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長生き
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長生きは、四十九回目を生きていた。記憶を引き継げなかったときは、周囲の心の声で知った。一つめは今回が初の生まれ変わり。老人は少女に、たくさんの事実を語った。自分たちの星は、地球のかけらにすぎないこと。水まんじゅうたちは、だいたい七十年で蒸発すること。それから、永遠の死もあること。
一つめは目を見開いて、すぐに悲しそうに笑った。「ええ。知ってるわ。あなたが四十九回くり返し生きてきたことも、知ってるわ」湖の中で急に、大勢の心がざわついた。長生きは肩を落とす。「やっぱり不便だ。何でも聞こえてしまうってのは」この星の水まんじゅうたちは、五十回しか生まれ変われない。
「次が、最後の誕生、なのね」一つめの声は空気が多く、高く丸く研ぎ澄まされていた。長生きは、豊かな口髭ごとうなずいた。「うん。それで、次の次が最後の死になるよ」老いた容姿には一致しない、青少年のようなさみしい声がわずかに笑った。「私、ずっと傍にいるわ。あなたの永遠の死まで、ずっと」
星の水まんじゅうたちは、ヒトモドキの思考があまり理解できない。ヒトの形になったことで、長生きと一つめだけが複雑な感情を手に入れた。大量の原始生物は幼子のように、「よくわからないけれど、二つが嬉しそうだから嬉しい」と素直に思った。一つめが眉尻を下げて笑い、ありがとう、と頬を染める。
祖父と孫娘のように見えた。二つの周囲には、様々な動物に化けた水まんじゅうたちがいる。しかしその情景は、半年で終わった。春が過ぎ、秋が過ぎ、ヒトモドキの星にはまた春が来た。「あと数年って、多く見積もりすぎたかな」寂しそうにはにかんで、老人は気化してゆく。消え行く体を少女の声が追う。
「生まれ変わったあなたが、もしも全てを忘れていたら」続きは、言わなくても伝わった。不安と期待の空気。老人は「頼むよ」と最後に思い微笑んだ。液体窒素が散らばるときみたいに、ざあっと消える。みずみずしい透明な一粒が、着床する。それが風船のように、十日もかけて手のひら大に膨らんでいく。
一つめは、昏々と湖を眺めていた。長生きの生まれ変わりは、少しずつ育ち、丁寧に丸まってゆく。今のところ色は白濁。やがて青いインキを垂らしたような核が生まれる。その核だけは青いまま、全体が透明になれば生き始め。「ねえ」呼びかけるたび、水まんじゅうたちが気をきかせて「なあに」と思った。
水だけで生きられる少女は、湖の畔りで眠っては起きる日々を続けた。目の前の特別な水まんじゅうが、いつ生まれてもいいように。十日目の朝、やっと白濁が透けだした。「ねえ、長生き」小声で呼びかける。なあに、とは返らない。「やあ、一つめ。待たせたね」と、先代と同じ、若々しい心の声が返った。
一つめは急に困り顔になる。心中が彼に届く。「どうしよう。私、思い出してもらうための言葉ばかり用意していたわ。覚えていてくれるなんて──」僕も嬉しい、と音のある応答。十歳頃に見える少女と同年代の男子が現れた。先代の翁をうんと若くしたような面影がある。誠実そうな雰囲気の、刈り揃えた頭。
生まれ変わった長生きは、ケーブル編みの白いニット帽をかぶっていた。よく似合う。繊維は元々生命なので、水まんじゅうたちは服ごとヒトに化けられる。ヒトモドキとは衣類も合わせて一個なのだ。少年と少女になった二つは顔を見合わせて、互いにからかうように笑った。 「ずいぶん若くなっちゃって」
一つめは目を見開いて、すぐに悲しそうに笑った。「ええ。知ってるわ。あなたが四十九回くり返し生きてきたことも、知ってるわ」湖の中で急に、大勢の心がざわついた。長生きは肩を落とす。「やっぱり不便だ。何でも聞こえてしまうってのは」この星の水まんじゅうたちは、五十回しか生まれ変われない。
「次が、最後の誕生、なのね」一つめの声は空気が多く、高く丸く研ぎ澄まされていた。長生きは、豊かな口髭ごとうなずいた。「うん。それで、次の次が最後の死になるよ」老いた容姿には一致しない、青少年のようなさみしい声がわずかに笑った。「私、ずっと傍にいるわ。あなたの永遠の死まで、ずっと」
星の水まんじゅうたちは、ヒトモドキの思考があまり理解できない。ヒトの形になったことで、長生きと一つめだけが複雑な感情を手に入れた。大量の原始生物は幼子のように、「よくわからないけれど、二つが嬉しそうだから嬉しい」と素直に思った。一つめが眉尻を下げて笑い、ありがとう、と頬を染める。
祖父と孫娘のように見えた。二つの周囲には、様々な動物に化けた水まんじゅうたちがいる。しかしその情景は、半年で終わった。春が過ぎ、秋が過ぎ、ヒトモドキの星にはまた春が来た。「あと数年って、多く見積もりすぎたかな」寂しそうにはにかんで、老人は気化してゆく。消え行く体を少女の声が追う。
「生まれ変わったあなたが、もしも全てを忘れていたら」続きは、言わなくても伝わった。不安と期待の空気。老人は「頼むよ」と最後に思い微笑んだ。液体窒素が散らばるときみたいに、ざあっと消える。みずみずしい透明な一粒が、着床する。それが風船のように、十日もかけて手のひら大に膨らんでいく。
一つめは、昏々と湖を眺めていた。長生きの生まれ変わりは、少しずつ育ち、丁寧に丸まってゆく。今のところ色は白濁。やがて青いインキを垂らしたような核が生まれる。その核だけは青いまま、全体が透明になれば生き始め。「ねえ」呼びかけるたび、水まんじゅうたちが気をきかせて「なあに」と思った。
水だけで生きられる少女は、湖の畔りで眠っては起きる日々を続けた。目の前の特別な水まんじゅうが、いつ生まれてもいいように。十日目の朝、やっと白濁が透けだした。「ねえ、長生き」小声で呼びかける。なあに、とは返らない。「やあ、一つめ。待たせたね」と、先代と同じ、若々しい心の声が返った。
一つめは急に困り顔になる。心中が彼に届く。「どうしよう。私、思い出してもらうための言葉ばかり用意していたわ。覚えていてくれるなんて──」僕も嬉しい、と音のある応答。十歳頃に見える少女と同年代の男子が現れた。先代の翁をうんと若くしたような面影がある。誠実そうな雰囲気の、刈り揃えた頭。
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