504 / 592
第四章:三人の旅
第百四話:一月後
しおりを挟む
二人がミラの村の女性達を救ってから一月後、村の中にもぽつりぽつりと笑顔を見せる者が出てきた頃、盗賊村の男達の刑が処されたという連絡が入ってきた。
村が男しか生まれない特別状況だということを加味しても、女を確保する為の手段には同情の余地無し。
同じく女しか生まれないウアカリが上手くやっているのだから、という前例もあって男達は速やかに断頭台に立たされることになったらしい。
それを村の人々に伝えるか否かを二人で悩んだ結果、無意味に辛い思い出を掘り起こす必要も無いということでボドワンだけに伝えることにした。
彼も様子女性陣の様子を見て伝えるか伝えないべきかは決めると言って、今は胸にしまっておくことにしたらしい。
それもそのはず、女性陣は互いに慰め合いながらも盗賊村のことには一切触れない様にしたまま、ここまで過ごしてきている。
そんなクラウスの胸中は複雑だった。
「結局、無傷で捕まえてもこうなっちゃうんだね」
もちろん無傷とは欠損が無いという意味で、村のリーダー格だったドニは家に突き刺さった影響で全身擦り傷とアザだらけだったが、彼の動きに全く影響は無くそれ以外は完全な無傷、誤差の範囲だろう。
しかし問題はそこではない。
おおよそ無事な状態で全員を確保して、会話まで交わしたにも関わらず、この世界のルールは簡単に人を処刑にしてしまった。
『魔物蔓延るこの世で、不要な悪を蔓延させてはならない』
それは同国の者同士、人と人は常に味方でなくてはならず、魔物と相対している時に背後をとられて殺されたのでは笑い話にすらならないということ。
人々の平和に仇なす者は魔物と同じ。
魔王となったレインがこの国で今だに強く恨まれているのは、こんな思想が根底にあるからだ。
それでも、脅した上でとはいえ一度は会話を交わした人間達。
いくら愚かであってもそこまであっさりと処刑しましたと言われれば、クラウスの気苦労は元より、何故生け捕りにしたのかも判然としなくなっていた。
対して、サラはあっさりとこう告げた。
「ほら、私はあの場で全員処分しちゃっても良かったんだけどさ、考えてもみてよ。オリーブさんに子どもが盗賊を殺しましたって言える? あのお人好しのお母さんに、僕は人を殺しましたなんて、たとえ盗賊でも言えないでしょ」
そう言われてハッとする。
あの人間大好きな母親が、たとえ盗賊であっても人を殺すことを許容できるとは思えない。
きっともし殺したんだと言えば、「頑張ったね」と褒めてくれるのだろう。
しかしその時の母親の顔を想像すれば、それはとてもではないが喜んではいないはずだ。
自らの手で師匠を殺めた英雄だからこそ、それは辛いことのはず。
「……なるほど、エリーさんの掟は母さんの為か」
「そういうこと。クラウスが進んでだと悲しいけど、国が決めたことなら仕方ないでしょ?」
元から用意していた言い訳は、クラウスにちょうど良く刺さったらしい。
魔王となってしまった最愛の師匠を除いてただ一人として殺したことがない母親を理由にしておけば、クラウスは納得せざるを得ない。
全くマザコンで助かったとこの時ばかりは感謝しながら、サラはほっと息を吐く。
自分で決めたことなのだから仕方ないのだけれど、相変わらずこの幼馴染の相手は気苦労が絶えないな、なんてことを思いながら、幼馴染が何も知らされないことにもまた同情してしまう。
「まあ、彼らは大量の人を殺した。それが事実だからね」
「ああ、そうだね」
「あと、六人の女の人達は半分が家に帰れたみたい。残り半分は一先ず保護だってさ」
一度脳を破壊された六人は皆大変な人生を送ることになる、とは流石に言えず、サラは話題を変える。
「ところで、この村では聖女サニィは女神サニィなんだってさ。知ってた?」
「いや、初耳だ。魔法書にも書いてないよね?」
