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第一章
7 お兄ちゃん
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エプロンの人が言った。
「自分で直せるの? 私がいきましょうか」
「大丈夫です。お母さんに聞いてみます」
即座に首を横に振ると、男の人が訊ねてくる。
「……なら明日また報告にしにきてくれないか?」
「明日ですか?」
夕生は俯いていた顔を上げた。男の人が真っ直ぐ見つめてくる。
「明日お母さんが帰ってくるんだろう?」
「……えっと」
数秒の沈黙のあと、夕生はボソボソとつぶやいた。
「お母さんは仕事で忙しいので、帰ってくるのは夜になるんです。いつも」
「いつもということは一昨日君のお母さんが帰ってきた時も夜だったんだな。ブレーカーが落ちているのにお母さんは戻さなかったのか?」
「……」
夕生は答える代わりに忙しそうにラーメンを食べた。みるみる少なくなっていくラーメン。食べながら必死に次の言葉を考える。思いついた時には麺がなくなっていた。
「お母さんは仕事で忙しくて、もしかしたら最後に帰ってきたのは、雷の日より前だったかもしれません。忙しいので」
汁を一滴残らず飲み干す。味が濃かった。線のところまで入れたのかもしれない。いつも夕生はカップ一杯に入れるから味がもっと薄い。
男の人は空になったカップ麺の箱を見下ろしてから言った。
「ところで君の名前は?」
「……な、何でですか」
夕生は焦った。
腹が満たされて余裕ができたせいか思考が回る。するとまた余裕がなくなっていく。
捕まるかもしれない、と思った。
「ご、ご馳走様でした」
夕生は言って席を立った。頭の中に浮かぶのは、家のどこかにある封書だ。
春に第二性診断を受け、報告書が家に届いた。診断はオメガ性だった。その封書を見てから母は帰ってこなくなった。
保健の授業で先生が言っていた。ヒート期間に抑制剤なしで外を出歩くことはオメガ性もアルファ性も犯罪だと。
親に病院へ連れ行ってもらうように先生から言われていたが、夕生はまだ病院へ行っていない。封書が届いてからもう三ヶ月が経っている。
三ヶ月間何もしていない。自分の体に何が起こるのか、何も分からない。
もしかしたらもう夕生は犯罪者なのかもしれない。
逃げないと。
「帰ります。ありがとうございました」
「待て」
男の人が短く言った。低い声だったけれどその表情はどこか優しかった。
「今君を家に帰すわけにはいかない」
「え……何でですか」
「そんな気がする。もう夜も遅い。風呂に入って泊まっていけ」
「大丈夫です」
「子供は夜中に出歩いてはいけないんだ。お母さんの連絡先は分かるか?」
夕生は小さく首を横に振った。遅れて「わかりません」と付け足す。
「なら今晩だけここにいて、明日私たちと共に帰ろう。そこでお母さんに挨拶し、私から事情を説明する」
「事情って何ですか」
「カップ麺にお湯を入れたことと、泊めたことだよ」
「それって……あの、母は明日帰ってこないかもしれません。忙しいので」
「ならいつ帰ってくるんだ?」
「……」
頭がぐるぐるする。言葉が渦巻いて一つも適切なセリフを掬い上げられない。自分でも何を言っているのか分からなくなっていく。
「あの、大丈夫です。俺ダメかもしれないので」
「何がダメなんだ?」
「その、良くないと思います」
この場で、夕生だけが異質だった。
身なりの綺麗な人たちと明るい女の子。大きなソファやテレビに、艶々のフローリング。
何もかもが綺麗で潔白だった。
こんな家に犯罪者がいてはならない。
「俺、ダメだと思うので。あの、オメガなので」
あっと思った時には遅かった。
すっかり俯いていた顔をバッと上げる。男の人は真顔のままで、エプロンの人は口元に手を当てていた。
やばい。
捕まる。
夕生はすぐに椅子から下りた。逃げようとするけれど、でも腕を掴まれた。
「大丈夫だ」
夕生は恐る恐る男の人を見上げた。
男の人は言った。
「逃げることはない」
夕生は男の人を凝視した。
「君は何も悪くない」
男の人はなぜか、苦しそうな顔をしていた。
夕生は何も返せない。腕が解放される。何秒経っても何も言えなかった。その間に男の人がエプロンの人に「湯を沸かし直してください。それと着替えも。スウェットなら愛海と同じものでいいだろう」と指示する。
夕生は何も言えない。そんなわけがない。悪くないわけないからだ。
夕方に生まれてきたこと。それが迷惑だったと昔言われた。
その上犯罪者のオメガだから母は帰ってこない。どう説明したら伝わるのだろう。
考えているうちに時間が経っていた。
男の人は着替えと、新品の下着を渡してきた。
「ここに居なさい」
——それから夕生はずっと考えた。
どう説明したらこの家の……このキラキラした世界で夕生がダメな存在なのか。
頑張って考えて、伝えてみても届かなかった。
だからまた考えつづけた。
男の人には奥さんがいて彼女は海外で仕事をしている。一度その人が帰ってきて夕生に言った。お母さんが戻って来るまでここにいようと。
そんなことはできないと言っても「なぜ?」と返されるだけだった。だってココは夕生の家じゃない。でも女の人は『オメガ特例』の話をしてくれた。女の人のお母さんはオメガ性だったからこの家はオメガ性の夕生を預かってもいいらしい。その話は歯医者さんの帰りにされた。夕生は初めて歯医者に行って、悪いところが沢山見つかった帰り道だった。
でも悪いところは治せるらしい。
治療には何ヶ月もかかった。
その間、母は帰ってこなかった。
——全部の虫歯が完治する頃に夕生は三ツ矢家の子供になっていた。
「おにいちゃん、まなのお兄ちゃんになったね」
愛海はそう言って笑う。夕生が『三ツ矢夕生』になったのは小学四年生の春だ。
愛海は一つ下の三年生。彼女にはつい先日、オメガ性の診断が下された。
「まな、お兄ちゃんかお姉ちゃん欲しかったんだ~」
「そっか」
「おにいちゃんがお兄ちゃんになるのラッキー」
でも愛海は何も変わらなかった。
愛海の両親はベータの夫妻だ。母方のお祖母さんがオメガだったので隔世遺伝だろうと言われていた。
夕生はあの封書が届いてから一人になったけれど、愛海は違う。
愛海は封書が届いても愛されていた。オメガなのに。すぐに病院へ行って、犯罪者にもならなかった。オメガだけど。
オメガでも何でも、愛海は愛されている。三ツ矢の夫妻は愛海を大切にしている。
何が起きても愛でられている愛海は明るく言った。
「これからはお父さんたちのこと、お父さんとお母さんって呼んだ方がいいよ。だって『三ツ矢さん』って……あははっ。まなも三ツ矢だし、お兄ちゃんも三ツ矢だもん」
それが……嬉しかった。
オメガなのに愛海は愛されている。
それは夕生の心に、とても言い尽くせない安堵を齎したのだ。
もう夕生は、あの日男の人に言われた言葉に対する答えを考えるのをやめていた。
だって考えても、愛海は「なにそれ」と笑い飛ばすから。
夕生が三ツ矢夕生になってすぐ、誕生日がやってきた。夕生と愛海の誕生日はとても近く、夕生は五月七日で愛海は五月四日だった。お父さん……たちはそれぞれ誕生日会をしようと言ったけれど、夕生は意味が分からなくて断った。愛海は言った。「意味教えてあげる」。
誕生日会は五月五日に開かれた。お母さんは海の向こうから帰ってきて、エプロンの人……お手伝いさんの須藤さんもいる。
お父さんたちは夕生に聞いた。
「本当に欲しいものがないのか?」
「大丈夫です」
夕生は微笑んだ。
目の前に輝く白いケーキが眩しくて、本当に、心から漏れた笑顔だった。
