89 / 266
巡礼と唸る拳
元凶は何処へ
しおりを挟むあんなに沢山俺達に会いに来てくれた獲物達はもう遠い彼方へと逝ってしまった。
俺は全然相手をしてやれなかった、ごめんよ。
俺が倒したのは奇跡的に軍勢から零れてきた一匹のゴブリンだけ。
申し訳程度に護衛達がご招待してくれたこの子のみ。
弱いものいじめ感が否めなかったので、すぐに逝ってもらったよ。
それ以外は治療。ずっと治療治療。
あとは無視して退治に行ったノートンを恨みったらしく睨んでいただけ。
ノートン、目を逸らさないで。
色々不満の残る戦いだけれど誰も欠けることなく乗り切ることが出来た。
でも、疑問が残る。
そうどうして突如としてこんなにも魔物がこの町を集中して襲ってきたか。
俺がうんうんと思考の海に潜っていると、ノートン率いる護衛と衛兵達それとヤルタ住民兼歴戦の猛者勢が戻って来た。
「アリス様、戻ってまいりました。みな無事でございます。」
好戦的信者達が褒めて褒めてと言わんばかりにこちらを見つめてくる。まるで尻尾をブンブン振ってご主人様を出迎えるわんこのよう。
ちょっとだけ息が零れる。
「私は嬉しいです。誰も怪我することなくもう一度皆様方と再会出来たことに。ありがとう、生き残ってくださりありがとうございます。」
「「「ぶるぅおおおお!!!」」」
もう魔物の姿はないのに士気が上がった。
自分達の手にする得物を天に掲げ吠え続けている。
今の彼らに一般市民だった頃の名残はない。
元の状態に戻ることを心から祈っております。
倒した魔物達は売れる素材部分だけは残し、後は燃やす。放置したままだと腐って酷い匂いが充満するもんね。
上位の魔物も多く剥ぎ取った素材達はかなりの額で売れるそうな。
なので町長筆頭に住人の方々が勝利を祝って大宴会をすることに決定。
この豪快さは前からだよね?狂信者になってからじゃないよね?
善は急げと一種のお祭りに向けて準備を始め出した。
俺も何か手伝おうかな…。
主賓はゆっくりお待ちください?
はい、分かりました。
いつの間にか治療しか出来なかった俺が主賓になっていたようです。
状況にやや追いつけずオロオロしていると、ノートンが近づいて来て耳打ちをする。
ゾワってするから普通に話してね。
「アリス様、魔物がこんなにも出現し襲撃してきた理由が判明致しました。」
「えっ、ノートンいつの間に!?」
俺がポケーっとしている間に捜査していたとは、さすがノートン。
「魔物がこの町に寄っていたのはこれが原因のようです。町の外に捨ててありました。」
「ん、瓶?」
ノートンが取り出したのはしっかりと蓋された瓶、でも中身は何も無い。いやほんの僅かに何か残っている。緑色の液体?ドロッとしてるから泥?
「この緑色の液体が魔物を強く引き寄せる香りを放つようです。ヤルタ在住アリス教信者兼薬屋のお婆さんが調べて下さいました。」
凄い聞き捨てならない部分があるけど今は我慢。
あの薬屋のお婆ちゃんが、オークの顔面を愉快そうに何十発も殴っていたあのお婆ちゃんが?
「はい、そのお婆さんがすぐに調べて頂きました。そして、お婆ちゃん監修の元これが掛けられた場所を探し水で流し消しました。」
お婆ちゃん様々だね。
あとで会ったらちゃんとお礼を言っとこう。
「じゃあ、もうさっきみたいな襲撃はないってことだね。」
「はいもう心配ないかと。それと面白いことにこの液体は町の外周だけでなくアリス様の乗っていた馬車にも付着しておりました。」
「へー、それは面白い。」
「明日にでも色々と知ってそうな連中を追いかけに行きませんか?」
ノートンからとても楽しそうなお誘い。
そうだね、沢山掻き回されたもんね。
「ええ、是非追いかけっこしたいです。ですが、彼らがどこに行ったか見当は?」
「ええ、おそらくアムネスでしょう。分かりやすくアムネスへと続く道には振り掛けて無かったですから。それにまさか我々が生きているとは、あの足りない頭では思っていないでしょう。」
ノートンの頭脳が冴えわたる。
まああいつ等もあの魔物の軍勢を町の住人達が蹂躙したとは思わないよな。
これで油断していてくれるなら好都合。
「シーナ殿が出発の準備を行なっていてくれたので明日にでも出発致しましょう。町長には私から伝えておきます。」
「うん、ノートンよろしくね。」
俺はノートンの前に拳を突き出す。
一瞬きょとんとしたが、察しのノートンも同じように拳を突き出しお互いに拳を合わせる。
「はい、お任せを。」
珍獣兵士達の終わりはもう近い。
0
お気に入りに追加
951
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる