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第六章:魔物と勇者と、魔法使い
第百七十一話:人の種類
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世界には三種類の人間がいる。
一つはごく普通の、なんの力も持たない一般人。魔物に対して怯え、襲われればなんの抵抗も出来ずに死んでしまう力無き人々。
一つは勇者。高い身体能力と特殊な力を持った選ばれた人々。いや、見方によって生まれながらに魔物と戦うことを義務付けられた、始まりの剣の犠牲者とも言うべき人々。
一つは魔法使い。始まりの剣が振り撒いた力を利用することが出来る様になった人々。勇者の様に身体能力の高さこそ無いものの出来ることは多岐にわたる、普通の人の進化系とでも言うべき人々。
この三種類の人々が現在この世界に生きている人々である。
少なくとも、今を生きる人々は既にそう認識していた。
世界にはかつて四種類目の人が居たことを世界の多くの人々は既に、忘れ去っている。
――。
「死ね」
集落を視界に捉えたクラウス達が最初に耳にした言葉は、そんな物騒な言葉だった。
視界には五人の人間が警戒心を前面に押し出して弓を構えると、一斉にそれを三人に向けて放って来た。
「ちょっと待った!」
言いながらサラは腰のタンバリンを叩くと、地面から瞬時に生えた蔦が五本の矢を素早く絡め取ろうとする。
高速で飛んで来たその弓はかなりの力が込められているものの、流石はサラといったところ。全てが軌道を捻じ曲げられ、蔦の生えた地面に突き刺さった。
「ふむ、僕達を本気で殺そうとはしてないな。最初から若干ズレてる。食人族が警告か?」
「次は当てる」
「おいしそう」
「待ってって! あなた達、ここにエイミー・ヘイムスイミーが居ない?」
口々に言いたい事を言う両者の目の前に再び蔦を出現させると、サラは両手を挙げながら言った。
既に魔法はつかってしまったものの、これ以上はしないというサラなりの意思表示だ。
すると村人の四人は再び弓を構え、中央の一人がサラを睨み付けながら口を開く。
「エイミー殿とどういう関係だ」
「私はエイミー先生の生徒って言えば良いのかな。英雄ルークとエレナの娘サラ」
「何をしに来た」
「んー、魔物の駆逐と、あなた達の様子を見に?」
中央の村人は視線をサラからクラウス、そしてマナへと向ける。するとマナを見た瞬間にびくりと反応を示した。
「……エイミー殿を呼んで来い」
視線をマナに釘付けにしたまま中央の村人は腰の剣に手を掛けると、端に居た一人は警戒心を露わにしたままにゆっくりと下がり、集落の中心へと向かって行った。
それを背中で確認して、中央の村人は再び口を開く。
「その少女は何だ?」
「ああ、やっぱりあなた達は、狛の村・・・の人達なんだね」
「……質問に答えろ」
サラの言葉には動揺した様子も無く、村人は淡々と続ける。
「……この子は魔物を殺す女の子、って言って分かる?」
「あぁ、剣か」
「聞いてるんだね、そう」
「私達を殺すのか?」
村人の質問に答えたのは、マナだった。
「おいしそうだよ、あのひとたち」
そう言いながらサラを見るマナさ、まるでいつも魔物に向ける時の様に、とても無邪気な笑顔だった。
当然の様に村人達が武器を持つ手には緊張が走る。
「マナ、待って」
しかしサラはそんな両者の動きが分かっていたかの様にマナを正面から抱きしめる。
「あなた達も、ひとまずエイミー先生の話を聞こう?」
背を向けたまま伝えられたその言葉に、村人達はゆっくりと武器を下ろした。
マナに対しての緊張は解けていない様子のままながら、中央の村人は大きく息を吐くと、言った。
「……まあ良い。覚悟は出来ている。私達は、生まれて来たことが間違いだった」
――。
かつて、と言っても今から20年と少し前まで、世界には四種類の人間が存在していた。
人、勇者、魔法使い。
そして、狛の村という村に住んでいた、魔人。
それは勇者を凌駕する、魔物の身体能力を持つ呪われた人々。
彼等は死の山でのみ生まれ、20数年前の魔王復活の直前に呪いによって魔物へと戻ってしまい、自らの手によって絶滅した。
少なくとも皆が知る事実としてはそうなっていて、半魔の人々は既に存在しないことになっている。
公式には。
しかしそれは歴史のある出来事を、無かったことにした場合の話。
『魔法書』によって、狛の村で子を産めば強靭な子どもが出来るなどということを信じこんだ人々が、狛の村に押し寄せなかったとされる場合の話だった。
