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1章
好きになってくれてありがとう
しおりを挟む使い道が無くなったかに思われた悠のタオルだけど、
実はあれから大活躍している。
抜いた翌日に何気なくタオルを嗅いでみたら、全く匂いがしなかったのだ。
『えっ、フェロモンって一晩で香りが飛ぶの?!』
ってメチャクチャ焦っちゃったんだけど、さらに翌日、ダメ元で匂いを嗅いでみたら、かすかに香りが嗅ぎ取れたんだよな。
あの時はまじで安心した。
もちろんβとして生きたいなら、このまま香りを感知出来ないほうがいいに決まっている。
でも悠の匂い自体は好きなんだよなぁ。
Ωは嫌だけど、嗅ぎたくなるこの気持ちはどうしたらいいんだ?
そんな感じでそこから検証を繰り返してみた結果、どうやら体調によって嗅覚に変化があるってことに気がついた。
はっきり分かっているのは、悠のフェロモンを取り入れた後に抜くと、Ω値がリセットされるというか、βとして安定するっぽい。
とにかく悠のフェロモンに身体がまったく反応しなくなる、ってことだけは確かだ。
なんでこうなるのかは俺にもよく分かってねーけど、抜くと安定するんだからそういうものなんだろう。
抜かなくてもリセットされる時もあるから、ホルモンバランスも関係あったりすんのかな?
そういえば前回トイレで抜いた次の日に、近くに悠がいても柔軟剤の香りしか嗅ぎ取れなかった気がする。
悠も俺からは汗の匂いしか感じとれなかったと言っていたし、多分この考察で間違いないと思う。
後は本当に日によってバラバラで、ある程度感じとれる日もあれば、ほとんど感じ取れない日もあったりするし。
そんな俺の最近の日課は、学校に行く前に悠のタオルの匂いを嗅ぐことからスタートしている。
匂いで自分の体調の変化も分かるので、今や俺の立派な健康バロメーター代わりと言ってもいい。
毎朝嗅いでいるせいか、最近だとテレビを見ている時やバイトから帰ってきた時にも、何となく匂いを嗅がないと落ち着かなくなってきた。
癖みたいなものなんだろうけど、手元についつい引き寄せてしまう。
タオルに依存しすぎている自覚はあるけど、嗅いでると落ち着くんだから仕方ないじゃん。
もちろん匂いがしない日もあるけど、とりあえずあの優しい肌触りを感じたくなってしまうんだ。
そんな感じで大事に大事にタオルを使っていたのに。
───やられたっ!
その日バイトから帰ってきた俺はいつも通り、ベッドの上に置いてあるタオルに癒やされようと鼻を近づけて……固まった。
わなわなとした怒りが湧いてくる。
(……あいつぅううう!!)
湧き立つ怒りのまま自室のドアを力任せにバンっと開けると、そのまま居間でテレビを見ている姉ちゃんに詰め寄った。
「姉ちゃんっ! 何で俺のタオルから、洗濯物の匂いがしてんだよ!」
洗剤の香りしかしなくなったタオルを、姉ちゃんに向けて突き出してやる。
(朝に嗅いだ時はちゃんと香ってたのに…!!)
俺がこんなに腹を立てているってのに、当の姉ちゃんはケロッとした顔をしている。
お前、どんだけ罪深い事をしたのか分かってないだろっ!
「そりゃそうでしょ。今日有給で休みだったから、朝のうちに洗濯したもん」
「はぁっ!! 何でベッドの上に置いてたコレが洗濯されてんだよっ!」
「何でって、あんた最近ちょこちょこテレビ見ながらそれ弄ってたじゃん。枕カバー洗うついでに、一緒に洗っといたの。いいかげん洗わないと汚いんだから、ちゃんと洗濯に出しなさいよね」
俺が悪いみたいに言ってんじゃねーよっ!!
「アホ──っ、汚いとか言うな!俺にとっては大事なものなんだぞっ」
「何怒ってんのよ? 高そうなタオルだったし、心配しなくても傷まないようにちゃんとネットには入れといたけど?」
「そういう事を言ってるんじゃねぇよっ!!」
アホッ、姉ちゃんのどアホーー!
これを嗅がされた時の俺の気持ちなんて、姉ちゃんにはきっと一生理解なんて出来ねーんだっ。
洗剤の香りに全部消されてしまった消失感ときたら……。
そう、相棒を失った時はこんな気持になるのかと思うほどの、深い悲しみだったんだぞ!
まさかこんなにも早く相棒を失う日が来るなるなんて、思わねーじゃん。
それくらい大事なモノだったっていうのに!
俺、明日からどう生きていけば良いのか、もう分かんねぇよっ。
タオルを握りしめたまま涙ぐむ俺の姿を、姉ちゃんがポカンとした顔で見上げてくるけど、お前なんかもう知らねぇ!
しばらくは口も聞いてやんねぇからなっ!!
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