508 / 592
第四章:三人の旅
第百八話:マヤの力
しおりを挟む
ところで、とエリーはアリエルを向き直る。
「ちょっとあのマヤって子、面白い力を持ってるかもしれない」
「面白い力?」
「そうそう。あの子って心の中だだ漏れなんだよね。その透け具合と言ったら、隠すつもりすらないエイミーさんやエレナさんは置いておいて、オリ姉並みの逸材かな」
心を読む力を持っているエリーは、隠そうとしていることを除き、相手の考えが簡単に読めてしまう。
村に入った時に自分がエリーだと説明したのだから、普通は恥ずかしい思い出だったり言いたくないことは隠そうとするのが人の本能だ。
それはエリーを快く迎え入れたミラの村の住人達すら変わらず、何かしら心に蓋をしている部分があった。
エリーにとってはそれは普通だし、最高の友人であるアリエルですら、隠す部分は隠している。
そんな中、今まで生きてきて例外は一人だけだった。
それがクラウスの母で、精神的な姉で、エリーの妹弟子に当たるオリヴィアだった。
流石に二人が秘密にしていたことだということもあり、レインとサニィが死に向かうことだけは隠していたオリヴィアだったけれど、二人が死んでしまって以来何一つ隠さなくなった。
最初はそれがエリーに信頼してもらう為にあえて見せている部分なのかと思ったが、よくよく考えてみれば二人のこと以外は何一つ変わらない。
そんな明け透けな心を持つオリヴィアとマヤは、エリーにとって少し似ていた。
「ほう。それで?」
エリーが人に興味を持つことは珍しい。
心が読めてしまうが故に、エリーの人に対する評価速度は非常に早いからだ。
オリヴィアは明け透けな心がどこまでも純粋だったから、アリエルは心にエリーにとって例えようの無い傷を負いながら頑張っていたから、だからエリーと共に居られる。
しかし人の二面性をパッと見た瞬間に、エリーはその興味を無くしてしまう。それは、どうしても心を読んでしまうエリーなりの精神力を保つ為に必要な防衛術だった。
そんなエリーが逸材と言うマヤには、アリエルも流石に興味が湧いてくる。
「あの子さ、多分アリエルちゃんやロベ爺に似た力を持ってる」
「妾達に?」
アリエルとロベルトは世界的にも珍しい、過程を飛ばして結論を導き出す力を持っている。
アリエルは正しき道を示すと言われていて、ロベルトは問題点を見抜く力。
特にアリエルの力は不便で、どんな結果になるのかも分からず、何にとって正しき道なのかも分からない。
そして更には、人の感情を一切考慮しない。
そんなエリーの言葉を聞いたアリエルの表情は、曇ってしまう。
それは、その力の苦労を知っているアリエルならではの反応だった。
しかしエリーはそれを見て、逆に笑みを浮かべた。
「大丈夫大丈夫。あの子、自分の力を全く分かってないみたいだから。勇者なりの身体能力以外なんも無いと思ってる。英雄エリーの力すごいなぁ、私もああいう力に目覚めないかしら、って思ってたからさ」
アリエルの力は、自覚しているからこそ恐ろしいタイプのもの。
何も知らずに、なんの責任も感じずに思ったことを言うだけならば、それを信じるかどうかは相手次第だ。
それを力を持っている本人が知らないのならば、そう思った、というだけのただの考えに過ぎない。
きっとマヤの力は、エリーが感じた限りではそんな類のものなのだろう。
「そうか。一旅人が無駄な責を負うことを、妾は良しとしないぞ。で、どんな力なんだ?」
場合によっては自分の力に永久に気づかない様にしてやった方が良いってことすらあるからな、とアリエルが心の中で呟くと、エリーは「多分だけど」と前置きをして話始めた。
「いやーあの子、クラウスが勇者を食う力を持ってるとか、師匠は魔王だけどちゃんと英雄で、お姉ちゃんと最期まで幸せに生きたんだ、なんて記憶があったんだよね。その上私達を見た瞬間、エリザベートとエリーゼ女王だ、なんて気づいてたんだよ。
今は私の精神介入で、英雄エリーと友達のアリエルちゃん以外には見えないはずなのに」
今までエリーの精神介入は完璧だった。
出会った人々は誰一人としてエリザベート・ストームハートと英雄エリーの関連性に気づかず、あらゆるメディアに乗り込み精神介入して別人だと信じ込ませて来た。
