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第6話 後編
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授業が終わった後、大学から少し離れた待ち合わせ場所に足早で向かい、十分程待つと弓弦が現れた。
「雪雄……っ、待たせたね。」
少し息が上がっていて走ってきたのだろう。俺を見て嬉しそうに微笑んでいる顔を見たら、余分な力が抜けていき、身体が緩んできた。
「まだ夕食には早いね。どっか寄ってく?」
普段は夜しか会わないので、明るい時間に学校の外で会うのが嬉しいみたいだ。でも俺は弓弦の腕を引き寄せて、身体を屈めさせて耳元で呟く。
「帰ってsexしよ。」
「………え?」
「sexしよ。早くシたい。」
手を離すと、驚いた表情で俺を見ている弓弦が目に入った。
「え、ど、どうしたの?」
珍しくしどろもどろになっている。いつも自分から仕掛けてくるくせに、俺が言ったらこんなに戸惑うのか。可笑しい。
「ははっ、……いいから。早く帰ろう。」
俺は弓弦の家への道を先頭切って歩いていく。少し遅れて弓弦が隣に並んだ。
「……雪雄。何かあった?」
「α様にはわかんねえ事だよ。」
飛翔の言葉が頭を過ぎり、突き放す言い方をした。別にいい。弓弦もβの俺なんかただの暇つぶしだし、俺が利用しても悪いことなんてない。
頭の中を空っぽにしたくて、早く快感だけで埋めて欲しかった。就活しなくちゃいけないけど、今日はいいや。明日やる。
家に着いて玄関先で投げ捨てるように靴を脱ぐと、弓弦の手を引いて寝室に向かった。そして俺から初めてキスをすると、エメラルドの瞳が日光に当たり、宝石のような輝きを放つ。
「雪雄……っ!」
「んっ!」
ベッドに押し倒されると、齧り付くように深いキスに変化する。ねっとりと舌が絡まり合い、硬めの黒髪を前から後ろに撫でられるように触られながら、もう片方の手で服が脱がされていく。あっという間にお互いに全裸になり、撫でられるように身体を触られると、気持ち良さの波がじわじわと襲ってくる。
「ふっ……、ん、……んあ……っ、あ」
「ああ……、俺に触って欲しそうに、乳首が一生懸命立ってる。いっぱい可愛がってあげるね。」
「んんっ、……あ、あっ」
最近は乳首で気持ち良さを感じるようになってきた。舌で転がしたり、爪を立てて押し込むように弄られると思わず声が出てしまう。そして胸と共に口の中や、耳の中を舌で蹂躙されると、思考はじわじわと低下していく。
「はっ、あ、ああ……っ、」
「……耳も、大分感じるようになったね。」
「んあっ」
ぴちゃぴちゃと鼓膜に響く水音と艶のある声が耳を犯す。もう片方の耳も産毛を指で擽くすぐるように触ってくるのが気持ちいい。
上半身の愛撫だけで俺はすでにペニスからトロトロと先走りが出て硬く反り立っていた。俺のペニスを愛でるような視線で捉えた後、弓弦は抵抗なく口腔内に含み、唾液をたっぷり絡ませて刺激していく。
「あああ……っ、はっ、あ、気持ち……っい」
鈴口から溢れ出るカウパーを舐め取られ、陰嚢をやわやわと揉まれるように触られると、俺は快感を求めて自然と腰を前後に揺らす。
「ふふ……、かわいい……。」
弓弦が咥えながら笑い、その振動がこそばゆくなる。
「こしょばいっ……笑うなっ」
「……ん、だって雪雄可愛いんだもん。」
「……んんっ、」
弓弦は口での愛撫を続けながら、ローションを手に拡げ、蕾の中に指を潜らせた。的確に前立腺を責め立てられながら、蕾は解されていく。毎日使用している場所は、まるで性器のように伸びやかに伸縮し、指を飲み込んでいるのがわかる。ふと視線を下げると、弓弦のペニスも既に天を向いて先走りが滲み出ていた。
「ん……、も、いいから、挿れて。」
「……え、いいの?」
「もう解れただろ。早く。」
「……っ、うん。」
