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3.賢者への入り口
しおりを挟む亜夢流の額にふわっと、涼しい微風が当たり、
亜夢流の伸びきった黒髪が爽やかな風に
揺らされている。
亜夢流が目を覚ますと、今まで経験した
ことがないような不思議な世界にいた。
毛皮みたいな、暖かいものに包まれて、
見知らぬ人のごっつい背中に寄りかかっている。
これはなんだ?
えっ、僕は宙に浮いている?
風に揺られながら、何かに乗って、
空を飛んでいるようだ。
空飛ぶ生き物に乗ってるのか?
いや、馬のような鳥、ペガサスみたいな馬か。
綺麗な透き通るような白い翼をはためかせている。
亜夢流は自問自答しながら、自分が置かれて
いる状況を必死に掴もうとした。
亜夢流が下を見下ろすと、遠くに島のような
形のものが見え、だんだん、下に近づいて、
大きくなっている。飛行機よりも臨場感
溢れていて、まるで、自分が何かを操縦して、
島に着陸しようとしているような、
不思議な感覚。
もちろん、自分は操縦しておらず、
寄りかかっていた人、堅いのいい男の人が
ペガサスを操縦していた。
その人の背によれかかりながら、
亜夢流は眠っていたらしい。
「目覚めたか?」
「はい…僕はどこにいるんですか?」
その男の人はカウボーイのような服装に
身を包み、少し濃い髭を伸ばし、茶髪のロングで、
いかにもイケメンと言われるような、
整った顔立ちをしている。
「アムルだな?」
「はい、そうですけど…」
「お前に今から新しい世界を
見せてあげるよ」
「新しい世界ってなんですか?」
「ほら、行くぞ!」
その男はそういうと、ペカザスに指図して、
勢いよく、地上に向かって、走らせた。
みるみるうちに、空から、小さい島に向かって
どんどん下に向かっていく。
かなり急降下した為、
亜夢流も地震が起きたかのように、
かなり、揺れを感じ、
必死に落ちないよう、その男の人の背中に
しがみつく。目も怖くて、開けられないような
ジェットコースター気分で、ペガサスに
乗せられている亜夢流。
小さい島がはっきり見え、海に囲まれた島が
綺麗な星の形になって、亜夢流の視界に
夢のような世界が広がってきた。
なんだろう。この島は…
あと、僕はいったいどこにいるんだろう。
このおじさん、悪い人ではないんだろうか?
いきなり、あの本のしおりからこの世界に
吸い込まれて、夢のような、
でも、夢とは違う、たしかなものが、
今、亜夢流の目の前に映っている。
海の飛沫が亜夢流の顔に当たるくらい、
海のかなり側まで、近づいてきた。
亜夢流は海の爽やかな、自然に満ち溢れた風を
体一身で感じながら、その美しい風景に
声を弾ませる。
「すごいこんな近くで水を感じるなんて、
カモメもこんな近くに、見える!」
「そんな、めずらしいか?」
「僕は海で泳いだこともないので…」
「それなら、これから、見る世界
は目が飛び出すくらいのもんかもな」
亜夢流が喜びに満ちた表情で
自然を感じている様子を横目で見ながら、
その男は、少し、笑いながら、優しそうな
表情で、何かを亜夢流に差し出した。
「俺はダイカだ。よろしく!」
金色のビジネス用の名刺のようなものだった。
普通の名刺カードのようなサイズの
厚紙に金色がこれでもかというくらい、
光り、ダイカと名前が書かれている。
上に役職が記載されてるが、
亜夢流は聞いたことのない、
魔法突破指導人という役職名に
首を傾げる。
「魔法突破指導人?」
「ははは、お前さんの世界では聞いたこと
ないだろうな…
まぁ、おいおい、分かるだろう」
「はぁ… 」
亜夢流はいつも暮らしている世界とは
真逆のような場所に戸惑い、
いったい、これから、何が始まるのかと、
恐怖と期待で感情がごちゃ混ぜになり、
頭が混乱していた。
「あの、今、何時ですか?
明日、学校あるので、早めに帰らないと」
亜夢流が真面目に、時間を聞くと、
その男はヘーゼルナッツ色の丸型で、
トップが平らになっている帽子を外し、
高笑いし始めた。
「ははは…
そんなこと気にしなくて、いいよ!
