ブレイブストーリー～魔王が死んで数十年後の世界で無能力者の少女が一匹の小さな生き物と出会い勇者を目指す話～

第６４話 ２回戦の相手

カエデは目を覚まし、静かな楽屋の中で穏やかな陽射しが差し込むのを感じた。
体にのしかかる疲れが取れ、やや心地よい感覚に包まれながら、彼女は時計に目を向ける。まだ午前中の早い時間帯を示していた。

ゆっくりと起き上がると、カエデはそのまま大きく伸びをした。
身体が心地よい反発で弾かれ、こわばっていた筋肉がほぐれていくのがわかる。
昨夜はぐっすりと寝てしまったようだ。
昨日の出来事から時間が経ったことで、気持ちが少し楽になっていたことを感じ取った。

ふと、横を見ると、アーサーが今日も元気そうに楽屋の中をうろうろしていた。
彼のオレンジ色の毛が、陽の光を浴びて輝いている。
小さく柔らかい足音がパタパタと響き、彼が嬉しそうに動き回っている光景にカエデも思わず微笑んでしまう。

カエデの動きに気づくと、アーサーは目を輝かせて近づいてきた。「おはよーカエデ！元気出たねー」と、
彼は柔らかい声で、まるで春の小川の流れのようにカエデに声をかける。

「おはよう、アーサー！」カエデはその笑顔に元気づけられ、自然と自分の表情も明るくなる。

「今日もまた戦いだねー楽しみだねー」
アーサーはのんきにそうカエデに声をかける。

「そうか…今日は2回戦か」とカエデは既に開いた窓から差し込む柔らかな朝日の中でつぶやいた。

「誰と戦うんだろうねー」と、アーサーが隣で問いかけた。
彼はその小さな体をパタパタと動かし、興味津々の表情を浮かべている。

そういえば、あれからずっと楽屋にこもっていたため、次の対戦相手が誰になったか知らない。
少しだけ不安が広がる。

その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
カエデはびっくりしたように振り返り、その音に注意を向ける。
「誰だろう？」少し警戒しながら扉の先に意識を向ける。

「入っていいかしら」と聞き覚えのある女性の声が返ってきた。
カエデはその瞬間に心がほっとした。急いで扉を開くと、その先に待っていたのはクリームだった。

銀色の髪を軽やかに揺れる。
クールでミステリアスな雰囲気をまとい、その表情からも何を考えているかわからない。

「クリーム！おはよう」カエデはクリームに元気にあいさつをする。

「久しぶり――でもなかったみたいね。予選ぶりだね。あの時はありがとうね。」クリームは微笑みながらカエデに話しかけた。
彼女の銀色の髪が光を受けて輝き、白い肌が際立った。無表情ながらも、その言葉には温かな優しさがあふれている。

「うん！二人とも突破できてよかったね！」カエデの目が嬉しさに輝き、心の中の不安が少し緩んでいく。
久しぶりにちゃんと会話するクリームが、彼女のきもちを明るくした。

「予選ではカエデちゃんにかっこ悪いところ――見せちゃったわね…。」クリームが少しシュンとした表情を見せる。
その言葉を聞いたカエデは、すぐに彼女を励ます。

「ううん、いっぱいロボット倒しててかっこよかったよー」と、カエデは素直に感想を伝える。
思わずその光景が思い出され、観る者を圧倒する力強さに感動したことが蘇ってきた。

「ありがとう。それでね、今来たのは、今日の試合の挨拶をしとこうと思って――」
クリームは試合を前にした緊張感を感じているのか、改まった口調で続けた。

「クリームも勝ったんだ！よかったー」と、カエデは心から喜びを伝える。
仲間の快進撃を嬉しく思いながら彼女の心が高鳴る。
しかし、同時にカエデは思い出した。「――そっか次当たるのはクリームか。」トーナメント的に対戦が決まっていることに、少しの緊張が走った。

「――うん、そういうこと。だから今日はよろしくね！カエデちゃんに、もうかっこ悪いところは見せられないし、悪いけど次勝つのは私だから！」
クリームの言葉には決意が感じられ、カエデの中で更なる闘志が燃え上がる。

「私も負けないから！」カエデは力強く応じ、横にいるアーサーも大きく頷いて
「うんうん！」と続けた。

「――元気そうでよかった」と、少しクリームは表情を和らげた。

「じゃあまたね」と言い去るクリームの姿を見送りながら、カエデの心には試合に向けて決意がみなぎった。



「よーし！頑張るぞ！！」カエデは改めて気持ちを引き締める。

「おー！」アーサーも元気よく叫び、ふたりは2回戦に向けて気合を入れ直した。