魔法書は日記の役割も果たしているが、サニィ自身が恥ずかしい思いをしたことは基本的に書いていない。
ということは、女神と呼ばれていることはサニィ自身が知らないか、もしくは恥ずかしい歴史なのか。
サラは続ける。
「書いてないね。でも、村人達が崇めてる像は聖女サニィ像じゃなくて女神サニィ像って言うらしいよ」
村の中心には、高さ3m程の立派なブロンズ像が立っていた。
翼が生えた、巨大な杖を持った女性の像。
サニィにしては不思議だと思っていた理由が、ようやく分かった気がした。
「だから翼が生えてたのか……。聖女サニィはそんな演出でもしたんだろうか」
「それは知らない。でも、そのおかげで困ったことになったんだよ」
んー、と唸りながら、サラは「復興途中だけど逃げる?」等と言い始める。
ここまで来てそれは無いだろうと呆れて見せると、渋々と言った様子でその理由を話始めた。
「いやー、私ルークエレナの娘じゃん? パパと言えば【後継者ルーク】でしょ? 後継者ってなんのかって言ったら、彼女達にとっては女神様のじゃん? で、私たまらんタマリン持ってるでしょ? 女神様の力が宿った神器。で、そんな私がこの村を再び助けたじゃん。ほら……」
そこまで言って、言い淀む。
流石にそこまで言われれば、サラがどういう事態に陥っているのかは容易に予想が付いた。
結局、英雄の娘として生まれたサラはどこまで行っても英雄の娘だということだ。
クラウスは、にやりと笑う。
からかわれていることが多かった分、たまにはやり返してみたかった。
「ほら、じゃ全然分からないな」
そう言ってみれば、サラは顔を赤くして隣に生えていた大木を引き抜くと、それをクラウスに向けて思いっきり叩きつけてきた。
流石は格闘が得意な魔法使い。
森がフィールドで武器が木な以上は膂力調整も容易らしい。
「天使サラの像を隣に立てたいとか言い始めてる……」
大木に叩き潰されながらクラウスは確かに、そんな言葉を聞き取った。
村が男しか生まれない特別状況だということを加味しても、女を確保する為の手段には同情の余地無し。
同じく女しか生まれないウアカリが上手くやっているのだから、という前例もあって男達は速やかに断頭台に立たされることになったらしい。
それを村の人々に伝えるか否かを二人で悩んだ結果、無意味に辛い思い出を掘り起こす必要も無いということでボドワンだけに伝えることにした。
彼も様子女性陣の様子を見て伝えるか伝えないべきかは決めると言って、今は胸にしまっておくことにしたらしい。
それもそのはず、女性陣は互いに慰め合いながらも盗賊村のことには一切触れない様にしたまま、ここまで過ごしてきている。
そんなクラウスの胸中は複雑だった。
「結局、無傷で捕まえてもこうなっちゃうんだね」
もちろん無傷とは欠損が無いという意味で、村のリーダー格だったドニは家に突き刺さった影響で全身擦り傷とアザだらけだったが、彼の動きに全く影響は無くそれ以外は完全な無傷、誤差の範囲だろう。
しかし問題はそこではない。
おおよそ無事な状態で全員を確保して、会話まで交わしたにも関わらず、この世界のルールは簡単に人を処刑にしてしまった。
『魔物蔓延るこの世で、不要な悪を蔓延させてはならない』
それは同国の者同士、人と人は常に味方でなくてはならず、魔物と相対している時に背後をとられて殺されたのでは笑い話にすらならないということ。
人々の平和に仇なす者は魔物と同じ。
魔王となったレインがこの国で今だに強く恨まれているのは、こんな思想が根底にあるからだ。
それでも、脅した上でとはいえ一度は会話を交わした人間達。
いくら愚かであってもそこまであっさりと処刑しましたと言われれば、クラウスの気苦労は元より、何故生け捕りにしたのかも判然としなくなっていた。
対して、サラはあっさりとこう告げた。
