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序章

自分が死ぬ夢を見ると、ついつい夢占いでチェックしちゃう

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 宇宙の起源は事象の最果て、無象むしょうなる地点から始まった。

 一つの記憶──肉体──痛覚──感情。

 やがて人形たちは自我を持ち、争いの為に様々な武器や道具を使った。

 そして最後に、おのが肉体を異形な存在へと変えた。

 全てはただ──自身の悦に酔う為だけに。

 人形たちはわらう。

 ただただ、欲を満たさんが為に闘い勝利し狂い嗤う。

 その度に、異能なる力を持つ人形が増えていく。

 泣き叫ぶのは、いつも星々だけだった。

 誰にも聞こえぬ慟哭どうこく

 誰にも見えぬ苦悶くもん

 誰にも認識されず、星々はただ啼哭ていこくする。




 原初いやさきは悲嘆を告げ、大罪と呵責と苦患を産み堕とす。

 最終いやはては憐れみと福音を喚び運び、産み堕とされし全てを浄化し一つに還る。



 ♢ ♢ ♢ ♢



 

 見渡す限りの真っ白な空間が広がっていた。

 そこはまるで極寒の雪景色にも似た、純白で無辺際むへんさいの空間。

 その中に、九条鏡佑くじょうきょうすけたたずんでいた。


 自分がなぜ、このような場所にいるのか理解できるはずも無く──ただ佇立ちょりつしていると──

 辺り一面に数えきれない、無限ともいえる幾多もの歪んだ円形が現出した。

 それは、扉ほどの大きさであり──空間を歪ませて現れた円形であった。


 綺羅星きらぼしを集め、光りだけを吸収したかのように、燦然さんぜんと輝く歪んだ円形。

 その光景を九条鏡佑はただ漠然と眺めるだけだった──が、突如として、眼前に輝き歪んだ円形の空間が広がる。

 輝き歪んだ円形は、無意識に抵抗する九条鏡佑などかえりみず、抗うことなど不可能な力で吸い寄せた。

 そして、九条鏡佑はその円形の空間内に呑み込まれた。




 ♢




 気がつくと、そこは紅蓮の中だった。

 地獄と煉獄の狭間のような場所で、燃え上がる炎と煙に視界を奪われる。


 理解の及ばない現象に身動きが取れずにいると、怒号のような吶喊とっかんが響き渡った。

 九条鏡佑を無視して、眼前を横切る軍勢──だがしかし、その軍勢は、軍と呼ぶには余りに異様な姿である。

 なぜなら、その軍勢の姿がみな、鉄の虚無僧こむそうの集団だったからだ。

 軍隊でも無く、人でも無く、鉄の塊の虚無僧たちは、紅蓮の中枢めがけて駆けて行く。


 鉄の塊たる虚無僧たちが駆けて行った先──それは、業火に苦しむ城のような武家屋敷だった。


 「さぁ燃やせ! 全て灰にしろ! 霆玄ていげん霆真ていしんも亡き今、『てんの流派』など恐るるに足りぬは! 白波旬はくはじゅんなど最早、幻想に過ぎぬ! 父上が受けし積年の痛苦と汚名を今ここにそそぎ、仇を討つのだ!」


 紅蓮の中で、初老の男が怒りに我を忘れながら、まじこった双眸そうぼうで叫び嗤っていた。


 「尭連ぎょうれんよ。貴様の私怨にまで付き合うとは、一言も聞いておらぬが、どういうことだ?」


 白装束しろしょうぞくの女が初老の男に詰問する。
 だが、その詰問に対し、初老の男は不機嫌に大きく鼻を鳴らすだけだった。


 「聞いておるのか? じきに夜明けだ。闇も白んで来た。いくら『呪結石じゅけっせき』で炎を塞き止めようと、陽が昇れば町民共も怪しく思い、幕府の歩兵隊が挙するやもしれん。秘密裏に行うという先の約定を、よもや違える訳ではなかろうな?」


 詰問を続ける白装束の女に、初老の男は業を煮やし憤激しながら返答する。


 「黙れ白崋びゃっか! そんな些末な事など捨て置けばよいのだ! それよりも、この絶景を観よ。天迅門てんじんもん家がいかに強大だとしても、天迅門の血を継ぐ者はもう、わっぱ嬰児えいじの二匹だけだ。そんな小鬼二匹にいったい何ができようか! 今頃は、この煉獄の中で最後の断末魔をあげながら、泣き叫び死んでおるだろう! だが父上が受けた屈辱に比べれば、こんなもの生温いわ! さぁもっとだ、もっと燃えろ! 業火の中で焼け死ぬがいい! 天迅門家のやからを全て根絶やしにしろ!」


 白装束の女は初老の男を見つめ、嘆息し、肚裡とりに思う。

 ──まるで此奴こやつは老いたねずみに怯える腰が抜けた虎だ──


 紅蓮の炎は、ますます勢力を拡大し、ついに九条鏡佑はその業火の中から逃げる事ができなくなった。

 大声で助けを求める九条鏡佑だったが、その声に誰も耳を貸す者はいない。

 誰も九条鏡佑のことが見えていないかのように────



 ────そして、九条鏡佑は断末魔をあげ、業火に焼かれた。



 ♢



 「──ッ!」


 目覚めると、九条鏡佑は自室のベッドの上だった。

 長い長い悪夢から解放され、溜め息をつく。


 「なんだ……夢か……。やけにリアルで変な夢だったな……」


 自分が見た夢の回想をする間も無く、異変に気がつく。

 それは、自室の熱気であった。


 「あれ? 確か昨日は、エアコンの冷房を付けて寝たんだけどな……」


 まだ、眠気半分の目尻をこすりながら、エアコンのリモコンに手を伸ばす。

 そしてリモコンのスイッチを入れたが──反応が無い。

 否、反応はある。

 しかし、部屋の中に届くはずの冷たい風は、生温い送風のみである。

 つまり完全にエアコンとしての機能を失ったのだ。

 九条鏡佑は試しに暖房に設定を変更してスイッチを押したが、結果は同じだった。


 「ちょ、おい……。マジ……かよ……。僕のエアコンが……僕の冷房が……壊れた……」


 失意の中でベッドに倒れる九条鏡佑。


 ふと、自分が倒れたベッドからカレンダーを見ると、夏休みに入る一週間前だった。
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