早くしたくて、早く頭の中を空っぽにしたくて、俺が急かすように求めると、弓弦が再び戸惑っているのがわかった。いつものペースで出来ないのだろう。俺自身もいつも流れに身を寄せているだけなのに、求めてしまったことで、あまりsexに没頭出来ない。忘れるために誘ったはずなのに、ちらちらと飛翔の顔が出てくる。本末転倒だ。
「……じゃあ挿れるね。」
「……んん、……あ、あ、ああぁ……っ」
怒張したペニスがゆっくりと挿入される。カリの部分が内壁を押し入るように進んできて、結腸付近まで肉棒が満たす。
「……っ、雪雄の中、熱くて気持ちいい……。」
「……ん、ん……っ、もっと動いて……っ、奥突いて。」
早く何も考えられなくして欲しい。
「……雪雄……。」
心配そうな顔で俺を覗いてくる。早く動いてと言ったのに、ペニスを挿入したまま腰を動かしてくれない。
「……体位変えるよ。」
「え、……わっ!……っんああ!」
ベッドに仰向けに寝ていたのに、身体を起こされて弓弦の上に跨るように座らされた。勿論ペニスは入ったままで、自分の体重で肉棒は更に奥の方へ侵入してくる。
「あ、あ……、深っ、い……っ」
「………雪雄っ。」
「ゆ、ずる……、んんっ、ふ、はぁ……あ」
俺が上に座っているから、弓弦の顔が目線の下にある。弓弦が顔を上げて目を瞑ったので、俺はそれに覆いかぶさるように唇を合わせた。薄く筋肉のついた長い腕が俺を包むこむように抱きしめてくる。
「……この体勢、抱きしめながら、奥まで俺で満たせるから好き。」
「あ、あ、あっ、……は、あっ」
弓弦は腰を細かく動かし、内部を刺激してくる。ペニスが前立腺と突き当たりの部分に触れて、快感の波がじわじわと大きくなっていく。
「雪雄可愛いよ……。今日明るいから雪雄の綺麗な顔よく見える。」
「……目、が、おかしい……っ、……っあ、あっ」
「おかしくないよ。だって雪雄は俺の特別だもん。真っ黒な髪も、焦茶色の瞳も、柔らかい肌も、ツンケンするこの口も大好きだよ。」
「ん、あっ、あっ、馬鹿じゃ……ああっ、ねぇの……っ」
歌うように次々と出てくるいつもの戯言。
俺は快感の強さに比例して、弓弦を抱きしめる腕に力を込めた。そして弓弦は俺の力に比例して、強く、しっかりと抱きしめ返してくる。
とろり。
身体は隙間なく密着して、弓弦の体温が俺に伝播し、同じ体温になる。
汗も混じり合い、唾液も混じり合っていく。
「……雪雄、好きだよ……。ずっと愛してるから。」
愛の囁きが耳に届き、視界には金色の髪が広がる。内部のペニスもひどく怒張して隙間なく俺の中を満たしている。
とろり。とろり。
「……ああ、俺のペニスが雪雄に種付けしたいって脈打ってるよ。」
「あ、あっあっ、ん、んっ……ん」
ガツガツ動かないゆっくりと快感を引き出す仕方は、ぬるま湯に浸かっているようだった。快感の強さが足りない。もっと、忘れるぐらいもっと欲しい。
とろり。とろり。
「……っん、弓弦っ……。もっと激しく動いてよ……っ。」
俺を優しく触ってくる指も緩い腰の動きも、いつも通り。でも今日は最初に身体を繋げた時のような激しくて何も考えられないsexがしたくて堪らない。
とろり。とろり。ズキン。
「駄目。今日の雪雄はデロデロに甘やかしたい。ほら、いっぱい泣いていいから。」
「……は?」
弓弦は腰の動きを止めて、指で俺の目尻を拭う。その指は濡れていて、知らないうちに涙出てたのかと気づく。
とろり。ズキン。ズキン。
「雪雄、最近泣いてなかったのにな……。ご飯の時も楽しそうだったよね?その後何かあったの?俺は雪雄の辛い事も、楽しい事も、俺が全部受けとめたいんだ。運命の番なんだから。」
「…………っ。」
いつもの戯言。
一時的に熱されただけの愛の言葉。
わかっているのに勘違いしそうになる。
優しい手が触れていく。凍った心がジワリジワリと溶けていき、胸の痛みを感じてくる。温かい。汗がしょっぱい。甘いムスクの香りが鼻腔を刺激し、息づかいが耳に届く。
『運命の番なんて馬鹿な事言うな』なんていつものように言うことができなかった。