かつては危険だからあまりするなとされていた精神介入も、今ではエリーのものに限っては安全性が確認されている。
その為アリエルを連れ回すことも多少は出来るわけなのだけれど、それにしても。
未だかつて、全ての勇者の大元とされているクラウスにすら破られたことのない精神介入が、ほぼ直感に近い形とはいえあっさりと突破されたのは初めての経験だった。
「つまりあの子は、無条件に真実に辿り着く力、ってのを持ってるのかもしれない。ただし、本人は今まで生きてきて全くそれに気づいてない様子だったんだ」
だからこそマヤ自身は、自分の力を理解していなかった。
「あの子の好きなことって、殆ど英雄レインと聖女サニィの物語だった。それが幸いしたのかな、荒唐無稽な彼女の英雄レイン説を信じる人は、きっと殆ど居なかったんだよ」
真実は残酷である。
実際クラウスは母のマナを全て奪って生まれてきたし、レインは魔王だ。
例えなりたくなくて魔王になってしまったのだとしても、レイニーという騎士を殺したのはまだ死ぬ前。
そして何より、レインが悪者になったのは他でもない弟子の二人がそれをすることを認めたから。
オリヴィアはそれが苦しく死ぬことで政治を離れたし、エリーは姿を消して国を離れたけれど、人々が言っていることは、少なくとも表では真実となっている。
「あの子は気づかなそうだから、一先ずはそのままの方が良いかな。私が封印しようとすれば気づかれるかもしれないし、そうでなくとも力を封じるとなるとかなり深くなっちゃうからね」
エリーはそう言って、かつて力に振り回された親友を見た。
今はそれなりに折り合いを付けられている親友は、「気づかないなら確かにそれくらいが幸せかもな。隣には魔法使いの友人もいたことだし」とエリーの意見に賛成して、その日の簡単な会議は幕を閉じたのだった。
「ちょっとあのマヤって子、面白い力を持ってるかもしれない」
「面白い力?」
「そうそう。あの子って心の中だだ漏れなんだよね。その透け具合と言ったら、隠すつもりすらないエイミーさんやエレナさんは置いておいて、オリ姉並みの逸材かな」
心を読む力を持っているエリーは、隠そうとしていることを除き、相手の考えが簡単に読めてしまう。
村に入った時に自分がエリーだと説明したのだから、普通は恥ずかしい思い出だったり言いたくないことは隠そうとするのが人の本能だ。
それはエリーを快く迎え入れたミラの村の住人達すら変わらず、何かしら心に蓋をしている部分があった。
エリーにとってはそれは普通だし、最高の友人であるアリエルですら、隠す部分は隠している。
そんな中、今まで生きてきて例外は一人だけだった。
それがクラウスの母で、精神的な姉で、エリーの妹弟子に当たるオリヴィアだった。
流石に二人が秘密にしていたことだということもあり、レインとサニィが死に向かうことだけは隠していたオリヴィアだったけれど、二人が死んでしまって以来何一つ隠さなくなった。
最初はそれがエリーに信頼してもらう為にあえて見せている部分なのかと思ったが、よくよく考えてみれば二人のこと以外は何一つ変わらない。
そんな明け透けな心を持つオリヴィアとマヤは、エリーにとって少し似ていた。
「ほう。それで?」
エリーが人に興味を持つことは珍しい。
心が読めてしまうが故に、エリーの人に対する評価速度は非常に早いからだ。
オリヴィアは明け透けな心がどこまでも純粋だったから、アリエルは心にエリーにとって例えようの無い傷を負いながら頑張っていたから、だからエリーと共に居られる。
しかし人の二面性をパッと見た瞬間に、エリーはその興味を無くしてしまう。それは、どうしても心を読んでしまうエリーなりの精神力を保つ為に必要な防衛術だった。
そんなエリーが逸材と言うマヤには、アリエルも流石に興味が湧いてくる。
「あの子さ、多分アリエルちゃんやロベ爺に似た力を持ってる」
「妾達に?」
アリエルとロベルトは世界的にも珍しい、過程を飛ばして結論を導き出す力を持っている。
アリエルは正しき道を示すと言われていて、ロベルトは問題点を見抜く力。
特にアリエルの力は不便で、どんな結果になるのかも分からず、何にとって正しき道なのかも分からない。
