未読の王様〜僕が次の一手をやる

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1.不気味な老人との出会い

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 寒い冬の朝。

 カーテン越しの強い日差しで

 眠い目から覚め、あくびをしながら、

 布団から、少年が起き上がった。


 だるそうに両手を伸ばし、

 うーんと声を出しながら、

 重たい目を開ける。
 

 彼の名前は東 亜夢流ひがしあむる

 中学2年生で、身長も小柄で、ひ弱な体型だ。

 学校に行くのは苦痛ではないはずだが、
 
 なぜか、今日は体がだるく感じていた。

 学校に行く準備をして、
 
 2階から急ぎ足で階段を下り、
 
 直様、リビングルームの中に入ると、
 
 色白の茶髪で、くるくるパーマの

 女性が、テーブルに座りながら、

 食パンを口にほうばっていた。

 彼女は亜夢流の叔母、りいなだ。

 
 亜夢流の母が亡くなってから10年、

 一緒に暮らしている。

 
 亜夢流に気付くとすぐ、パンを下ろし、
 
 声をかけた。


「あら、遅いじゃない。パンならあるけど、
 
 食べていくの?」


「いえ、そのまま、行きます」


 亜夢流はよそよそしい返事をして、

 冷蔵庫に向かった。

 
 冷蔵庫から水を取り出し、

 コップに水を注ぎ、一杯分を

 ぐっと、飲み干す。


 りいなは亜夢流に冷たい目線を向けながら、
 
 パンを食べ終わり、新聞を読みながら、

 マグカップのコーヒーを口に入れる。


「では、行ってきます」


 蚊が鳴くような小さな声で、

 挨拶をして、家を出た。


 これがいつもの日常だ。亜夢流には 

 父も母もいない。

 叔母と叔父といとこの斗愛とあ
 
 と暮らしている。


 冷めた関係で、自分が何をしようと

 構わない人達だと亜夢流は思っている。


 
 朝も家では食べないことが多い。
 
 代わりに向かう先はいつも決まった場所。


 家から出ると、学校に行く途中にある

 喫茶店に向かった。

 
 亜夢流は洋風な2階建ての建物で

 足を止める。


 1階は喫茶店、
 
 2階は人が住む部屋になっている。


 1階はステンドグラスのドアになっていて、
 
 おもてに「インフィ二ト・ヒロ」と

 書かれている。

 
 その色とりどりのステンドグラスの

 ドアを開けるとマスターが声をかけた。


「いらっしゃいませ…」


「おっ、アムル、来たのか、

 今日はなんにする?」


 レトロな雰囲気のカフェで、

 渋い太い声のオーナーが手際よく、

 メニューを差し出した。



 黒髪の短髪で、爽やかな好青年という感じ

  の男性が、暖かいコーヒーを作りながら、

 注文を待っている。

 
 「チーズホットサンドとオレンジジュースで」


 淡々とメニューを頼み、
 
 店内を見渡すが、人の気配はなく、

 朝の情報番組のテレビの声が  
 
 店内に響いている。


「相変わらず、人いないね。」

 周りを見渡しながら、

 
 亜夢流がぼやっとつぶやく。


「朝はこんなもんだよ。毎回くるのは、
 
 アムルくらいだしな」


「それより、進路決めたのか?
 
 もうそろそろだろ?」


 亜夢流が考えたくない話題を

 さらっと、口にするオーナーに

 むっとしながら、ぶっきらぼうに 
 
 返事をする。


「まぁ、適当だよ。どこでもいいし」


「どこでもいいって、やりたいこととか、

 行きたい学校ないのか?」


 あるわけない、生きるのも苦痛なのに。
 
 亜夢流は心でつっこみながら、

 気力のない顔でカウンターのテーブルに
 
 両手の肘をついた。


「別にないよ」


「また、お前は冷めてるな、

 準備だけは

 しといた方がいいぞ」


「は~い」

 心無い返事をして、あくびをする亜夢流。

「ほら、できたぞ、ホットサンド」


 ほっかほっかのチーズたっぷりの

 ホットサンドが目の前にどーんと置かれ、

 香ばしい、いい匂いに食欲がそそられる。


「いただきます」


 大きい口をあけ、サクサクした音を

 たてながら、サンドを口の中に入れた。


「おいしい!オーナーが作るサンドは
 
 ピカイチだね」


「だろ?栄養つけろよ、

 ほらサラダもつけたぞ」

 粋のいいオーナーはいつも、

 亜夢流に食べ物を  

 与えてくれる。

 彼は亜夢流の父の弟だ。


 このお店を一人で切り盛りして、

 いつも亜夢流を気にかけてくれる。


 亜夢流はホットサンドとサラダを食べ終え、
 
 マスターにお礼を言って、 

 カウンターの席を立った。

「ありがとう、学校に行ってきます」


「いってらっしゃい、気をつけてな」

 
 暖かい声で見送られながら、店を後にする。

 
 学校に着き、教室に入るといつものように、
 

 席に座り、本を読み始めた。

 
 しばらくすると、後ろから

 馴染みのある声が聞こえてきた。


「アムル、おはよう」


「おはよう、今読書中だ」


「お前はほんと、いつもつれないよな」


 明るい口調で亜夢流に話しかけるのは
 
 同級生の疋田 雄二ひきた ゆうじ


 いつも冷めた亜夢流に話しかける、

 唯一の同級生だが、

 お調子者で、忘れっぽい性格である。


 何か言いたそうな表情で亜夢流に近づき、
 
 小声で話し始めた。


「あの噂、聞いたか?

