6番目のセフレだけど一生分の思い出ができたからもう充分

SKYTRICK

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番外編 友人

5 数珠繋ぎ

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「はぁ?」
 陽太が怪訝に眉を顰める。幸平は心中で首を傾げる。ホワホワって何?
 謙人がニヤつきながら「森良くんがホワホワしてんのは良いのか」と言うと、室井は「はい」と深く頷く。
「幸平先輩はいいんですよ。そこが良いところでもあるので」
「へぇ」
「あの、俺、ホワホワしてる?」
 耐えきれず口を出すと、室井は断言した。
「してます」
「え」
「ホワホワの権化」
「……あの。具体的にはどの辺が」
「コウちゃんが雰囲気柔らかいのは分かるけど、俺のそれは悪口だろ」
 幸平の言葉を遮った陽太は室井を睨みつけて、「つうか仕方ねぇじゃん」と続けた。
「ムロはただコウちゃんに懐いてるだけだと思ってんだからよ」
「陽太さんは幸平先輩のことだけ考えすぎなんです」
「……」
 陽太が黙り込む。
「他にも目を向けないと」
「……」
 「俺はどうすれば」幸平が問いかけると、
 「幸平先輩はそのままでいいです」室井は答えた。
 何で? なぜ陽太にだけ負荷を課す? 不公平なのではないか。疑問でいっぱいの幸平に対し、陽太は「まぁ」と納得したように頷いた。
「確かにそうかもしんねぇな。今後に活かす」
「そうしてください」
「今後のことは俺が何とかするから、ムロは試合を終わらせてほしい」
「嫌です」
「おい」
「別に良いじゃないですか……今だけですよ」
 室井はふっと息を吐いた。
「大丈夫ですから。どうせ陽太さんのための試合ですから」
「……」
 陽太は黙り込む。謙人はただ二人を傍観している。幸平はただ、その試合に自分が参加しているのか気になる。
 室井は上目遣いで陽太に言った。
「さすがに俺が可哀想だと思いません?」
 陽太は「別に思わない」と断言した。
 幸平は既に此処へ室井を呼んだことは適正だったのか後悔し始めている。陽太と室井の雰囲気は険悪とはいかずともあまり良いものではない。個別に会うべきだったんじゃないか。少なくとも今、何か言うべきだろうか、と思うけども言葉が見つからない。迷っているうちに室井が、
「俺の我儘聞いてください」
 と呟いた。
 数秒の沈黙。妥協したとは思えない声色で陽太が「我儘?」と聞く、
 室井はにっこりと頷いた。
「時川さん呼びましょっ」
 室井以外の一同が目を瞬かせる。
 陽太が「トキカワ?」とカタコトじみた口調で繰り返した。
「時川って……あの眼鏡かけたイケメンくん?」
 謙人が首を傾げる。室井は首を上下に振った。
「その時川さんです」
 「なんで」陽太が短く問いかける。
 「面白い人だからです」室井はすぐさま答えた。
 「面白いならいいよ。呼ぼうぜ」謙人がヘラっと笑う。
 「……」幸平は沈黙した。
 時川については陽太も知っているはずだ。幸平から言及したこともあるし、高校のバイト先で何度か会っている。それに、あの諭吉ばら撒き事件でも陽太と時川は行動を共にしていた。
 ……高校時代、陽太は他人から恐れられていた。
 だが一方で、陽太は訳もなく人を嫌うような人間ではない。
 その陽太が無表情でいる。無表情はデフォルトかもしれないが、どことなく消極的な……時川に対して否定的な姿勢を示している。
 これは珍しい。自分の知らないところで何かあったのだろうか……。
 室井との会話も含めて陽太の機嫌が悪くなってきている。心配になって、思わず「陽太くん」と言うと、
「……あ、全然大丈夫」
 陽太はこちらを見てすぐさま雰囲気を変えた。
 一瞬だった。まるで幸平の心に僅かに滲んだ不安を汲み取ったように、柔らかく微笑み、
「呼ぼう、コウちゃんの友達」
「いいの?」
「よくないわけないよ」
 すかさず室井が「さすがすね」とにこやかに言う。
「幸平先輩が頼めば全部解決。あーあこれだから陽太さんは……」
「さっさと呼べって」
 陽太が鋭く告げる。室井は「二重人格こわ」と携帯を手に取った。
 この会は本来幸平から謙人へお礼を告げる会だった。その目的はすでに果たしているので誰が加わろうといいけれど、今のところ数珠繋ぎになっている。
 謙人が室井を呼び、室井が時川を呼ぶ。
 そして現れた時川は。
「――なんだろね、このメンツは」
「ムロくんお前、俺も呼べよ……は、溝口さん?」
 谷田を連れて登場した。
 今日の時川は眼鏡をしていない。コンタクトなのだろうか? スタイリッシュな姿で登場した時川は、謙人曰く「眼鏡イケメンっつうか、ただのイケメンじゃん」だ。
 時川から直前にちょうど隣にいた谷田も連れてくるとは聞いていたが、谷田はこの会に室井と幸平以外の、例の二人が参加していると聞いていなかったらしい。
「溝口さんいんじゃねぇかよ!!」
 その溝口陽太の前で谷田が叫ぶ。
 一方の陽太は無表情無言で谷田を眺めている。陽太の親友であり、谷田称するに『日本の高校の一軍』である謙人はニヤニヤと唇を歪めていた。
 室井が言った。
「そりゃいますよ」
「なんでいんだよ。俺は幸平と時川とムロくんがいると思って……!」
「逆に何で知らないんですか」
「私が教えてないからだね。ビール頼もうかな」
「教えろよ!」
 時川は一番近くの謙人の隣の席に腰を下ろす。幸平の目の前には、時川、謙人、室井が並んでいて、谷田は恐る恐る幸平の隣に座った。
「谷田、一昨日ぶり」
「幸平お前も何で言わないんだよ」
「え……時川が教えてないと思わなかったから……」
「なら仕方ねぇな!」
 谷田は投げやりに言った。向かいの時川が谷田の分の酒も注文している。
 早速室井が時川の方を向いて、「聞いてくださいよ時川さん」と声を尖らせた。
「陽太さんの独占欲が酷いんです」
 「ほぉ」時川が軽く微笑みながら頷いた。ビールがありえない速度で運ばれてくると、一瞬で上機嫌になり、微笑みを深める。
「乾杯。何? その二人の話?」
「そうです。陽太さん、俺が幸平先輩に話しかけるのも許せないみたいなんです」
「そうは言ってないだろ」
 一人で勝手に乾杯と宣言しビールを飲む時川と、若干出鱈目を言う室井。陽太も黙ってられないとばかりに低い声を出した。
「ムロが訳わかんねぇこと言ってっから」
「すごいですよね陽太さん。幸平先輩に対する話し方とまるで違う」
「は?」
「昔からそうですよあんたは。いいんですか? 幸平先輩の前でそんな口調でいて」
「ウルセェ」
「あ、ちょっとかわいこぶってる。不機嫌な陽太さんは『黙れ』って言うのに」
「……」
「はは」
 時川は声だけで笑って、やり取りを聞いているのかいないのか分からない。





(BL小説大賞、現代BL部門受賞いたしました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます!)
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