そして更には、人の感情を一切考慮しない。
そんなエリーの言葉を聞いたアリエルの表情は、曇ってしまう。
それは、その力の苦労を知っているアリエルならではの反応だった。
しかしエリーはそれを見て、逆に笑みを浮かべた。
「大丈夫大丈夫。あの子、自分の力を全く分かってないみたいだから。勇者なりの身体能力以外なんも無いと思ってる。英雄エリーの力すごいなぁ、私もああいう力に目覚めないかしら、って思ってたからさ」
アリエルの力は、自覚しているからこそ恐ろしいタイプのもの。
何も知らずに、なんの責任も感じずに思ったことを言うだけならば、それを信じるかどうかは相手次第だ。
それを力を持っている本人が知らないのならば、そう思った、というだけのただの考えに過ぎない。
きっとマヤの力は、エリーが感じた限りではそんな類のものなのだろう。
「そうか。一旅人が無駄な責を負うことを、妾は良しとしないぞ。で、どんな力なんだ?」
場合によっては自分の力に永久に気づかない様にしてやった方が良いってことすらあるからな、とアリエルが心の中で呟くと、エリーは「多分だけど」と前置きをして話始めた。
「いやーあの子、クラウスが勇者を食う力を持ってるとか、師匠は魔王だけどちゃんと英雄で、お姉ちゃんと最期まで幸せに生きたんだ、なんて記憶があったんだよね。その上私達を見た瞬間、エリザベートとエリーゼ女王だ、なんて気づいてたんだよ。
今は私の精神介入で、英雄エリーと友達のアリエルちゃん以外には見えないはずなのに」
今までエリーの精神介入は完璧だった。
出会った人々は誰一人としてエリザベート・ストームハートと英雄エリーの関連性に気づかず、あらゆるメディアに乗り込み精神介入して別人だと信じ込ませて来た。
かつては危険だからあまりするなとされていた精神介入も、今ではエリーのものに限っては安全性が確認されている。
その為アリエルを連れ回すことも多少は出来るわけなのだけれど、それにしても。
未だかつて、全ての勇者の大元とされているクラウスにすら破られたことのない精神介入が、ほぼ直感に近い形とはいえあっさりと突破されたのは初めての経験だった。
「つまりあの子は、無条件に真実に辿り着く力、ってのを持ってるのかもしれない。ただし、本人は今まで生きてきて全くそれに気づいてない様子だったんだ」
だからこそマヤ自身は、自分の力を理解していなかった。
「あの子の好きなことって、殆ど英雄レインと聖女サニィの物語だった。それが幸いしたのかな、荒唐無稽な彼女の英雄レイン説を信じる人は、きっと殆ど居なかったんだよ」
真実は残酷である。
実際クラウスは母のマナを全て奪って生まれてきたし、レインは魔王だ。
例えなりたくなくて魔王になってしまったのだとしても、レイニーという騎士を殺したのはまだ死ぬ前。
そして何より、レインが悪者になったのは他でもない弟子の二人がそれをすることを認めたから。
オリヴィアはそれが苦しく死ぬことで政治を離れたし、エリーは姿を消して国を離れたけれど、人々が言っていることは、少なくとも表では真実となっている。
「あの子は気づかなそうだから、一先ずはそのままの方が良いかな。私が封印しようとすれば気づかれるかもしれないし、そうでなくとも力を封じるとなるとかなり深くなっちゃうからね」
エリーはそう言って、かつて力に振り回された親友を見た。
今はそれなりに折り合いを付けられている親友は、「気づかないなら確かにそれくらいが幸せかもな。隣には魔法使いの友人もいたことだし」とエリーの意見に賛成して、その日の簡単な会議は幕を閉じたのだった。
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる
グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。
『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。
2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。
主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる