間しかしない問いなのだ。
 それがレインの考えかたであった。
 余りに傲慢。だが、真実でもある。

 しかし一日のうち殆ど大半を稽古に注ぎ込むレインは村でも人気者で、彼の周りにはいつも人が絶えない。
 自分のことしか考えていない俺の様な人間など嫌われてもおかしくはないのに、などと本人は常々思っていたにも関わらず、彼は好かれていたのだ。
 正直に言ってしまえば、余りある才能とストイックが過ぎるレインは村人からは別の生き物の様に見えており、村の守護神だと思われていたなどと言うことは、本人には伏せておくとしよう。

 そして18歳の誕生日を迎えた時、ある事情によりレインは遂に旅立つことに決めたのだ。
 魔王を倒して、世界を救うために。

 ――。

「魔王なんぞとっくの昔に倒されたわ。お前はいつの時代の人間じゃ」
「なんだと……」
「もう100年以上も前の話じゃ。……そんなことよりも、分かっているな?」
「ああ、俺は二度とこの村に戻ることはないだろう。魔王が居ないなら既に悔いなどないしな」
「そうか。……、元気に暮らせよ」
「俺を誰だと思っている。俺は進むことを止めたら死ぬ生き物だ。言われるまでもない。ジジイこそ寿命まで死ぬなよ」

 レインと長老はそんな会話をすると、それ以上は何も発することなく黙り込む。
 1分程も静寂があっただろうか。遂には耐えられなくなったのだろう、長老が口を開く。

「当然じゃ。それでも普通に考えりゃお前が死ぬ前にワシの命が尽きるわい。でもな、手紙くらいは出せ。……分かったらさっさといけ。ほら、いつまでこの村でくすぶっておるつもりだ」
「全く、最後まで小うるさいジジイだ。一人だけの孫なんだ。もうちょっと優しくしたらどうだ」
「それはこっちのセリフじゃ。……こいつを持っていけ不幸者め」

 長老は一本の剣をレインに投げ渡す。村に眠る秘宝だ。魔王がまだ居た時代から、代々村の長老に託されてきた神器。これを常に手入れし、いつか生まれるとされた勇者に渡すこともまた長老の役目であった。

「魔王が居ないなら俺は勇者じゃないだろう?」
「魔王が居ないということはだな、神器も必要無いということじゃ。いいから持っていけ。そして早く行け」

 執拗に急かす長老に、レインはふんっと鼻を鳴らし扉に振り返る。
 ありがとう、じゃあな。そんな言葉が発されたかどうか、青年は扉を出て行く。
 見送る長老の顔は、とても寂しそうであった。


 ――。


 突然だが、レインは無敵だ。

 剣術の達人だから? 神器である宝剣を持っているから? 才能と努力が両立しているから?
 いいや違う。レインは、とても運が悪かった。
 それ故に、彼は無敵なのだ。

 最後の魔王は死の直前、世界に呪いをかけた。ある一つの病を生み出す呪い。
 曰く『不死の病』、曰く『必死の病』、曰く『絶望の病』』。
 それを『幸福の病』と呼ぶ人間は、今までただの一人もいなかった。

 それは人々に絶望を与える為だけに魔王が残した呪いだったから。
 その病にかかってしまったものは、かかった瞬間から決して死ぬことがなくなる。とある瞬間が来るまで。
 例え海の底に沈められても、生き続ける。しかし、それだけではない。
 かかった瞬間から数えて5年後、1825日後、死ぬのだ。
 だが前述した通り、その病は人々に絶望を与えるためだけの呪い。
 海の底に沈んでしまえば、5年後の死はむしろ救いとなるだろう。
 故にその病にかかった者は、必ず幸せになる。幸せになってしまう。
 海の底に沈めば偶然にも漁師に助けられるだろう。火口に飛び込めばその山は噴火するだろう。

 しかし、そのようなことになることは少ない。
 何故なら不死になると同時に、生存本能は肥大化する。自殺を試みるものなどまず居ないのだ。
 そのような矛盾を孕んだ病。
 何の為の不死かといえば、決して不慮の事故で死なない為だけの不死。
 発症した者は5年間の幸せを噛み締め、そして絶望の下に死んでいく。

 そのように、運命を書き換えられる呪い。

 レインは18歳の誕生日、その病にかかった。
 その病は絶望を知らせるため、かかった瞬間から脳内に常に残りの日数が見えるようになる。
 レインの残り寿命は1824日。
 その病にかかった瞬間、正直者の青年はそれを長老に告げ、時間がないと即座に出発することに決めたのだ。
 一日の間に全ての村人への挨拶を済ませ、支度をし、覚悟を済ませ、レインは旅に出た。

 既に死んでしまった両親の様に、世界を巡る冒険者になる。必ず世界を見て回る。
 それがレインの5年間の目標。
 魔王もついでに倒すつもりではあったが、居ないならそれは良いだろう。

 もう一度言おう。主人公レインは、1824日後、必ず死ぬ。
 この男は絶望的な死を迎える為に、幸せな5年間を旅することになる。
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