転生王子の奮闘記

銀雪

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第1章  王子の変化と王城を襲う陰謀

『10、応接間での会議』

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応接間に集まったのは、王家からは俺、アスネお姉さま、アリナお姉さま、母上、父上。
フォルス家からはラオン公爵、マリサ夫人、イグルくん。
その他にパーティーの最高責任者、ホブラック宰相が参加している。

口火を切ったのはアスネお姉さまだった。
「まず、フォルス家の皆さんを別館に泊める許可を頂きたいのですが」
「分かっている。許可しよう。今回の屋敷崩壊はこちらが原因だからな」
父上も二つ返事で許可し、まずは1つ解決。

次に発言したのはラオン公爵だった。
「あのクラスがパーティーに来たら・・・正直リレン王子の命は保証できませんね」
襲撃者の魔力はそれほどまでに異常だった。
あれほどの実力があれば、参加者全員を煙に巻くなど容易いことだろうな。
それを理解しているのか、ホブラック宰相の顔も硬い。

「魔力計測を行うという手もありますが・・・」
「例え魔力が多くても、そいつが襲撃者だという証拠がない。間違いなく不満が出るな」
「それに、初級魔法でも命を奪うことは可能ですわ。ハッキリ言って無駄でしょう」
父上やマリサさんも魔力計測には懸念を示しているらしい。

「やっぱり舞台上に1人で上がる機会を無くせばいいのでは?」
アリナお姉さまが最善といえそうな提案をしたが、ホブラック宰相が首を横に振った。
「さすがに主役が一度も参加者全員の目に触れないのはマズイですね」
「――というか、それじゃパーティーを開く意味がないんじゃない?」

イグルくんの意表を突いた援護射撃に、全員が口を噤んだ。
確かに、パーティーは貴族たちとの顔合わせのために行うもの。
全員と顔を合わせないのはパーティーの趣旨に反しているといえる。
だけど俺の命には代えられないだろ。挨拶で襲撃されたらどうするんだよ。
何か考えが傲慢な気がするが、命を狙われているので勘弁してもらおう。

「じゃあ、どうしたらいいの?僕に死ねと?」
わざと皮肉っぽく指摘すると、イグルくんは待ってましたとばかりに指を1本立てた。
「解は単純明快!1人にならなければいいんだよ!」
「矛盾しているね。舞台に上がって参加者全員の目に触れないといけないんじゃないの?」

俺とイグルくんの直接対決の様相を呈している応接間。
全員が固唾を飲んでこの攻防戦を見守る中、イグルくんが呆れたようにため息をついた。
俺のイライラ度がさらに上昇するが、必死で平静な表情を保つ。
「どこも矛盾していないんだよ、それが。ホブラック宰相、申し訳ないですがパーティーの目的を言ってくれませんか?」
「ああ、参加者全員と主役を引き合わせる事だ」
胸を張って答えるホブラック宰相。そこ胸を張るところじゃないですから。

「つまり、主役が1人だけで舞台に上がる必要はないってことですよ。例え脇に護衛がいたとしても、舞台に上がれば、主役の姿は参加者全員から見える。すなわちパーティーの目的は達成される!」
確かにそうだ。何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。
自信満々の言葉には、もはや反論の余地が無い。俺はガックリと項垂れる。
勝負あり。応接間攻防戦の勝者はイグルくん。

この提案は、みんなの意表を突くには十分すぎるくらいインパクトがあった。
俺とイグルくん以外の全員が、頬を紅潮させている。
「考えてみればそうだな。これでこの問題も解決だ・・・」
父上も驚き半分、嬉しさ半分といった感じで呟く。
「前例がないからな・・・。どうやってこんな案を思いついたのだ?」

ホブラック宰相が不思議そうに尋ねると、イグルくんは父上の方を向いた。
「以前、僕のお披露目パーティーに来てくださいましたよね?」
「ああ、伺わせていただいたが、それが何か?」
「そのパーティーで国王様が挨拶した時、舞台の上だったのにも関わらず1人ではありませんでした。横にホブラック宰相と騎士団長みたいな人が立っていましたよね?」

そりゃ、国王なんだからそうなんだろうけど。
それに、その3人は執務室ではセットみたいなもんだからな。
誰がが欠けるときは出張か欠勤かという感じで、大概の時間を3人で過ごしている。
今、騎士団長がいないのも出張が原因だ。

「そうだな。――ってまさか・・・」
「これですよ。国王様が挨拶をする理由も参加者全員の目に触れるためですから、今回と何ら変わりません。護衛対象が国王か王子かってぐらいしか違わないんじゃないんですか」
「なるほど。国王がそうなら王子もそうしていいのではないかと・・・」
マリサさんの補足に大きく頷くイグルくん。

聞いてる最中、ふとポケットに違和感を感じて漁ってみると、1枚の紙が出てきた。
お茶会で2人っきりになった時にイグルくんに渡された紙である。
ここは王城だし、読んでもいいか。
そう思って紙を開いて読んでいくうちに、俺の顔から血の気が引いていく。
途中まで読んだが書いてあることが凄惨過ぎた為、紙を閉じた。

「ちょっとリレン、顔色が悪いわよ。大丈夫?」
「具合が悪いのなら休んだ方がいいわよ」
母上とアスネお姉さまに心配され、ハッと我に返った。

「皆さん、今から極秘資料を見せます。決して声に出して読まず、会話を続けているふりをしながら黙読してくださいね」
小さい声でそう忠告してから、テーブルに件の紙を広げていく。

その紙の内容は、殺害計画書だった。
俺が舞台上に上がった時、矢で射貫いて殺害すると書かれている。
その他にも、目撃者への対処や事後処理の手順も書いてあったのだが、読んでいるうちに胸糞が悪くなったため途中で読むのを止めた。
みんなが殺害計画書に視線を走らせる。

俺は演技をスタートさせるべく、出来るだけ穏やかな声で話し出した。
「いえいえ、心配には及びません。ちょっと考え事をしていただけですよ」
「そうですか・・・。ここは蝋燭の光しかありませんもんな。顔色も悪く見えるというもんです」
ラオン公爵が顔を引きつらせながら言葉を絞り出した。

「ええ。思わず、体調が悪いのかと疑ってしまいましたわ」
アスネお姉さまが強く拳を握りしめながらも穏やかな声を出す。
そのギャップはただただ怖い。

残りの面々はただ顔を顰めたり、青ざめさせている。
読み終わった人は、ほぼ全員が椅子の背もたれに体を預けていた。
しばらく無言の時間が流れた後、父上が何とか声を絞り出す。

「イグルくん、あの紙に書かれていたことは本当かい?」
「本当ですよ。2日前にある人物の机の上に置いてあったんです」
「あの人っていうのは誰なの?うちの人たち?」

マリサさんの言葉を聞いた途端、イグルくんが顔を伏せた。
「詳しい情報は言えないんだ。そいつは隠しているけど闇魔法の使い手だから」
「チッ・・・禁句魔法と監視魔法か。どちらも中級魔法だが、2つならギリギリ扱い切れないこともないからな。破ったら恐らく・・・死だろう」
ホブラック宰相が憎々しげに吐き捨てた。全員の顔にも嫌悪の表情が浮かぶ。

禁句魔法は禁句が設定されており、対象者が禁句を話した瞬間、制裁が発動する。
監視魔法は盗聴器と発信機を合わせたもの。
対象者がどこで何を話したのかが相手に筒抜けになってしまう。
どちらも闇魔法の中では惨い魔法と言われている。

「聞き出そうとするのは止めた方がいいな。どこまでが禁句魔法の範囲か分からん」
「そうですね。イグル殿が死んでしまったらシャレになりませんよ」
アスネお姉さまが怒りに顔を染めていく。
7歳のイグルくんに闇魔法を掛けて服従させるなんて許せない!
そう言いたげな表情である。

誰もが諦めかけたその時、ジャネがドアをノックした。
「あの、カルス様が怪しい行動をした者を見たと報告が」
瞬間、全員が立ち上がり顔を綻ばせる。
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