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番外編 友人
6 森の妖精
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室井と陽太に構わず幸平に対し、「幸平くんそれアルコール入ってる? 大丈夫?」と気遣った。
「うん、これは入ってない」
「幸平くんはすぐ酔うから」
「そんな、すぐかな……」
「というか、溝口さんは分かるけど、関さんとも食事する友達だったんだな」
友達。どう返したらいいか分からず閉口すると、隣の陽太と室井の何か言い争っている声だけになる。
と、名前を出された本人が反応した。
「友達でいいんじゃね?」
一連のやり取りを眺めていた謙人が軽い笑みを浮かべながらも言う。
その笑みは決して揶揄っているものではなく、暖かさが滲んでいる。
友達……。
幸平は少し迷ったが、小さく頷いた。
「うん、友達」
「……なんか森良くんって森の妖精みたいだな」
「え?」
時川がかすかに微笑む。谷田は隣で、まだ陽太と謙人に緊張していた。
謙人が「改めてよろしくな、森良くん」とにこやかにする。室井と対峙していた陽太がこちらに何か言いたげに反応するが、すぐさま室井が「まじで束縛男にはならないよう死ぬほど気をつけてくださいね」と言ったところでまたしてもぶつかり始めた。
謙人が言った。
「にしても時川くんは、ほんっとイケメンだなぁ」
「はは」
時川は笑って、ビールを飲んでいる。
「否定しないのか」
「そうした発言への最適解はな、テキトーに笑うことなんだよ」
「慣れてんなぁ。テキトーにしては棒読みすぎっけど」
「はは」
二人が話しているのを見て、谷田が耳打ちしてきた。
「なんかアイドル並んでる感じしねぇ?」
「アイドル?」
谷田は頷き、「茶髪の時川と、銀髪の関。あと黒髪のムロくん」と説明している。
確かに時川は王子様風と言われているし、関もまた陽気なイケメンだ。室井も昔から『かわいい』と人気だった。
「三人並ぶと迫力があるよな」
「そうだね」
「幸平もイケメンだけど、この三人ってやけにキラキラしてんだよ。KPOPな感じ」
「けーぽっぷ」
確かにキラキラしている。幸平の中で『かっこいい』存在であり見惚れてしまうのは陽太だけれど、陽太がアイドルっぽいかと言われると首を捻ってしまう。むしろそうした部類とは無縁なような気もする。
謙人は時川に興味津々なようで、さまざま質問していた。
「普段メガネじゃねぇの?」
「普段というより、気分かな」
「コウちゃんも眼鏡買った方がいいと思う」
突然、隣で室井と言い合っていた陽太が割り込んできた。それも、かなり真剣な口調だ。
「俺?」
「そう。コウちゃんは自分が思ってるよりも目が悪い」
「そうかな」
「そうだよ」
確かに、目が悪いなとは自分でも自覚していた。それにより陽太のお母さんを見間違ったりなどしたけれど、今のところそれ以外で生活に支障はないと思っている。
だが、なぜか他の皆も妙に納得していた。
室井もまた便乗して、「コンタクトにしたらいいんじゃないですか」と提案する。
「コンタクト……」
「そうだぞ、幸平。お前は目が悪いんだ。早急に何とかした方がいい」
「コンタクト怖いんじゃないかな、幸平くんは」
普段共にいる谷田や時川まで同意するものだから少し戸惑う。「コンタクト……」と口の中でつぶやいて、思考した。
コンタクトは目に入れるものだ。時川の言う通り、
「コンタクトって、確かに怖いかも」
と幸平は口にした。
「え、目に入れるのが?」谷田が眉を顰める。
「コンタクト怖いの幸平先輩っぽくていいですね」室井はニコッと微笑んだ。
「確かに森良くんっぽい」と謙人も同意し、時川が思い出し笑い混じりに言った。
「幸平くん、目薬も嫌がるだろ」
「……そうだったっけ?」
「そうそう。君が眠いとかなんとか言うから目薬を貸してやった時、『いい。』って怖そうにしてたから」
「……だって入るか分からない」
「液体が? はははは。目開けてれば入るよ」
「入んなかった」
「試したことあるんだ? あははは」
時川が本当におかしそうに笑う。彼が声に出して笑うのは珍しい。
「あのさ」
いきなり時川へ言ったのは陽太だった。
怪訝そうな低い声で、彼は続ける。
「コウちゃんとの濃密な取引って何?」
「は?」
時川は首を傾げた。謙人が少し驚いた顔をする。陽太に強気で出れる人間を……それも構えた風でもなく自然に接した時川に驚いたようだった。
時川は難なく告げる。
「何の話?」
「前に飲み会で会った時の話」
陽太は怪訝な口調のままだった。より声を低くして、問いかける。
「俺がコウちゃんの分の飲み代払うっつったら、あんたが拒否して……コウちゃんとあんたの濃密な取引があるから俺は不要だって言ってただろ」
「私と幸平くんの濃密な取引?」
時川が不思議そうにする。陽太は無表情で「そう」と頷く。
「変な空気出してたじゃん」
「んー」
濃密な取引? 当事者であるはずなのに、幸平はよく分からない。
そして陽太もなぜか、幸平ではなく時川に真相を聞きたがっている。
「濃密な取引って何?」
「えーっと。何だろう」
「はぁ?」
(ツイッターでクリスマスの2人(四年後)小説書いてます。)
「うん、これは入ってない」
「幸平くんはすぐ酔うから」
「そんな、すぐかな……」
「というか、溝口さんは分かるけど、関さんとも食事する友達だったんだな」
友達。どう返したらいいか分からず閉口すると、隣の陽太と室井の何か言い争っている声だけになる。
と、名前を出された本人が反応した。
「友達でいいんじゃね?」
一連のやり取りを眺めていた謙人が軽い笑みを浮かべながらも言う。
その笑みは決して揶揄っているものではなく、暖かさが滲んでいる。
友達……。
幸平は少し迷ったが、小さく頷いた。
「うん、友達」
「……なんか森良くんって森の妖精みたいだな」
「え?」
時川がかすかに微笑む。谷田は隣で、まだ陽太と謙人に緊張していた。
謙人が「改めてよろしくな、森良くん」とにこやかにする。室井と対峙していた陽太がこちらに何か言いたげに反応するが、すぐさま室井が「まじで束縛男にはならないよう死ぬほど気をつけてくださいね」と言ったところでまたしてもぶつかり始めた。
謙人が言った。
「にしても時川くんは、ほんっとイケメンだなぁ」
「はは」
時川は笑って、ビールを飲んでいる。
「否定しないのか」
「そうした発言への最適解はな、テキトーに笑うことなんだよ」
「慣れてんなぁ。テキトーにしては棒読みすぎっけど」
「はは」
二人が話しているのを見て、谷田が耳打ちしてきた。
「なんかアイドル並んでる感じしねぇ?」
「アイドル?」
谷田は頷き、「茶髪の時川と、銀髪の関。あと黒髪のムロくん」と説明している。
確かに時川は王子様風と言われているし、関もまた陽気なイケメンだ。室井も昔から『かわいい』と人気だった。
「三人並ぶと迫力があるよな」
「そうだね」
「幸平もイケメンだけど、この三人ってやけにキラキラしてんだよ。KPOPな感じ」
「けーぽっぷ」
確かにキラキラしている。幸平の中で『かっこいい』存在であり見惚れてしまうのは陽太だけれど、陽太がアイドルっぽいかと言われると首を捻ってしまう。むしろそうした部類とは無縁なような気もする。
謙人は時川に興味津々なようで、さまざま質問していた。
「普段メガネじゃねぇの?」
「普段というより、気分かな」
「コウちゃんも眼鏡買った方がいいと思う」
突然、隣で室井と言い合っていた陽太が割り込んできた。それも、かなり真剣な口調だ。
「俺?」
「そう。コウちゃんは自分が思ってるよりも目が悪い」
「そうかな」
「そうだよ」
確かに、目が悪いなとは自分でも自覚していた。それにより陽太のお母さんを見間違ったりなどしたけれど、今のところそれ以外で生活に支障はないと思っている。
だが、なぜか他の皆も妙に納得していた。
室井もまた便乗して、「コンタクトにしたらいいんじゃないですか」と提案する。
「コンタクト……」
「そうだぞ、幸平。お前は目が悪いんだ。早急に何とかした方がいい」
「コンタクト怖いんじゃないかな、幸平くんは」
普段共にいる谷田や時川まで同意するものだから少し戸惑う。「コンタクト……」と口の中でつぶやいて、思考した。
コンタクトは目に入れるものだ。時川の言う通り、
「コンタクトって、確かに怖いかも」
と幸平は口にした。
「え、目に入れるのが?」谷田が眉を顰める。
「コンタクト怖いの幸平先輩っぽくていいですね」室井はニコッと微笑んだ。
「確かに森良くんっぽい」と謙人も同意し、時川が思い出し笑い混じりに言った。
「幸平くん、目薬も嫌がるだろ」
「……そうだったっけ?」
「そうそう。君が眠いとかなんとか言うから目薬を貸してやった時、『いい。』って怖そうにしてたから」
「……だって入るか分からない」
「液体が? はははは。目開けてれば入るよ」
「入んなかった」
「試したことあるんだ? あははは」
時川が本当におかしそうに笑う。彼が声に出して笑うのは珍しい。
「あのさ」
いきなり時川へ言ったのは陽太だった。
怪訝そうな低い声で、彼は続ける。
「コウちゃんとの濃密な取引って何?」
「は?」
時川は首を傾げた。謙人が少し驚いた顔をする。陽太に強気で出れる人間を……それも構えた風でもなく自然に接した時川に驚いたようだった。
時川は難なく告げる。
「何の話?」
「前に飲み会で会った時の話」
陽太は怪訝な口調のままだった。より声を低くして、問いかける。
「俺がコウちゃんの分の飲み代払うっつったら、あんたが拒否して……コウちゃんとあんたの濃密な取引があるから俺は不要だって言ってただろ」
「私と幸平くんの濃密な取引?」
時川が不思議そうにする。陽太は無表情で「そう」と頷く。
「変な空気出してたじゃん」
「んー」
濃密な取引? 当事者であるはずなのに、幸平はよく分からない。
そして陽太もなぜか、幸平ではなく時川に真相を聞きたがっている。
「濃密な取引って何?」
「えーっと。何だろう」
「はぁ?」
(ツイッターでクリスマスの2人(四年後)小説書いてます。)
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