ヒト

宇野片み緒

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一つめ

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つのが生まれ変わるのを待つ間、一つめはまるで楽しみじゃなかった。冷めている自分が嫌な生き物に感じられて膝をかかえる。消えるのがあっという間だったつのは、三日後にもう新しい命を得た。浮かんできたそれは相変わらずの尖った丸。一つめのことは知らんぷりで、すぐ水まんじゅうの群れに紛れた。



─その無視は、わざと? それとも記憶がないの?─心がざわつく。全て聞こえていれば、疑うこともないのに。早く生まれ変わりたいと強く思った。次は聞こえるように願うつもり。一つめはふと、何年間も容姿を変えていないことに気づいた。ヒトモドキ以外にはなれないけれど、年を重ねたごっこはできる。



長生きといた頃はまだ無知で、ヒトの真似が楽しかった。知識と技術に溢れた、複雑で憧れの生命体。でも水面の映像を見ていて、少しずつ知ったことがある。ヒトは心を読めない。ヒトは一度しか生きられない。ヒトは老いる。ヒトは賢い。ヒトは愚か。つのの言葉が脳裏に響く。一つめは、ヒトに向いてる。



こんな生き物に向きたくはなかった。そう考えた途端に、視界が滲んだ。─ずいぶん早いわ。ヒトを否定したせいで、寿命が一気に縮んだのかしら、ね─その心の声は何にも届かない。返答もない。これまでで最も静寂な終わりだった。透けるように消えていく。次は、と考えて頭がおかしくなりそうだった。次?



─何のために生まれ変わるのかしら─星の原始生物には次がある。どんな動物に化けた水まんじゅうにも、等しく。地球の生き物は違うらしい。─私も次なんていらないわ─薄らいでいく視界の中で、ヒトモドキは思った。─だって長生きもイルカも消えてしまった─尖った水まんじゅうは、他人事のように群れの中。



─願ったら終われそうだわ─目を伏せた。しかし途端に何かが手首を掴み、驚いて見開いた。眼前、消えていく視界の中心に、同じ顔の生き物がいた。額に角。それは涙を浮かべ叫んだ。「生まれ変わるのやめないで。つのを疑ったまま消えないで」三回目の一つめが見た最後の光景。「あなた、記憶があったの」



掠れた弱々しい罵りを残して、彼女は消えた。直後、つのも消えてしまった。二粒の水滴が湖に転がり落ちる。生まれ直すため膨らんでいく。寂寥が星を包む。水まんじゅうたちのどうでもいい独り言があちこちで、ノイズになって響いている。─消えた──消えた──でも──膨らんでいく──生まれる──次はいつ──次─
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