雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
511 / 592
第四章:三人の旅

第百十一話:その流派と宝剣

しおりを挟む
 一度乗客達が納得してからの船旅は順調だった。
 最初は人見知りを発動していたマナも、クラウスに対しての反応が恐怖では無くなれば次第に打ち解けていって愛想を振りまく様になる。
 サラもまた、乗組員の魔法使いと役割を交代して、快適な船旅が出来るようになった様だった。
 索敵や戦闘面ではサラが圧倒的に優れているけれど、船酔い対策については乗組員の方が圧倒的に優秀だ。
 あちらも少し罰が悪そうにしながらも、相手が聖女の再臨と呼ばれてその実力を見せつけたサラとなれば、酔い止め役に徹することに文句を言う者も現れない。

 ただ一つ、魔物の襲撃が毎日あるということだけが異常事態ではあったものの、サラとクラウスに任せておけばそれすら次第にショーと化していった。

「時雨流を継ぐってことは、基本的には世界トップクラスなんだよ。まあ、英雄達は少し別だけどね」

 そんなサラの言葉の通り、船はすこぶる安全な航海を続けていて、三日目には何分で終わるのかの賭けまで始められる始末。
 一度その噂を聞きつけたクラウスが張り切って敵を瞬殺した所、衝撃で船が九十度まで傾いて元に戻すのがめちゃくちゃ大変だったという理由で怒られるまで、賭けは五日ほど続けられていた。

 たまたま最初にマナを預けた勇者らしき女性が奇跡的なバランス感覚の持ち主で、それが理由でマナも心地よく戦闘中の睡眠が取れていたらしいのは、比較的どうでも良い話。

 ともかく、そんなスリル満点ながらも安全な船旅は大好評に終わり、南の大陸に着く頃にはクラウスもすっかりと他の乗客達に溶け込めることとなっていた。

「ありがとう。サラのおかげで楽しい船旅になったよ」
「ま、聖女様の七光りというかね。クラウスには難しい処世術ってやつ?」

 クラウスが礼を言えばサラはそうおどけて見せて、腕の中こらは「マナはー?」と声が聞こえる。
 それに「もちろんマナのおかげで皆も笑顔だったね」と答えれば、マナからはえへへ、と満足気な笑い声が聞こえてくる。
 マナは人形の様な見た目も相まって、非常に人に好かれやすい。
 それこそクラウスの真逆と言っても良いほどで、街中を歩いていてそれ程悪目立ちしないのはマナがクラウスの出す威圧感を相殺しているかの様だ。

 ミラの村の時も今回もそれは存分に発揮されていて、サラと並ぶ希望の旗印の様な役割を担っているかの様に、クラウスには見えていた。
 特に何をするでもなく愛想を振りまいているだけだけれど、眠って戦闘が始まってからもまるでクラウスを信頼しきっているかの様にすやすやと眠るマナを見ていると、少しでも不安だったことが馬鹿らしくなる程だというのが彼等の意見。

 実際にはマナが魔物を引き寄せていて、その寝首をかこうとしていることになど気付きもせず、皆の希望として君臨しているのがこの幼い女の子だ。

「もしかしてサラ、僕が時雨流三代目なことと、僕がマナを守るのには関係があるのか?」

 ふと、そんなことに思い至る。
 ここ三十年、世界の大きな出来事の中心には、大抵時雨流が関わっている。
 世界で唯一単独で二度魔王を倒し、世界を呪いから救うきっかけで、鍵となった初代。
 初代であるレイン・イーヴルハートは様々な偶然が重なった結果、死後魔王となってしまった。
 そんな魔王レインを倒したのが、二人の二代目を中心とした現在の英雄達だ。

 何があっても必ず守れと、国家レベルで言われるマナには、必ず何かがあるに決まっている。
 それを守る役目を託されたのが自分であるということと、つい先日知った実は時雨流の三代目であるということは、どうにも無関係には思えなかった。

 それを聞いて、サラは一瞬困った様な顔を浮かべて答える。

「んー、クラウスが三代目ってのとマナを守るのがクラウスってのは多分あんまり関係無いんじゃないかな。
 でも、どっちにしろ時雨流ってのを継ぐと厄介ごとに目を付けられるってのは偶然にしても事実なのかもね。
 ま、厄介ごとって言ってもマナを守るのは、クラウスにとってはもう当然のことか」

 相変わらずすやすやとよく眠るマナを撫でながら、サラはクラウスの腰を見る。
 それは誤魔化すにはあまりにも自然の動作で、クラウスにそれ以上の質問を許しはしなかった。

「随分と海中で戦ったものだから、旭丸も結構傷んでるね。というかクラウスの馬鹿力に、頑丈さに主眼を置いたその子も耐えられなかったってところ?」

 言われて腰の剣を抜くと、軽微な刃こぼれが見受けられる。
 流石に正確な剣のクラウスが振るうだけあって芯のずれは無いものの、かなり使い込んでいる、という状態。
 旭丸は宝剣月光を模して作られた頑丈さに主眼を置いた試作品、ということだった。

 元になった月光には、決して壊れないことと同時に弱点もある。
 それは、最上位の宝剣と言う割には決して斬れ味は良くない上に、一切の柔らかさが無いということ。

 そんな月光を模して作られた旭丸もまた、硬かった。
 つまり、手入れの難しい剣だった。
 通常の砥石では一切手入れが出来ず、かと言って決して壊れないかと言えばそんなことは無い。
 月光を除き、形あるものは必ず壊れる。

 旅に出る時から使ってきたその剣は、そろそろ強くなり続けるクラウスについて行けず、悲鳴を上げ始めていた。

 ――。

 初代レインは最上位極宝剣である月光を、唯一無二の最強の剣として生涯愛用していた。
 二代目オリヴィアは王家に伝わる国宝級の宝剣である秤のレイピアを、エリーは師匠が設計した八本の英雄の名前が込められた宝剣を愛用していた。

 対して三代目が持つ宝剣は、未だただの試作品の一振りだ。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 9

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...