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2巻

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 エルフは卵からかえるまでの間、精霊樹の懐に抱かれて育つ。精霊樹の魔力を与えられて育つため、エルフの男性は精霊樹の「護り手」に、女性は精霊樹に仕える「癒し手」になるのである。

「ありませんね。でもエルフは森の眷属けんぞくですから恩恵を受けられます」

 なるほど、そういうものなのか。
 たまにはのんびり歩くのもいいなと思っていたが、こういうときにかぎってトラブルが起こるものだ。
 気づけば、リキオーたちの先を走っていたハヤテが止まっている。不思議に思ってリキオーが近寄ると、そこには立派な馬車が停まっていた。
 突然、茂みの奥から女性の叫び声が上がる。
 リキオーは、アネッテとハヤテに真剣な眼差しを向けた。

「アネッテ、ハヤテと一緒に行動。行くよ」
「はい」
「わうっ」

 リキオーが抜刀しながら走りはじめると、アネッテもハヤテと彼のあとを追って駆け出した。
 走りながら馬車のなかを確かめる。メイドと思われる女性が斬られ、無残な傷跡をさらして倒れていた。もう息はなさそうだ。
 馬車の御者の姿はなく、すでに逃げ出したらしい。馬は殺されていた。
 血の臭いを追って森の奥に入っていくと、もう一人のメイドが倒れている。
 こちらも斬りつけられていたが、幸いにしてまだ息はあるようだ。

「アネッテ、この人を頼む」
「はいっ」

 アネッテが癒しの呪文を唱える。その間に周囲を警戒するハヤテ。
 リキオーはさらに走りながら奥に分け入って行く。
 そこにいたのは、見るからに野蛮そうな二人の野盗である。その間には大きな木を背にして、少女が蒼白の表情でハァハァと息を荒らげていた。
 野盗の二人は少女に気を取られて、リキオーが来たことに気づいていない。さっそくリキオーはそのうちの一人を後ろから急襲し、容赦なく突き刺した。

「ぐわっ! な、てめぇ……ぐっ」

 声を上げて倒れる野盗。リキオーが刀を引き抜くと、飛沫しぶきがブシュッと音を立てて噴き出した。
 それを見たもう一人の男が、リキオーに向け短刀を突き出してくるが、リキオーはその攻撃をあっさりとね上げ、男のがら空きの胴を狙って返す刀で振り抜いた。
 男は無言のまま血と内臓を腹からこぼしながら二、三歩進むと、そのまま地に倒れ伏す。
 リキオーは刀を収めて少女を振り返る。
 少女は、目を丸くしたまま彼を凝視していたが、危機を脱したことを理解すると虚脱したように倒れてしまった。
 リキオーが近寄って倒れた少女を抱き起こし、「もう大丈夫だ」とささやくと、彼女はかろうじて保っていた意識で「ああ……」と返事する。しかし、そうつぶやくや否や彼の腕のなかでグッタリとしてしまった。
 負傷していないか確かめ、大丈夫だとわかると、リキオーは彼女を抱き上げてアネッテのところへ戻った。さっそくアネッテに声をかける。

「どう? そっちは」

 リキオーが尋ねたのは、アネッテに手当をお願いしていたメイドの容態である。

「はい、なんとか息はしています。マスター、そのお嬢さんは」
「野盗たちに襲われかけていた少女だ。目立った傷はなさそうだが、一応ヒールをかけといてくれるかな」
「はい」

 アネッテが【ショートヒール】を唱える。少女の体を青い光が包むと、その顔に穏やかな表情が浮かんだ。とはいえ気を失ったままだが。
 治療を終えたアネッテが心配そうな表情を浮かべて尋ねる。

「いったい、何があったんでしょうね」
「うん、まあ一番可能性があるのは物盗りかなあ。しかし馬車を襲うなんて……護衛を連れていなかったから狙われたのかな。このお嬢さんはメイドさんを二人も連れているみたいだから、もしかしたらどっかのお屋敷のお姫さんかもしれないね」

 意識を失ったままの二人を馬車の座席に横たわらせ、どうしたものかと思案していると、遠くからパカラッパカラッと馬を走らせる音が聞こえてくる。しばらくすると、馬に乗った複数の騎士が現れた。

「そこのお前、その馬車がイストバル領主エグモント様のものと知った上での狼藉ろうぜきか!」

 居丈高いたけだかに声を上げる騎士。
 きれいに手入れされた馬にまたがり、その鎧は銀色に輝いている。
 さらに、あとに続いて騎士の仲間たちが現れた。彼らが馬車に近づいてくるので、リキオーはハヤテとアネッテを下がらせる。
 騎士たちに向けて、リキオーが大声で叫ぶ。

「俺たちは冒険者パーティ、銀狼団だ。イストバルに向かう途中、この馬車が野盗に襲われていたところにたまたま通りがかった。そこの森の奥に俺が倒した野盗たちをそのまま放置してある。もし疑しいとお思いなら、実際にその目で確かめてみるがいい」

 それを聞いた騎士の仲間たちは、疑わしそうな目をしながら森に入っていった。しかし、リキオーと相対している騎士は疑いを解いた様子はない。剣の柄に手をかけるや否や……。

「フッ、傭兵崩れの野盗の言い分など聞く耳持たぬわ」

 鞘走る音を立てて剣を抜き放ち、剣先をリキオーたちに向けた。
 一気に緊張感が走る。
 ハヤテは全身の毛を立てて臨戦態勢になり、アネッテはいつでも呪文を唱えられるように両手で杖を構える。
 そこへ、少年騎士が駆け寄ってひざまずいた。

「ヘルムート様ッ、お待ちください! その者の言う通り、森のなかに野盗の死骸しがいがありました。ヘレナお嬢様は眠っておられるようですが、ご無事です。さらにお嬢様とメイドのオリアナには丁寧に手当てされた形跡がございました」

 ヘルムートと呼ばれた騎士は一瞬つまらなそうな顔をしながらも、キッと表情を引き締め、少年騎士に向かって言い放つ。

「むっ、そうか……。ギュンター、あとは任せた。私は領主様にヘレナ様の無事をいち早くお伝えしてくる」
「はっ」

 ヘルムートは剣を収め、リキオーを睨んだまま再び馬を走らせていった。
 ヘルムートの後ろ姿が見えなくなると、少年騎士はリキオーたちに向き直り、近づいて頭を下げた。

「私どもの団長が失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません。私は守護騎士団に所属するギュンターと申します。このたびはお嬢様とメイドをお助けいただきありがとうございました」

 そう言って感謝の気持ちを伝えるギュンター。リキオーはすでに死んでいたメイドのことを思い出し、すまなそうな顔をして返答する。

「いや、メイドのもう一人のほうは残念だった。俺たちが来たときには、もう息を引き取っていたんでね」

 別の少年騎士たちは、連れてきた馬を馬車につなげていた。どうやらそのまま引っ張っていくらしい。息を引き取ったもう一人のメイドの遺体も丁寧に馬車に乗せている。
 そんな様子に目をやりながら、ギュンターが口を開く。

「彼女は残念でしたが、お嬢様が無事だったのは何よりの幸いでございました。私どもはこのまま馬車を引いてイストバルに戻ります。あらためてお礼などさせていただきます。重ねて申し上げますが、団長の無礼をどうかお許しください」
「ああ、わかった。こちらはゆっくりと歩いてイストバルに向かう。もし、俺たちに用があるときはイストバルの冒険者ギルドに声をかけといてくれ」
「わかりました。それでは失礼いたします」

