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第1章
6話
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ガーラに座れと促され、シオンは2掛けのソファに座った。すると隣にスイがやってきて、向かいに置かれたソファにはガーラとウェストが座る。ガーラは背負っていた長細い棒状の袋に入った何かを、ソファの横に置いた。
スイがじっとこちらを見てくるので、訳も分からずとりあえず笑いかけると、スイも控えめな笑みを見せた。
(かわいい。いくつくらいなんだろう)
「シオン。昨日は君のことを教えてくれてありがとう。そのお礼というわけではないんだが、平等をきすために私たちのことも少し話しておこうと思う。それから、君がこれからどうするか決めてくれ」
「どう、とはどういう意味ですか?」
「君は昨日、行く当てもないと言っていたな。僕たちは君のように行く当てもなく旅をしながら、人に、場所に、物に出会い自分の居場所を探している」
「自分の居場所……」
「そうだ。私たちは、君のことを迎える準備が出来ている」
シオンは目を見開いた。そんなことを言われるとは思っていなかった。いつ出ていくのかとか、急かすようなことを聞かれると思っていた。ありがたい申し出、だがさすがに信用性が足りない。4人でまともに会話をしたのは、今が初めてだ。
「あの……」
「分かっている。信じられないのだろう。今の君には僕たちはとてつもなく怪しい3人に見えているに違いない」
「胡散臭いしな」
ウェストが笑いながら言った。ガーラがそれに頷き、話を継ぐ。
「だから君に、僕たちのことを簡単に伝えて、知ってもらおうと思う。これから話すことは事実だ。嘘は無いとここに誓う」
「私も」
「スイも」
3人の視線が一斉にシオンに向く。緊張して背筋が伸びた。答えを求められている。シオンは一度目を閉じて深呼吸をする。開いた視線の先、ガーラを見つめて姿勢を正し口を開く。
「分かりました。急ぐ用事もないですし、皆さんのお話、聞きましょう」
「ありがとう。では、誰から……」
「私から話そう」
啖呵を切ったのはウェストだった。
「長くなっても退屈だ。とりあえず、簡単に話す方向でいいよな」
「ああ」
ガーラが頷いたのを確認して、ウェストの視線はシオンに移る。
「私はここに来る前、こことは全く別の森に住んでいた。森と言っても、魔物なんてほとんど出ないような平和な森だ。そこに私のように狼の獣人が住む村があって、私はそこの住人だった。だが、私は不慮の事故で、唯一と言っていいほどの心の友を失ってしまった」
語り口調こそ穏やかだが、その瞳には影が混ざっていた。ウェストが伏せていた顔を上げる。彼は眉を下げて笑っていた。
「私は、村に居場所がなくなった。ずっとその友人と一緒だったから、他に心を許せる存在がいなかったことに初めて気づいた。失って、初めて気付いたんだ。それから、村での居心地が悪くなって、私は自ら村を出た。君は、狼の獣人の、群れの掟を知っているかな?」
「ごめんなさい、知りません」
「普通に暮らしていれば知らないのが大半さ。狼の獣人は、群れを出た者を決して許さないんだ」
「許さないとはどういう意味ですか?」
「んー、地の果てまで追いかける、ってことかな」
追いかけてその後は、という問いかけは出来なかった。彼の表情がほの暗い。いやでも察してしまう。
ウェストはソファの背もたれに体を預ける形で話を締めた。
「そういうわけで、私は自分の居場所を探してるってわけだ。群れの連中に追われながらね」
想像以上に重たい話に、シオンは息をのむ。
(まさか、ここにいる全員、この話と同じくらい重くて複雑な事情を抱えている、とかじゃないわよね?)
スイがじっとこちらを見てくるので、訳も分からずとりあえず笑いかけると、スイも控えめな笑みを見せた。
(かわいい。いくつくらいなんだろう)
「シオン。昨日は君のことを教えてくれてありがとう。そのお礼というわけではないんだが、平等をきすために私たちのことも少し話しておこうと思う。それから、君がこれからどうするか決めてくれ」
「どう、とはどういう意味ですか?」
「君は昨日、行く当てもないと言っていたな。僕たちは君のように行く当てもなく旅をしながら、人に、場所に、物に出会い自分の居場所を探している」
「自分の居場所……」
「そうだ。私たちは、君のことを迎える準備が出来ている」
シオンは目を見開いた。そんなことを言われるとは思っていなかった。いつ出ていくのかとか、急かすようなことを聞かれると思っていた。ありがたい申し出、だがさすがに信用性が足りない。4人でまともに会話をしたのは、今が初めてだ。
「あの……」
「分かっている。信じられないのだろう。今の君には僕たちはとてつもなく怪しい3人に見えているに違いない」
「胡散臭いしな」
ウェストが笑いながら言った。ガーラがそれに頷き、話を継ぐ。
「だから君に、僕たちのことを簡単に伝えて、知ってもらおうと思う。これから話すことは事実だ。嘘は無いとここに誓う」
「私も」
「スイも」
3人の視線が一斉にシオンに向く。緊張して背筋が伸びた。答えを求められている。シオンは一度目を閉じて深呼吸をする。開いた視線の先、ガーラを見つめて姿勢を正し口を開く。
「分かりました。急ぐ用事もないですし、皆さんのお話、聞きましょう」
「ありがとう。では、誰から……」
「私から話そう」
啖呵を切ったのはウェストだった。
「長くなっても退屈だ。とりあえず、簡単に話す方向でいいよな」
「ああ」
ガーラが頷いたのを確認して、ウェストの視線はシオンに移る。
「私はここに来る前、こことは全く別の森に住んでいた。森と言っても、魔物なんてほとんど出ないような平和な森だ。そこに私のように狼の獣人が住む村があって、私はそこの住人だった。だが、私は不慮の事故で、唯一と言っていいほどの心の友を失ってしまった」
語り口調こそ穏やかだが、その瞳には影が混ざっていた。ウェストが伏せていた顔を上げる。彼は眉を下げて笑っていた。
「私は、村に居場所がなくなった。ずっとその友人と一緒だったから、他に心を許せる存在がいなかったことに初めて気づいた。失って、初めて気付いたんだ。それから、村での居心地が悪くなって、私は自ら村を出た。君は、狼の獣人の、群れの掟を知っているかな?」
「ごめんなさい、知りません」
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「そういうわけで、私は自分の居場所を探してるってわけだ。群れの連中に追われながらね」
想像以上に重たい話に、シオンは息をのむ。
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