ズキン。ズキン。
「ふ……っう、……く、ぅ……」
流れた涙は弓弦の顔へ落ちていく。
「雪雄……。好きだよ。大好き。」
「……痛くなかったのに、……うっ、弓弦のせいで痛くなってきた……っ。」
ズキン。ズキン。ズキン。
「……俺が痛くさせたの?」
「……そうだよ。……っひく、お前のせいだ。」
さっきまで、痛くなかったのに弓弦が抱きしめてきたり、俺を好きだと言ったりして温めるから痛みが再発したんだ。冷えて固まって、痛みなんか感じなかったのに。
「何で俺のせい?」
「αは……っ、運命の、番……ぅ、ばっかり言うからだ……っ!お前、も……っ、ただのβに、嘘言うな……っ。」
飛翔も弓弦も運命の番ばっかり。蚊帳の外の俺が何でこんなにも沢山耳にして、傷つかないといけないんだ。弓弦も一時的な感情だけで振り回さないで欲しい。俺は忘れるために利用しているのに、思い出させるのならこんなsexは無意味だ。
「αはってことは……。ああ…。暁君に何か言われたんだ?なんて言われたの?」
「……ううっ、お前も同じ考えだろ!もう思い出したくない!」
「言えって。」
「嫌だ!」
「雪雄、言って。アナルうずうずしてるんでしょ?言わないならずっとこのままだよ。」
「………っ」
ペニスの脈動は感じるが、動きがないので指摘された途端、忘れていたむず痒さを自覚する。自慰するなんて言ってもさせてくれないだろう。こうやって言い合いになったら、どうせ自分が折れないといけない。
「……運命の番は……唯一無二の存在……っ、で、恋愛の概念なく惹かれ合う……。魂が求め合うから……って。」
改めて口に出すと胸がズキズキと痛んできた。そして目の前のαもこれに同意するんだろう。俺には綺麗事なんて言う奴じゃないから、本心で、更に俺を追い詰めるんだ。
「……馬鹿だなあ。そんな事で泣いてるの?そんなの盛りのついたそこら辺の犬と一緒じゃん。」
「…………え。」
予想に反した答えに俺は唖然としながら、しっかりと弓弦と顔を合わせた。弓弦は涙を拭き、垂れた鼻水も一緒に拭った。俺の顔は泣いて相当醜いはずだが、弓弦の目には愛しさが滲み出ている。
「本能で惹かれ合うなんて、三大欲求の性欲に忠実なだけだ。人間じゃない。退化してるよ。ただの猿だ。」
「……猿。」
「うん。運命の番ってのは愛する人を一生繫ぎ止める事の出来る、人間で唯一の強固な鎖の事だよ。αが使える魅力的な機能だ。番にしたら俺がいないと生きていけないんだから。折角そんな便利な機能があるのに、本能で選ぶなんて勿体ない。自分の意思で決めるべきだよ。」
「……何だそれ。運命の番は魂で惹かれ合うんだろ?」
「そう言ってるのはさ、統計が出ないぐらい少ない連中なんだよ。絶対数が少ない。そんな少ない情報の中で、更に本人達しか解らないとなれば、科学的根拠のない感覚じゃないか。そんなのよりも、俺は自分で運命を選ぶ。運命を感じたのは雪雄だ。だから俺の運命の番は雪雄なんだよ。」
「な、何なのお前……。」
すらすらと出てくる言葉に、涙は更に溢れて頬を濡らしていく。
弓弦は運命の番に出会ってないからそんな風に言えるんだろう。こいつも出会ったら、飛翔のような考えになるはずだって予想できる。
でも。
好きでもない弓弦の言葉の方がしっくりきていた。そして飛翔に言って欲しかった言葉まで言ってきた。いつも強引で、俺の意思なんか関係なく接するのに、こういう時に限って最もらしい事を言って、気持ちを揺さぶってきて悔しい。
「……弓弦は馬鹿だ。」
「雪雄よりは頭いいよ?」
「っるせえ。そういうことじゃない。」
「さっきよりいっぱい泣いてるね。あ、俺の言葉に感動した?そっか。俺が泣かせた涙なんだ?それならいいな……。ああ……ゾクゾクする……。もっと泣いて。俺に全部飲ませて。」
「……キモい。それより早く動け!」
胸を軽くど突いて腰を揺すると、弓弦は呻いて俺の顔を両手で挟んでキスをする。
「雪雄愛してるよ。」
