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第3章 銀髪の兄弟と国を揺るがす大戦
『98、鍵を握る少年』
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まるで夢の中のようなフワッとした感じが辺りを包んでいる。
景色は霧が出たように白がかっており、木が1本もないただの草原が広がっていた。
「ここはどこだ?確かエーリルとかいう人と会話して・・・」
「あれ?君は外の人格か?全く・・・あの家系はどうして秘密の領域に外側を・・・」
1人で回想していると、横から不満げな声が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、普段は鏡で見ている自分が直立不動で立っていた。
顔からは何の感情も感じ取れない。
「自分の意識と対話しろとか言ってたよな。もしかして君が僕の意識なの?」
「まあ、そうだね。君のような外側の人格からしたら、俺が深い意識ってことになる」
そう言って少し口角を吊り上げた自分に寒気が走る。
とても自分の顔とは思えないほどの打算に満ちた笑顔に狂気すら感じたのだ。
「それで・・・僕が目を覚ますにはどうすればいいんだ?」
「へえ・・・自分が眠っている状態だってことは自覚しているんだな。実に面白い」
どうして分かったのかと聞かれたら、答えに窮するだろう。
一種の直感のようなものだ。
詳しく説明すると、夢の世界みたいな感覚がするから、ということになるだろうか。
「そうだねぇ・・・俺と戦って勝てたらかな?言っておくけど君には迷いと困惑があるんだ」
「何を言っているのか分からないが・・・僕はやるからには勝つ!」
腰に差していた剣を引き抜いて構えると、さっき彼が言ったことが何となく分かった。
僕には迷いがある。
お爺様の命を奪った奴に復讐するという目標を達成し、これからどうしていくのか。
同様に困惑もあった。
僕とクソ兄も勝てず、リック家では無敵だったお爺様を倒してしまった相手だぞ?
僕の剣で簡単に倒れてしまったのに違和感を感じる。
剣の腕が上達したのだと言われてしまえばそれまでだが、なぜか腑に落ちない。
この気持ちは何なのだろうか。
「随分と物思いにふけっているみたいだね。そんなんで俺を倒せるとでも?」
「早いっ!?水遁ノ参、流波剣」
慌てて防御特化の技を使って相手の剣を受け止めたが、完全には流しきれなかった。
肩に傷が作られたため、一旦距離を取って態勢を整える。
「何だあの剣・・・こっちは技まで使ったのに技なしの剣に吹き飛ばされただと?」
「君の剣には迷いがある。俺はいわば君の完成形だから、今の君では勝てない」
言うが早いか、彼が再び突進してくる。
今度は刀身が黄色く光っているから、恐らく技を使っていると思われる。
冗談じゃない。技なしであの威力だったのだから、技ありなんか受けたら一瞬で・・・死ぬ。
ほとんど本能のようなものに従って体を投げ出す。
さっきまで立っていたところを薔薇のような光が包み込み、火魔法のように弾けた。
「魔剣士の戦術・・・三ノ型の白薔薇と火魔法のフレイム・バーンか」
「正解。君の友人の王子はこの技が好きみたいだからね。使ってみたかったんだ」
「そうか。そんなに余裕があるのか。――だったら死ね!五ノ水遁、波瑠の舞・瑪瑙型」
これは僕が生み出した新しい技だ。
グラッザド王国で一般的に使われている奥義型という型と、お爺様が教えていた東峰型という型を合わせた技だ。
奥義型は魔法の通りが抜群で、魔剣士は必ずこの型を使うと言われるほど相性が良い。
一方、東峰型は剣の力を開放する技という言い方が出来るだろう。
つまり、水の力を持つ剣に水魔法をかけあわせれば強くなるのでは?と思ったのだ。
今回、使ったのは奥義型の五ノ型、波留の舞という技と東峰型の瑪瑙切りという技である。
波が四方八方から襲い掛かって来るという大技だし、生き残ってはいまい。
そして波が引ききった後、僕の目に映ったのは無傷で立っている相手の姿だった。
傷1つ負っている様子はない。
「どういうことだ?僕の大技が効かないなんて・・・そんな馬鹿なことがあるか!」
「だから君には迷いと困惑があるんだって。君に負の感情がある限り、俺は負けられない」
その言い方はどこか自嘲めいていて、思わず聞き返す。
今まで自信満々だった相手の行動にしては不自然過ぎて、印象に残ったのだ。
「負けられない?もしかして負けることが出来ないのか?」
「そういうことだ。だから早いとこ負の感情を失くさないと、いつまでも眠っていることに・・・」
おいおい、笑顔で怖いことを言うなよ。
とても顔が同じとは思えないな、などと考えながら剣を見つめる。
お爺様には未熟だと言われ続けてきた僕の目から見ても、まだこの剣は眠っているのだ。
すなわち、本来の力を発揮していない。
見ていたら思い出したが、この剣はお爺様から6歳の誕生日にもらった剣なのか。
それなら凄い力が眠っているかも。
でも、力を開放するには負の感情を取り除かなければいけないわけで・・・。
「どうすればいいんだろう。このままじゃ確かに勝てないよね」
「そうだね。勝負は一旦中断して、俺も協力してあげるよ。俺は1人の時間が好きなんだ」
要するに、エーリルなる人物の力でここに来てしまったが、もとは彼の場所なんだろう。
部屋に期限なしで誰かが入ってきた感じだし、早く帰って欲しいというのも頷ける。
「ありがとう。それで君の名前は?僕と同じだから呼び方に困るんだよ」
「俺の名前はリックラントだ。そう呼んでくれると嬉しい」
まるで家名のような名前に首を傾げかけて、慌てて直立不動の姿勢に戻る。
人の名前に疑問を持つのはさすがに失礼だ。
「分かった。リックラント、まず最初に聞かせてほしいんだけど、ナッチは死んだのか?」
「ああ、死んださ。君の剣に貫かれてね」
やっぱりそうなのか。ずっと感じている違和感の正体が分からなくて気持ち悪い。
困惑の感情を消すのは後回しにするか。
「迷いか・・・。僕は魔剣士になりたいっていう夢があったから、それを目指そうかな・・・」
「でも家があるし、わがままを言っていいのかどうか分からないんだろ?」
リックラントに本音がバレてるじゃん、などと思ったが、彼は僕の意識の中枢だったね。
分かってて当然だったわ。
「そうだね。僕が夢を優先すればリック家は滅びてしまうかもしれない」
「大丈夫じゃないかな。分家もいっぱいあるし、わがままを言っても何とかなるでしょ」
棒読みで言われた言葉に突っかかりを感じた。
すっかり忘れてしまった重要なことを思い出させてくれる薬のような・・・。
「あっ!そういえば・・・」
僕は過去のことを思い出して、剣を強く握りしめる。
クソ兄が出て行ってから、僕は魔剣士になりたいという夢を公言しなくなった。
親に迷惑をかけたくないという思いと、家を継がなければならないという使命感からだ。
そんな折、お母さんが声をかけてくれた。
「ボーラン、あなたは今でも魔剣士だっけ?になりたいと思っているの?」
「いや・・・今は家を継がなきゃ」
「あなたはお父さんと同じで顔に出やすいわね。今でも剣が好きって顔に出ているわよ」
お母さんに言われて、少しドキッとした。
この夢は・・・くだらない夢は、クソ兄が出て行ってから完璧に封印したはずなのに。
心の底では燻り続けていたのか。
「お母さんは何があってもあなたの味方よ。私はあなたが進みたい道に進んで欲しいの」
「えっ・・・そうしたらこの家はどうなるの?」
幼いながらに危機感を感じていたゆえの質問だったが、お母さんは笑うだけだった。
無理をしていることを息子に悟られまいと考えての、作られた笑顔。
「お母さんが頑張るから大丈夫よ。もし本当に危なくなったら分家から養子でも取るわ」
「そうなの?分かった。僕は魔剣士になる!」
お母さんの言葉に隠された意味は、5歳だった僕には読み取れなかった。
この会話のわずか14日後、お母さんは亡くなった。
クソ兄の分の仕事もしていたからだろう。原因は仕事のし過ぎだと医師からは伝えられた。
お母さんの葬儀にも----あのクソ兄が姿を見せることはなかった。
この時、僕の中で何かが目覚めた。
亡くなったお母さんの次に信頼していたお爺様にも伝えられなかった、ドロドロとした感情。
そう、僕はクソ兄への復讐を決意していたのだ。
景色は霧が出たように白がかっており、木が1本もないただの草原が広がっていた。
「ここはどこだ?確かエーリルとかいう人と会話して・・・」
「あれ?君は外の人格か?全く・・・あの家系はどうして秘密の領域に外側を・・・」
1人で回想していると、横から不満げな声が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、普段は鏡で見ている自分が直立不動で立っていた。
顔からは何の感情も感じ取れない。
「自分の意識と対話しろとか言ってたよな。もしかして君が僕の意識なの?」
「まあ、そうだね。君のような外側の人格からしたら、俺が深い意識ってことになる」
そう言って少し口角を吊り上げた自分に寒気が走る。
とても自分の顔とは思えないほどの打算に満ちた笑顔に狂気すら感じたのだ。
「それで・・・僕が目を覚ますにはどうすればいいんだ?」
「へえ・・・自分が眠っている状態だってことは自覚しているんだな。実に面白い」
どうして分かったのかと聞かれたら、答えに窮するだろう。
一種の直感のようなものだ。
詳しく説明すると、夢の世界みたいな感覚がするから、ということになるだろうか。
「そうだねぇ・・・俺と戦って勝てたらかな?言っておくけど君には迷いと困惑があるんだ」
「何を言っているのか分からないが・・・僕はやるからには勝つ!」
腰に差していた剣を引き抜いて構えると、さっき彼が言ったことが何となく分かった。
僕には迷いがある。
お爺様の命を奪った奴に復讐するという目標を達成し、これからどうしていくのか。
同様に困惑もあった。
僕とクソ兄も勝てず、リック家では無敵だったお爺様を倒してしまった相手だぞ?
僕の剣で簡単に倒れてしまったのに違和感を感じる。
剣の腕が上達したのだと言われてしまえばそれまでだが、なぜか腑に落ちない。
この気持ちは何なのだろうか。
「随分と物思いにふけっているみたいだね。そんなんで俺を倒せるとでも?」
「早いっ!?水遁ノ参、流波剣」
慌てて防御特化の技を使って相手の剣を受け止めたが、完全には流しきれなかった。
肩に傷が作られたため、一旦距離を取って態勢を整える。
「何だあの剣・・・こっちは技まで使ったのに技なしの剣に吹き飛ばされただと?」
「君の剣には迷いがある。俺はいわば君の完成形だから、今の君では勝てない」
言うが早いか、彼が再び突進してくる。
今度は刀身が黄色く光っているから、恐らく技を使っていると思われる。
冗談じゃない。技なしであの威力だったのだから、技ありなんか受けたら一瞬で・・・死ぬ。
ほとんど本能のようなものに従って体を投げ出す。
さっきまで立っていたところを薔薇のような光が包み込み、火魔法のように弾けた。
「魔剣士の戦術・・・三ノ型の白薔薇と火魔法のフレイム・バーンか」
「正解。君の友人の王子はこの技が好きみたいだからね。使ってみたかったんだ」
「そうか。そんなに余裕があるのか。――だったら死ね!五ノ水遁、波瑠の舞・瑪瑙型」
これは僕が生み出した新しい技だ。
グラッザド王国で一般的に使われている奥義型という型と、お爺様が教えていた東峰型という型を合わせた技だ。
奥義型は魔法の通りが抜群で、魔剣士は必ずこの型を使うと言われるほど相性が良い。
一方、東峰型は剣の力を開放する技という言い方が出来るだろう。
つまり、水の力を持つ剣に水魔法をかけあわせれば強くなるのでは?と思ったのだ。
今回、使ったのは奥義型の五ノ型、波留の舞という技と東峰型の瑪瑙切りという技である。
波が四方八方から襲い掛かって来るという大技だし、生き残ってはいまい。
そして波が引ききった後、僕の目に映ったのは無傷で立っている相手の姿だった。
傷1つ負っている様子はない。
「どういうことだ?僕の大技が効かないなんて・・・そんな馬鹿なことがあるか!」
「だから君には迷いと困惑があるんだって。君に負の感情がある限り、俺は負けられない」
その言い方はどこか自嘲めいていて、思わず聞き返す。
今まで自信満々だった相手の行動にしては不自然過ぎて、印象に残ったのだ。
「負けられない?もしかして負けることが出来ないのか?」
「そういうことだ。だから早いとこ負の感情を失くさないと、いつまでも眠っていることに・・・」
おいおい、笑顔で怖いことを言うなよ。
とても顔が同じとは思えないな、などと考えながら剣を見つめる。
お爺様には未熟だと言われ続けてきた僕の目から見ても、まだこの剣は眠っているのだ。
すなわち、本来の力を発揮していない。
見ていたら思い出したが、この剣はお爺様から6歳の誕生日にもらった剣なのか。
それなら凄い力が眠っているかも。
でも、力を開放するには負の感情を取り除かなければいけないわけで・・・。
「どうすればいいんだろう。このままじゃ確かに勝てないよね」
「そうだね。勝負は一旦中断して、俺も協力してあげるよ。俺は1人の時間が好きなんだ」
要するに、エーリルなる人物の力でここに来てしまったが、もとは彼の場所なんだろう。
部屋に期限なしで誰かが入ってきた感じだし、早く帰って欲しいというのも頷ける。
「ありがとう。それで君の名前は?僕と同じだから呼び方に困るんだよ」
「俺の名前はリックラントだ。そう呼んでくれると嬉しい」
まるで家名のような名前に首を傾げかけて、慌てて直立不動の姿勢に戻る。
人の名前に疑問を持つのはさすがに失礼だ。
「分かった。リックラント、まず最初に聞かせてほしいんだけど、ナッチは死んだのか?」
「ああ、死んださ。君の剣に貫かれてね」
やっぱりそうなのか。ずっと感じている違和感の正体が分からなくて気持ち悪い。
困惑の感情を消すのは後回しにするか。
「迷いか・・・。僕は魔剣士になりたいっていう夢があったから、それを目指そうかな・・・」
「でも家があるし、わがままを言っていいのかどうか分からないんだろ?」
リックラントに本音がバレてるじゃん、などと思ったが、彼は僕の意識の中枢だったね。
分かってて当然だったわ。
「そうだね。僕が夢を優先すればリック家は滅びてしまうかもしれない」
「大丈夫じゃないかな。分家もいっぱいあるし、わがままを言っても何とかなるでしょ」
棒読みで言われた言葉に突っかかりを感じた。
すっかり忘れてしまった重要なことを思い出させてくれる薬のような・・・。
「あっ!そういえば・・・」
僕は過去のことを思い出して、剣を強く握りしめる。
クソ兄が出て行ってから、僕は魔剣士になりたいという夢を公言しなくなった。
親に迷惑をかけたくないという思いと、家を継がなければならないという使命感からだ。
そんな折、お母さんが声をかけてくれた。
「ボーラン、あなたは今でも魔剣士だっけ?になりたいと思っているの?」
「いや・・・今は家を継がなきゃ」
「あなたはお父さんと同じで顔に出やすいわね。今でも剣が好きって顔に出ているわよ」
お母さんに言われて、少しドキッとした。
この夢は・・・くだらない夢は、クソ兄が出て行ってから完璧に封印したはずなのに。
心の底では燻り続けていたのか。
「お母さんは何があってもあなたの味方よ。私はあなたが進みたい道に進んで欲しいの」
「えっ・・・そうしたらこの家はどうなるの?」
幼いながらに危機感を感じていたゆえの質問だったが、お母さんは笑うだけだった。
無理をしていることを息子に悟られまいと考えての、作られた笑顔。
「お母さんが頑張るから大丈夫よ。もし本当に危なくなったら分家から養子でも取るわ」
「そうなの?分かった。僕は魔剣士になる!」
お母さんの言葉に隠された意味は、5歳だった僕には読み取れなかった。
この会話のわずか14日後、お母さんは亡くなった。
クソ兄の分の仕事もしていたからだろう。原因は仕事のし過ぎだと医師からは伝えられた。
お母さんの葬儀にも----あのクソ兄が姿を見せることはなかった。
この時、僕の中で何かが目覚めた。
亡くなったお母さんの次に信頼していたお爺様にも伝えられなかった、ドロドロとした感情。
そう、僕はクソ兄への復讐を決意していたのだ。
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