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第五章:最古の宝剣
第百四十二話:本当の力
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第四十一回英雄会議が行われたのは、マナが巨大ドラゴン出現を伝えた日の夜だった。
「私まで来ても大丈夫だったんでしょうか」
豪華絢爛な王城の一室に置かれた円卓、その椅子の一つに座った一人の女性がそんなことを呟いた。
「大丈夫だよ。エリスは私の弟子なんだから、むしろ全てを知っておくべき」
そう答えたのは、女性の隣に座る英雄、エリーだった。
二人は身長こそ違えど、並んでいれば師弟というよりは寧ろ姉妹の様に似ている。
エリスはクラウスに敗れて以来エリーに弟子入りしていたものの、公の場でそれを知られる訳にはいかなかった。
それにもう一つ、エリスには懸念があった。
「他の弟子の方達は一人も来ておりませんが……」
現在この場にいる人物はこの城の主であるアリエル・エリーゼを筆頭にエリー、ルーク、エレナ、イリス、クーリア、マルス、サンダル、そして珍しく参加しているナディアに、いつもとは違う王族らしい格好をしているオリヴィアと、その弟であるグレーズ国王アーツだった。
現代で英雄と呼ばれる錚々たるメンバーに加えて、当時の主要国のトップであるアーツの十人が、これまでの『国境なき英雄』のメンバーである。
公には、死亡したとされているオリヴィアに、ある問題を抱えているアリエルとエリー、そして一国の王でしかないアーツは含まれていないのだが、実際のメンバーに彼らは含まれている。
そしてサラを含めた彼らの次の世代は、これまでは参加していなかった。
そんな中に突然未熟を実感していたエリス一人だけ呼ばれたのなら、混乱するのも当然だった。
「サラは今は大切な任務中だからね、クラウス君から離すわけにもいかないさ」
「カーリーは会議に向いていないからね……」
ルークとイリスがそう答えれば、エリスも納得せざるを得ない。
『国境なき英雄』が発足した理由の半分はクラウスの為なのだから、それに付いているのならば。
それに騒がしいカーリーが来れば、確かに。
そう考えて、エリスは緊張した面持ちで「はあ」と答えるのだった。
そんなエリスを見て微笑むと、アリエル・エリーゼは口を開く。
「では、納得もしてもらった所で始めようか。まずは久しぶりに来てもらったオリヴィアさんから」
彼らの中心はかつての魔王戦時から変わらずアリエルとなっている。
後悔大き力無き英雄が中心となることで、彼らは目的を忘れまいと努めていた。
「皆さんお久しぶりですわ。エリスさん、いつもアーツを支えて下さってありがとうございます」
「あ、いえ。オリヴィア様こそ――」
オリヴィアが新たに参加した義妹に微笑むと、エリスは恐縮した様子で会釈した。
すると。
「お姉ちゃん、でも良いんですのよ?」
相変わらず微笑んだまま、真剣な表情でそんなことを言いはじめるオリヴィア。
無駄に高貴さを湛えたその様子に、思わずエリスはたじろいでしまう。
彼女はグレーズ軍の顧問であるオリーブは知っていても、英雄オリヴィアと会うのは初めてだった。
エリスの意識にあるのは優しいながらも各自の戦力を完全に把握し、不可能一歩手前の鍛錬を要求するオリーブだった。
口調も表情もまるで違う彼女を見れば、混乱するのも当然と言えるだろう。
そんなエリスに助け舟を出したのは、1年ほど前に彼女の師となった、英雄エリーだった。
「それはどうでも良いよオリ姉。わざわざ格好付けるのもさ。私の可愛い弟子が困ってるじゃない」
じとっとした瞳で見つめれば、オリヴィアは少々不満気にふう、と息を吐いた。
「……久しぶりのオリヴィアですのに。まあ良いですわ」
「あ、口調はそれなんだね」
英雄達が世界の為に開く会議にしては緩い空気に馴染めない様子のエリスとは対照的に、英雄達はいつも通りなのか、全く動じない。
どうやら口調の使い分けで彼女の中では『クラウスの母』と『英雄』を使い分けているらしく、エリーもそれ以上の追求は諦めた様子で頬杖をつくと、オリヴィアが準備を終えた様に語り始めた。
「まず、わたくしは何とかデーモン二頭の単独討伐に成功しました。辛うじてというところで、後はオーガでも追加されれば確実に負けていましたけれど」
淡々とオリヴィアは左の袖をめくりながら言う。
そこには敢えて魔法での治療をしなかったのか、大きな縫い傷が二つ。
それは一歩間違えれば骨を切り裂くほどに深いことが、腕を半周している様子から見て取れた。
「え……ただ人の身でデーモン二頭……あり得ない……」
オリヴィアを含め英雄と呼ばれる彼女達が異常に強いことは知っている。
しかし、物事には限度があるはずだ、とエリスが驚愕する。
勇者ではない人の身では、基本的にはデーモンの皮膚を傷付けることすら叶わない。
柔らかい弱点があることは知っているけれど、それは頸椎の極々微小な一箇所のみだった。
オーガでヒグマと変わらないと言われているのに、それが束になっても敵わないデーモンの、そのピンポイントに剣を突き込むことなど、一流の勇者ですら難しい。
しかし、そんなオリヴィアの言葉に英雄達は特に驚いた様子も見せず、頷いた。
「なるほど、第二位のオリヴィアさんの限界がそのラインか。となるとエリーはどの程度行けると予測出来る?」
「私は普通に限界だと感じるのが60mのドラゴンだから、多分100m前後だろうな。ありがとうオリ姉、無理してもらって」
「いえ、これもクラウスの為ですもの」
アリエルが尋ねれば、エリーもまた、なんでもないことの様に答える。
それが、エリスには信じられない程に異様な光景だった。
もしも100mのドラゴンを単独で倒せるのだとすれば、師であるエリーには、文字通り敵が居ないことになる。
「お師匠様は100mのドラゴンを単独で倒せる……と?」
「多分ね。多分。私とオリ姉に付いてる順位が同じならば、そのくらい。100mなんて師匠が生きてた頃しかいなかったからね」
驚愕のエリスに、エリー優し気に答えた。
そう、オリヴィアがあえてデーモン2匹に挑戦したのは、勇者で且つ順位がオリヴィアと同じ二位とされているエリーの、限界を調査する為だった。
敵がいないのだから同じ順位のオリヴィアに調べてもらうしかなかったのだと、さも当然の様に。
となれば、知りたくなるのも当然だった。
「順位とは、一体なんなのですか? ……あ、申し訳ありません、口を挟んでしまって」
それぞれの英雄に付いているらしい順位は、エリスも知るところだった。
それが彼らに勝てない理由なのだということも、今は知っていた。
しかしそれが何なのかは、詳しくは知らない。
絶対に不可能だと断言できることを可能にする順位とはなんなのか、知りたくなるのは仕方がなかった。
「構わないよ。説明は僕で良いかい?」
「ああ、頼んだルーク」
それはエリスにとって、衝撃的な情報だった。
……。
「順位ってのはね、つまり英雄にかけられた加護なんだよ。僕達が必ず魔王を倒せる様にと、あの人・・・が知らない間にかけていた加護なんだ」
ルークが言うあの人には、流石に心当たりがあった。
「加護、ですか」
その人物が、世間一般で言われている様な人物ではないことも、今は知っている。
「そう。あの人は自分自身知らなかった。だけど、単なる理屈では説明が付かないことが、現実に起こり過ぎてる。
でもあの人の持ってた力がそもそも本人の認識とはズレていたと考えれば、説明が付くんだよ」
自分の手を見つめながら、ルークは続ける。
「それに気付いたのは、やっぱりオリヴィアさんがきっかけだった」
己の手を見つめていた視線を、オリヴィアに移すと、彼女にその続きを促した。
「そうですわね。わたくしは勇者では無くなってしまったので、クラウスを守る手段を失ってしまったと思っていたんです。
そこで、試しにエリーさんやルークさん達に手伝って貰って、魔物と戦ってみることにしました。
結果的に、わたくしは一般人の身でデーモンまでをも倒してしまった。
その異常性は、分かりますわよね?」
試してみたら出来た、ではそれは説明がつかない。
一般人の身でデーモンを倒せるなど、それまでの一流の勇者の基準が完全に崩れ去ってしまう。
「……はい。私が初めてデーモンを倒したのは十歳の時。その時にはオーガになら、力比べでも負けませんでした」
ヒグマと同等の膂力を持つオーガと力比べが出来て、それを遥かに上回る技術を磨いて力を使って、それでようやく倒せる魔物がデーモンだ。
それに比べて一般人の身では、簡単にオーガに握り潰されてしまう。
デーモンを倒すには、せめてその一撃位は耐えられる肉体を持っていなければ、そもそも話にならない。
身体能力の違いは、それほどに大きい。
そして、オリヴィアは達観した様に微笑んだ。
「十歳でデーモンを倒せるとは、やっぱりあなたはとんでもない才能ですわね。
でも、それでも違うのですよ。
あの方は、僅か八歳でデーモンロードを単独で討伐してみせた」
それこそ、試してみたら出来たという問題ではない。
今まで五十人を超える超一流の怪物達、鬼と言われた駒の村の住人達が連携して、それでも死者を出しながら倒していた化け物を、かつて魔王を倒した者達でさえ、ただの一人も成し得なかった偉業を、その英雄は一人で成し遂げていた。
それだけではない。現在では疑惑の目が向けられているものの、公式に、その男は単独で二度魔王を討伐している。
今、目の前にいる異常な力を持つ英雄達ですら、一人では決して勝てなかった。何十人の死者を出し、ほぼ同格であったはずの英雄ディエゴやライラが命を賭して、それでようやく勝てた相手だと言うのに。
「そう、お師匠様、英雄レインは、不可能なことをしてみせる人物だった」
その人物の名前が出てくるのは、最早当然のことだった。
「英雄レインと順位との関係……まさか」
その英雄が順位を付けるとすれば、それは確かに、たった一人を除けば無意識だったのだろう。
「そう。彼の持つ力は、『隙を見抜く力』などでは無かった。それはただの副産物の様なもので、本当の力は他に類を見ないもの」
確かに、隙が見えたところで、体が動かなければ勝利などあり得ない。
オリヴィアの言葉に続いたのは、同じく二位だと言われていたエリスの師、エリーだった。
「英雄レインの力は、『相対した者を超える力』だった。
それは血塗られた師匠の運命を代償とするには、確かに見合う力だった」
「私まで来ても大丈夫だったんでしょうか」
豪華絢爛な王城の一室に置かれた円卓、その椅子の一つに座った一人の女性がそんなことを呟いた。
「大丈夫だよ。エリスは私の弟子なんだから、むしろ全てを知っておくべき」
そう答えたのは、女性の隣に座る英雄、エリーだった。
二人は身長こそ違えど、並んでいれば師弟というよりは寧ろ姉妹の様に似ている。
エリスはクラウスに敗れて以来エリーに弟子入りしていたものの、公の場でそれを知られる訳にはいかなかった。
それにもう一つ、エリスには懸念があった。
「他の弟子の方達は一人も来ておりませんが……」
現在この場にいる人物はこの城の主であるアリエル・エリーゼを筆頭にエリー、ルーク、エレナ、イリス、クーリア、マルス、サンダル、そして珍しく参加しているナディアに、いつもとは違う王族らしい格好をしているオリヴィアと、その弟であるグレーズ国王アーツだった。
現代で英雄と呼ばれる錚々たるメンバーに加えて、当時の主要国のトップであるアーツの十人が、これまでの『国境なき英雄』のメンバーである。
公には、死亡したとされているオリヴィアに、ある問題を抱えているアリエルとエリー、そして一国の王でしかないアーツは含まれていないのだが、実際のメンバーに彼らは含まれている。
そしてサラを含めた彼らの次の世代は、これまでは参加していなかった。
そんな中に突然未熟を実感していたエリス一人だけ呼ばれたのなら、混乱するのも当然だった。
「サラは今は大切な任務中だからね、クラウス君から離すわけにもいかないさ」
「カーリーは会議に向いていないからね……」
ルークとイリスがそう答えれば、エリスも納得せざるを得ない。
『国境なき英雄』が発足した理由の半分はクラウスの為なのだから、それに付いているのならば。
それに騒がしいカーリーが来れば、確かに。
そう考えて、エリスは緊張した面持ちで「はあ」と答えるのだった。
そんなエリスを見て微笑むと、アリエル・エリーゼは口を開く。
「では、納得もしてもらった所で始めようか。まずは久しぶりに来てもらったオリヴィアさんから」
彼らの中心はかつての魔王戦時から変わらずアリエルとなっている。
後悔大き力無き英雄が中心となることで、彼らは目的を忘れまいと努めていた。
「皆さんお久しぶりですわ。エリスさん、いつもアーツを支えて下さってありがとうございます」
「あ、いえ。オリヴィア様こそ――」
オリヴィアが新たに参加した義妹に微笑むと、エリスは恐縮した様子で会釈した。
すると。
「お姉ちゃん、でも良いんですのよ?」
相変わらず微笑んだまま、真剣な表情でそんなことを言いはじめるオリヴィア。
無駄に高貴さを湛えたその様子に、思わずエリスはたじろいでしまう。
彼女はグレーズ軍の顧問であるオリーブは知っていても、英雄オリヴィアと会うのは初めてだった。
エリスの意識にあるのは優しいながらも各自の戦力を完全に把握し、不可能一歩手前の鍛錬を要求するオリーブだった。
口調も表情もまるで違う彼女を見れば、混乱するのも当然と言えるだろう。
そんなエリスに助け舟を出したのは、1年ほど前に彼女の師となった、英雄エリーだった。
「それはどうでも良いよオリ姉。わざわざ格好付けるのもさ。私の可愛い弟子が困ってるじゃない」
じとっとした瞳で見つめれば、オリヴィアは少々不満気にふう、と息を吐いた。
「……久しぶりのオリヴィアですのに。まあ良いですわ」
「あ、口調はそれなんだね」
英雄達が世界の為に開く会議にしては緩い空気に馴染めない様子のエリスとは対照的に、英雄達はいつも通りなのか、全く動じない。
どうやら口調の使い分けで彼女の中では『クラウスの母』と『英雄』を使い分けているらしく、エリーもそれ以上の追求は諦めた様子で頬杖をつくと、オリヴィアが準備を終えた様に語り始めた。
「まず、わたくしは何とかデーモン二頭の単独討伐に成功しました。辛うじてというところで、後はオーガでも追加されれば確実に負けていましたけれど」
淡々とオリヴィアは左の袖をめくりながら言う。
そこには敢えて魔法での治療をしなかったのか、大きな縫い傷が二つ。
それは一歩間違えれば骨を切り裂くほどに深いことが、腕を半周している様子から見て取れた。
「え……ただ人の身でデーモン二頭……あり得ない……」
オリヴィアを含め英雄と呼ばれる彼女達が異常に強いことは知っている。
しかし、物事には限度があるはずだ、とエリスが驚愕する。
勇者ではない人の身では、基本的にはデーモンの皮膚を傷付けることすら叶わない。
柔らかい弱点があることは知っているけれど、それは頸椎の極々微小な一箇所のみだった。
オーガでヒグマと変わらないと言われているのに、それが束になっても敵わないデーモンの、そのピンポイントに剣を突き込むことなど、一流の勇者ですら難しい。
しかし、そんなオリヴィアの言葉に英雄達は特に驚いた様子も見せず、頷いた。
「なるほど、第二位のオリヴィアさんの限界がそのラインか。となるとエリーはどの程度行けると予測出来る?」
「私は普通に限界だと感じるのが60mのドラゴンだから、多分100m前後だろうな。ありがとうオリ姉、無理してもらって」
「いえ、これもクラウスの為ですもの」
アリエルが尋ねれば、エリーもまた、なんでもないことの様に答える。
それが、エリスには信じられない程に異様な光景だった。
もしも100mのドラゴンを単独で倒せるのだとすれば、師であるエリーには、文字通り敵が居ないことになる。
「お師匠様は100mのドラゴンを単独で倒せる……と?」
「多分ね。多分。私とオリ姉に付いてる順位が同じならば、そのくらい。100mなんて師匠が生きてた頃しかいなかったからね」
驚愕のエリスに、エリー優し気に答えた。
そう、オリヴィアがあえてデーモン2匹に挑戦したのは、勇者で且つ順位がオリヴィアと同じ二位とされているエリーの、限界を調査する為だった。
敵がいないのだから同じ順位のオリヴィアに調べてもらうしかなかったのだと、さも当然の様に。
となれば、知りたくなるのも当然だった。
「順位とは、一体なんなのですか? ……あ、申し訳ありません、口を挟んでしまって」
それぞれの英雄に付いているらしい順位は、エリスも知るところだった。
それが彼らに勝てない理由なのだということも、今は知っていた。
しかしそれが何なのかは、詳しくは知らない。
絶対に不可能だと断言できることを可能にする順位とはなんなのか、知りたくなるのは仕方がなかった。
「構わないよ。説明は僕で良いかい?」
「ああ、頼んだルーク」
それはエリスにとって、衝撃的な情報だった。
……。
「順位ってのはね、つまり英雄にかけられた加護なんだよ。僕達が必ず魔王を倒せる様にと、あの人・・・が知らない間にかけていた加護なんだ」
ルークが言うあの人には、流石に心当たりがあった。
「加護、ですか」
その人物が、世間一般で言われている様な人物ではないことも、今は知っている。
「そう。あの人は自分自身知らなかった。だけど、単なる理屈では説明が付かないことが、現実に起こり過ぎてる。
でもあの人の持ってた力がそもそも本人の認識とはズレていたと考えれば、説明が付くんだよ」
自分の手を見つめながら、ルークは続ける。
「それに気付いたのは、やっぱりオリヴィアさんがきっかけだった」
己の手を見つめていた視線を、オリヴィアに移すと、彼女にその続きを促した。
「そうですわね。わたくしは勇者では無くなってしまったので、クラウスを守る手段を失ってしまったと思っていたんです。
そこで、試しにエリーさんやルークさん達に手伝って貰って、魔物と戦ってみることにしました。
結果的に、わたくしは一般人の身でデーモンまでをも倒してしまった。
その異常性は、分かりますわよね?」
試してみたら出来た、ではそれは説明がつかない。
一般人の身でデーモンを倒せるなど、それまでの一流の勇者の基準が完全に崩れ去ってしまう。
「……はい。私が初めてデーモンを倒したのは十歳の時。その時にはオーガになら、力比べでも負けませんでした」
ヒグマと同等の膂力を持つオーガと力比べが出来て、それを遥かに上回る技術を磨いて力を使って、それでようやく倒せる魔物がデーモンだ。
それに比べて一般人の身では、簡単にオーガに握り潰されてしまう。
デーモンを倒すには、せめてその一撃位は耐えられる肉体を持っていなければ、そもそも話にならない。
身体能力の違いは、それほどに大きい。
そして、オリヴィアは達観した様に微笑んだ。
「十歳でデーモンを倒せるとは、やっぱりあなたはとんでもない才能ですわね。
でも、それでも違うのですよ。
あの方は、僅か八歳でデーモンロードを単独で討伐してみせた」
それこそ、試してみたら出来たという問題ではない。
今まで五十人を超える超一流の怪物達、鬼と言われた駒の村の住人達が連携して、それでも死者を出しながら倒していた化け物を、かつて魔王を倒した者達でさえ、ただの一人も成し得なかった偉業を、その英雄は一人で成し遂げていた。
それだけではない。現在では疑惑の目が向けられているものの、公式に、その男は単独で二度魔王を討伐している。
今、目の前にいる異常な力を持つ英雄達ですら、一人では決して勝てなかった。何十人の死者を出し、ほぼ同格であったはずの英雄ディエゴやライラが命を賭して、それでようやく勝てた相手だと言うのに。
「そう、お師匠様、英雄レインは、不可能なことをしてみせる人物だった」
その人物の名前が出てくるのは、最早当然のことだった。
「英雄レインと順位との関係……まさか」
その英雄が順位を付けるとすれば、それは確かに、たった一人を除けば無意識だったのだろう。
「そう。彼の持つ力は、『隙を見抜く力』などでは無かった。それはただの副産物の様なもので、本当の力は他に類を見ないもの」
確かに、隙が見えたところで、体が動かなければ勝利などあり得ない。
オリヴィアの言葉に続いたのは、同じく二位だと言われていたエリスの師、エリーだった。
「英雄レインの力は、『相対した者を超える力』だった。
それは血塗られた師匠の運命を代償とするには、確かに見合う力だった」
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