「……はいはい。」
「今日はめちゃくちゃ甘やかすからね。」
「嫌だ。いつもと同じでいい。」
sexで何も考えないようになりたかったのに、話したことで胸のつっかかりが取れている。もう忘れられるような激しいのも、ドロドロに甘いのもいらない。お腹いっぱいだ。
「男に二言はないから。」
「いや、いいって……んあっ!馬鹿っ……!急に……んあ、あっ、あっ!……ふ、んあっ、ああっ!」
急な動きで結腸付近を何度も突いてきて勝手に嬌声が出る。へたれていた自分のペニスはすぐに元気を取り戻し、筋肉のない腹の上をペチペチと跳ねてカウパーが糸を引く。前立腺も擦られて堪らなくて、身体がぷるぷると痙攣しながら蕾を収縮させる。
「ああ……、いいね。上手だよ、雪雄。」
眉間に皺を寄せて笑ってる顔は、相変わらずイケメンだった。
「……ねぇ、俺の名前いっぱい呼んで。雪雄に呼ばれるとすごく幸せなんだ。」
耳元で甘えた声で囁いてくる。快感に弱い俺はずぶずぶと気持ち良さに溺れていくと、相手の名前を何度も呼ぶ。
「ん、んあっ、ゆ、ずる…っ、弓弦……っああっ」
「雪雄、雪雄……、好きだよ……っ、愛してる…」
弓弦は日頃からよく俺の名前を呼んでくるけど、今まで何も感じなかった。でも今日は胸に染みていくような感覚を覚える。喉が渇いて水を飲んだ時に、スッと身体を巡っていくような感覚と似ていた。
「……っ、雪雄、イクよ……っ」
「ふっ、は、はっ、んああっ!あっ、ああっ!」
好きでもない奴だけど、悪い奴じゃない。友達でも恋人でもないけれど、俺の本音を話しても大丈夫な奴。
弓弦のせいで辛いことも沢山あるけれど、弓弦のおかげで救われてることもあって、俺はこの関係が終わっても友達として付き合えたらいいなと初めて思った。遠慮なく向き合える存在は貴重だ。
でも別れる時は俺に興味を失くすときだろう。そう思うと悲しくて、離れていかないように、整った目の前の身体に縋りつき、俺は熱を吐き出した。
「雪雄……っ、待たせたね。」
少し息が上がっていて走ってきたのだろう。俺を見て嬉しそうに微笑んでいる顔を見たら、余分な力が抜けていき、身体が緩んできた。
「まだ夕食には早いね。どっか寄ってく?」
普段は夜しか会わないので、明るい時間に学校の外で会うのが嬉しいみたいだ。でも俺は弓弦の腕を引き寄せて、身体を屈めさせて耳元で呟く。
「帰ってsexしよ。」
「………え?」
「sexしよ。早くシたい。」
手を離すと、驚いた表情で俺を見ている弓弦が目に入った。
「え、ど、どうしたの?」
珍しくしどろもどろになっている。いつも自分から仕掛けてくるくせに、俺が言ったらこんなに戸惑うのか。可笑しい。
「ははっ、……いいから。早く帰ろう。」
俺は弓弦の家への道を先頭切って歩いていく。少し遅れて弓弦が隣に並んだ。
「……雪雄。何かあった?」
「α様にはわかんねえ事だよ。」
飛翔の言葉が頭を過ぎり、突き放す言い方をした。別にいい。弓弦もβの俺なんかただの暇つぶしだし、俺が利用しても悪いことなんてない。
頭の中を空っぽにしたくて、早く快感だけで埋めて欲しかった。就活しなくちゃいけないけど、今日はいいや。明日やる。
家に着いて玄関先で投げ捨てるように靴を脱ぐと、弓弦の手を引いて寝室に向かった。そして俺から初めてキスをすると、エメラルドの瞳が日光に当たり、宝石のような輝きを放つ。
「雪雄……っ!」
「んっ!」
ベッドに押し倒されると、齧り付くように深いキスに変化する。ねっとりと舌が絡まり合い、硬めの黒髪を前から後ろに撫でられるように触られながら、もう片方の手で服が脱がされていく。あっという間にお互いに全裸になり、撫でられるように身体を触られると、気持ち良さの波がじわじわと襲ってくる。
「ふっ……、ん、……んあ……っ、あ」
「ああ……、俺に触って欲しそうに、乳首が一生懸命立ってる。いっぱい可愛がってあげるね。」
「んんっ、……あ、あっ」
