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巡礼と唸る拳
信者と哀れな賊
しおりを挟む人目の多い場所で始まった集団戦。
ざわざわとする住人達に見守られながら、目の前で刃をチラつかす二十人ほどの悪い人達と対峙する。
周りを鼓舞している男がリーダー格っぽい。
察しのノートンはすぐさま指示をする男へ駆け寄る。
だが、実力は互角なのか。
鍔迫り合うもお互いの身体を傷つけ合うことはまだ無い。
ノートンも驚きで目を見開く。
他の男達もまずは邪魔な護衛達へ斬りかかりに行っている。
リーダーよりはだいぶ劣るようだけれど、数で押し切ろうってつもりか。
護衛一人に三、四人で対応している。
意外にちゃんと考えていて冷静。人目の多い場所で考えなしかと思えばやけに計画性がある。
まずいね、今は護衛達がぎりぎりの駆け引きで応対出来ているけどこれだと時間の問題だね。
いよいよ、俺も参戦しちゃおうかな。
そう思った時、孤児院の子供の一人が走り出した。
恐怖が頭の中を支配してしまって、あの女の子は思わず逃げてしまったんだろう。
でも、それは悪手。
剣が入り交じる空間を素人が通ればどうなるかなんてすぐ分かる。
案の定、男の理不尽な刃が少女の頭へと投下されようとしていた。
自分に迫る死神の手に女の子は目を閉じた。
いつまでもやって来ない痛みと身体に伝わる温もり。
恐る恐る瞳を開けると、聖女様がいた。
男の圧倒的な死を自らの右手を代償に受け止めた。
剣と接触した手のひらから赤く痛々しい色が徐々に真っ白なローブを染めているのが何よりの証拠だ。
その光景は波のように民衆達に伝染していく。
「大丈夫?転んだりしてない?怖かったね、もう大丈夫。」
俺は恐怖に怯えていた女の子の頭をもう片方の手で優しく撫でる。
「せ、聖女様。て、手が…。」
「これぐらい私は大丈夫。早く皆のところに戻りなさい。」
激痛が裂かれた手から伝わってくるも、精一杯の強がりを持って笑い少女を安心させる。
それが引き金となった。
大地が揺れる。
それは自然現象ではない。
全ては涙と怒りに震えるヤルタの住人達の咆哮。
ある者は鎌や鍬を持ち、ある屋台のおっさんは鉄串を握り、ある教会のシスターは大きめのロザリオを担ぐ。
自らを犠牲にたった一人の少女を守った尊き御方の為。
「「「我らが女神様のため!罪人には終わりなき鉄槌を!!!」」」
息の合った掛け声と共に男達とは比べものにならない圧倒的な数の絶望が雪崩込んできた。
俺の手を裂いた男はシスターの渾身のロザリオアタックが綺麗に脳天へと決まり意識を持っていかれていた。
それでも、尚も執拗に気絶した男をがんがん蹴りまくるシスター。
聖職者の方ですよね?
残りの男達も屋台のおっさん直伝十連鉄串ショットが決まったり、住人達の何でも投擲ポイポイが足や頭へ的確に当たる。
気づけば決着。
リーダー格の人がどうなったかって?
屋台のおっさんとシスターの連携技である神の鉄串が決まって今は意識がない中でひたすら蹴られているよ。
痛みを忘れて俺もノートンも護衛達も呆然。
子供達が泣きながら手を心配してくれるまで治療に取り掛かれなかった。
自分の手を治し終わった時には、二十人ほどの男達は全員原形の変わった顔で身動き出来ないようしっかりと縛られていた。
肌も青痣一色でよく生きていたね。
とりあえず協力してくれた皆さんにお礼を。
「ヤルタに住む皆様方、自分の身も顧みずご協力して頂きありがとうございます。」
「「「我らは聖女様の為に!女神様の為なら我らはこの身を戦士へと変えます!!!」」」
「お、おぅ…。」
有り難いけど、有り難いけどぉ…。
素直に喜べない俺は、とりあえずズタボロの男達へ事情聴取を執り行うことにします。
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