 ギュンターは終始丁寧な口調と態度で、リキオーたちに接していた。そして深々と礼をすると、馬車を走らせてその場を去っていった。




  3 新居にて


「あわただしく行っちゃいましたね」

 アネッテが急に脱力したように声を漏らした。

「ああ、でもなんとか助かってよかったな」
「はい」

 そう返事をしながらアネッテは嬉しそうにしている。自分の魔法で人を救えたことにちょっと興奮しているらしい。アネッテにとってそれは純粋な喜びと言えた。
 移動を再開してしばらくすると、大きな壁に囲まれた都市イストバルが見えてきた。同じ壁でも、ユシュト村のそれと比べると規模が違う。ユシュトでは、簡易な結界の上に適当な木の柱を立てた壁であったが、こちらは堅牢な石造りの壁となっている。
 衛兵のいる門に冒険者の腕輪を示してなかに入れてもらう。その際、パーティ単位で銀貨五枚を要求されたが、あとで返してくれるらしい。
 門を抜けるとすぐ目の前には広場があり、大きな厩舎きゅうしゃがあった。そこからたくさんの馬のいななきが聞こえてくる。
 街を歩いていると視線を感じた。狼のハヤテを連れている上に、エルフがいるのだから目立って当然だろう。
 ともかく商業ギルドを目指すことにした。ユシュト村に比べると道幅も広く歩きやすい。
 やがてたどり着いた商業ギルドの建物は、ユシュトのそれと比べると約三倍の大きさはあった。ウェスタン風の出入口は同じだが、受付カウンターが五つもある。
 どの受付に行ったらよいかわからないので、多くの人が並んでる列の後ろに立つ。アネッテたちは空いてる椅子に座らせておいた。
 順番がくる。カウンターのなかには、日本の着物のような衣装をまとった美しい女性が座っていた。

「はい、次の方。どんなご用でしょう」
「支部長に取り次いで欲しいんだが。俺はユシュトから来た冒険者のリキオーだ」

 リキオーが支部長と言ったので、急にあわて出す受付嬢。

「え、はっ、はい。あの、今、案内の者を付けますので、そちらの長椅子でお待ちいただけますか」
「わかった。ありがとう」

 リキオーがアネッテたちの待っているところへ戻ってくると、ちょっとした人だかりができていた。アネッテは少女たちに囲まれており、ハヤテは小さな子どもたちにもふもふされていたからである。
 アネッテとハヤテを連れて長椅子へと移動すると、すでに案内の女性が来ていた。
 イストバルの商業ギルドの女性の衣装は、下は短めのスカートになっているらしい。スカートのサイドにはスリットが入っているが、切り込みが浅いのでパンチラは期待できそうにない。ちなみに足元はブーツである。

「ようこそ、イストバル商業ギルドへ。リキオー様とお連れの方、どうぞこちらへ。私は受付と案内をしております、トーヴェと申します」
「俺はリキオーです。こっちアネッテとハヤテ。この狼も一緒でいい?」
「はい、ハヤテ様もご一緒にどうぞ」
「わう」

 支部長の部屋まで案内してくれるというトーヴェに付いていくリキオーたち。二階の奥に六つある扉の一つを開け、なかに入った。
 そこにはコの字型の机があり、フード付きのローブを着た丸顔の野暮やぼったい雰囲気の男がいた。しかし目つきは鋭い。

「どうぞ入ってください。支部長、あとはお願いします」
「ああ、お疲れ、トーヴェ。どうぞリキオー様、お座りください。私、このイストバル商業ギルドで支部長をしておりますスチェパーンと申します」

 トーヴェが去ってしまうと、リキオーたちは窓際のスチェパーンと対面する位置の椅子に座った。

「リキオーです。ユシュトではラースさんにお世話になりました。こちらはアネッテ、そしてハヤテ。銀狼団のパーティメンバーです」
「これは、ご丁寧にありがとうございます。ラース殿からお話は伺っています。リキオー様のお屋敷はフェル湖の湖畔にございます。今、案内を呼びますので、お屋敷のことでご用がある場合にはその者にお申し付けください」
「わざわざ、ありがとうございます」
「いえいえ、ラース殿からもよく言われておりますので。リキオー様には便宜を図るようにと。少々お待ちください」

 スチェパーンは机の上に乗っていた銀色の鈴を鳴らした。チリーンと涼し気な音が響くと、ノックの音がしてローブ姿の男の人が入ってきた。

「リキオー様、こちらはうちの支部のライナーです。ライナー、リキオー様のお屋敷の案内を頼むよ」
「わかりました。すぐ向かいますか?」
「はい、お願いします」
「それでは、また何かございましたらおいでください。そのときは並ばずに、階段に近い窓口に声をおかけください」

 リキオーたちはライナーに付いて商業ギルドを出た。

「少し歩きますがよろしいでしょうか。お疲れではないですか」
「平気です。冒険者は体が資本ですしね。しかし、イストバルは大きい村ですね」
「ええ、やはり領主様のお力が大きいかと。村の発展のためにいろいろな施策を行っておられます。おかげで私どもも忙しくさせていただいているわけですが」

