今日も聖女は拳をふるう

こう7

文字の大きさ
上 下
142 / 266
他所の聖女と異界の勇者

アルフ、交渉に行く2

しおりを挟む
勇者野郎に焦らしお断りをされた。

決定。
こんな性根が腐った奴絶対意地でもうちのわんぱく聖女様と戦わせてコテンパンにしてもらってやる。へっへ、その為なら幾らでも頭を下げてやる。

「そんなつれない事を言わないで欲しい。どうかお願い出来ないだろうか?」

地面を見ると幾分か気分も安らぐ。顔を上げてあんな気持ち悪い笑みを向ける奴と目が合えば嘔吐してしまう。

「くふ、異世界最高だな。こんなイケメンですら俺に頭を垂れやがる。」

ん?
なんかまた呟いたな。時折、自分の世界に入って気持ち悪く笑うから本当に気持ち悪い。

「ほっほっほユータ殿、これだけ慈悲を乞うておるのです。お受けして差し上げれば宜しいかと。」

突然の背後からの支援。
これは助かると感謝の気持ちで振り向くもつい顔を歪ませてしまう。ふーギリギリ気付かれなかったようだ。

枢機卿のドワノフ。謁見では明らかに我が国の聖女に不快感を表していた。何処の国にも悲しいかな一定数の貴族至上主義という愚かな者達がいる。見た限りこの男もそうなんだろう。アリスの部屋が物置に使われているような所になったのもおそらくあいつの指示だろう。何故か今はこちらに賛同してくれている、今は憤る心をしっかりと抑えよう。

「ドワノフがそう言うなら…うーん。」

「ここでしっかりとあの娘に慈悲を与えておけば、喜んで夜伽でも従順に奉仕するでしょう。」

こいつ俺達の前でなんて事を言っているんだ?
どんどん苛々が蓄積していく。ノートンなんて剣の柄を持ってぷるぷるしている。
でもふと気配を感じ、枢機卿の後ろにある扉の方を向けば可愛いドレスを着たアリス教筆頭信者が覗いていた。

目が合ったです。
ニタリと笑って怖かったです。

けれど、この勇者と枢機卿の運命が傾いたな、そう思う。だって、あの信者達だもん。泣く子も黙って崇拝させるあの信者達だもん。あれらに目をつけられたら最後。
そう思うとまた心にゆとりがもたらされる。


しばらくうんうんと悩んでいた勇者野郎がようやく口を開く。

「仕方がない。この俺様が優しく指導してやろう。俺様は優しいからな。」

「………ありがとう。我が国の聖女も大層喜んで下さることでしょう。」

それから枢機卿も交えて軽い打ち合わせ。
手合わせは2日後。
場所は交流会前日で空いている兵士たちが使う練習場。

「勇者殿、ドワノフ殿、この度の我儘を聞いて下さり誠にありがとうございます。」

「ふん、しっかりと俺様に感謝するんだぜ。」

「ほっほっほ、ユータ殿は本当に優しいですなぁ。」

俺は笑みを貼り付けてこの場を後にした。
ぶち。

ふーなんとか退出するまで血管破裂を我慢出来た。
はっはっは、ノートンも顔血だらけだな。

お互いに血塗れの顔を指差して笑い、我らが聖女様に俺達の成果を報告しに行くのであった。


妹と聖女からよくやったと頭を撫で撫でしてもらいました。心が洗われました。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

処理中です...