4 / 26
第一章 全国一位の実力
逸話 通学路
しおりを挟む
今流行りの通学方法は、空を飛んで行くこと。文字通り。ポナミとかいう玩具メーカーが二年くらい前にいわゆる「魔法使いの箒」を商品化したのだ。またがって飛べる例のアレである。日本の技術の進化は凄まじい。だが乗りこなすのはなかなかに難しく、買ったはいいが押し入れ行きになったという話もよく聞く。俺は箒がいるほど学校まで遠くもないし、別に興味もなかったのでそもそも買わずに徒歩通学を続けていた。ソウルも内田も徒歩だ。行く途中でソウルの家の前を通るので、いつも声をかけて一緒に行く。ちなみに箒なんて便利アイテムが出てきても自転車は根強く健在である。速見とヒイロはチャリ通だ。しかしジョージは、毎度のことなのだが流行に踊らされていて、ちょうど今、
「マトペさんはざーっす」
と歩いている俺の頭上を飛んでいった。他にも数人飛んでいる。変な光景である。でも街並みは案外、歴史の教科書で見るものと変わっていない。むしろ家だけなら昭和に似ているかもしれない。二千二十年代、空前の古民家ブームで、新築なのに古民家風に建てるのが流行ったらしい。そのブームは長く続き、続きすぎて、むしろそっちの建て方が通常みたいな域になった。俺が住んでいる家も一見すると築云百年みたいな風情だが、実は築十五年である。日本再生協会が古き良き文化を推しまくったのも一因だ。路地の景色は古くさい。
でも電信柱はない。電線は全て地下を通っている。ド田舎にはまだ少しあるらしいが、もうじき全部無くなってしまうだろう。景観維持が目的と聞く。平成史の資料で見たことのある、看板の付いた電信柱がレトロでいいと俺は思ったんだが、変化するものは仕方ない。
大通りに出ると昭和でも平成でもないことがさらによく分かる。踏切はもはや都市伝説になった。古い恋愛小説では踏切のせいで逢瀬を遮られるシーンをよく見るが、もう現実では滅多に起こらない。新幹線の進化も著しく、移動は虚しいくらいに速くなった。大阪から東京まで最短十分で着く。交通整備がデジタル化された道路には信号が少なく、タイヤのない車が無音で走っている。道路はタイル張りに移行中で、セメント固めはなごり雪のように点在。横断歩道に近づくと、人感センサーが反応して周囲の車が自然に止まる。行き交う車のほとんどが自動運転だ。だからと言って免許証が必要なくなったわけではない。突然のエラーで手動切替を余儀なくされることもまだまだ多いので運転技術は必要なのだ。そんな手動の車がうっかり飛び出してこないかを確認してから歩道を渡った。この先がソウルの家だ。
車を、日頃からあえて手動で運転する人もいる。俺の父さんもそうだ。機械任せは信用できないらしい。父さんは高速とか全自動とかせわしないものが苦手で、出張もあえて各駅停車で観光しながら行ったりする。旅行代理店に勤めていて滅多に家にいない人だ。いないのは、家族を避けているからとかでは決してなく、どちらかというといつも父のほうから「観光がてらツアー企画の下見に行くけど着いてこない?」と誘ってくれている。なのに漫画家である母さんは「〆切近い」、俺は「普通に部活ある」だの断るのだ。ごくたまに休みがかぶれば着いていってる。両親の影響か、新しい景色を知ることはとてもわくわくする。
横断歩道の先にあるソウルの家は、今どき流行らない眼鏡店を営んでいる。レーシック技術の進んだ昨今、メガネはほぼ骨董品だ。十字路の角にあるその店は、なんちゃって古民家ではないアンティークハウスで、西洋風の丸い出窓に深い銅色の柵がついている。山ノ内眼鏡店、とレトロなフォントで透明な扉に書かれている。一階の手前が店で、その奥側と二階と三階が生活スペースだ。入り口の脇に立てかけられている箒は、せっかく買った飛ぶやつなのに、家族そろって乗りこなせず、電源を切って掃除用にされたらしい。山ノ内家は三世帯で暮らしている大家族で、どの人もおっとりしている。そして眼鏡店としてのポリシーなのか、目が悪かろうが良かろうが全員メガネだ。チャイムを押すと、
「はい、おはよう、今降りる」
