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巡礼と唸る拳
戦場で聖女は微笑む2
しおりを挟む魔物達と戯れるため俺は自分が残る必要性を語った。
町長は俺の戦闘力を把握していないのでかなり渋ってくる。
ノートン達は王都でのガルム団長やその後の訓練で実力は知っているから問題は無い。俺が町長に懸命に説得する姿をやっぱりかとやや呆れた様子で見ているもの。
黙ってないで説得に協力してよ。
やれやれとノートンが交渉に参加してくれたお陰で、俺は戦う護衛達の後方で聖女の力を使い支援する形となった。
もちろん町長用にノートンが考えた言い訳。
実際はガンガンに突っ込みたい。
こうして、俺の町残留が決定したので住人達の避難誘導に急ぐ。
まだ朝早く人の姿は少ないが手分けして声を掛けていく。
時間が無いから簡単に荷物をまとめて町長の屋敷前に集まるようにと。
人から人へと伝言していき、気づけばあっという間に屋敷の前は多くの人で溢れていた。
みんな、何事かと焦りや不安の混じった表情でいっぱい。
町長がみんなを見渡せるように馬車の上に立つ。
気付いた人から順々に注目して黙っていく。
説明は俺が聞いたのと変わらない。魔物の大群が迫っている、誘導に従って避難してくれ。
俺はぴょんと馬車の上に飛び乗る。
魔物の襲撃と聞いてにわかにざわめき出す住民になるべく安心してもらうよう声を掛ける。
「皆様方落ち着いて下さい。今から避難すれば助かります。それに私達が魔物を足止めするので十分に時間を稼げると思います!」
俺が何気なく言った台詞。
足止めするから焦らず避難してねと思っての言葉。
それを聞いた人達は一挙に静まり返る。
ど、どうした?
ノートンはなんで頭を抱えているの?
住民の一人が手を挙げる。
「せ、聖女様はお残りになられるのですか?」
「え、はい私は残ります。(魔物と戦いたいから。)」
また誰かが手を挙げた。
「で、ですが、聖女様の身が…。」
「ん?私のこの身は貴方達の未来を守るためにありますから。(魔物と戦いたいから。)」
昨日と同じように大きな地響きが起きた。
魔物の大群によるものではない、この町全ての人達の信者魂に何故か火がついてしまったからだ。
どうして?
隣で途中から俯きぷるぷると震えていた町長がガバリと顔を上げる。
「どうおぉー!女神様が我々のために闘うという、なら我々も女神様の為に闘う、そうだろう?」
「「「うおおぉー!!!」」」
「皆、武器を取れ!なに心配はいらぬ、我らには崇高なる御方である女神様が味方しているのだ!どこに心配がある?恐怖がある?そうだろう?」
「「「どうおおぉー!!!」」」
どうした?
町長さっきまで俺が残るの不満に思ってたよね、何が起きたの?
なんで皆また農具やら仕事道具を掲げて吠えているの?
逃げようよ。
シスターもまた何処からか巨大なロザリオを取り出している。貴方は側にいる孤児院の子供達が棒を持って殺る気満々なのを止めようよ。
もう再燃した信者達は殺る気満々なご様子。
戸惑う俺は馬車から降りる。
ノートンがジト目で出迎えてくれた。
「なんで住民達を避難させずに煽っているんですか?」
「え?煽ってないよ。殿は私達に任せて逃げてくれって伝えただけだよ。ノートンも聞いていたでしょう?」
「はぁー…。」
ノートンがジト目から残念な子を見る目に。
な、なんだか心外。
「こうなってしまっては仕方ありません。彼らにも戦って貰いましょう。」
「えっでも危ないよ、子供達もいるし…。」
「誰が原因だと…はぁ、でしたらアリス様から絶対無理しないように伝えて貰えますか?まだアリス様からの声は届くでしょうし。……あの人達どっちにしても死ななそうだし。」
「ん、何か言った?」
「いえ、なんでもありません。それよりもお願いします。」
ノートンに促されるまま、もう一度馬車の上からお願いする。
凄い、俺が声を発しようとしたら皆黙ってキラキラ目を輝かせてくる。
「皆様、どうしても闘うというなら決して無理はしないで下さい。危険と思えば逃げて下さい。そして、必ず生きてください。生きてさえいてくれれば私が絶対死なせません!」
「「「う…。」」」
「う?」
「「「うおおおおおお!!!我らは女神様と共にあり!!!」」」
どうした?
皆が一丸となるのは素晴らしい。
素晴らしいけど…ノートン頭を抱えないで。
誕生してしまった女神様を守護する神聖なる狂戦士達は幾百もの魔物の軍勢と対峙するのであった。
どうして?
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