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お茶会よりも戦闘を
番外編 聖女の冒険3
しおりを挟む酒がまだ少しばかり残る瓶を酔っ払いは躊躇いなく俺へと振り下ろしてくる。
普段ならここでロコルお姉ちゃんがすぐに割り込んで守ってくるけど、今日は違う。
動き出そうとするお姉ちゃんに片目を瞑って大丈夫と伝えて、いざ対峙。
といっても、今更足元もおぼつかない相手に手間取るような俺ではない。
頭に迫る瓶を避けてその腕も掴み、こちらへと力尽くで引き寄せる。
身長差もあってかバランスを崩して前のめりに倒れる。
あとは簡単。
偶然うっかりと頭をコーンと可愛らしく右足が当たってしまい、酔っ払い1人目には気絶してもらう。
それを見ていた冒険者達やギルド職員は事態が掴めず困惑した表情で静かになる。
聴こえるのは呑みつぶれた何処かのおっさんのゲップのみ。
残りのお二人さんも唖然としていたものの、俺が偶々とはいえ仲間を倒したことに気付くと元から赤い顔を更に紅潮させていく。
でも、すぐに真っ青になって事切れたように膝から崩れ落ちた。
倒れた2人の後ろではニコニコ顔に戻ったお姉ちゃんが。
俺が1人目と遊んだ隙に背後へとまわって終わらせたようだ。
一々付き合ってたら日が暮れちゃうもんね。ちゃんと加減もしているようで目立った外傷もない。
よし、ここはこうしよう。
「まあ、酔いが回ったのでしょうか?急に倒れられてしまいました。お姉ちゃんどうしましょう?」
「え、はい、あそこの椅子にでも座らせて置けば良いと思います。」
俺の完璧な演技にロコルお姉ちゃんもなんとか対応してくれる。
周りで呆然としていた観客達も何か言いたげな目線になっただけ。
そんな視線は知らん振りして倒れた男の襟元を掴み、引きずるようにして椅子まで運ぶ。
「おい、大の男を片手で引きずってるぞ‥」「いや、それよりさっきのあの二人の動きやばくないか。」「俺何したか分からなかったぞ。」
俺達を怖れるようにひそひそ話が始まった。
全く失礼な、俺達はただのか弱い女の子なのに。
俺は聴こてくる失礼な言葉に怒りつつ、引きずっていた男達を椅子へと放り投げる。
手をパンパンとはたく俺の姿にまたひそひそ話が加速していく。
これ以上ここに長居しても視線が鬱陶しいだけ。
俺達レディーは依頼の為、退出させて頂きますわ。
近づいた俺達に少しビクッとさせる受付嬢。初めてお会いした時の心配する様子はそこにはない。
俺くらいのレディーになると、その程度の反応は慣れっこ。
ニッコリと笑いながら、依頼を受理してもらう。
受付を終えて逃げるようにギルドを退散する。
王都から出る門には安全と秩序を守る門兵がいる。
本来冒険者はギルドカードを提示したらすぐに通してもらえる。
なのに、ここでも俺達を心配するように門兵が声を掛けてくる。
「おいおい、お前達二人だけで大丈夫なのか?王都内でも出来る依頼はあるだろう。」
「ご心配頂きありがとうございます。ですが、大丈夫です。」
「しかしなぁ、無理はするなよ。ちゃんと危ないと思ったらすぐに逃げるんだぞ。」
「はい、大丈夫です。」
「それから魔物以外にも盗賊だっているかもしれない。知らない人に付いて行ったり、攫われないように注意するようにな。」
「はい、大丈夫です。」
「それからそれから‥」
心配性の兵士は、それからも長々と注意事項を述べていく。
さっさと外に出たいけど、この人の親切心を無視するのは申し訳ない。
仕方なくロコルお姉ちゃんと苦笑いしながら大人しく受け入れた。
ようやく解放された。まだまだ夕方までは時間がある。
俺はお姉ちゃんを急かすように引っ張りつつ、門の先へと小走りする。
門を抜けると、そこは平原が広がっていた。
街中とは違う自然な空気を思いっきり鼻から吸い込む。
久々の開放感に俺の気分は一気に跳ね上がっていく。
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