と朝に弱い感じの、幼なじみの穏やかな声がすぐ返った。
「マトペさんはざーっす」
と歩いている俺の頭上を飛んでいった。他にも数人飛んでいる。変な光景である。でも街並みは案外、歴史の教科書で見るものと変わっていない。むしろ家だけなら昭和に似ているかもしれない。二千二十年代、空前の古民家ブームで、新築なのに古民家風に建てるのが流行ったらしい。そのブームは長く続き、続きすぎて、むしろそっちの建て方が通常みたいな域になった。俺が住んでいる家も一見すると築云百年みたいな風情だが、実は築十五年である。日本再生協会が古き良き文化を推しまくったのも一因だ。路地の景色は古くさい。
でも電信柱はない。電線は全て地下を通っている。ド田舎にはまだ少しあるらしいが、もうじき全部無くなってしまうだろう。景観維持が目的と聞く。平成史の資料で見たことのある、看板の付いた電信柱がレトロでいいと俺は思ったんだが、変化するものは仕方ない。
大通りに出ると昭和でも平成でもないことがさらによく分かる。踏切はもはや都市伝説になった。古い恋愛小説では踏切のせいで逢瀬を遮られるシーンをよく見るが、もう現実では滅多に起こらない。新幹線の進化も著しく、移動は虚しいくらいに速くなった。大阪から東京まで最短十分で着く。交通整備がデジタル化された道路には信号が少なく、タイヤのない車が無音で走っている。道路はタイル張りに移行中で、セメント固めはなごり雪のように点在。横断歩道に近づくと、人感センサーが反応して周囲の車が自然に止まる。行き交う車のほとんどが自動運転だ。だからと言って免許証が必要なくなったわけではない。突然のエラーで手動切替を余儀なくされることもまだまだ多いので運転技術は必要なのだ。そんな手動の車がうっかり飛び出してこないかを確認してから歩道を渡った。この先がソウルの家だ。
車を、日頃からあえて手動で運転する人もいる。俺の父さんもそうだ。機械任せは信用できないらしい。父さんは高速とか全自動とかせわしないものが苦手で、出張もあえて各駅停車で観光しながら行ったりする。旅行代理店に勤めていて滅多に家にいない人だ。いないのは、家族を避けているからとかでは決してなく、どちらかというといつも父のほうから「観光がてらツアー企画の下見に行くけど着いてこない?」と誘ってくれている。なのに漫画家である母さんは「〆切近い」、俺は「普通に部活ある」だの断るのだ。ごくたまに休みがかぶれば着いていってる。両親の影響か、新しい景色を知ることはとてもわくわくする。
横断歩道の先にあるソウルの家は、今どき流行らない眼鏡店を営んでいる。レーシック技術の進んだ昨今、メガネはほぼ骨董品だ。十字路の角にあるその店は、なんちゃって古民家ではないアンティークハウスで、西洋風の丸い出窓に深い銅色の柵がついている。山ノ内眼鏡店、とレトロなフォントで透明な扉に書かれている。一階の手前が店で、その奥側と二階と三階が生活スペースだ。入り口の脇に立てかけられている箒は、せっかく買った飛ぶやつなのに、家族そろって乗りこなせず、電源を切って掃除用にされたらしい。山ノ内家は三世帯で暮らしている大家族で、どの人もおっとりしている。そして眼鏡店としてのポリシーなのか、目が悪かろうが良かろうが全員メガネだ。チャイムを押すと、
「はい、おはよう、今降りる」
と朝に弱い感じの、幼なじみの穏やかな声がすぐ返った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
月の綺麗な夜に終わりゆく君と
石原唯人
恋愛
ある日、十七才の春に僕は病院で色のない少女と出会う。
それは、この場所で出会わなければ一生関わる事のなかった色のない彼女とモノクロな僕の
秘密の交流。
彼女との交流によって諦観でモノクロだった僕の世界は少しずつ色づき始める。
十七歳、大人でも子どもでもないトクベツな時間。
日常の無い二人は限られて時間の中で諦めていた当たり前の青春へと手を伸ばす。
不器用な僕らの織り成す物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる