転生王子の奮闘記

銀雪

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第2章  魔法と領地巡りの儀式

『33、引っ越し』

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模擬戦を終えた次の日。
部屋を見学させてもらえることになった俺は、廊下を歩いていた。

ここは今までいた階より3階分上にある。
その為か、窓からギルドやフタンズさんのお店がわずかながら見えていた。

「ここが第1候補だな。部屋は2つ。居間と寝室が付いている」
その部屋は今までの部屋の2倍くらいの広さがある。

居間にはソファーとテーブルが置かれ、黄色の絨毯が敷かれていた。
寝室は机とベッドが置かれていたが、ベッドの大きさも今までの2倍ほど。
俺が寝るには大きすぎる気がしなくもない。

窓からはバザール地区が見えており、今日も活気づいているのが分かる。
なかなかいい部屋だが、本棚が無いのはなぁ・・・。
今までの部屋も本棚が増えた事により、かなり手狭になっている。
カルスやフェブアーにも手伝ってもらって、組み立てたのは良い思い出だ。
点数は80点。本棚を置けるスペースが少ないのが理由である。

第2候補は、第1候補の部屋から4部屋先にあった。
部屋数はなんと5つで、居間、書斎、寝室、洋室が2つという割り振り。

居間は暖炉が付いており、暖を取るのには苦労しないだろう。
もちろん魔導具は完備されており、こちらでも温度を調整できる。

書斎がメチャクチャ広い。本棚は今までの5倍くらいの数があり、机も大きい。
床には橙色の絨毯が敷かれていた。

その後、色々見た総評は、とにかく広すぎる。今までの部屋の5倍はあるぞ。
点数は40点。1人でいるには寂しすぎるわ。

最後の候補となる第3候補は今までよりもさらに1階分上にあった。
部屋の数は3つで、それぞれ居間、書斎、寝室となる。
この部屋の居間は落ち着いた雰囲気があった。

大きなソファーとテーブル、少し離れて収納があり、広さもそこそこ。
何よりソファーの質がほかの部屋と比べて断然良い。
お尻を乗せると程よく衝撃を吸収して沈むソファーは快適なことこの上なく、つい堪能しすぎてしまった。

書斎は窓際に机が1つと、本棚が3つある。
第2候補の書斎の方が広いが、俺はこのくらいの大きさの方が落ち着くなぁ。
新緑のような緑色の絨毯も高ポイント。俺は緑色が好きなんだよね。

寝室にはベッドと洗面所が付いている。
起きたら、寝室から出ずに寝癖を整えられるからこれは良い。
今までの部屋には何で付いていなかったんだろう?
点数は文句なしの100点。これはここに決定でしょ。

「父上、どこが良いか決まりました」
「それは良かった。じゃあここに執事たちを呼ぼうじゃないか」
「そうですね・・・ってどうしてここだと?」
俺はここが良いなんて一言も口に出していないぞ?エスパーか?

「リレンの顔を見れば分かる。この部屋を見ている間、他の部屋とは比べ物にならないくらい目を輝かせていたぞ。特に洗面所のあたりで」

グッ・・・。確かに洗面所は良いと思ったけども、見破られているのは悔しい。
前世でも、仲が良かった子に本心を隠していると、いつも見破られてたっけ。
未だにあのカラクリが分からないんだよね。俺ってばそんなに分かりやすいのかな?

「ラジェン、執事たちを呼んできてくれ。ここをリレンの部屋にする」
「かしこまりました。カルスさんもお呼びしますか?」
「そうだな。頼む」

ラジェンさんは、父上付きの執事だ。もちろん父上と主従契約をしている。
絵が上手で、放浪画家、ハイドという名を王都で知らぬものは無い。
普段は執事として働き、時たまフラッと王都に現れ絵を書き、またフラッと立ち去っていくことから、放浪画家の名が付いたという。
彼が執事たちを呼びに行ってから数分で、カルスを筆頭とした執事集団が現れた。

「国王様、お呼びでしょうか?」
「今日より、ここをリレンの部屋とする。引っ越しを手伝ってやれ」
「はい!」
執事集団が声を揃えた。まるで軍隊みたいだな。
そんなことを思っていると、カルスが問いかけてきた。

「リレン様、何をすればよろしいのでしょうか?」
「えっと・・・今から荷物を箱に詰めるから、箱の準備をしてほしいかな」
「箱を運ぶ者と、元の部屋を掃除する者もいた方がいいぞ」
言葉足らずな俺の指示に補足を入れる父上。

まだ人に指示することに慣れていないからか、指示がぶつ切りなんだよね。
先を見通して細かく指示するようにした方がいいのかも。

その後は、ひたすら部屋の掃除と整理を行った。
幸いにも、俺は割と几帳面な方で、ちゃんと片付いていないと落ち着かないというタイプのため、そこまで苦にはならなかったが。

箱に詰められた荷物を執事さんたちと協力して新しい部屋まで運んだら、荷ほどき作業だ。
新しい部屋の配置を考え、そこに物を置いていく。
スピーディーに物事が進んだため、引っ越しは2刻ほどで終了した。

結果、俺の部屋は3部屋になり、両隣の部屋はカルスとフェブアーの自室になっている。
ふかふかのソファーに座った俺は、そばに控えていたカルスを見た。

「カルス、今日手伝ってくれた執事さんにお茶を淹れてあげて」
「分かりました。銘柄はいかがいたしますか?」
「うーん・・・。やっぱり4番かな。みんな気に入っているみたいだし」
銘柄は毒を混入されるのを防ぐため、番号でやりとりしている。
ちなみに4番というのは、アップルティー。
執事の大半がアップルティーを好んでいるため、この銘柄になるのだ。

「かしこまりました。あと、父上から資料を制作してくれと依頼が来ております」
「引っ越ししたばっかりなのに?父上もやるね・・・」
勘弁してくれよ。荷物を沢山運んだから、もうクタクタ。
幼児体形だからね。しょうがないしょうがない。

「ですね。依頼書は書斎の机の上に置いてあります」
「依頼書まで用意してあったの!?これはもう逃げられないじゃん」

報告を2人とも聞いていなかったことにして逃げようと思ってたのに!
まさか、俺がそうするということを見越して作ったのか?
――だとしたら凄いな。こちらの動きが完璧に読まれている。

カルスが執事たちにお茶を振舞っている間に、俺は書斎に籠もり、資料を作っていく。
簡単な資料だったのが不幸中の幸いか。そこはどうやら考慮してくれたようだ。
椅子の上で大きく伸びをして体をほぐしていると、机の汚れが目に入る。

羽ペンだと、どうしてもインクが零れちゃうんだよな・・・。
切実に鉛筆とかボールペンが欲しい。
俺は今までで一番、文房具を欲しがっただろう。まさか羽ペンがここまで不便だとは。
無い物はしょうがない。机でも拭くか。

そう思って立ち上がったところで、拭くものが無いことに気づいた。
「布巾が無い。カルスは執事室だし・・・他に誰かいたっけ」
独り言を呟きながらドアを開けると、目の前にフェブアーの姿があった。
その手には布巾が握られている。

「フェブアー、どうしてこれを?」
「私の独断です。モルネ様から資料の出来を尋ねられたので、制作を依頼されたのだと気づきました。ならば机のインクを拭く布が必要なのではと思いまして」
新しい部屋ですしねと付け加えるフェブアーから布巾を受け取り、そこに待たせる。
書斎からクッキーを1枚取り出し、笑顔と共に渡した。

「気づいてくれてありがとう。すっごい助かったよ」
「いえいえ・・・。このくらいのことは・・・」
そう言ってフェブアーは自室に引っ込んでしまったので、俺は布巾で机を拭く。
綺麗になったところでカルスが帰ってきて、一言呟いた。

「明日から私が起こしに来ることにいたします」
「え?待って待って。どういうこと?」
何でカルスが起こしに来ることになった?今まで寝坊したことあったっけ?

「専属執事のお仕事だと言われてしまいまして・・・」
「なるほど。だったら頼んだよ?」
俺はため息交じりにそう言ったのだった。
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