 最近、学校の周りにマントを来た、

 変質者がいるって話」


「変質者?知らないけど…」


「マントを着た男が学校周辺を
 
 うろちょろして、
 
 見返したら、消えるって噂だぜ」


「ふーん」

「また、冷めた対応だな。

 俺は怪しい噂は

 気になるわ。

 その男、誘拐犯だったりして…」


「アホらしい。馬鹿なこと言って…

 また、変な噂流すなよ」


 雄二はは亜夢流に咎められ、

 一瞬、しょげたような顔をするも、
 
 すぐに、表情を変え、開き直る。


「このつまらない日常の唯一の刺激は
 
 噂を広めることじゃないか、

 もし、誘拐犯見つけたら、

 俺はヒーローだぜ」


「誘拐犯かわからないだろう?

 変な検索やめて、小説とかよんだら?

 現実よりよっぽどおもしろいよ」


「小説はめんどくさいよ。

 俺はネタ探しをしたいんだよ。
 
 もしかしたら、現実の方が

 おもしろいかもだしな。

 お前も気をつけた方がいいぜ。
 
 帰り、さらわれるかも」


 雄二はにやけ顔でいつもの

 ように亜夢流をからかう。


 「ははは、気をつけるよ」


 亜夢流はバカにしたような表情で、

 雄二を見ながら、
 
 読んでた本をパタンと閉めた。

 
 学校が終わり、部活のない亜夢流は

 学校の図書館に行き、好きな本を

 読んで、宿題を済ませてから、
 
 校舎を出た。


 辺りは霧に包まれている。

 今日の天気は晴れだった気がしたけど、

 なんか変な天気だな。

 
 亜夢流はいつもと違う天気に

 違和感を感じながら、家に帰る道に進んだ。


 学校を抜け、大通りに入ると、
 
 スモークのように、霧が立ち込み、

 前が見えなくなってくる。

 今まで見たことない霧に奮闘しながら、

 なんとか、前に進み、

 横断歩道の信号のとこまで進んだ。


 少し、霧が薄くなり、

 前が見えるようになって 
 
 きたが、急に肌寒い

 冷気のようなものが

 亜夢流の体を襲ってくる。


 なんだろう、この寒さ。足が震える。

 後ろに人気を感じ、振り返ると、

 霧の中から、黒い人影の

 シルエットが見えてきた。


 老人のような長い髭姿だ。


 誰かが近づいてくる。よく見ると、
 
 マントを着た髭姿の老人だった。

 
 亜夢流の頭に、今朝、雄二が

 言ってたことが蘇ってきた。


 あの話ほんとだったのかぁ。


 逃げなければと

 体を動かそうとするも
 
 足が冷気で震え、動かない。

 その老人はどんどん近づいてきて、
 
 はっきり顔が見える近さになった。


 老人は古そうな黒いマントを着て、
 
 魔法使いみたいなとんがった

 帽子をかぶっている。

 目は大きく、高い鼻に、

 顔の所々に皺が目立って見える。

 なんだ、この得体も知れない人物は…

 亜夢流がマジマジと見始めると、
 

 老人が話しかけてきた。


「久しぶりじゃな、元気にしておったか?」


「お、おじさんにあったことないけど…」


 怖さを感じながらも、

 冷静に答える亜夢流。


「ははは、そうじゃな、

 お前さんはまだ2歳ぐらいだった

 から、覚えてないだろう。

 私は亜夢流のお母さんのお父さん、

 つまり、お前のおじいさんだ」


「はい?言っている意味が

 わからないですど…」


 亜夢流はこの突然現れた

 奇妙なマント姿の老人が

 自分の祖父だなんて

 奇想天外なことを言われて

 頭が混乱した。


 老人は亜夢流に歩みより、言葉をかける。


「いいか、よく聞くんだ。

 ここはお前の住む世界      

 ではない。早く逃げ出した方がいい。

 お前さんは特別な能力があるんだ」


「特別な能力?なんですか、それ?」

 亜夢流は上を見上げながら、

 真剣な眼差しで老人に聞く。


「ふふふ、それは今からのお楽しみじゃ。
 
 また、会いにくるからな」


 その老人は不気味に笑い、
 
 何かを亜夢流に差し出した。


「アムル、これを大事に持っとくんじゃぞ、
 
 これがお前を新しい世界に

 導いてくれるはずだ」

 呆気に取られる亜夢流が
 
 もらった絵柄もない、白色のしおりを見て 
 
 いる隙に老人は消えていった。


 夢のような出来事が一瞬で消え、
 
 霧も完全になくなっていった。


 亜夢流は不思議な出来事に、

 頭がぼーっとした状態で

 家に帰った。

 本当に現実だったのだろうか。
 
 夢を見ていたのかもしれない。

 
 その夜、亜夢流は頭がふわふわ浮いた状態で、
 
 深い眠りについた。


 机の上に置いた老人からもらった

 本のしおりが一日中光ってるのにも
 
 気づかずに。
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