お父さんたちは夕生をじっと見つめていた。まるで夕生が笑ったのを初めて見るような顔だったし、実際そうだったのかもしれない。でも愛海は違う。愛海と遊んでいるとあまりにも彼女がはしゃぐので笑ってしまうことがある。愛海は隣で微笑む夕生を大して気にせず、「さっさと火消して食べようよ。お兄ちゃんが消す?」と問いかけた。愛海が嬉しそうにしているのを見るのは、安心する。だからケーキの上で揺れる蝋燭も、愛海に消してもらった。
「ふーっ。やった全部消えた! 早く食べよー」
愛海は笑う。せっかちな愛海に、お父さんたちも笑った。
夕生は小さく微笑みながら、次に丈に会ったとき何を伝えようか考えていた。
いつも丈ばかりが話してくれて、夕生が話せることは何もない。でもケーキを食べた。とても大きくて蝋燭が灯っていたケーキだ。誕生日プレゼントはいらないと言ったけどお父さんたちが学校に通うためのバッグを買ってくれた。早く丈に見せたい。
話すことがたくさんある。
きっと丈は「よかったね」と笑ってくれる。
夕生には安心するものがある。
三ツ矢家の揺るがない愛と、愛海の明るい性格と、何があっても傍にいてくれる丈の存在だ。
それがあるなら夕生は生きていける。
ずっとそれと共に生きていけるなら夕生は何でもする。
だから……丈への恋が叶わなくてもいいのだ。
皆が幸せになってくれること。
本望だった。
――チャイムが鳴って目が覚めた。焦ったけれど予鈴だったようだ。
いつの間にか眠ってしまっていた。須藤さんの作ってくれたお弁当を食べ逃してしまったが、放課後に食べればいい。
……昼休みが終わる。
愛海と丈は楽しく過ごせただろうか。
楽しく過ごせたに違いない。二人はとても素敵な人たちだ。もしも結ばれたら素晴らしいカップルになる。
皆が認める完璧な二人だ。出会わせたのは夕生だけど、今は二人とも互いを思い遣っている。
夕生は初めから何もなかった。ただ汚れているばかりで何も持っていない。でも、もし二人が結ばれるきっかけになれたなら、それは素晴らしいことだと思う。
愛海は愛されているオメガだ。
優しいアルファの丈は愛海と番になることができる。
二人が幸せになってくれればいい。
二人が幸せな、番になれますように。
「自分で直せるの? 私がいきましょうか」
「大丈夫です。お母さんに聞いてみます」
即座に首を横に振ると、男の人が訊ねてくる。
「……なら明日また報告にしにきてくれないか?」
「明日ですか?」
夕生は俯いていた顔を上げた。男の人が真っ直ぐ見つめてくる。
「明日お母さんが帰ってくるんだろう?」
「……えっと」
数秒の沈黙のあと、夕生はボソボソとつぶやいた。
「お母さんは仕事で忙しいので、帰ってくるのは夜になるんです。いつも」
「いつもということは一昨日君のお母さんが帰ってきた時も夜だったんだな。ブレーカーが落ちているのにお母さんは戻さなかったのか?」
「……」
夕生は答える代わりに忙しそうにラーメンを食べた。みるみる少なくなっていくラーメン。食べながら必死に次の言葉を考える。思いついた時には麺がなくなっていた。
「お母さんは仕事で忙しくて、もしかしたら最後に帰ってきたのは、雷の日より前だったかもしれません。忙しいので」
汁を一滴残らず飲み干す。味が濃かった。線のところまで入れたのかもしれない。いつも夕生はカップ一杯に入れるから味がもっと薄い。
男の人は空になったカップ麺の箱を見下ろしてから言った。
「ところで君の名前は?」
「……な、何でですか」
夕生は焦った。
腹が満たされて余裕ができたせいか思考が回る。するとまた余裕がなくなっていく。
捕まるかもしれない、と思った。
「ご、ご馳走様でした」
夕生は言って席を立った。頭の中に浮かぶのは、家のどこかにある封書だ。
春に第二性診断を受け、報告書が家に届いた。診断はオメガ性だった。その封書を見てから母は帰ってこなくなった。
保健の授業で先生が言っていた。ヒート期間に抑制剤なしで外を出歩くことはオメガ性もアルファ性も犯罪だと。
親に病院へ連れ行ってもらうように先生から言われていたが、夕生はまだ病院へ行っていない。封書が届いてからもう三ヶ月が経っている。
三ヶ月間何もしていない。自分の体に何が起こるのか、何も分からない。
もしかしたらもう夕生は犯罪者なのかもしれない。
逃げないと。
「帰ります。ありがとうございました」
「待て」
男の人が短く言った。低い声だったけれどその表情はどこか優しかった。
「今君を家に帰すわけにはいかない」
「え……何でですか」
「そんな気がする。もう夜も遅い。風呂に入って泊まっていけ」
「大丈夫です」
「子供は夜中に出歩いてはいけないんだ。お母さんの連絡先は分かるか?」
夕生は小さく首を横に振った。遅れて「わかりません」と付け足す。
「なら今晩だけここにいて、明日私たちと共に帰ろう。そこでお母さんに挨拶し、私から事情を説明する」
「事情って何ですか」
「カップ麺にお湯を入れたことと、泊めたことだよ」
「それって……あの、母は明日帰ってこないかもしれません。忙しいので」
「ならいつ帰ってくるんだ?」
「……」
頭がぐるぐるする。言葉が渦巻いて一つも適切なセリフを掬い上げられない。自分でも何を言っているのか分からなくなっていく。
「あの、大丈夫です。俺ダメかもしれないので」
「何がダメなんだ?」
「その、良くないと思います」
この場で、夕生だけが異質だった。
身なりの綺麗な人たちと明るい女の子。大きなソファやテレビに、艶々のフローリング。
何もかもが綺麗で潔白だった。
こんな家に犯罪者がいてはならない。
「俺、ダメだと思うので。あの、オメガなので」
あっと思った時には遅かった。
すっかり俯いていた顔をバッと上げる。男の人は真顔のままで、エプロンの人は口元に手を当てていた。
やばい。
捕まる。
夕生はすぐに椅子から下りた。逃げようとするけれど、でも腕を掴まれた。
「大丈夫だ」
夕生は恐る恐る男の人を見上げた。
男の人は言った。
「逃げることはない」
夕生は男の人を凝視した。
「君は何も悪くない」
男の人はなぜか、苦しそうな顔をしていた。
夕生は何も返せない。腕が解放される。何秒経っても何も言えなかった。その間に男の人がエプロンの人に「湯を沸かし直してください。それと着替えも。スウェットなら愛海と同じものでいいだろう」と指示する。
夕生は何も言えない。そんなわけがない。悪くないわけないからだ。
夕方に生まれてきたこと。それが迷惑だったと昔言われた。
その上犯罪者のオメガだから母は帰ってこない。どう説明したら伝わるのだろう。
考えているうちに時間が経っていた。
男の人は着替えと、新品の下着を渡してきた。
「ここに居なさい」
——それから夕生はずっと考えた。
どう説明したらこの家の……このキラキラした世界で夕生がダメな存在なのか。
頑張って考えて、伝えてみても届かなかった。
だからまた考えつづけた。
男の人には奥さんがいて彼女は海外で仕事をしている。一度その人が帰ってきて夕生に言った。お母さんが戻って来るまでここにいようと。
そんなことはできないと言っても「なぜ?」と返されるだけだった。だってココは夕生の家じゃない。でも女の人は『オメガ特例』の話をしてくれた。女の人のお母さんはオメガ性だったからこの家はオメガ性の夕生を預かってもいいらしい。その話は歯医者さんの帰りにされた。夕生は初めて歯医者に行って、悪いところが沢山見つかった帰り道だった。
でも悪いところは治せるらしい。
治療には何ヶ月もかかった。
その間、母は帰ってこなかった。
——全部の虫歯が完治する頃に夕生は三ツ矢家の子供になっていた。
「おにいちゃん、まなのお兄ちゃんになったね」
愛海はそう言って笑う。夕生が『三ツ矢夕生』になったのは小学四年生の春だ。
愛海は一つ下の三年生。彼女にはつい先日、オメガ性の診断が下された。
「まな、お兄ちゃんかお姉ちゃん欲しかったんだ~」
「そっか」
「おにいちゃんがお兄ちゃんになるのラッキー」
でも愛海は何も変わらなかった。
愛海の両親はベータの夫妻だ。母方のお祖母さんがオメガだったので隔世遺伝だろうと言われていた。
夕生はあの封書が届いてから一人になったけれど、愛海は違う。
愛海は封書が届いても愛されていた。オメガなのに。すぐに病院へ行って、犯罪者にもならなかった。オメガだけど。
オメガでも何でも、愛海は愛されている。三ツ矢の夫妻は愛海を大切にしている。
何が起きても愛でられている愛海は明るく言った。
「これからはお父さんたちのこと、お父さんとお母さんって呼んだ方がいいよ。だって『三ツ矢さん』って……あははっ。まなも三ツ矢だし、お兄ちゃんも三ツ矢だもん」
それが……嬉しかった。
オメガなのに愛海は愛されている。
それは夕生の心に、とても言い尽くせない安堵を齎したのだ。
もう夕生は、あの日男の人に言われた言葉に対する答えを考えるのをやめていた。
だって考えても、愛海は「なにそれ」と笑い飛ばすから。
夕生が三ツ矢夕生になってすぐ、誕生日がやってきた。夕生と愛海の誕生日はとても近く、夕生は五月七日で愛海は五月四日だった。お父さん……たちはそれぞれ誕生日会をしようと言ったけれど、夕生は意味が分からなくて断った。愛海は言った。「意味教えてあげる」。
誕生日会は五月五日に開かれた。お母さんは海の向こうから帰ってきて、エプロンの人……お手伝いさんの須藤さんもいる。
お父さんたちは夕生に聞いた。
「本当に欲しいものがないのか?」
「大丈夫です」
夕生は微笑んだ。
目の前に輝く白いケーキが眩しくて、本当に、心から漏れた笑顔だった。
お父さんたちは夕生をじっと見つめていた。まるで夕生が笑ったのを初めて見るような顔だったし、実際そうだったのかもしれない。でも愛海は違う。愛海と遊んでいるとあまりにも彼女がはしゃぐので笑ってしまうことがある。愛海は隣で微笑む夕生を大して気にせず、「さっさと火消して食べようよ。お兄ちゃんが消す?」と問いかけた。愛海が嬉しそうにしているのを見るのは、安心する。だからケーキの上で揺れる蝋燭も、愛海に消してもらった。
「ふーっ。やった全部消えた! 早く食べよー」
愛海は笑う。せっかちな愛海に、お父さんたちも笑った。
夕生は小さく微笑みながら、次に丈に会ったとき何を伝えようか考えていた。
いつも丈ばかりが話してくれて、夕生が話せることは何もない。でもケーキを食べた。とても大きくて蝋燭が灯っていたケーキだ。誕生日プレゼントはいらないと言ったけどお父さんたちが学校に通うためのバッグを買ってくれた。早く丈に見せたい。
話すことがたくさんある。
きっと丈は「よかったね」と笑ってくれる。
夕生には安心するものがある。
三ツ矢家の揺るがない愛と、愛海の明るい性格と、何があっても傍にいてくれる丈の存在だ。
それがあるなら夕生は生きていける。
ずっとそれと共に生きていけるなら夕生は何でもする。
だから……丈への恋が叶わなくてもいいのだ。
皆が幸せになってくれること。
本望だった。
――チャイムが鳴って目が覚めた。焦ったけれど予鈴だったようだ。
いつの間にか眠ってしまっていた。須藤さんの作ってくれたお弁当を食べ逃してしまったが、放課後に食べればいい。
……昼休みが終わる。
愛海と丈は楽しく過ごせただろうか。
楽しく過ごせたに違いない。二人はとても素敵な人たちだ。もしも結ばれたら素晴らしいカップルになる。
皆が認める完璧な二人だ。出会わせたのは夕生だけど、今は二人とも互いを思い遣っている。
夕生は初めから何もなかった。ただ汚れているばかりで何も持っていない。でも、もし二人が結ばれるきっかけになれたなら、それは素晴らしいことだと思う。
愛海は愛されているオメガだ。
優しいアルファの丈は愛海と番になることができる。
二人が幸せになってくれればいい。
二人が幸せな、番になれますように。
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