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7話 11月29日
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朝6時、家の近くの駐車場に止めていた、シルバーの車に乗り込む深雪。いつものように鞄を助手席に乗せ、パンプスから車に置きっぱなしにしているスニーカーに履き替える。ドアを閉めてシートベルトをしエンジンをかけた。深雪のいつものルーティンだが、彼女が気付いていない変化が、今朝はあった。
「先生の車、銀色なのね」
呟くのは死神、レティ・アウトサイド。深雪には聞こえない透き通ったその高めの声の主は、深雪の住むマンションのベランダの柵の上にいた。マンションの10階という高さを感じさせないその冷静さは、死神が人ならざる者だから成せるのだろうか。レティは車を走らせたところですっと立ち上がり、自分の眼前に手をかざした。
「デスロードちゃん」
呼びかけに答えるように、月白色の光が現れ、それが弾けると大きな鎌がレティの前に顕現した。
デスロード。レティが人間の魂を狩る時に使う道具だ。それは死神にとって自分の分身であり、名を呼べばいつでも手元に持ってくることが出来る。死神はこのデスロードで人間の体という器から魂を切り離し、それを喰らう。
「先生の魂は誰のものでもないわ」
レティは自分が死神らしからぬ思考を持ち始めたことには気付いていない。ただ深雪に生きてほしい、そう願っているだけだ。
深雪の車が遠ざかる。レティが脱いでいたフードを被ると、コートはその姿を蝙蝠の羽のように変えた。
1回、2回とその場で羽ばたき、レティの体が宙に浮かぶ。そのまま空を飛びながら、レティは深雪の後を追っていった。
大学の2限が終わった後、レティは深雪と一緒に研究室にいた。もう見慣れてしまった砂時計のある部屋で、深雪は昼食を摂っている。レティに見つめられるのにも慣れてしまったが、1度意識するとやはり気になってくるので、あまり気にしないようにしていると言った方が正しいかもしれない。
「レティ。昨日はちゃんと眠れた?」
「ええ。どうして?」
「あんなことがあったから、風邪とか引いてないかなと思って。でも、大丈夫そうだね」
「心配いらないわ」
「良かった。ずっと気になってたんだ」
「ずっと?」
「そう。こうしてレティと話すまで、ずっと」
レティは自分の胸のあたりをさすった。何かざわざわしたものが体内を走る感覚がして、ほぼ無意識のうちにそうしていた。
「レティ?どうしたの」
「え?」
「やっぱりどこか悪いんじゃ」
「違うの!全然大丈夫よ!」
「……本当に?」
「ええ!ほんと……」
レティの言葉はそこで途切れた。距離が近い。心配そうに眉尻を下げた深雪の顔が近くに見える。
「先生?……何、してるの……?」
レティは自分の額に触れられた、深雪の温かい体温を感じながら、やっと声を出した。
「熱は無いかと思って。ごめん、急に触れて。嫌だった?」
「いいえ」
深雪はレティの額に触れていた手を引っ込め、ソファに戻った。
「そんなこと」
(馬鹿ね。私は熱なんて出さないのよ)
「人間じゃあるまいし……」
「え?ごめん今なんて言ったの?」
「んふふ。何でもないわ」
レティは努めて笑顔で応えた。油断したら、死神の顔が出てきてしまいそうだった。
無慈悲で冷徹な、狩人の顔が。
「先生の車、銀色なのね」
呟くのは死神、レティ・アウトサイド。深雪には聞こえない透き通ったその高めの声の主は、深雪の住むマンションのベランダの柵の上にいた。マンションの10階という高さを感じさせないその冷静さは、死神が人ならざる者だから成せるのだろうか。レティは車を走らせたところですっと立ち上がり、自分の眼前に手をかざした。
「デスロードちゃん」
呼びかけに答えるように、月白色の光が現れ、それが弾けると大きな鎌がレティの前に顕現した。
デスロード。レティが人間の魂を狩る時に使う道具だ。それは死神にとって自分の分身であり、名を呼べばいつでも手元に持ってくることが出来る。死神はこのデスロードで人間の体という器から魂を切り離し、それを喰らう。
「先生の魂は誰のものでもないわ」
レティは自分が死神らしからぬ思考を持ち始めたことには気付いていない。ただ深雪に生きてほしい、そう願っているだけだ。
深雪の車が遠ざかる。レティが脱いでいたフードを被ると、コートはその姿を蝙蝠の羽のように変えた。
1回、2回とその場で羽ばたき、レティの体が宙に浮かぶ。そのまま空を飛びながら、レティは深雪の後を追っていった。
大学の2限が終わった後、レティは深雪と一緒に研究室にいた。もう見慣れてしまった砂時計のある部屋で、深雪は昼食を摂っている。レティに見つめられるのにも慣れてしまったが、1度意識するとやはり気になってくるので、あまり気にしないようにしていると言った方が正しいかもしれない。
「レティ。昨日はちゃんと眠れた?」
「ええ。どうして?」
「あんなことがあったから、風邪とか引いてないかなと思って。でも、大丈夫そうだね」
「心配いらないわ」
「良かった。ずっと気になってたんだ」
「ずっと?」
「そう。こうしてレティと話すまで、ずっと」
レティは自分の胸のあたりをさすった。何かざわざわしたものが体内を走る感覚がして、ほぼ無意識のうちにそうしていた。
「レティ?どうしたの」
「え?」
「やっぱりどこか悪いんじゃ」
「違うの!全然大丈夫よ!」
「……本当に?」
「ええ!ほんと……」
レティの言葉はそこで途切れた。距離が近い。心配そうに眉尻を下げた深雪の顔が近くに見える。
「先生?……何、してるの……?」
レティは自分の額に触れられた、深雪の温かい体温を感じながら、やっと声を出した。
「熱は無いかと思って。ごめん、急に触れて。嫌だった?」
「いいえ」
深雪はレティの額に触れていた手を引っ込め、ソファに戻った。
「そんなこと」
(馬鹿ね。私は熱なんて出さないのよ)
「人間じゃあるまいし……」
「え?ごめん今なんて言ったの?」
「んふふ。何でもないわ」
レティは努めて笑顔で応えた。油断したら、死神の顔が出てきてしまいそうだった。
無慈悲で冷徹な、狩人の顔が。
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