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帰還

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60階層で待っていたのは土下座する青年とプカァっと浮かぶ発光玉。
それに今までのボス部屋みたいな大広間ではなく後ろに一軒家がそびえ建っている。

周りの目は無いけど居心地が悪い。
未だ土下座を止めない青年に声を掛ける。

「えーと、とりあえず顔を上げて。いきなりこんな事されても理解出来ないです。事情の説明お願いします。」

ようやく上げてくれた顔は恐怖に染まりきっていた。どうして初対面でこんな怖れられているんだ?
折角の美青年ぶりが蒼白させすぎて台無しだ。
どうしたのと手を差し伸べようとしたらビクってビクってされたよ。

落ち込む俺にそれを見て怒るクロコが唸る。

『旦那、この失礼なやつ噛み殺しやすか?』

配下の思考が殺伐とし過ぎ。
とりあえず顎下と頭を撫で撫でして宥めて詳しい事情を聞こう。

「あの、なんで怯えているかは分からないけど、君が何者でどうして土下座しているのかちゃんと教えてくれる?」

「は、はい。僕達は…かくかくしかしかでかくかくのしかしかにしかしかかくかくなんです。」


長かったので省略。
以下にまとめます。

・彼は迷宮の支配人でその側でフラフラしている球体が迷宮の心臓であるコア。
・コアが壊されると迷宮の崩壊、そして彼自身も亡くなってしまう。
・この迷宮は出来てから何十年も不滅で俺達が訪れるまで余裕綽々で過ごしていた。
・そんな暮らしに災厄(俺達)がやって来た。短期間での攻略に加えて最強種と名高いドラゴン達をことごとく殲滅していく。正に悪夢を見ているようだったそうな。
・勝ち目が無い。でも、いよいよ自分達の住処まで来てしまった。

どうしようもない、それで土下座で命乞いしよう。


そして、現在の体勢になりましたとさ。

「……なるほど。それで俺達を見てそんなに怯えていたんですね。」

「は、はい。どうか命だけはお助けを…。」

また土下座になろうとするので止める。

「大丈夫大丈夫、安心して。俺達は敵対されたら対抗するけど無抵抗の相手を殺そうなんて思考は持ち合わせていないから。」

「ほ、本当ですか?」

「うん、本当本当。ただ今後も迷宮に潜りに来てドラゴンとかを討伐するとは思うけど…。」

「それなら問題ありません。ドラゴン等の迷宮で生まれる魔物はまたすぐに発生しますので。」

お金の素が半永久的に生まれる。
迷宮は本当に素晴らしい機関。そんなお金製造機をわざわざ壊す理由が見当たらない。

「だったら、今後も俺が迷宮のコアを破壊することは無いですよ。」

「あ、ありがとうございます!良かった、僕らはまだ生きていられる。」

コアに抱き着いて嬉しそうに喜んでいる。
守りたいこの笑顔じゃないけど、とても壊す気にはなれないね。

これで第一回迷宮探索は終了。

帰りはまた何日も掛けて上へ上がらなければならない。
少し憂鬱な気分に陥っていると、支配人から朗報を頂く。

「あの、付いて来て下さい。こちらに一層の隠し部屋へ繋がる魔法陣がありますので、帰りはそれに乗ってお帰りになると良いですよ。」

壊さない条約を結んだお陰か幾ばくか信頼を得られたようだ。
支配人に案内されて魔法陣の上に立つ。もしかしたら騙されて転移先が奈落の底パターンもありえるけれど、最悪俺達でどうにか対処出来る。

支配人の青年が何か呪文を唱えると、魔法陣が陣に沿って球体同様に青く輝きを放つ。

そして青い光に包まれたその後にはもう支配人達の姿は無く、たたみ4畳くらいの狭い洞穴の中。
ここは一階層の何処かなのだろうか?

『クロコ、ここはあの迷宮の一層?』

『へい。あそこの小さな横穴を這い潜って行けば、最初に入った迷宮の入口に続く道へ出やす。』

なるほど。
どうやらちゃんと送ってくれたらしい。あの魔法陣は消えている。一方通行のようで残念。

クロコの言う通りに横穴を潜って通路に出る。
そして、そのままクロコ犬の案内で入口を目指す。今から迷宮に乗り込もうとしている冒険者達が見える。すれ違いにまたもや訝しげに見られるが今回も無視の方向で。

久しぶりの陽の光。
どこか窮屈だった迷宮空間から解放されて清々しい。


現在、お昼。
先に宿屋を予約して迷宮で手に入れた素材達を売る場所を探そう。
もちろん冒険者ギルドで売る気は無い。絡まれたくないし下手したら素材を相場より安い値段で買い取られる可能性がある。
なので、この街に商会を設けているコロックさんに会って相談しよう。

何か良い方法を教えてくれるかもしれない。


さて、まずは宿屋に行きますか。
前と同じコンゴの宿屋へ。


着いた途端に目が合ったマーロさんにめちゃくちゃ驚かれました。

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