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友達 -オリオン-
しおりを挟むありえないありえないありえない!なんなんだ、あの女!
俺の父はこの国の宰相だ。幼い頃の記憶などほとんど残ってないけど、俺にとって忘れられない出来事がある。
父が影響力のある人物だからか、家には手紙や贈り物がよく届き、気に入られようと近寄ってくる大人達がたくさんいた。父や母からは絶対にもらってはダメだと言い聞かされていた。
だけど、当時の俺は皆父を慕い敬っているものと信じていたし、流行のペンや読みたかった本など「お父さんには内緒だよ」なんて言うからこっそりもらっては、「お父さんの好きなものは?」など簡単な質問に答えていた。
どんなに勉強をサボろうと、どんなタチの悪い悪戯をしても手だけは上げなかった父が、それを知って、初めて俺を殴った。
訳が分からなかった。くれると言うものをもらっただけだ。
だがそれは違った。よくきていたあのジジイが父や俺の噂を広めたんだ。“人に物をねだる意地汚い子供。あの宰相は子供の教育もろくにできない。あんなのに王の補佐など務まらない。”父の真面目さのおかげか噂は大したことにはならなかった。だが、俺は腹が立って仕方なかった。自分に。
あいつらは笑顔で近寄ってきて父や母や俺のことを褒め称えながら、心の中では馬鹿にしてたんだ。いつでも引き摺り下ろそうと手を伸ばしてる。
俺は利用されたんだ。俺が馬鹿で無知だったから。父も噂が流れたことに怒ったんじゃない。俺が言うことを聞かず、利用され情報を渡したことに怒ったんだ。「情報は金と同じ価値がある」これは父の口癖だ。だがそれ以上に、情報は力だ。俺は誰よりも早く情報を手に入れて、誰よりも狡猾になってやる。もう絶対に騙されたりしない。
俺は、利用する側の人間だ。
そのすぐ後にフィルを紹介された。初めてあいつを見た時に“こいつも俺と同じだ”と感じた。誰も信用してない目。いや、俺よりはマシか?
そう思ったのは間違いだった。フィルの方がひどかった。そもそも、あいつと俺は根本が違っていたんだ。俺は利用しようとするヤツに怒りを覚える。だけどあいつは自分以外が利用されることに恐怖を感じている。
あいつはいつかの乳母のことを「本当に私のためだと信じていたのかもね」なんて甘い事言ってるけど、絶対に違うね。その女は、フィルを孤立させて、自分しか頼れない状況を作りたかっただけだ。
フィルが何かしたわけでもないし、責任を感じる必要なんて全くないと思う。悪いのは全部甘い汁を吸おうと近寄ってくる人間達だ。
最初は何かと有利になると思って近づいた。だけど、あいつの心は頑なで、全然仲良くなんてなれなかった。でもあいつが良いヤツだと分かってから、関係は徐々に変わっていった。お互いに肩の力を抜いて愚痴を言い合えるほどで、今は誰よりも信頼できる友達だ。
フィルはきっと良い王になると思う。だけど、今のままじゃダメだ。あいつは優しすぎる。いつか騙される。気づかれればそこを利用しようとする人間が絶対にいる・・・だが、俺がそうはさせない。
フィルに近づく令嬢達もそうだ。俺にも同じように、頬を染めながら愛想を振りまいてくる。フィルが無理なら俺に靡くつもりか?知ってるぞ、自分より身分の低い、男爵令息に対しては態度が全く違うのをな。
その男爵令息とは俺の従兄弟のアランドだ。アドは騎士見習いで、なかなか才能のあるヤツだ。だから俺と一緒に城に来ては、騎士の訓練を見学したり混ぜてもらったり、たまに俺の実験に付き合ってくれている。
フィルのやつ、本当はうんざりしてるくせに、どの令嬢にも優しい。実験結果を伝えても「そうだろうね。」だって。わかってんじゃねーか!
エルンダ嬢なんか用もないのに城に来ては、フィルにまとわりついてる。
「もう、鬱陶しいって言ってやれば?」
「そんなこと言ったら王族の品格を疑われるし、他の令嬢に何するか分からないだろう?」
はぁー!ほんと立派だよ。俺には到底真似できないね。
最近フィルの様子がおかしい。いっつも眉間に皺寄せて重ーい足取りでお茶会に行くくせに、たまーに嬉しそうな日がある。周りから見たら何も変わってないように見えるかもしれないけど、俺にはわかる。るんるんだ。鼻歌でも歌い出すんじゃないかと目を疑うほどだ。あいつ・・・絶対になにか隠してる。
だけどフィルは巧妙で、俺が文官の手伝いで忙しい時にるんるんお茶会を開いてやがる。おかげで相手が誰かわからない。
そこで、アドに頼むことにした。アドは騎士の訓練に混ぜてもらうこともあるが、基本庭は出入り自由だ。たぶん。アイツ存在感ねーし。
るんるんお茶会の相手はシエンナ・オッズレン公爵令嬢だと分かった。エルンダ嬢とは違う手法で近づいたな。
たしか血が繋がってない弟がいたな。しかも庶民の出だったはず。うわぁ、絶対いじめてんな。こういう時はアドだ。馬車に向かう途中でわざとぶつかり自己紹介をさせる。男爵だとわかった途端、ぶつかられたことに苛立ちを覚えるはずだ。
・・・なのに、ヤツはボロを出さなかった。アドによると「今筋肉を鍛えすぎると、将来背が伸びにくくなるかもしれませんので気をつけてくださいね。」だと。
はぁー!?なんだそれ!?新手の嫌味か?遠回し過ぎて言ってる意味がわかんねーよ!
それから会える機会がないまま時が過ぎた頃、アドのやつが鍛えるのを控えて「あの子、いい子。」なんて言い出しやがった!何回か会ううちに手懐けられてしまったらしい。
その日は突然きた。オッズレン公爵令嬢が随分と早く到着したとの情報を得て、慌てて上司の文官に体調不良で抜けさせてもらった。フィルはまだ政務の勉強の時間のはずだ。やっとだ、やっと会える。フィルとアドを手懐けた油断ならない相手だが、俺は騙されない。俺が本性を暴いてやる。
~*~*~*~*~*~*~*~*~
ありえない!!
フィルが心を許してる??
ありえない!いくらなんでも早過ぎる。あいつのしかめっ面を引っ張り出すのに何年かかったと思ってるんだ!
確かに見た目は妖精みたいに可愛かった。思い出す時に上を向く仕草も可愛かった。プラチナブロンドがキラキラ波打って、空色の瞳とピンクのドレスの相性が良く、肌の白さが・・・って違ーう!!!
見た目か?見た目なのかフィル!?
いやいや、落ち着け、俺。あんなのは演技だ。純粋そうに見えるようにしてるだけだ。
シエンナ・オッズレン!絶対に化けの皮を剥いでやるからな!
----------------------------------
フィラード殿下の年齢を修正しました。すいません。
【現在】
シエンナ 10歳
アル 9歳
フィラード 12歳
オリオン 12歳
アランド 11歳
エルンダ 10歳
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