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第七章 ココペリにて
Scene4 就寝
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全員ベッドに入り、照明を落とした。それぞれの枕元に笠つきの電灯があり、それが三つ灯っている。点けているのはジョージと速見と俺。
「なんか修学旅行みたいっすね。好きな人の話とかしちゃう?」
ジョージがはしゃいだ声色で開口し、かぶせるように「しねーよ」と内田の冷たい声。
「好きな人と言えばなんすけど」
「しねーって言ったじゃん僕しねーって言ったじゃん」
「たまにはいいじゃん。あんね、ここだけの話、寝ちゃってるから言うんすけど、ヒイロさんって、もしかしなくてもミミさんのこと好きっすよね」
ひそひそ声でそう続いた。二期生が揃って、ああーと神妙に唸った。
「皆があえて触れてこなかったことを。ジョージそうゆうとこあるよなあ」
言いつつ、ソウルはきょろきょろした。
「ごめん、すぐ寝ると思ってメガネ片付けちゃった。俺いま視線間違ってない? シルエットと声の方向が頼りなんだけど君はジョージ?」
「あ、はい。ジョージです」
「よかった」
「ソウルさん本当にめちゃくちゃ目悪いんすね」
「昼間はそうでもないんだけどね。鳥目なんだ」
短く会話してから二人は「いや何の話」「ヒイロさん」「メガネは一旦置いといて」「メガネだけに?」「ん? うん」と本題に戻した。
「で、ぶっちゃけどうなんすか」
それについては、俺が小声で答えた。
「本人からは何も聞いてないけど、たぶんその通りなんじゃね」
これに対して、ジョージがこう重ねたのでまさに鳩に豆鉄砲。
「で、マトペさんもぶっちゃけミミさんのこと好きっすよね」
はあっ? と素っ頓狂な声が出た。
「そりゃ好きっていうか、格好いいとか可愛いとかは思うけど、今話してる好きって恋愛感情の話だろ、そうゆうことなら俺の好きは全然違うジャンルのやつだから。つかその観点で言いだしたら俺ら二期生全員美々実さん大好きだわバカかお前はッ」
饒舌に言いすぎて、逆に必死にごまかした人みたいになったじゃねえかよ。ぽかん、と目と口を丸くしてからジョージは声をあげて笑い出した。
「おい。何がおかしい」
「いやだってマトペさん必死」
「あーもー! じゃあお前も好きな人暴露しろや」
「いっぱい居るんすよねえ」
「おいチャラ男」
速見が「うおお、慣れない話題でむずがゆいんだぜ」と腕をかいた。すぐに「でっすよねえ、好きな人とか、ねえ」と同意したのは内田。矛先にしてやれ!
「そうゆうふうに言うやつに限って恋愛中と何かで読んだぜッ。おいおいおいおーい!」
何で読んだかは忘れたがな。たぶん、母さんの蔵書のうちのどれか。
「ふ、ふえええっ、小野キャプテンずるいです、自分がいじられたくないからって」
「ああそうだ俺はいじられたくないッ! 内田お前好きな人いねえの!」
「え、ええーっ? 僕の好きな人は、先輩方みーんなですようっ」
ごまかす感じの、きゅるん。久々にされた気がする。
「おいおいどうした、そうゆうふうに話を逸らすやつに限ってぇーッ」
「本当にいないんですよね」「何でいる雰囲気出してきたんだよ」「ノリで……」
気まぐれが過ぎる。表情が一変する瞬間、正直怖いんだが。
「速見は?」
話を振ると、やつは驚いて自分の顔を指差した。
「オイラ? オイラはそんな話、無縁なんだぜ。クラスの女子とか普通に話すけどよ、友達としてしか見られてないと思うんだぜ。良い人止まりってやつよ」
遠い目で、ふっと鼻で笑った。それなー、とソウルが同意する。
「俺もそう。バレンタイン、チョコいっぱいもらえたけど、全部義理だったし」
「たっはは、俺もっすわ。友チョコの交換いっぱいした」
ジョージがそう言ったことで、例の酒入りガナッシュを思い出した。俺以外、誰も思い出してくれるな。号泣してたとか言い出すなよ。黒歴史、黒歴史。
「あー、あのガナッシュだろ。本当においしかった。小野が号泣したやつ」
「ソウルてめえッ!」
ふかふかの枕を投げつけた。失言にいま気づいたらしく、ソウルは目を丸くしてから、ごめぇん、と大らかに微笑んだ。許す。こいつの、怒る気が失せる笑顔はずるいと思う。
賑やかにしすぎたか、ヒイロがむくりと起き上がった。
「悪い。うるさかったか」
「いや、数分前に目が覚めていたんだが、起き上がるタイミングじゃなかった」
冷静な声色で返され、全員ヒヤリとした。ジョージが苦笑いで言う。
「ちなみに、どのあたりから起きてたんすか?」
「遠道が、俺が寝てるからどうとか言い出したあたり」
「ウッワーッそりゃ起き上がるタイミングじゃねえ、まじすんません気ィつかわせて」
布団から飛び出し、赤毛の後輩はベッドの上で大げさに平謝りした。短い舌打ちをし、ヒイロは疲労の見える表情で額に手を当てた。
「寝たふりを続けるべきとは分かっていたんだが、知らないふりは性に合わねえ」
ヒイロが気を使うなんてかなり珍しいと思ったが、その気づかいが最後まで持たなかったあたり、ヒイロらしい。俺らが話していた間、葛藤していたと思うとちょっと面白いな。
「で、聞こえちゃってたならこの際もう聞くんすけど、ぶっちゃけどうなんすか」
赤毛は楽し気にニヤリとした。こっちもこっちで、非常にジョージらしい。我らのヒーローはため息をつき、別に、と眉間にしわを寄せた。速見が諭すように、
「池原、このタイミングで起き上がったら、自らいじられに来たようなもんなんだぜ。そのまま寝たふりを続けていればよかったのによ」
と声のトーンを落とした。ヒイロは悔し気にうつむく。
「分かっていたんだが」
「嘘つけねえのなあ」
「隠し事があると試合に支障が出る」
「まじか。そいつは起きるしかないんだぜ」
「だろ」「おうよ」「だが、いじるな」「無茶があるんだぜ」
いつの間にか時間がかなり経っていて、時計は十一時半を指していた。
「ま、どっちにしろそろそろ切り上げないとまずいな。詮索し始めたら長いぞ、この話」
俺は枕元の電気を切った。速見も続けて切る。
「キャプテンの言う通りなんだぜ。修学旅行のノリはここまで」
「えっ、寝ちゃうんすか、待って今めっちゃいいとこー!」
唯一まだ電気が点いている場所でジョージが声を張り、「素直に寝ろや」と内田の叱咤が飛んだ。うぃーす、と不満げな声と共に、明かりが消える。暗闇の中で、小声が響く。
「ねえ、まじでぶっちゃけどうなんすか。え、寝たふり? 今? 今する? ちょいと、気になりすぎて俺だって明日の試合に支障が出ちまいやすけど! いいんすか!」
静寂。のち、それよりもさらに小さい声で、ヒイロが返した。好きだった、と。過去形なことに、ほっとしたような悲しいような、複雑な思いがした。深刻な空気に、ちゃかした本人が黙り込んでしまった。気まずい沈黙を、ヒイロの声が破る。
「遠道なんか言え」
「言いにくいこと聞いてすんません」
「そういうのやめろ」
そのやり取りに、笑いをかみ殺している吐息が聞こえ出した。
「山ノ内は笑うな」
「ごめん池原。バレた」
もう寝ようぜえ、と速見が、暗い中でも笑顔と分かる声で言った。
「なんか修学旅行みたいっすね。好きな人の話とかしちゃう?」
ジョージがはしゃいだ声色で開口し、かぶせるように「しねーよ」と内田の冷たい声。
「好きな人と言えばなんすけど」
「しねーって言ったじゃん僕しねーって言ったじゃん」
「たまにはいいじゃん。あんね、ここだけの話、寝ちゃってるから言うんすけど、ヒイロさんって、もしかしなくてもミミさんのこと好きっすよね」
ひそひそ声でそう続いた。二期生が揃って、ああーと神妙に唸った。
「皆があえて触れてこなかったことを。ジョージそうゆうとこあるよなあ」
言いつつ、ソウルはきょろきょろした。
「ごめん、すぐ寝ると思ってメガネ片付けちゃった。俺いま視線間違ってない? シルエットと声の方向が頼りなんだけど君はジョージ?」
「あ、はい。ジョージです」
「よかった」
「ソウルさん本当にめちゃくちゃ目悪いんすね」
「昼間はそうでもないんだけどね。鳥目なんだ」
短く会話してから二人は「いや何の話」「ヒイロさん」「メガネは一旦置いといて」「メガネだけに?」「ん? うん」と本題に戻した。
「で、ぶっちゃけどうなんすか」
それについては、俺が小声で答えた。
「本人からは何も聞いてないけど、たぶんその通りなんじゃね」
これに対して、ジョージがこう重ねたのでまさに鳩に豆鉄砲。
「で、マトペさんもぶっちゃけミミさんのこと好きっすよね」
はあっ? と素っ頓狂な声が出た。
「そりゃ好きっていうか、格好いいとか可愛いとかは思うけど、今話してる好きって恋愛感情の話だろ、そうゆうことなら俺の好きは全然違うジャンルのやつだから。つかその観点で言いだしたら俺ら二期生全員美々実さん大好きだわバカかお前はッ」
饒舌に言いすぎて、逆に必死にごまかした人みたいになったじゃねえかよ。ぽかん、と目と口を丸くしてからジョージは声をあげて笑い出した。
「おい。何がおかしい」
「いやだってマトペさん必死」
「あーもー! じゃあお前も好きな人暴露しろや」
「いっぱい居るんすよねえ」
「おいチャラ男」
速見が「うおお、慣れない話題でむずがゆいんだぜ」と腕をかいた。すぐに「でっすよねえ、好きな人とか、ねえ」と同意したのは内田。矛先にしてやれ!
