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少年は、山頂へ至った。体はボロボロである。
その山頂は、恐ろしく暗く、そして寒かった。
これが、苦労の果ての、結末なのか、と少年は落胆の色を隠せないでいた。
山頂には風を遮るものがなく、冷たい風はそのまま少年に吹き付ける。その風は少年をねぎらう訳でもなく、ただ吹き付けてくる。
強風によろけ、少年はその場にしりもちをつく。
どこを見上げても闇。振り返れば、ただ暗闇の山道が口を開けているだけ。
森にいた時よりも明確な孤独に、少年は泣くこともなく、うずくまってしまう。
聞こえるのは風の音。しかし、次第に風の音は聞こえなくなってくる。それに伴って、意識も遠のいてくる。まるで、何もかもが暗闇に溶けて、なくなってしまうかのように。
誰の声も、もはや届かない。暗闇に少年一人。
父の言葉も、薄れてきた。幸せとは、何だろう。僕は、誰だろう。
辛いことの先には、必ず、おもちゃやお菓子や、本が待っていた。両親がご褒美として買い与えてくれていたのである。しかし、いずれにせよ、少年は一人であった。おもちゃで遊ぶにも、お菓子を食べるにも、本を読むにも、一人であった。
ああ、父さん母さん。なんで僕は一人なんだろう。
嘆けば嘆くだけ、少年は暗闇と同化していく。
しかし、明けない夜はない。
地平線の向こうから、夜の終わりを告げるように、太陽が昇り始めてきていた。
地平線から顔を出した太陽は、暗闇の街を、森を、そして山を照らす。山頂も例外なく照らし、そこで俯く少年も照らす。少年はぬくもりに気づき、頭を上げる。
飛び込んできたのは、素晴らしい朝焼けだった。
遮るもののない山頂からは、高台の病院も見える。そこから、山頂まで、少年が歩んできた道のりが、すべて見える。
ああ。無駄じゃなかったんだ。僕は、あの道を歩いてきたんだ。だから僕はここにいるんだ。と、少年は自分の苦労が報われたように感じる。
遮るもののない山頂をぐるりと見渡すと、見たことのない景色が眼下に広がっていた。
知らない街。知らない川。知らない山。広がる海に浮かぶ未知の島。
「ああ!世界はこんなに広いのか!」
少年は感動し、涙を流す。その涙は、言うまでもなく、今までのものとは違う。
少年は、目を閉じる。太陽のぬくもりを感じながら。吹き付ける強風にも、太陽のぬくもりを感じながら。
ここで、深呼吸を一つ。
山頂は晴れて、聳える。少年の心は、静かなり。
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