転生先は乙女ゲーム?

niko

文字の大きさ
上 下
15 / 18

変な子 -アランド-

しおりを挟む
 

 俺はアランド・ウィルソン。男爵の息子。
幼い頃ずっと部屋にいたから、人との会話はちょっと苦手だ。会話っていうか思ったことを言葉にするのが苦手。

 こんな俺にも友達がいる。オリーだ。オリーのお父さんが俺を部屋から出してくれた、えっと、そう恩人だ。オリーは俺を初めて褒めてくれた人で、喋るのが苦手な俺に対してもいっぱい話しかけてくれる大切な友達。

 騎士を目指すきっかけをくれたのもオリーだった。オリーはいつも何の連絡もしないで突然くる。

「よっなんだ、勉強してんのかよ。」
「オリー、貴族は、家に行く時、なんだっけ手紙?出さないの?」
「は?お前、事前に連絡して欲しいわけ?俺に言えないことでもあんの?」
「ない。」
「じゃーいいじゃん。」
「そうだね。俺も、いいの?」
「お前はダメ。身分も俺の方が高いだろ?俺がお前んち来る時だけいいの。」
「わかった。」
「はぁ!?てかお前、もうそこまで進んでんの!?待った!お前さ騎士になれよ。背もでけーし手足も長いんだから戦うのに有利だと思うし、男爵家だって継ぐ気ないんだろう?だったら騎士になって功績残して、称号を手に入れれば最高じゃん。それにほら、近衛になれば俺達職場も一緒になるぜ?まぁ、あとは俺、お前みたいな暗い奴に勉強で負けんのほんと腹立つから。」

 きっと、最後のが本音なんだろうな。オリーに勝ちたくて勉強してるわけじゃないし、それに、同じ職場、そんな先のことまで言ってくれたことが嬉しい。それから勉強はそこそこにして体力づくりや剣術の勉強を頑張るようにした。

 それからオリーは文官見習いになり、俺もオリーについていって騎士の訓練を見学させてもらったり、騎士さんの時間がある時は訓練をつけてもらったりするようになった。騎士さんはいい人が多くて「頑張れよ!」「筋がいいな!」って言ってくれる。でも存在感があんまりないから驚かしてしまう。「うおっお前いつからそこにいたんだよ!?」とか「わぁ!びっくりした!声かけろよ!」って言われる。


 時々オリーに呼ばれて令嬢にぶつかってこいって言われる。最初にぶつかろうとしたら、存在感がないからかな?すごく驚いてた。それで、俺が男爵って分かったらすごく怒られた。それをオリーに言ったら「よくやった!さすがアドだな!やっぱろくなんじゃねーな。そんなんで王妃になろうなんて浅はかなやつだ。アド、嫌な思いさせてわりーな。でもな、これは国母を見極める重要な任務だ。」
 オリーはすごい。そんな大変な仕事を俺に任せてくれるなんて。頑張ろう。

 それからはぶつかるフリに変えて、何度か繰り返していると、怒る令嬢と鼻で笑う令嬢と虫を見るような目で見てくる令嬢。あと、少ないけど「気になさらないで」と言ってくれる令嬢がいた。鼻で笑われるのはいいけど、虫を見るような目、あの目は、なんか、好きじゃない。
 
 オリーはいつも「嫌だったらちゃんと言えよ!」って言ってくれるけど、俺はオリーの役に立てるのが嬉しいから全然気にしなくていいのに。


 その日はいつもと違って殿下のお茶会の相手を見てこいっていう任務だった。訓練場から少し離れた中庭でお茶会をしている。きっと侍女さんや近衛騎士さんもいて、人がたくさんいるんだろうな。どうしよう。

 俺は黒髪だし服装も黒っぽいから草木の影に入れば大丈夫かな?行ってみるとすんなり覗くことができた。植え込みに隠れて様子を伺うと、殿下のサラサラの金の髪と女の子のふわふわしたプラチナブロンドがきらきらしていてとてもまぶしかった。時々女の子が怒ったりしてたけど、殿下は本当に楽しそうに笑っている。殿下が女の子のことを「シエンナ」と呼んでいるのを聞いて、すぐにオリーに報告しに戻った。

 その日もオリーから行ってこい!って言われて、馬車への道の植え込みで待機していると、日の光に照らされてキラキラしたあの子が歩いてきた。綺麗な髪だなぁと見ていたら、いつもより出るのが遅れてしまって、慌てて出たから、ぶつかるフリのつもりだったのに本当にぶつかってしまった。
 
 令嬢は思ってたより小さくて、「きゃっ」と小さな悲鳴をあげて倒れそうになったのを、慌てて手を掴んでしまった。怒られる!そう思った。でも自己紹介はちゃんとしないと
「申し訳ありません。ウィルソン男爵の嫡男アランド・ウィルソンと申します。お怪我はありませんか?」これは何回も言ってるからすらすらと言える。
 侍女が「お嬢様!大丈夫ですか!?」と駆け寄っている。
「ミーヤ大丈夫よ。見てたでしょう?彼が助けてくれたわ。初めましてシエンナ・オッズレンと申します。あなたのおかげで転ばずに済みました。なにか急用ですか?」

え?俺のおかげ?俺のせいじゃなくて?

 自己紹介を返されたのも初めてだ。どうしよう、なんて言えばいい?急用?

「えっと・・・・・・慌てて。・・・探し物。」
「まぁ、大事なものなのね。ミーヤ、一緒に探しましょう。どんなもの?」
「お嬢様もう帰る時間ですよ。」
「そんな慌てて帰らなくても、ちょっとだけ。」
「はぁ、仕方ないですね。」
「あ、いや!大丈夫!えっと・・・騎士の人!さっき見た!」
「あぁ!騎士見習いの方でしたのね。ならよかったわ。あっでも今の年齢で筋肉をつける訓練をしていると、骨にあまり良くなくて、将来背が伸びにくくなってしまう可能性があるので、ほどほどになさってくださいね。では、失礼します。」

 慌てて頭を下げる。

「お嬢様今の話本当ですか?」
「えっとー、確か軟骨?に良くないって聞いたことがあるの。」
「なんこつ??お嬢様のそれはどこからふってくるんでしょうね。お嬢様が言うと嘘に聞こえないのも不思議でなりません。」
「ん~わかんない!ふふふっ」

 令嬢と侍女の楽しそうな声が遠ざかって行く。俺はその場に立ち尽くしてした。

 あんな変な子初めて見た。

 オリーに報告すると、なんじゃそりゃー!?って混乱してた。
 彼女の話を思い出す。背が伸びないのは困るな。オリーに褒めてもらった俺の長所だ。
 筋肉の訓練がよくないって言ってたっけ?走るのは大丈夫かな?それもダメだったらどうしよう。気になるから今度聞きに行こう。

 
 ふた月程経った頃、オリーから「今日はるんるんお茶会だ。間違いない。くそっ今日も行けねーな。」るんるん?よくわからないけど、きっとあの女の子だ。

 今日は植込みに隠れずに待つ。向こうから今日もキラキラしてるあの子がきた。
「ご機嫌よう。ウィルソン様。今日の探し物はなんですか?」
 不思議だ。ここにくる令嬢達は普通、俺に笑顔で話しかけてくることなんてしない。

「・・・あなたです。」

「「えぇっ!?」」

 彼女と侍女がびっくりしてる?あっこの間の侍女とは違うんだ。あっ彼女の顔が赤い。かわいいな。
「あの・・・この前、背が伸びないって。気になって・・・えと、なにがダメか、聞きにきた。」
「な~んだ、そういう感じですか~。」
「そ、そうよね!びっくりした~!」
なんだかわからないけど驚かせてしまったみたいだ。

 木陰に移動して、彼女は丁寧に説明してくれた。あくまで可能性で絶対ではないらしい。
「坂道ダッシュじゃなかった、えっと、急な上り坂を走るのはあまりよくないかもしれません。」彼女も喋るのが得意じゃないのかな?“えっと”は俺が喋る時につい出てしまう言葉だ。オリーからは「それを治せ!」って言われるけど、なかなか取れない。彼女も言うんだと思うとなんだか嬉しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの
恋愛
仕事に疲れたアラサー女子ですが、気付いたら超絶美少女であるアナスタシアのからだの中に! 魅了の魔力を持つせいか、わがまま勝手な天才魔術師や犬属性の宰相子息、Sっ気が強い王様に気に入られ愛される毎日。 幸せだけど、いつか醒めるかもしれない夢にどっぷり浸ることは難しい。幸せになりたいけれど何が幸せなのかわからなくなってしまった主人公が、人から愛され大切にされることを身をもって知るお話。 ※主人公以外の視点が多いです。※他サイトからの転載です

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...