 商業ギルドを出るとメインストリートを下り、広場まで出た。そして住宅街に向けて歩き出す。

「私たちの家になるところですけど、お風呂ってまだないんですよね?」
「申し訳ありません。リキオー様のお考えになった風呂ですが、今のところ大きなお屋敷から造っているところでして、まだ間に合っておりません」
「ああ、いいですよ。今度の家は広いというので敷地を見せてもらってから、大工さんと話します」
「はい、大工はこちらから手配しておきますので。この通りを過ぎると住宅街の通りになります。リキオー様のお屋敷はこの通りの奥のほうになります」

 イストバルの通りはきれいに整備されていた。大きな通りの両サイドには植樹さえされている。
 この世界の一般的な家は石造りが基本だ。ブロックを積み上げ、壁には漆喰しっくいを塗って仕上げている。だから村全体が白っぽく見える。
 村の中央の家にはへいなどないが、奥に行くに従って塀に囲まれた大きな家が増えてくる。

「あ、見えてきましたね。あそこの道を奥に入っているところです」
「あれですか……塀が高い」
「はい、前に住んでいた方がさる商家の大店おおだなの奥様で、隠れ家的な使い方をしていたらしいと伺っております」
「ほう。まあ、秘密でなにかやるには向いてるかな」

 他の家に比べてみても明らかに塀が高く、なかを見せない造りになっている。壁が開けているのは湖の方だけだ。敷地のなかを覗き込むなら、湖に船を浮かべないと無理だろう。
 しかし、この世界の湖には水棲モンスターがいるから、船に乗ろうとすれば食われるだけかもしれない。そんなことを考えていたら、家の入り口に到着した。
 ライナーが鍵をリキオーに手渡しながら告げる。

「着きましたね、リキオー様、こちら結界解除の鍵になります。なかを見ていきましょう」
「ええ、屋内を見ながら、ついでに家具の注文とかもしていいですかね」
「はい、なんなりとお申し付けください」

 リキオーの提案にライナーは柔らかい物腰で頷いた。
 家の敷地のなかに入ると、ハヤテは嬉しそうに吠えながら走りはじめる。庭を目にしたリキオーとアネッテは感嘆の声を上げた。

「おおお、広いね」
「広いですね~」

 アネッテもハヤテのようにワクワクを隠し切れないらしい。玄関からリビングに続く通路を歩きながら、その途中にある厨房などを楽しそうに見ている。
 玄関だけで前の家のメインフロアぐらいありそうだ。
 広いリビングとそこに直結したダイニングからは、湖の素晴らしい眺望が楽しめる。湖に面したウッドデッキの先には船着場があるらしい。
 リキオーがライナーに尋ねる。

「あれ、湖からモンスターは上がってこないの?」
「フェル湖にはブルードラゴン様がいらっしゃいますから、水系のモンスターは皆、おとなしいのでございますよ」
「ほえ~、ここ竜がいたのか~。一度ご挨拶に伺わないとな」
「水竜神殿へは広場から乗合馬車が出ておりますので、そちらをご利用ください」

 ちなみに、この世界には超上位種として真竜種が存在している。
 確認されているのはブルー、レッド、グリーン、ブラック、ゴールドの五種。二種はこのモンド大陸におり、このフェル湖にいるブルードラゴンはそのうちのひとつだ。対話が可能で気性の優しいドラゴンとしてあがたてまつられている。
 仮に、真竜種を倒そうとした場合、巨体な上にめっぽう強いので、カンストしたフルレイドパーティでも討伐できるか怪しい。
 すべての部屋をひと通り見終えると、リキオーは広いベッド、寝具、机、ソファーセットなどなど、結構な量の家具をライナーにお願いすることになった。
 リキオーの注文を受けて、ライナーはホクホク顔でお辞儀をして去っていった。


 ハヤテは桟橋さんばしの先端で湖を眺めている。散々走り回って、もう新しい屋敷を探険し尽くしてしまったらしい。
 ウッドデッキでは、アネッテが直立したまま湖のほうを見つめていた。
 その隣に並んで立つリキオー。彼女の見ている風景を一緒に眺めながら、彼女を抱き寄せる。
 アネッテがそっとつぶやく。