「ほら、私はあの場で全員処分しちゃっても良かったんだけどさ、考えてもみてよ。オリーブさんに子どもが盗賊を殺しましたって言える? あのお人好しのお母さんに、僕は人を殺しましたなんて、たとえ盗賊でも言えないでしょ」
そう言われてハッとする。
あの人間大好きな母親が、たとえ盗賊であっても人を殺すことを許容できるとは思えない。
きっともし殺したんだと言えば、「頑張ったね」と褒めてくれるのだろう。
しかしその時の母親の顔を想像すれば、それはとてもではないが喜んではいないはずだ。
自らの手で師匠を殺めた英雄だからこそ、それは辛いことのはず。
「……なるほど、エリーさんの掟は母さんの為か」
「そういうこと。クラウスが進んでだと悲しいけど、国が決めたことなら仕方ないでしょ?」
元から用意していた言い訳は、クラウスにちょうど良く刺さったらしい。
魔王となってしまった最愛の師匠を除いてただ一人として殺したことがない母親を理由にしておけば、クラウスは納得せざるを得ない。
全くマザコンで助かったとこの時ばかりは感謝しながら、サラはほっと息を吐く。
自分で決めたことなのだから仕方ないのだけれど、相変わらずこの幼馴染の相手は気苦労が絶えないな、なんてことを思いながら、幼馴染が何も知らされないことにもまた同情してしまう。
「まあ、彼らは大量の人を殺した。それが事実だからね」
「ああ、そうだね」
「あと、六人の女の人達は半分が家に帰れたみたい。残り半分は一先ず保護だってさ」
一度脳を破壊された六人は皆大変な人生を送ることになる、とは流石に言えず、サラは話題を変える。
「ところで、この村では聖女サニィは女神サニィなんだってさ。知ってた?」
「いや、初耳だ。魔法書にも書いてないよね?」
魔法書は日記の役割も果たしているが、サニィ自身が恥ずかしい思いをしたことは基本的に書いていない。
ということは、女神と呼ばれていることはサニィ自身が知らないか、もしくは恥ずかしい歴史なのか。
サラは続ける。
「書いてないね。でも、村人達が崇めてる像は聖女サニィ像じゃなくて女神サニィ像って言うらしいよ」
村の中心には、高さ3m程の立派なブロンズ像が立っていた。
翼が生えた、巨大な杖を持った女性の像。
サニィにしては不思議だと思っていた理由が、ようやく分かった気がした。
「だから翼が生えてたのか……。聖女サニィはそんな演出でもしたんだろうか」
「それは知らない。でも、そのおかげで困ったことになったんだよ」
んー、と唸りながら、サラは「復興途中だけど逃げる?」等と言い始める。
ここまで来てそれは無いだろうと呆れて見せると、渋々と言った様子でその理由を話始めた。
「いやー、私ルークエレナの娘じゃん? パパと言えば【後継者ルーク】でしょ? 後継者ってなんのかって言ったら、彼女達にとっては女神様のじゃん? で、私たまらんタマリン持ってるでしょ? 女神様の力が宿った神器。で、そんな私がこの村を再び助けたじゃん。ほら……」
そこまで言って、言い淀む。
流石にそこまで言われれば、サラがどういう事態に陥っているのかは容易に予想が付いた。
結局、英雄の娘として生まれたサラはどこまで行っても英雄の娘だということだ。
クラウスは、にやりと笑う。
からかわれていることが多かった分、たまにはやり返してみたかった。
「ほら、じゃ全然分からないな」
そう言ってみれば、サラは顔を赤くして隣に生えていた大木を引き抜くと、それをクラウスに向けて思いっきり叩きつけてきた。
流石は格闘が得意な魔法使い。
森がフィールドで武器が木な以上は膂力調整も容易らしい。
「天使サラの像を隣に立てたいとか言い始めてる……」
大木に叩き潰されながらクラウスは確かに、そんな言葉を聞き取った。
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる