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巡礼と唸る拳
後味は悲しくて塩辛い
しおりを挟む未だに殺気が収まらない民衆。
気が気ではない完全拘束された男達は青褪めるどころか真っ白。
俺とノートン達で何故か落ち着かせることに。
聖職者なシスターがそんな鼻息を荒くしてはいけませんよ。
ようやくまだ睨みは利かしてるものの殺意の衝動は鎮火してくれたようだ。
びくびくと震える男達に問いかける。
今なら素直に色々と話してくれそう。
「えーと、大丈夫ですか?これ以上の抵抗はしないで頂けるとお互いの為だと思いますが…。」
「あ、あぁもう抵抗はしない。俺達は無謀なことを受けたようだ。」
「色々と答えて頂けますか?」
「あぁ背けば後ろの奴らに殺されそうだ。悪かった、許して貰おうとは思わねぇが全てを話す。」
「ふふ、ではお願いしますね。」
リーダー格の男が洗いざらい話す気になってくれた。
他の子分もうんうんと頷いている。
「それでは貴方達、どうして私を襲おうとしたのですか?ましてやこんな人目の多い場所で。普通なら人気の無い場所や夜道を狙うものではありませんか?」
そもそもこの襲撃、色々と不可思議なことが多い。
ここに俺達が訪れたのはほんの数日前、なのにやけに用意が周到されている。
それに無謀なことを受けたって言葉が非常に気になります。
どうしてでしょうか?
「そ、それは…俺達はある…。」
「聖女様ご無事ですかっ!!」
リーダーの男が語ろうとした矢先、珍獣の私兵達が大げさなぐらい心配しながら遮ってきた。
お前ら何なの?
「おお、ご無事なようでなによりです。む、この者たちが聖女様に無礼を働いた愚か者達ですな。おい、お前らやるぞ。」
「「「はっ!!!」」」
「ちょっ…。」
目の前で信じられない光景が映った。
罪人とはいえ無抵抗な人間の首に躊躇なく剣で切り裂く。
あまりにも突発的な行動に俺は直ぐには動けなかった。
「こ、この馬鹿野郎がぁっ!!」
はっと我に返り、馬鹿なことをした愚か者を殴って退かす。
急いで駆け寄り聖女の力を発動する。
しかし、どんなに万能な力も既に死んでしまった者は生き返らせない。
痛みと絶望で苦しんだまま開いた男の目をそっと閉じる。
ごめんね、助けてあげられなくて…。
どんな罪人にも救済の可能性はある。
それを、それを…。
殴られたことに憤る大馬鹿野郎共を自制のきかない涙を流しながらも睨み返す。
「どうして…どうして殺した!こいつらは反省し、全てを話そうとしていた!」
「せ、聖女様はご乱心のようだ。その者達は貴方様を殺そうとした罪人ですよ。死んで当然でしょう?」
「死んで当然だと…。この人達は確かに悪い人達だ。しかし自分の罪をきちんと認め全てを話そうと反省していた。償う機会を与えることが出来たんだぞ。」
「こ、こんな奴らに償う機会など必要ないでしょう。」
何かが切れたような気がする。
赤く燃え滾るものが身体中を熱く駆け巡る。
無駄となった額の光も消えずにむしろ輝きが増した。
目の前で減らず口を吐くこいつらを許せない。許してはいけない。
俺は殴り埋めてやるため、拳を強く握りしめながら一歩、また一歩と近づく。
ぽたぽたと垂れて落ちる血は救えなかった俺なりの償いだ。
その代わり思いっきり殴ってやる。
「ま、待てこっちに来るな!く、来るなぁ!!」
俺の闘気に気圧されたのか無様に後ろへと後退していく。
ここで俺はもう一度間違えた。
さっさと殴れば良かった。
後退した馬鹿共は息を合わせたかのように近くにいた住人を俺の方へと押し出し逃げていく。
いきなり押された住人は突然過ぎて抗えない。倒れないよう支えて顔を向けた頃には、結構距離は開いていた。
逃げ足が優秀すぎる。
くそっ…あいつらに何一つ報いを与えられなかった。
悔しい、悔しい申し訳ない。
唇を噛み締め俯く。
そんな俺の拳をそっと握るノートン。
「ノートン…。」
「アリス様、怒りをお鎮めください。それ以上、ご自身を痛めつけてはなりません。それにここに居る者達全員がとても心配しております。」
ずっと強く握っていた拳を緩める。
足元の地面が赤く変色していた。
まだ涙でぐしゃぐしゃな顔を隠すようにノートンの胸に頭を置く。
あったかくて安心する。
「ごめん、汚れるかも。」
「いえ、これも護衛の努めですから。」
「ふ、なんだよそれ。」
多くの人達に見守られながら盛大に泣き喚いた。
恥も外聞も捨てて救えなかった者達に謝るように。
そして、必ずあいつらに粛正の拳を振るう。
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