「そうゆうふうに言うやつに限って恋愛中と何かで読んだぜッ。おいおいおいおーい!」
何で読んだかは忘れたがな。たぶん、母さんの蔵書のうちのどれか。
「ふ、ふえええっ、小野キャプテンずるいです、自分がいじられたくないからって」
「ああそうだ俺はいじられたくないッ! 内田お前好きな人いねえの!」
「え、ええーっ? 僕の好きな人は、先輩方みーんなですようっ」
ごまかす感じの、きゅるん。久々にされた気がする。
「おいおいどうした、そうゆうふうに話を逸らすやつに限ってぇーッ」
「本当にいないんですよね」「何でいる雰囲気出してきたんだよ」「ノリで……」
気まぐれが過ぎる。表情が一変する瞬間、正直怖いんだが。
「速見は?」
話を振ると、やつは驚いて自分の顔を指差した。
「オイラ? オイラはそんな話、無縁なんだぜ。クラスの女子とか普通に話すけどよ、友達としてしか見られてないと思うんだぜ。良い人止まりってやつよ」
遠い目で、ふっと鼻で笑った。それなー、とソウルが同意する。
「俺もそう。バレンタイン、チョコいっぱいもらえたけど、全部義理だったし」
「たっはは、俺もっすわ。友チョコの交換いっぱいした」
ジョージがそう言ったことで、例の酒入りガナッシュを思い出した。俺以外、誰も思い出してくれるな。号泣してたとか言い出すなよ。黒歴史、黒歴史。
「あー、あのガナッシュだろ。本当においしかった。小野が号泣したやつ」
「ソウルてめえッ!」
ふかふかの枕を投げつけた。失言にいま気づいたらしく、ソウルは目を丸くしてから、ごめぇん、と大らかに微笑んだ。許す。こいつの、怒る気が失せる笑顔はずるいと思う。
賑やかにしすぎたか、ヒイロがむくりと起き上がった。
「悪い。うるさかったか」
「いや、数分前に目が覚めていたんだが、起き上がるタイミングじゃなかった」
冷静な声色で返され、全員ヒヤリとした。ジョージが苦笑いで言う。
「ちなみに、どのあたりから起きてたんすか?」
「遠道が、俺が寝てるからどうとか言い出したあたり」
「ウッワーッそりゃ起き上がるタイミングじゃねえ、まじすんません気ィつかわせて」
布団から飛び出し、赤毛の後輩はベッドの上で大げさに平謝りした。短い舌打ちをし、ヒイロは疲労の見える表情で額に手を当てた。
「寝たふりを続けるべきとは分かっていたんだが、知らないふりは性に合わねえ」
ヒイロが気を使うなんてかなり珍しいと思ったが、その気づかいが最後まで持たなかったあたり、ヒイロらしい。俺らが話していた間、葛藤していたと思うとちょっと面白いな。
「で、聞こえちゃってたならこの際もう聞くんすけど、ぶっちゃけどうなんすか」
赤毛は楽し気にニヤリとした。こっちもこっちで、非常にジョージらしい。我らのヒーローはため息をつき、別に、と眉間にしわを寄せた。速見が諭すように、
「池原、このタイミングで起き上がったら、自らいじられに来たようなもんなんだぜ。そのまま寝たふりを続けていればよかったのによ」
と声のトーンを落とした。ヒイロは悔し気にうつむく。
「分かっていたんだが」
「嘘つけねえのなあ」
「隠し事があると試合に支障が出る」
「まじか。そいつは起きるしかないんだぜ」
「だろ」「おうよ」「だが、いじるな」「無茶があるんだぜ」
いつの間にか時間がかなり経っていて、時計は十一時半を指していた。
「ま、どっちにしろそろそろ切り上げないとまずいな。詮索し始めたら長いぞ、この話」
俺は枕元の電気を切った。速見も続けて切る。
「キャプテンの言う通りなんだぜ。修学旅行のノリはここまで」
「えっ、寝ちゃうんすか、待って今めっちゃいいとこー!」
唯一まだ電気が点いている場所でジョージが声を張り、「素直に寝ろや」と内田の叱咤が飛んだ。うぃーす、と不満げな声と共に、明かりが消える。暗闇の中で、小声が響く。
「ねえ、まじでぶっちゃけどうなんすか。え、寝たふり? 今? 今する? ちょいと、気になりすぎて俺だって明日の試合に支障が出ちまいやすけど! いいんすか!」
静寂。のち、それよりもさらに小さい声で、ヒイロが返した。好きだった、と。過去形なことに、ほっとしたような悲しいような、複雑な思いがした。深刻な空気に、ちゃかした本人が黙り込んでしまった。気まずい沈黙を、ヒイロの声が破る。
「遠道なんか言え」
「言いにくいこと聞いてすんません」
「そういうのやめろ」
そのやり取りに、笑いをかみ殺している吐息が聞こえ出した。
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