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第壱章  循環多幸  壱之怪

第29話 露出が高い服は刺激的

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 *12


 ローザは大量の人間の死体が、すし詰め状態に押し込められた巨大な半透明のおりを運んでいる。


 いや──運んでいるというよりも、ローザとその巨大な檻には、まるで目にえ無いくさりか何かが連結しているかのように、ローザが歩くと巨大な檻も勝手にズルズルと移動していた。


 しかし困ったぞ。

 あの白衣を着た二人の男性だけなら──いさ知らず……。

 まさか灰玄かいげんの言っていた通り、あのローザが現れるなんて。


 ここで僕が大声を出しても──灰玄が居るであろう上の階まで僕の声が届く前に、ローザに見つかり殺されてしまう。


 それに、忍び足で逃げるとしても、僕は心絵こころえや灰玄のように、完全に音を出さずに歩くことはできない。

 うっかり音を出して、ローザに見つかってしまう危険があるのだ。

 つまり──この場所から一歩も動けなくなってしまった。


 今の僕にできることは、こいつらの会話を盗み聞きすることぐらいだ。


 だが、僕の後ろで一緒に隠れている心絵を見ると、こいつはまゆ一つ動かさず、いたって冷静な表情で、あの異常で残忍な光景を見ている。

 陰陽師にとっても──こんな光景が日常だとでもいうのだろうか……。




 しかし──あの教会の時の、漆黒しっこくの軍服姿では無く、今は私服を着ているので、声を聞き顔を見なければ、ローザだと分からなかっただろう。


 なぜなら、僕の中でのローザのイメージは──規律正しい、お堅い軍服ファッションなのだが。

 目の前のローザの私服は、とてもラフだ。

 しかも、かなり露出ろしゅつが高いラフな私服である。


 はっきり言って──かなりセクシーだ。

 と言うか、超エロい格好である。


 健全な性少年──っじゃない!

 健全な青少年である僕には、刺激が少し強い格好だ。


 あの軍服姿とは、えらい違いである。
 

 そのローザの刺激的な私服は──上半身が、黒くてたけの短いピタッと体にフィットした、ヘソ出しタンクトップに。


 下半身も、これまたピタッとフィットした鼠蹊部そけいぶの辺りまで短く、太腿ふとももがもろ見えのVブイ字型になった、青いデニム生地きじのホットパンツを穿いている。


 まさに──ビキニホットパンツと言った風である。

 と言うか、もう少し遠目から見たら、本当にデニム生地の水着と見間違えるほどだ。


 そして、そのホットパンツの先端は、自分で切ったのか分からないが、乱雑に切れた形だった。

 そんなホットパンツとは対照的に、腰には太くて茶色のベルトを締めていて、やたら頑丈そうなひざ下ぐらいまである、ウッドランド系の迷彩めいさい柄ロングブーツをいている。


 それに、全身の露出度が高いので、軍服姿の時は分からなかったけれど、細身なのだが──かなりきたえている引き締まった筋肉質な体をあらわにしている……が、それよりも、僕の目を奪うものがあるのだ。


 ピタッとしたタンクトップの中にあるものである。

 簡単に説明するなら──ローザは巨乳だった。


 ローザの髪は、その胸を隠せるほどの、背中の真ん中まで届きそうな長髪なのだが。

 長い黒髪を面倒くさそうに、うなじ辺りでくくった一本結びにしているので、胸を隠すものが無い。

 つまり──ローザの巨乳は見事に目立っている。


 そして、白くて大きなヘッドフォンを首にかけているので、黒髪と黒いタンクトップの間にある、そのヘッドフォンは、白さをより際立きわだたせていた。


 だが、逆に悔しいことが一つだけあった。
 
 僕より少し──背が高い……。


 まあきっと、ブーツを履いているから、僕より背が少し高く見えるのだろう。


 しかし──巨乳と同じぐらい目立つものが、左腕にあった。

 以前、あの教会で見た、左腕にグルグル巻きにされた鎖では無い。

 ローザの左腕には、鎖では無く、代わりに大きく目立つ刺青いれずみられていたのだ。

 

 左腕の肩から外側の上腕一面にかけて、でかでかと黒色で彫られた刺青には、鎖で首をった骸骨が──まるで死のダンスをしているような姿で、えがかれている。

 そして、左腕の外側の前腕には、黒色のたて書き英語で、DICEダイスという文字の刺青が大きく彫られていた。


 ちなみに僕は、自慢では無いが英語が苦手である……。

 だが、DICEダイスの意味ぐらいなら分かる。

 サイコロだ。


 サイコロと言えば、ボードゲームやギャンブルをすぐに連想してしまうが、きっとローザはギャンブルが好きなのだろう。

 そんな風な顔をしているし。


 顔と言えば──最初にローザに出会ったのは暗い教会で、ぼんやりとしていたから、なんとなく容姿が整った小顔にしか見えなかったのだが……。


 これだけ明るい場所でよく視ると──まるでスポーツ選手のように綺麗で健康的な肌色をしていて、宝石のように瑞々みずみずしくんでいる褐色かっしょくの瞳をした、かなりの美人さんである。


 でも──本当に勿体もったい無いよな。

 乱暴な口調と、つり上がってするどく凶暴な目つきをしていなかったら……若い女性ファッション雑誌の表紙を飾るモデルになっても、おかしく無いほどの綺麗なお姉さんなのに……。




 「ったくよー。いつ来ても胸クソ悪いとこだよなーここは。んじゃ、ここに『材料』置いとくぞ。──『リリース』」



 ローザがそう言った瞬間、目の前にあったはずの巨大な檻が、突然消えた。

 そして──巨大な檻の中に、すし詰め状態にされていた人間の死体は、互いに肉塊にくかいと肉塊が、ぶつかり合う悪趣味な音を出しながら落ちていき、コンクリートの床に広がり、死体が山積みになっていく。


 だが、その死体の山よりも、ローザの言った台詞せりふに疑問を感じた。

 僕の聞き間違えでは無い。

 確かに今──ローザは「胸クソ悪いとこ」と、言った。


 ともすると……ローザも僕と同じ感情を、この場所にいだいているのだろうか。

 まあ──本人に直接いてみないと、分からないのだが……。

 そんな勇気は僕には無い!


 しかし凄い数の死体の山だ。


 軽く数百は────ん?

 その死体は、何かがおかしかった。


 僕が山積みにされた死体を、よく視ると……その全ての死体たちの肌は、赤紫色に変色していたのだ。


 人間の死体であることは確かなのだが──あの肌の色は、灰玄にはりつけにされた教会の中で見た、ローザが引き連れてきた無数のゾンビと同じ色をしているぞ。

 明確には、同じ色では無く近い色だ。


 あの教会で見たゾンビたちは、完全に肌の色が紫色だったが。

 目の前の死体たちは、紫色に近い──赤紫色である。


 だが、今はそんなことよりも、一歩も動けなくなってしまった、この状況をどうするのか考えよう。


 ローザは死体を運びに来ただけだ。

 つまりローザは、またすぐに消える可能性が高い。

 まあ、これは僕の都合のいい予想なのだが……。


 なので──今はじっと動かず、ただ静かに様子を見て、ローザがどこかに消えるのを待つしかないのである。

 そして、ローザが消えたらすぐに、こんな危険で薄気味悪い、機械のしつこい振動音と、神経質に回り続けるファンの音がする、この場所からさっさと逃げるのだ。


 それに──ここでじっと待っていれば、すぐに灰玄が来て助けてくれるかもしれないし。
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