最近は乳首で気持ち良さを感じるようになってきた。舌で転がしたり、爪を立てて押し込むように弄られると思わず声が出てしまう。そして胸と共に口の中や、耳の中を舌で蹂躙されると、思考はじわじわと低下していく。
「はっ、あ、ああ……っ、」
「……耳も、大分感じるようになったね。」
「んあっ」
ぴちゃぴちゃと鼓膜に響く水音と艶のある声が耳を犯す。もう片方の耳も産毛を指で擽くすぐるように触ってくるのが気持ちいい。
上半身の愛撫だけで俺はすでにペニスからトロトロと先走りが出て硬く反り立っていた。俺のペニスを愛でるような視線で捉えた後、弓弦は抵抗なく口腔内に含み、唾液をたっぷり絡ませて刺激していく。
「あああ……っ、はっ、あ、気持ち……っい」
鈴口から溢れ出るカウパーを舐め取られ、陰嚢をやわやわと揉まれるように触られると、俺は快感を求めて自然と腰を前後に揺らす。
「ふふ……、かわいい……。」
弓弦が咥えながら笑い、その振動がこそばゆくなる。
「こしょばいっ……笑うなっ」
「……ん、だって雪雄可愛いんだもん。」
「……んんっ、」
弓弦は口での愛撫を続けながら、ローションを手に拡げ、蕾の中に指を潜らせた。的確に前立腺を責め立てられながら、蕾は解されていく。毎日使用している場所は、まるで性器のように伸びやかに伸縮し、指を飲み込んでいるのがわかる。ふと視線を下げると、弓弦のペニスも既に天を向いて先走りが滲み出ていた。
「ん……、も、いいから、挿れて。」
「……え、いいの?」
「もう解れただろ。早く。」
「……っ、うん。」
早くしたくて、早く頭の中を空っぽにしたくて、俺が急かすように求めると、弓弦が再び戸惑っているのがわかった。いつものペースで出来ないのだろう。俺自身もいつも流れに身を寄せているだけなのに、求めてしまったことで、あまりsexに没頭出来ない。忘れるために誘ったはずなのに、ちらちらと飛翔の顔が出てくる。本末転倒だ。
「……じゃあ挿れるね。」
「……んん、……あ、あ、ああぁ……っ」
怒張したペニスがゆっくりと挿入される。カリの部分が内壁を押し入るように進んできて、結腸付近まで肉棒が満たす。
「……っ、雪雄の中、熱くて気持ちいい……。」
「……ん、ん……っ、もっと動いて……っ、奥突いて。」
早く何も考えられなくして欲しい。
「……雪雄……。」
心配そうな顔で俺を覗いてくる。早く動いてと言ったのに、ペニスを挿入したまま腰を動かしてくれない。
「……体位変えるよ。」
「え、……わっ!……っんああ!」
ベッドに仰向けに寝ていたのに、身体を起こされて弓弦の上に跨るように座らされた。勿論ペニスは入ったままで、自分の体重で肉棒は更に奥の方へ侵入してくる。
「あ、あ……、深っ、い……っ」
「………雪雄っ。」
「ゆ、ずる……、んんっ、ふ、はぁ……あ」
俺が上に座っているから、弓弦の顔が目線の下にある。弓弦が顔を上げて目を瞑ったので、俺はそれに覆いかぶさるように唇を合わせた。薄く筋肉のついた長い腕が俺を包むこむように抱きしめてくる。
「……この体勢、抱きしめながら、奥まで俺で満たせるから好き。」
「あ、あ、あっ、……は、あっ」
弓弦は腰を細かく動かし、内部を刺激してくる。ペニスが前立腺と突き当たりの部分に触れて、快感の波がじわじわと大きくなっていく。
「雪雄可愛いよ……。今日明るいから雪雄の綺麗な顔よく見える。」
「……目、が、おかしい……っ、……っあ、あっ」
「おかしくないよ。だって雪雄は俺の特別だもん。真っ黒な髪も、焦茶色の瞳も、柔らかい肌も、ツンケンするこの口も大好きだよ。」
「ん、あっ、あっ、馬鹿じゃ……ああっ、ねぇの……っ」
歌うように次々と出てくるいつもの戯言。
俺は快感の強さに比例して、弓弦を抱きしめる腕に力を込めた。そして弓弦は俺の力に比例して、強く、しっかりと抱きしめ返してくる。
とろり。
身体は隙間なく密着して、弓弦の体温が俺に伝播し、同じ体温になる。
汗も混じり合い、唾液も混じり合っていく。
「……雪雄、好きだよ……。ずっと愛してるから。」
愛の囁きが耳に届き、視界には金色の髪が広がる。内部のペニスもひどく怒張して隙間なく俺の中を満たしている。
とろり。とろり。
「……ああ、俺のペニスが雪雄に種付けしたいって脈打ってるよ。」
「あ、あっあっ、ん、んっ……ん」
ガツガツ動かないゆっくりと快感を引き出す仕方は、ぬるま湯に浸かっているようだった。快感の強さが足りない。もっと、忘れるぐらいもっと欲しい。
とろり。とろり。
「……っん、弓弦っ……。もっと激しく動いてよ……っ。」
俺を優しく触ってくる指も緩い腰の動きも、いつも通り。でも今日は最初に身体を繋げた時のような激しくて何も考えられないsexがしたくて堪らない。
とろり。とろり。ズキン。
「駄目。今日の雪雄はデロデロに甘やかしたい。ほら、いっぱい泣いていいから。」
「……は?」
弓弦は腰の動きを止めて、指で俺の目尻を拭う。その指は濡れていて、知らないうちに涙出てたのかと気づく。
とろり。ズキン。ズキン。
「雪雄、最近泣いてなかったのにな……。ご飯の時も楽しそうだったよね?その後何かあったの?俺は雪雄の辛い事も、楽しい事も、俺が全部受けとめたいんだ。運命の番なんだから。」
「…………っ。」
いつもの戯言。
一時的に熱されただけの愛の言葉。
わかっているのに勘違いしそうになる。
優しい手が触れていく。凍った心がジワリジワリと溶けていき、胸の痛みを感じてくる。温かい。汗がしょっぱい。甘いムスクの香りが鼻腔を刺激し、息づかいが耳に届く。
『運命の番なんて馬鹿な事言うな』なんていつものように言うことができなかった。
ズキン。ズキン。
「ふ……っう、……く、ぅ……」
流れた涙は弓弦の顔へ落ちていく。
「雪雄……。好きだよ。大好き。」
「……痛くなかったのに、……うっ、弓弦のせいで痛くなってきた……っ。」
ズキン。ズキン。ズキン。
「……俺が痛くさせたの?」
「……そうだよ。……っひく、お前のせいだ。」
さっきまで、痛くなかったのに弓弦が抱きしめてきたり、俺を好きだと言ったりして温めるから痛みが再発したんだ。冷えて固まって、痛みなんか感じなかったのに。
「何で俺のせい?」
「αは……っ、運命の、番……ぅ、ばっかり言うからだ……っ!お前、も……っ、ただのβに、嘘言うな……っ。」
飛翔も弓弦も運命の番ばっかり。蚊帳の外の俺が何でこんなにも沢山耳にして、傷つかないといけないんだ。弓弦も一時的な感情だけで振り回さないで欲しい。俺は忘れるために利用しているのに、思い出させるのならこんなsexは無意味だ。
「αはってことは……。ああ…。暁君に何か言われたんだ?なんて言われたの?」
「……ううっ、お前も同じ考えだろ!もう思い出したくない!」
「言えって。」
「嫌だ!」
「雪雄、言って。アナルうずうずしてるんでしょ?言わないならずっとこのままだよ。」
「………っ」
ペニスの脈動は感じるが、動きがないので指摘された途端、忘れていたむず痒さを自覚する。自慰するなんて言ってもさせてくれないだろう。こうやって言い合いになったら、どうせ自分が折れないといけない。
「……運命の番は……唯一無二の存在……っ、で、恋愛の概念なく惹かれ合う……。魂が求め合うから……って。」
改めて口に出すと胸がズキズキと痛んできた。そして目の前のαもこれに同意するんだろう。俺には綺麗事なんて言う奴じゃないから、本心で、更に俺を追い詰めるんだ。
「……馬鹿だなあ。そんな事で泣いてるの?そんなの盛りのついたそこら辺の犬と一緒じゃん。」
「…………え。」
予想に反した答えに俺は唖然としながら、しっかりと弓弦と顔を合わせた。弓弦は涙を拭き、垂れた鼻水も一緒に拭った。俺の顔は泣いて相当醜いはずだが、弓弦の目には愛しさが滲み出ている。
「本能で惹かれ合うなんて、三大欲求の性欲に忠実なだけだ。人間じゃない。退化してるよ。ただの猿だ。」
「……猿。」
