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他所の聖女と異界の勇者
聖女の導き
しおりを挟む勇者を取り巻く環境は想像以上に腐っているようだ。
お兄さんに気になっていたことがもう一つ。
「でも、あのユータって人が勇者だってどうやって分かったのですか?お城の人達がお兄さんみたいな鑑定を使える訳ではないですよね。」
それともあの勇者野郎も鑑定ってのが使えて見たのかな?
「僕等がこの世界へ同時に召喚された時、その光景を見ていた周りの人達は困惑していました。どちらが勇者なのかどちらも勇者なのかと。そんな中で裕太くんがブツブツ独り言を呟いてたかと思えば高らかに俺様が勇者だと宣言したのです。そして、裕太くんにこいつはただの巻き込まれた一般人だと指を差されました。その後の流れは先程話したように追い出されました。」
「………そう。話してくれてありがとう。よく今日まで知らない世界で頑張ったね。生きててくれてありがとう。」
話すうちに涙を流すお兄さんの頭を目一杯撫でる。
久々に血管が切れそう。
ひたすら泣かしてあげて落ち着くのを待つ。
もう一度俺は問いかける。
「お兄さんはこれからどうするの?」
「どうする…ですか?」
「ええ。私に貴方を元の世界に戻す力はございません。ですが、貴方を助けたいと手を伸ばす力はございます。そして、この手を握ってくれるなら私は貴方が生きる為なら協力を惜しみません。」
俺はまだ涙の跡が残り驚いた表情で見つめるお兄さんにそっと手を差し伸べた。
少し唇が震えながらもゆっくりとお兄さんは口を開く。
「……………ぼ、僕はお城から追い出されて鑑定という力に気づいて自分を観ました。その時、他にも表記されていました。それは『聖女の導き』というものでした。それ以上は書かれていなくて、聖女様に伺いたくとも会わして貰えませんでした。誰も振り向いてくれなかった僕に君は……いや貴方様は手を差し伸べてくれるのですか?」
「ええ。」
「僕はその手を取っても良いのでしょうか?」
「ええ、もちろん。」
「あ、あり、ありがとうごじゃいます…。」
頭を撫でるだけでは止まらなくなったお兄さんを俺は宥めるように優しく抱き締めた。年上だろうと泣きたいときはしっかり受け止めてあげないとね。
隣で物欲しそうに指をくわえていたエルドさんは蹴り飛ばしておきました。
とりあえず色々話し合った結果、お兄さんを従者という形で保護することに決定。
お城に連れて行くには丁度良いし本人の申し出でもある。
アルフにもちゃんと説明しないといけないね。
これで本日の長い長い冒険は終了。
お城につく頃にはエルドさんは消えていた。俺も気づかないくらい自然に居なくなった。今後、彼が何を目指しているのか非常に気になりました。
お城に入る時、お兄さんのことでちょっとひと悶着あったけど私は聖女様だぞとらしくないことをしてどうにか切り抜けた。
あまりお城の人達に会いたくないだろうから、俺の部屋で待機しててもらう。
あとはアルフに説明しとくだけ。
幸いアルフ達はすぐに見付かった。
だけど、どうして二人とも顔が血だらけなんだろう?
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