22 / 44
第二章 第三騎士団、始動
『第二十一話 王への謁見(Ⅱ)』
しおりを挟む
しばらく悶々としていたカリスだったが、頼まれた内容を思い出したのだろうか。
背筋を伸ばして深々とお辞儀をしてきた。
「分かりました。ご協力ありがとうございます。引き留めてすみませんでした」
「いいえ。僕は第三騎士団の人間ですので、もし何かあればよろしくお願いしますね」
俺は営業用のスマイルを浮かべて軽く一礼。
先に進んでいるみんなを追う。
副筆頭執事などという中間職だが、こういう微妙とも思える人脈が大事なんだよな。
地位が高い人を一人動かすよりかは、地位がそこそこの人を十人動かすほうが簡単だ。
そんなことを考えていると、みんなが鉄製の扉の前で立っているのを見つけた。
扉から固まった魔力の気配がするから、侵入者防止用の結界が張られているのだろう。
「すぐに結界を解除しますので、しばらく待っていてください」
「分かった。おい、ティッセはどこにいる?」
「ここにいますけど……」
「一番後ろか。王城の中はお前が先頭で進め。突然襲われる可能性もあるからな」
べネック団長の言葉は、なぜか襲われるのを確信しているような口ぶりだった。
それに違和感を覚えたが、団長からの指示なので従うしかない。
やがて魔力の気配が途切れたとき、扉が重々しい音を立ててゆっくりと開いていく。
「まずは応接室にご案内します。そこで待機していただいて国王の許可を待ってください」
「許可が出たら謁見の間に向かうってことかな?」
ダイマスが後半の言葉を引き継ぐと、アランは正解というように一つ大きく頷いた。
そういうとこはリーデン帝国と同じなんだな。
アランに続いて王城の中に入っていくと、国が豊かであることを示すためであろうか。
想像を絶する金額がするであろう壺や絵画がここぞとばかりに飾られている。
「うわっ……すっごい……」
「あの壺、確か二百万ジルくらいはしたんじゃなかったかな?」
ダイマスがポツリと呟くと、俺を含めた全員が目を見開く。
ジルというのはヘルシミ王国のお金の単位で、パン一切れで百二十ジルだったはずだ。
二百万ジルなんて庶民が半年くらい働いてやっと稼げる金額である。
そんな高価な美術品が十点以上は並んでいるのを見ると、頭が痛くなってくるな。
「応接室も豪華そうね。何かを壊してしまわないか心配だわ」
「出来るだけ動かなければ大丈夫だ。そんなに心配しなくてもいい」
べネック団長が明るく言うが……値段を聞いてしまったらそりゃ心配もするって。
内心ビクビクしながらアランの背中を追っていると、やけに視線が突き刺さってくる。
その多くが敵意に満ちた視線であり、リーデン帝国が嫌われているというのを実感した。
幸いにも襲われることはなかったが。
やがてアランが足を止め、目の前にあった扉を開いて部屋の中を示す。
「ここが応接室になりますのでしばらくお待ちください。すぐにお茶を用意させます」
「お気遣い、感謝します」
何も言わずに部屋に入ってしまったが、背後からイリナの声が聞こえてきてギョッとした。
お礼を言っていないじゃん。
しかし、今さら戻ってお礼を言うのも恥ずかしいので、そのままソファーに体を沈めた。
おお……このソファーも絶対高い。
後から座ったダイマスたちも声には出さないものの、同じことを思っているのだろう。
口元が不自然に緩んでいる。
アランが一礼して部屋の扉を閉めると、予想通り全員が歓喜の声を上げた。
「このソファー、すごいですね。気持ちよくて寝ちゃいそうです」
「そうね。さすが王城っていったところかしら?」
「僕は間違って後ろの美術品を壊さないかが心配だよ。気持ちいいから余計にね」
三人がそれぞれの視点から感想を述べる。
ダイマスが言った美術品を壊さないかについては、俺も密かに危機感を抱いていた。
だって、明らかに高い金の置物とかが置いてあるんだもん。
しばらくソファーの感触を楽しんでいると、ドアが控えめにノックされる音が響いた。