この世界とは時間がまったく、ちがうからな!」
「とにかく、亜夢流にはこの世界のこと、
お前がやるべきことを知ってほしいんだ」
「はぁ…
僕ができることなんてないと思うけど…」
そのダイカという男はにっこり微笑み、
亜夢流の肩にポンっと手を置いた。
「この世界にはまだ、知らないことが
隠されている。
まだ、アムルが自覚していない
能力もな。能力は磨かれないと、
埋まったままだからな!」
二人が話しているうちに、
ペガサスは壮大な海から移動し、星の形をした
島の土地に着陸しようとしていた。
雪化粧された美しい島には
大聖堂があり、街の象徴として、
光輝き、上から見ても、白い外壁と水色の
丸い屋根が、綺麗な朝日を浴びながら、
美しい風景を生み出している。
亜夢流達を乗せるペガサスが、着陸に向け、
白い大きな羽を羽ばたかせ、
猛スピードで、降下した。
亜夢流も落とされないように、ぎゅっと、
必死にペガサスとダイカにしがみつく。
無事,島に着陸し、怖さで目を閉じていた
亜夢流が目を開けると、亜夢流たちは
大聖堂前に到着していた。
亜夢流はダイカの手を借りながら、
ペガサスから降りる。
目の前には威厳高い、煌びやかな大聖堂が
鮮やかな水色の屋根を際立たせながら、
建っている。
美しい建物を唖然とした表情で見ていると、
ダイカが声をかけた。
「ここが、いろいろなイベント、
賢者を迎える式とかでも使われる大聖堂だ。
きれいだろう?
また、来るがいい」
「うん。すごいところだね」
亜夢流は生まれてこの方、
旅行というものをしたことがなかった。
もちろん、こんな綺麗な建物を見るのも
初めてだ。
世の中にはこんな麗しいものがあるのかと
心に潤いが満たされたような幸せな気分。
だが、穏やかな時間はダイカによって、
すぐ、終わりを告げられた。
「じゃあ、移動するぞ、
このマンホールからだ!」
ダイカが指したのは、大聖堂の玄関の右端に
隠れるように、存在していた、黒い蓋の
鉄のマンホールだった。
真ん中には金色の取っ手がある。
ダイカはそれを軽々持ち上げ、
行くぞと言った仕草を亜夢流に見せる。
「えっ、ここから、入るんですか?」
「そうだ、いくぞ!」
いったい、どうやって、どこに行くのだろうと
亜夢流は不思議に思いながらも、
この強そうな男に逆らう術もなく、
ただ、しかたなく、そのまままついていった。
亜夢流達はペガサスにお礼をして、
別れ、マンホールの中に入っていった。
マンホールの中には階段があり、
長い無数の険しい、階段を渡り終わると、
長い道をひたすら歩く時間が続いた。
亜夢流は歩き疲れていたが、
帰りたい気持ちは少しずつ、消え、
これから起こるであろう不思議な
出来事に胸を弾ませながら、
暗闇の中から光の先にある世界に足を踏み入れる
瞬間を今か今かと心待ちしながら、
一歩一歩先に進む。
あの不思議な老人と、奇妙なしおりの
謎が解ける瞬間にようやく、近づけるかと思うと、
亜夢流の心に希望のような暖かい光が
差し込んで来た。
「亜夢流、着いたぞ!」
ダイカに導かれて、ようやくひかりの先に
辿り着き、出口のドアを開ける。
ドアを開けると、亜夢流の目に
壮大な日本のお屋敷のような建物が
麗しく、堂々と存在し、他をよせつけない
オーラを醸し出しながら、威厳高く、
聳え立っていた。
彫刻や飾金具を施された墨色の門は
金色の取っ手があり、両端に彫られている
ドアに竜の金の彫刻が、その屋敷の象徴のように、
際立ち、部外者が入りずらいような、
独特な雰囲気を漂わせている。
「ここが賢者への入り口だ」
亜夢流は、恐らく、新しいとてつもない
何かが、待ち受けていることは容易に
推測できたが、何が起きようとしているかは
よく、頭で理解できていなかった。
何やら、知らない、不思議な世界に
足を踏み込んでしまった自分に、
少し怖さを感じながら、
門の中に、おそるおそる、足を踏み入れた。
「ここからが始まりだぞ!
気を引き締めるぞ!」
ダイカはその建物には似つかわしくない
であろうカウボーイの格好で
ボサボサの頭を少し、両手で、整え、
ゴツゴツした石段の坂道をを歩き始めた。
その後ろについていく亜夢流。
石段の坂道を抜けると
「魔法研究所」と書かれている木材の
看板が見えた。
その先には道場のような、
黒い瓦の屋根付きの屋敷が静かに
建っていた。
そこの中に入ろうとするダイカ。
「まず、深呼吸して、結界を外すぞ!」
ダイカは両手を合わせ、ブツブツ呪文を言い、
強い光を発して、結界を破る。
亜夢流たちが茶色のドアの入り口を開けると、
何やら、いかつい、長い刀を肩に掛けた
忍者のような黒い格好をした、50代くらいの
男が威張ったような態度で、亜夢流たちを
待っていた。
「ようこそ、賢者の研究所へ」
亜夢流はその人物が放つ、オーラに
圧倒され、表情が固くなる。
亜夢流は木材のお屋敷の匂いと独特な雰囲気に
包まれ、言葉がでない。
その時、ダイカが後ろから声ををかける。
「いよいよ、始まるぞ、
今日からお前は賢者の卵だ!」
亜夢流は身が引き締まる思いで、
唾をごくっと飲み込み、道場に足を踏み入れる。
亜夢流はまだ、見ぬ世界を想像し、
力がみなぎってくる感覚を感じながら、
はぁと息を吐き、その忍者の男に導かれながら、
奥の部屋へと入っていった。
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