「マスター、私、幸せです」
「ああ、俺もだよ」

 リキオーがそう答えると、アネッテは彼に全身を預けた。敬愛する主人と共に過ごす幸福を噛み締めるアネッテであった。




  4 濡れぎぬ


 一応、新居は用意できたが、まだ寝具等そろっていないので、リキオーたちは村の宿に宿泊することにした。泊まる部屋は奮発してスイートルームである。
 同じ宿屋の貴賓室には、ランクSパーティ、ガルム武闘団がいた。鎧を脱ぎ、ラフな格好でそれぞれくつろいでいる。

「獲物を見つけたんですね?」

 賢者のタルコットが、ふんぞり返って天井をぼんやりと見ているガルム武闘団のリーダー、剣士のアルブレヒトに問いかけた。
 アルブレヒトは賢者のほうを見ない。彼は通りですれ違っただけのリキオーがただ者ではないことを見抜いたらしい。餌を前にした狼のように獰猛どうもうそうな笑みを浮かべていた。


 一方その頃、同じ宿のスイートルームでは、リキオーがアネッテに後ろから抱きついてスキンシップを楽しんでいた。
 アネッテはポゥッと頬を火照ほてらせて彼に身を任せている。

「アネッテ。可愛いよ」
「マスター……」

 リキオーからそう言われて、アネッテは顔を赤らめてしまう。リキオーが唇を寄せて接吻せっぷんすると、ハァと熱いため息を漏らした。そうしてウットリと彼の腕に包まれている。
 ハヤテは我関せずといった感じで、フワァァとあくびをしてはゴロゴロしていた。


 翌日、宿屋の部屋を引き払い、新居に移動する。
 どうやら昨日注文しておいた家具はすでに運び込まれているらしい。それを確認すると、リキオーたちは食品の買い物ついでに、鍛冶屋と大工の職人たちの挨拶回りをすることにした。
 ちなみに、新居に新たに造ろうとしている風呂は、ウッドデッキを改造した露天風呂にするつもりだ。新居は周りを高い塀で囲まれているが、湖方面は開けているので開放感もバッチリなのだ。とはいえ、本格的な風呂を造るのには日数がかかるので、当座は庭に土魔法で穴を空けて簡易の風呂で済ますことになっている。
 なお、屋敷の一部を改造することは、すでに商業ギルドに許可を取ってある。ユシュト村で最初の屋敷を借りたときに、勝手に厩舎を改造して怒られてしまったのは今となってはいい思い出だ。


 さっそく市場にやってきたリキオーたち。
 ユシュトのゴチャゴチャとした市場とは違い、整然としていて商品も豊富だ。この世界では手に入らないとあきらめかけていた珍しい調味料まで手に入れることができた。
 とくに嬉しかったのは、魚から作る魚醤ぎょしょうがあったこと。大豆から作る醤油しょうゆではなかったのだが、それに近い味なので、日本人として懐かしい気分になった。
 アネッテは魚醤を見たことがなかったらしく、困惑顔で尋ねてきた。

「マスター、これってどう使うんですか」
「味付けをする調味料さ。それに肉を焼くときに下味としてこれに漬け込んでおくと、肉が硬くならないんだよ。今度試してみてよ」
「はい」

 初めて見る調味料に興味津々のアネッテは、それらを眺めながら楽しそうにしている。
 ちなみに商業ギルドを通すと、ここで購入したものは配達もしてくれるという。なんとも嬉しいサービスだ。


 市場の次は、大工たちの集まる作業場を訪れた。
 木の香りがほのかに漂い、下働きが大勢いて活気がある。
 リキオーはおとないを告げて、さっそく彼の家の風呂について相談を持ちかけた。リキオーが風呂の考案者だということを明かしたところ、優先して仕事をしてくれることになった。
 次いで訪れた鍛冶場では、新しモノ好きの若者を紹介してもらった。
 それというのも、リキオーはこの世界の馬車の乗り心地を彼らと本格的に何とかしたいと思っていたので、路面からの衝撃や振動が伝わるのを防ぐサスペンションの改良を彼らと進めることにしたのだ。
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