「うん。運命の番ってのは愛する人を一生繫ぎ止める事の出来る、人間で唯一の強固な鎖の事だよ。αが使える魅力的な機能だ。番にしたら俺がいないと生きていけないんだから。折角そんな便利な機能があるのに、本能で選ぶなんて勿体ない。自分の意思で決めるべきだよ。」
「……何だそれ。運命の番は魂で惹かれ合うんだろ?」
「そう言ってるのはさ、統計が出ないぐらい少ない連中なんだよ。絶対数が少ない。そんな少ない情報の中で、更に本人達しか解らないとなれば、科学的根拠のない感覚じゃないか。そんなのよりも、俺は自分で運命を選ぶ。運命を感じたのは雪雄だ。だから俺の運命の番は雪雄なんだよ。」
「な、何なのお前……。」
すらすらと出てくる言葉に、涙は更に溢れて頬を濡らしていく。
弓弦は運命の番に出会ってないからそんな風に言えるんだろう。こいつも出会ったら、飛翔のような考えになるはずだって予想できる。
でも。
好きでもない弓弦の言葉の方がしっくりきていた。そして飛翔に言って欲しかった言葉まで言ってきた。いつも強引で、俺の意思なんか関係なく接するのに、こういう時に限って最もらしい事を言って、気持ちを揺さぶってきて悔しい。
「……弓弦は馬鹿だ。」
「雪雄よりは頭いいよ?」
「っるせえ。そういうことじゃない。」
「さっきよりいっぱい泣いてるね。あ、俺の言葉に感動した?そっか。俺が泣かせた涙なんだ?それならいいな……。ああ……ゾクゾクする……。もっと泣いて。俺に全部飲ませて。」
「……キモい。それより早く動け!」
胸を軽くど突いて腰を揺すると、弓弦は呻いて俺の顔を両手で挟んでキスをする。
「雪雄愛してるよ。」
「……はいはい。」
「今日はめちゃくちゃ甘やかすからね。」
「嫌だ。いつもと同じでいい。」
sexで何も考えないようになりたかったのに、話したことで胸のつっかかりが取れている。もう忘れられるような激しいのも、ドロドロに甘いのもいらない。お腹いっぱいだ。
「男に二言はないから。」
「いや、いいって……んあっ!馬鹿っ……!急に……んあ、あっ、あっ!……ふ、んあっ、ああっ!」
急な動きで結腸付近を何度も突いてきて勝手に嬌声が出る。へたれていた自分のペニスはすぐに元気を取り戻し、筋肉のない腹の上をペチペチと跳ねてカウパーが糸を引く。前立腺も擦られて堪らなくて、身体がぷるぷると痙攣しながら蕾を収縮させる。
「ああ……、いいね。上手だよ、雪雄。」
眉間に皺を寄せて笑ってる顔は、相変わらずイケメンだった。
「……ねぇ、俺の名前いっぱい呼んで。雪雄に呼ばれるとすごく幸せなんだ。」
耳元で甘えた声で囁いてくる。快感に弱い俺はずぶずぶと気持ち良さに溺れていくと、相手の名前を何度も呼ぶ。
「ん、んあっ、ゆ、ずる…っ、弓弦……っああっ」
「雪雄、雪雄……、好きだよ……っ、愛してる…」
弓弦は日頃からよく俺の名前を呼んでくるけど、今まで何も感じなかった。でも今日は胸に染みていくような感覚を覚える。喉が渇いて水を飲んだ時に、スッと身体を巡っていくような感覚と似ていた。
「……っ、雪雄、イクよ……っ」
「ふっ、は、はっ、んああっ!あっ、ああっ!」
好きでもない奴だけど、悪い奴じゃない。友達でも恋人でもないけれど、俺の本音を話しても大丈夫な奴。
弓弦のせいで辛いことも沢山あるけれど、弓弦のおかげで救われてることもあって、俺はこの関係が終わっても友達として付き合えたらいいなと初めて思った。遠慮なく向き合える存在は貴重だ。
でも別れる時は俺に興味を失くすときだろう。そう思うと悲しくて、離れていかないように、整った目の前の身体に縋りつき、俺は熱を吐き出した。
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(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
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