「はい、どなた?」
「メイド長のアルマです。アランさんの指示でお茶をお持ちいたしました」
「分かった。すぐに開ける」
メイドに化けた襲撃者かもしれないと思ったのか、べネック団長が扉を開けた。
開けられた扉から入ってきたのは十代後半くらいの女性で、手にはカップが四つある。
それに気づいた俺は密かに首を傾げた。
この場にいるのは俺、イリナ、アリア、ダイマス、べネック団長で五人である。
明らかにお茶が一つ足りない。
どういう意図があるのかと観察していると、アルマは俺たち四人にだけお茶を出した。
つまりべネック団長にはお茶を出さなかったということだ。
「失礼いたします。どうぞごゆっくりお過ごしください」
「ちょっと待って。どうしてべネック団長のお茶がないのかしら? 嫌がらせのつもり?」
いつになく冷たい声でイリナが問いかける。
形式的に聞いてはいるが、恐らくこの場にいる全員が意図を明白に理解している。
それは、暴虐なリーデン帝国の人間をわざわざ王城に連れてきたべネック団長への非難。
面倒なことに言い訳も簡単だからな。
意図を問われたアルマは、まるでマニュアルを読んでいるかのように無表情で答えた。
「べネック団長は国王様が呼んだ客ではありませんから。あくまで護衛でしょう?」
「……」
そう、べネック団長は確かにリーデン帝国の客ではない。
なぜか隣国で行われたパーティーに参加し、俺たちをスカウトした一人のヘルシミ国民だ。
ゆえにお茶を出す義務はない。
アランの指示は恐らく、『国王様の客人にお茶を出せ』といったニュアンスだったと思うし。
しばらくイリナとアルマが睨み合っていると、横からそのアランが現れた。
「謁見の準備が出来たそうです。謁見室へご案内します」
さあ、いよいよヘルシミ王国を統治する王に謁見する時だっ!
意気込んでいた俺だったが、重要なことを忘れていた。
どうしてみんながリーデン帝国を嫌っていたのかを。
背筋を伸ばして深々とお辞儀をしてきた。
「分かりました。ご協力ありがとうございます。引き留めてすみませんでした」
「いいえ。僕は第三騎士団の人間ですので、もし何かあればよろしくお願いしますね」
俺は営業用のスマイルを浮かべて軽く一礼。
先に進んでいるみんなを追う。
副筆頭執事などという中間職だが、こういう微妙とも思える人脈が大事なんだよな。
地位が高い人を一人動かすよりかは、地位がそこそこの人を十人動かすほうが簡単だ。
そんなことを考えていると、みんなが鉄製の扉の前で立っているのを見つけた。
扉から固まった魔力の気配がするから、侵入者防止用の結界が張られているのだろう。
「すぐに結界を解除しますので、しばらく待っていてください」
「分かった。おい、ティッセはどこにいる?」
「ここにいますけど……」
「一番後ろか。王城の中はお前が先頭で進め。突然襲われる可能性もあるからな」
べネック団長の言葉は、なぜか襲われるのを確信しているような口ぶりだった。
それに違和感を覚えたが、団長からの指示なので従うしかない。
やがて魔力の気配が途切れたとき、扉が重々しい音を立ててゆっくりと開いていく。
「まずは応接室にご案内します。そこで待機していただいて国王の許可を待ってください」
「許可が出たら謁見の間に向かうってことかな?」
ダイマスが後半の言葉を引き継ぐと、アランは正解というように一つ大きく頷いた。
そういうとこはリーデン帝国と同じなんだな。
アランに続いて王城の中に入っていくと、国が豊かであることを示すためであろうか。
想像を絶する金額がするであろう壺や絵画がここぞとばかりに飾られている。
「うわっ……すっごい……」
「あの壺、確か二百万ジルくらいはしたんじゃなかったかな?」
ダイマスがポツリと呟くと、俺を含めた全員が目を見開く。
ジルというのはヘルシミ王国のお金の単位で、パン一切れで百二十ジルだったはずだ。
二百万ジルなんて庶民が半年くらい働いてやっと稼げる金額である。
そんな高価な美術品が十点以上は並んでいるのを見ると、頭が痛くなってくるな。
「応接室も豪華そうね。何かを壊してしまわないか心配だわ」
「出来るだけ動かなければ大丈夫だ。そんなに心配しなくてもいい」
べネック団長が明るく言うが……値段を聞いてしまったらそりゃ心配もするって。
内心ビクビクしながらアランの背中を追っていると、やけに視線が突き刺さってくる。
その多くが敵意に満ちた視線であり、リーデン帝国が嫌われているというのを実感した。
幸いにも襲われることはなかったが。
やがてアランが足を止め、目の前にあった扉を開いて部屋の中を示す。
「ここが応接室になりますのでしばらくお待ちください。すぐにお茶を用意させます」
「お気遣い、感謝します」
何も言わずに部屋に入ってしまったが、背後からイリナの声が聞こえてきてギョッとした。
お礼を言っていないじゃん。
しかし、今さら戻ってお礼を言うのも恥ずかしいので、そのままソファーに体を沈めた。
おお……このソファーも絶対高い。
後から座ったダイマスたちも声には出さないものの、同じことを思っているのだろう。
口元が不自然に緩んでいる。
アランが一礼して部屋の扉を閉めると、予想通り全員が歓喜の声を上げた。
「このソファー、すごいですね。気持ちよくて寝ちゃいそうです」
「そうね。さすが王城っていったところかしら?」
「僕は間違って後ろの美術品を壊さないかが心配だよ。気持ちいいから余計にね」
三人がそれぞれの視点から感想を述べる。
ダイマスが言った美術品を壊さないかについては、俺も密かに危機感を抱いていた。
だって、明らかに高い金の置物とかが置いてあるんだもん。
しばらくソファーの感触を楽しんでいると、ドアが控えめにノックされる音が響いた。
「はい、どなた?」
「メイド長のアルマです。アランさんの指示でお茶をお持ちいたしました」
「分かった。すぐに開ける」
メイドに化けた襲撃者かもしれないと思ったのか、べネック団長が扉を開けた。
開けられた扉から入ってきたのは十代後半くらいの女性で、手にはカップが四つある。
それに気づいた俺は密かに首を傾げた。
この場にいるのは俺、イリナ、アリア、ダイマス、べネック団長で五人である。
明らかにお茶が一つ足りない。
どういう意図があるのかと観察していると、アルマは俺たち四人にだけお茶を出した。
つまりべネック団長にはお茶を出さなかったということだ。
「失礼いたします。どうぞごゆっくりお過ごしください」
「ちょっと待って。どうしてべネック団長のお茶がないのかしら? 嫌がらせのつもり?」
いつになく冷たい声でイリナが問いかける。
形式的に聞いてはいるが、恐らくこの場にいる全員が意図を明白に理解している。
それは、暴虐なリーデン帝国の人間をわざわざ王城に連れてきたべネック団長への非難。
面倒なことに言い訳も簡単だからな。
意図を問われたアルマは、まるでマニュアルを読んでいるかのように無表情で答えた。
「べネック団長は国王様が呼んだ客ではありませんから。あくまで護衛でしょう?」
「……」
そう、べネック団長は確かにリーデン帝国の客ではない。
なぜか隣国で行われたパーティーに参加し、俺たちをスカウトした一人のヘルシミ国民だ。
ゆえにお茶を出す義務はない。
アランの指示は恐らく、『国王様の客人にお茶を出せ』といったニュアンスだったと思うし。
しばらくイリナとアルマが睨み合っていると、横からそのアランが現れた。
「謁見の準備が出来たそうです。謁見室へご案内します」
さあ、いよいよヘルシミ王国を統治する王に謁見する時だっ!
意気込んでいた俺だったが、重要なことを忘れていた。
どうしてみんながリーデン帝国を嫌っていたのかを。
0
お気に入りに追加
354
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる