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第二章 第三騎士団、始動
『第二十九話 素晴らしき寮』
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とりあえず階段の場所を聞くか。
今日は門の前で戦ったし、王城では模擬戦をやらされるしで非常に疲れた。
明日から訓練も始まるだろうし、早く休んでおきたい。
「あぁー……確かに書いてありました。それで階段はどこですかね……」
「確か、この先にある中庭を過ぎたところだな。美しい庭だと思ったからよーく覚えてるぜ」
「ありがとうございます」
みんなを手招きして進み、さっきの人に言われた美しい中庭に着いた。
そこでは、数人の騎士たちが木剣で素振りをしている。
言われてみれば美しい庭なのだろうが、夜の中庭というのはなかなか味気ないものだな。
俺はそう思いながら進み、階段を見つける。
「ここに階段があった。これだけ広いと道を覚えるだけでも大変だね……」
「ダイマスは大丈夫じゃない? あんなに広い王城の施設を完璧に覚えていたんだし」
イリナが軽い口調で言う。
俺も王城に来たときはダイマスに案内してもらっていたな。
「えっ……あんなに広い王城を!?」
「覚えるまで一年くらいかかったけどね。同じような風景が続く王城に比べれば簡単かも」
驚きの声を上げたアリアに苦笑したダイマスが階上に視線を向ける。
目が閉じかけているし、眠いのだろうか。
「早く部屋に向かいましょう。ダイマスさんがそろそろ寝てしまいそうです!」
「アリアの言う通りね。行きましょう」
必死に睡魔と戦うダイマスを微笑ましげに一瞥したイリナが階段を上り始める。
俺たちも続けて登っていくと、アリアが真剣な表情で階下を見下ろしているのに気づいた。
俺もこっそり覗き込むと、目線の先には素振りをしている男性騎士。
さっきの中庭での光景を上から見ている感じか。
「どうしたんだ? 随分と真剣な表情で見ているみたいだけど」
「私はこの中で一番弱いですし、あんな風に夜の練習をしたほうがいいんですかね?」
「明日にでもベネック団長に聞いてみれば? 無意味な練習なんてしたくないじゃん」
「確かにそうですね。ありがとうございます」
「まだ入ったばっかだからな。最初はたくさん質問してもいいボーナスタイムだ」
俺は冒険者時代には質問なんかしなかった。
だから中盤になっても分からないことだらけで、他の冒険者に嘲笑を受けたこともある。
その点、最初は分からなくて当然なのだ。
だったら遠慮なく、たくさん質問してルールや慣習などを完璧にしたほうがいい。
「明日にでも聞いてみますね。それよりも二階に着きますよ」
「おおっ、油断してた……。鍵に描かれている部屋番号は二〇一から二〇四だな」
この感覚は久しぶりだ。
常に気を張っている状態が長く続いた反動からか、最近は油断することが多い。
追放される直前はそのせいでドラゴンに殺されかけたっけ。
職場も変わったことだし、もう一度、気を締め直した方がよさそうだ。
寮の話に戻るが、番号からして端っこの部屋をまとめて当てられたのだろう。
それにしても……全員が隣同士なんだな。
「ティッセが二〇一、私が二〇二、ダイマスが二〇三、アリアが二〇四でいいかしら?」
「ああ。いいんじゃないか?」
「僕も異論はないね。どうやって決めたのかは気になるけど」
「男女で分けたんでしょ。二〇一と二〇二の並びは考えられてるかもしれないけど」
「ちょっと!?」
アリアの言葉にイリナが狼狽える。
あまりの慌てっぷりに噴き出す俺とアリアだったが、ダイマスは遠くを見て黄昏ていた。
その横顔が酷く寂しげで息が詰まる。
「ダイマス……どうしたんだ? メッチャ寂しそうな顔してたぞ?」
「何でもない。信じられないことに皇帝は過保護な性格で、いつもこの時間は寝てたから」
「だからボーっとしていたってこと?」
イリナが問うと、ダイマスは目を擦りながら首肯するように頷く。
まあ……今はそういうことにしておこう。
誰にも、話したくない過去の一つや二つくらいはあるはずだしな。
ここで詮索するのは良くない。
「それじゃ鍵を渡すわよ。自分の番号のものを受けとって!」
俺たちは目を合わせて頷きあうと、イリナがやけに明るい声を張り上げた。
今日は門の前で戦ったし、王城では模擬戦をやらされるしで非常に疲れた。
明日から訓練も始まるだろうし、早く休んでおきたい。
「あぁー……確かに書いてありました。それで階段はどこですかね……」
「確か、この先にある中庭を過ぎたところだな。美しい庭だと思ったからよーく覚えてるぜ」
「ありがとうございます」
みんなを手招きして進み、さっきの人に言われた美しい中庭に着いた。
そこでは、数人の騎士たちが木剣で素振りをしている。
言われてみれば美しい庭なのだろうが、夜の中庭というのはなかなか味気ないものだな。
俺はそう思いながら進み、階段を見つける。
「ここに階段があった。これだけ広いと道を覚えるだけでも大変だね……」
「ダイマスは大丈夫じゃない? あんなに広い王城の施設を完璧に覚えていたんだし」
イリナが軽い口調で言う。
俺も王城に来たときはダイマスに案内してもらっていたな。
「えっ……あんなに広い王城を!?」
「覚えるまで一年くらいかかったけどね。同じような風景が続く王城に比べれば簡単かも」
驚きの声を上げたアリアに苦笑したダイマスが階上に視線を向ける。
目が閉じかけているし、眠いのだろうか。
「早く部屋に向かいましょう。ダイマスさんがそろそろ寝てしまいそうです!」
「アリアの言う通りね。行きましょう」
必死に睡魔と戦うダイマスを微笑ましげに一瞥したイリナが階段を上り始める。
俺たちも続けて登っていくと、アリアが真剣な表情で階下を見下ろしているのに気づいた。
俺もこっそり覗き込むと、目線の先には素振りをしている男性騎士。
さっきの中庭での光景を上から見ている感じか。
「どうしたんだ? 随分と真剣な表情で見ているみたいだけど」
「私はこの中で一番弱いですし、あんな風に夜の練習をしたほうがいいんですかね?」
「明日にでもベネック団長に聞いてみれば? 無意味な練習なんてしたくないじゃん」
「確かにそうですね。ありがとうございます」
「まだ入ったばっかだからな。最初はたくさん質問してもいいボーナスタイムだ」
俺は冒険者時代には質問なんかしなかった。
だから中盤になっても分からないことだらけで、他の冒険者に嘲笑を受けたこともある。
その点、最初は分からなくて当然なのだ。
だったら遠慮なく、たくさん質問してルールや慣習などを完璧にしたほうがいい。
「明日にでも聞いてみますね。それよりも二階に着きますよ」
「おおっ、油断してた……。鍵に描かれている部屋番号は二〇一から二〇四だな」
この感覚は久しぶりだ。
常に気を張っている状態が長く続いた反動からか、最近は油断することが多い。
追放される直前はそのせいでドラゴンに殺されかけたっけ。
職場も変わったことだし、もう一度、気を締め直した方がよさそうだ。
寮の話に戻るが、番号からして端っこの部屋をまとめて当てられたのだろう。
それにしても……全員が隣同士なんだな。
「ティッセが二〇一、私が二〇二、ダイマスが二〇三、アリアが二〇四でいいかしら?」
「ああ。いいんじゃないか?」
「僕も異論はないね。どうやって決めたのかは気になるけど」
「男女で分けたんでしょ。二〇一と二〇二の並びは考えられてるかもしれないけど」
「ちょっと!?」
アリアの言葉にイリナが狼狽える。
あまりの慌てっぷりに噴き出す俺とアリアだったが、ダイマスは遠くを見て黄昏ていた。
その横顔が酷く寂しげで息が詰まる。
「ダイマス……どうしたんだ? メッチャ寂しそうな顔してたぞ?」
「何でもない。信じられないことに皇帝は過保護な性格で、いつもこの時間は寝てたから」
「だからボーっとしていたってこと?」
イリナが問うと、ダイマスは目を擦りながら首肯するように頷く。
まあ……今はそういうことにしておこう。
誰にも、話したくない過去の一つや二つくらいはあるはずだしな。
ここで詮索するのは良くない。
「それじゃ鍵を渡すわよ。自分の番号のものを受けとって!」
俺たちは目を合わせて頷きあうと、イリナがやけに明るい声を張り上げた。
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