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最終章

24 甘い※

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「?」
 丈が片手でふに、と両頬を掴んでくる。
「今のいいなぁ」
「……」
「夕生ってさー、甘えた君だよな」
「ほうかな」
 喋りづらくて声が変になる。丈は深く頷いた。
 確かに、甘えているかもしれない。うん、そうだ。
「ほうかも」
「もっとチョコいる?」
「ううん、大丈夫」
「俺はあげたい」
 なら何で聞いたんだろう。丈はまた一つチョコをとると夕生の口の中に押し込んでくる。
 ひとまず素直に咀嚼する。丈は頬を解放してくれたが、黙って夕生を眺めている。
 夕生はチョコを飲み込んだ。舌に甘みが残っているな、と思っていると、いきなり丈が顔を近づけてくる。
「んっ」
「夕生」
 丈は一度だけ軽いキスをすると、また唇を重ねて、夕生の口内に舌を入れてくる。
「う、むぅ……っ」
 甘みが丈にも移った。腰を片手で支えられて、どんどんキスが深くなる。
「甘いね」
「うん、ふ、んぅ……、う」
「夕生」
 甘く心地良いキスで頭がふわふわしてくる。
 すると一度唇が離れる。丈は夕生の頬を撫でながら、覗き込むように見つめてきた。
「していい?」
 グレーの瞳が夕生を射抜く。
 夕生は見惚れるような感覚に陥りながら、時間を置かずに呟いた。
「したい」
「……疲れてない?」
 あまりにも夕生が即答するものだから丈は動揺したみたいだった。
 続けて言いづらそうに「旅行帰りだし」と呟く。
 夕生は思わず微笑んだ。どうしても頬が緩んでしまうのだ。
 旅行帰りにやってきたのは丈と会いたいから。丈と早く二人きりになりたかったから。
「それでも丈のところにやってきたんだ」
 卒業式を終えてからすぐに旅行へ出掛けてしまったから丈とゆっくりする時間が取れなかった。
 家族旅行はすごく楽しかった。それでも綺麗な風景や美味しいものを食べるたびに、丈が思い浮かんでばかりで。
「早く抱き合っていたくて」
 丈が噛み締めるような顔をする。夕生は「ふふっ」と溢す。
 初めてのセックスは夕生が卒業してからにしようと言ったのは丈だった。
 夕生もそれに同意した。いずれ番になるにしても、アルファ性とオメガ性の自分たちは慎重になるべきだと思ったから。
 学生のうちは無事に卒業することが第一優先だ。だから丈は今まで待ってくれた。
 初めてキスをしたのは、付き合ってから数日後だ。
 デートもしたし、手を繋いだり、体を抱きしめ合ったりもした。
 でも肌を重ねたことはない。
 ……丈はいつも優しかったから分からないけど。
 手を繋いだり、体を抱きしめ合ったりするたびに、夕生は丈にもっと触れたくて仕方なかった。
 体を沢山触られたいし、触りたい。丈の肌を目一杯に抱きしめて、強く抱きしめられたい。
 丈の見たことのない顔が見てみたい。
 必死な声を聞いてみたい。
 深いところまで繋がりたい。
 まだ知らない丈を見てみたい。
 ——だから、ずっとこの日を待っていた。
「う、んんっ、ふ……っ」
「夕生」
 ずっとこの声を聞きたかった。
「痛くない?」
「……へいき」
 裸の丈が夕生を見下ろしている。『痛くない?』と聞いてきたのは丈なのに、彼の方がよっぽど辛そうな声をしている。
 その余裕のない声に夕生は胸が締め付けられる。気遣ってくれる彼が愛おしい。
 夕生は安心させたくて、微笑んでみせた。
 体の内側に入り込んだ丈の指が動く。夕生はまた「あっ」と声を上げた。
「ほんとに?」
「うん、全然……思ったよりも」
 丈の指はもう三本入っている。細くて長い指が、内側をゆっくりかき混ぜるように動いた。
 夕生も丈も裸でいる。組み敷かれたら恥ずかしくてたまらなくなると思ったのに、実際にこうしてみると、丈の体から目が離せない。
 何も纏ってなくても丈はずっとかっこいい。夕生は丈をじっと見上げた。
 恥ずかしそうに微笑んだのは丈の方だった。眉を下げて、笑いかけてくる。
「痛くないならよかった」
「痛くない……変かな」
「変じゃないよ。柔らかい」
「自分でいじってたからかな」
「まっ……まじすか」
「あっ、!」
 驚いた丈の指が敏感な箇所に触れる。強く押されて、ビクッと夕生の太ももが震えた。
 何だろ。今の。
 目を丸くする夕生を見下ろした丈は、こちらの反応を目敏く拾ってその箇所を指でいじってくる。
「うっ!? あっ、なんか、そこ」
「あ、ここか」
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