体にある呪いを持った半魔の人々は今も尚、極少数のみ生きている。
一つはごく普通の、なんの力も持たない一般人。魔物に対して怯え、襲われればなんの抵抗も出来ずに死んでしまう力無き人々。
一つは勇者。高い身体能力と特殊な力を持った選ばれた人々。いや、見方によって生まれながらに魔物と戦うことを義務付けられた、始まりの剣の犠牲者とも言うべき人々。
一つは魔法使い。始まりの剣が振り撒いた力を利用することが出来る様になった人々。勇者の様に身体能力の高さこそ無いものの出来ることは多岐にわたる、普通の人の進化系とでも言うべき人々。
この三種類の人々が現在この世界に生きている人々である。
少なくとも、今を生きる人々は既にそう認識していた。
世界にはかつて四種類目の人が居たことを世界の多くの人々は既に、忘れ去っている。
――。
「死ね」
集落を視界に捉えたクラウス達が最初に耳にした言葉は、そんな物騒な言葉だった。
視界には五人の人間が警戒心を前面に押し出して弓を構えると、一斉にそれを三人に向けて放って来た。
「ちょっと待った!」
言いながらサラは腰のタンバリンを叩くと、地面から瞬時に生えた蔦が五本の矢を素早く絡め取ろうとする。
高速で飛んで来たその弓はかなりの力が込められているものの、流石はサラといったところ。全てが軌道を捻じ曲げられ、蔦の生えた地面に突き刺さった。
「ふむ、僕達を本気で殺そうとはしてないな。最初から若干ズレてる。食人族が警告か?」
「次は当てる」
「おいしそう」
「待ってって! あなた達、ここにエイミー・ヘイムスイミーが居ない?」
口々に言いたい事を言う両者の目の前に再び蔦を出現させると、サラは両手を挙げながら言った。
既に魔法はつかってしまったものの、これ以上はしないというサラなりの意思表示だ。
すると村人の四人は再び弓を構え、中央の一人がサラを睨み付けながら口を開く。
「エイミー殿とどういう関係だ」
「私はエイミー先生の生徒って言えば良いのかな。英雄ルークとエレナの娘サラ」
「何をしに来た」
「んー、魔物の駆逐と、あなた達の様子を見に?」
中央の村人は視線をサラからクラウス、そしてマナへと向ける。するとマナを見た瞬間にびくりと反応を示した。
「……エイミー殿を呼んで来い」
視線をマナに釘付けにしたまま中央の村人は腰の剣に手を掛けると、端に居た一人は警戒心を露わにしたままにゆっくりと下がり、集落の中心へと向かって行った。
それを背中で確認して、中央の村人は再び口を開く。
「その少女は何だ?」
「ああ、やっぱりあなた達は、狛の村・・・の人達なんだね」
「……質問に答えろ」
サラの言葉には動揺した様子も無く、村人は淡々と続ける。
「……この子は魔物を殺す女の子、って言って分かる?」
「あぁ、剣か」
「聞いてるんだね、そう」
「私達を殺すのか?」
村人の質問に答えたのは、マナだった。
「おいしそうだよ、あのひとたち」
そう言いながらサラを見るマナさ、まるでいつも魔物に向ける時の様に、とても無邪気な笑顔だった。
当然の様に村人達が武器を持つ手には緊張が走る。
「マナ、待って」
しかしサラはそんな両者の動きが分かっていたかの様にマナを正面から抱きしめる。
「あなた達も、ひとまずエイミー先生の話を聞こう?」
背を向けたまま伝えられたその言葉に、村人達はゆっくりと武器を下ろした。
マナに対しての緊張は解けていない様子のままながら、中央の村人は大きく息を吐くと、言った。
「……まあ良い。覚悟は出来ている。私達は、生まれて来たことが間違いだった」
――。
かつて、と言っても今から20年と少し前まで、世界には四種類の人間が存在していた。
人、勇者、魔法使い。
そして、狛の村という村に住んでいた、魔人。
それは勇者を凌駕する、魔物の身体能力を持つ呪われた人々。
彼等は死の山でのみ生まれ、20数年前の魔王復活の直前に呪いによって魔物へと戻ってしまい、自らの手によって絶滅した。
少なくとも皆が知る事実としてはそうなっていて、半魔の人々は既に存在しないことになっている。
公式には。
しかしそれは歴史のある出来事を、無かったことにした場合の話。
『魔法書』によって、狛の村で子を産めば強靭な子どもが出来るなどということを信じこんだ人々が、狛の村に押し寄せなかったとされる場合の話だった。
体にある呪いを持った半魔の人々は今も尚、極少数のみ生きている。
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