仮面を被った彼女は公爵邸でもう一度恋をする

ARIA

文字の大きさ
上 下
23 / 23
1章

好きになってくれてありがとう

しおりを挟む
 
 使い道が無くなったかに思われた悠のタオルだけど、 
 実はあれから大活躍している。 

  
 抜いた翌日に何気なくタオルを嗅いでみたら、全く匂いがしなかったのだ。 

『えっ、フェロモンって一晩で香りが飛ぶの?!』

 ってメチャクチャ焦っちゃったんだけど、さらに翌日、ダメ元で匂いを嗅いでみたら、かすかに香りが嗅ぎ取れたんだよな。
 あの時はまじで安心した。 
 もちろんβとして生きたいなら、このまま香りを感知出来ないほうがいいに決まっている。
 でも悠の匂い自体は好きなんだよなぁ。 
 Ωは嫌だけど、嗅ぎたくなるこの気持ちはどうしたらいいんだ?

 
  
 そんな感じでそこから検証を繰り返してみた結果、どうやら体調によって嗅覚に変化があるってことに気がついた。 
 はっきり分かっているのは、悠のフェロモンを取り入れた後に抜くと、Ω値がリセットされるというか、βとして安定するっぽい。
 とにかく悠のフェロモンに身体がまったく反応しなくなる、ってことだけは確かだ。 
 なんでこうなるのかは俺にもよく分かってねーけど、抜くと安定するんだからそういうものなんだろう。 
 抜かなくてもリセットされる時もあるから、ホルモンバランスも関係あったりすんのかな? 

 そういえば前回トイレで抜いた次の日に、近くに悠がいても柔軟剤の香りしか嗅ぎ取れなかった気がする。
 悠も俺からは汗の匂いしか感じとれなかったと言っていたし、多分この考察で間違いないと思う。 
 後は本当に日によってバラバラで、ある程度感じとれる日もあれば、ほとんど感じ取れない日もあったりするし。 
  

 そんな俺の最近の日課は、学校に行く前に悠のタオルの匂いを嗅ぐことからスタートしている。 
 匂いで自分の体調の変化も分かるので、今や俺の立派な健康バロメーター代わりと言ってもいい。 
 毎朝嗅いでいるせいか、最近だとテレビを見ている時やバイトから帰ってきた時にも、何となく匂いを嗅がないと落ち着かなくなってきた。
 癖みたいなものなんだろうけど、手元についつい引き寄せてしまう。 
 タオルに依存しすぎている自覚はあるけど、嗅いでると落ち着くんだから仕方ないじゃん。 
 もちろん匂いがしない日もあるけど、とりあえずあの優しい肌触りを感じたくなってしまうんだ。 
  
  
  
 そんな感じで大事に大事にタオルを使っていたのに。
 ───やられたっ! 
  


 その日バイトから帰ってきた俺はいつも通り、ベッドの上に置いてあるタオルに癒やされようと鼻を近づけて……固まった。 
 わなわなとした怒りが湧いてくる。

(……あいつぅううう!!) 
 
 湧き立つ怒りのまま自室のドアを力任せにバンっと開けると、そのまま居間でテレビを見ている姉ちゃんに詰め寄った。 
 
「姉ちゃんっ! 何で俺のタオルから、洗濯物の匂いがしてんだよ!」 
  
 洗剤の香りしなくなったタオルを、姉ちゃんに向けて突き出してやる。  


(朝に嗅いだ時はちゃんと香ってたのに…!!)


 俺がこんなに腹を立てているってのに、当の姉ちゃんはケロッとした顔をしている。
 お前、どんだけ罪深い事をしたのか分かってないだろっ! 
  
「そりゃそうでしょ。今日有給で休みだったから、朝のうちに洗濯したもん」 
「はぁっ!! 何でベッドの上に置いてたコレが洗濯されてんだよっ!」 
「何でって、あんた最近ちょこちょこテレビ見ながらそれ弄ってたじゃん。枕カバー洗うついでに、一緒に洗っといたの。いいかげん洗わないと汚いんだから、ちゃんと洗濯に出しなさいよね」 

 俺が悪いみたいに言ってんじゃねーよっ!!

「アホ──っ、汚いとか言うな!俺にとっては大事なものなんだぞっ」 
「何怒ってんのよ? 高そうなタオルだったし、心配しなくても傷まないようにちゃんとネットには入れといたけど?」 
「そういう事を言ってるんじゃねぇよっ!!」 
  
 アホッ、姉ちゃんのどアホーー!
 これを嗅がされた時の俺の気持ちなんて、姉ちゃんにはきっと一生理解なんて出来ねーんだっ。
 洗剤の香りに全部消されてしまった消失感ときたら……。
 そう、相棒を失った時はこんな気持になるのかと思うほどの、深い悲しみだったんだぞ!
  
 まさかこんなにも早く相棒を失う日が来るなるなんて、思わねーじゃん。 
 それくらい大事なモノだったっていうのに! 
 俺、明日からどう生きていけば良いのか、もう分かんねぇよっ。 
  
 タオルを握りしめたまま涙ぐむ俺の姿を、姉ちゃんがポカンとした顔で見上げてくるけど、お前なんかもう知らねぇ!

 
 しばらくは口も聞いてやんねぇからなっ!!
 





しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~

麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。 夫「おブスは消えなさい。」 妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」 借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...