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お茶会よりも戦闘を
珍獣は懲りていない
しおりを挟むここはどこかの御屋敷。
王都内でも有数の大きさを誇る御屋敷。
そんな中での一室にソファを介して向かい合う2人の男性。
その内の一人であるフリード第一王子。
彼は憤っていた。
「くそっ、あの忌々しい平民め。聖女だからと父上達を誑かしおって‥。何故あんな奴に騙されるんだ。」
舌打ちと同時に目の前のテーブルへ強い振動が伝わる。
ここには居ない誰かを憎々しく睨んでいる。
彼からすればどうして自分以外の王族があんな平民風情の肩を持つのか理解出来ないし、したくない。
大方、聖女が家族を誘惑なり何なりして上手く騙している悪女にでも映っていることだろう。
「殿下、どうか落ち着き下さいませ。あの聖女殿は少々手強い相手。一筋縄では難しいかと思われます。」
「ふん、ただの王族を利用しようとする小娘にしか見えないがな。」
「しかし、他の方々と上手く仲を取り持っておられるのも事実。実際、スフィア様と仲睦まじくしておりました。懐に入るのが得手といったところでしょう。」
「ちっ、幼い妹を‥。だが、どうすればいい?」
彼の頭の中は憎き聖女の排除でいっぱい。
ただそれだけしかない扱いやすい存在。
そこで男は提案する。
「殿下、聖女殿は遠くない先に各地を回る巡礼がございます。その際、幾らでも隙が出来るかと思われます。」
「ふむ、巡礼か。あの者は噂で国の兵士と渡り合えるほど強いと聞く。大丈夫か?」
「確かに噂通りであれば強いでしょうな。それでも聖女殿はまだ子供。付け入る隙はいくらでもございましょう。例えば、こちらを‥。」
フリードと対面するように座る男は、懐から緑色の液体が入った瓶を取り出した。
色々なものが混ざり合い気持ち悪い。
見るからに碌でもない代物。
「なんだそれは、毒か?」
「いえ、こちらは特別な香りを放つ香水でございます。何処かに振りかければ次第に香りに誘われ魔物達が集まってまいります。」
「ほう‥」
「例え腕に自信があろう聖女殿であれど魔物の大群を前にすれば無力かと。ただ出発直前にこれを付着した物を入れれば王都付近に集まってしまい、すぐに王国騎士達によって仕留められる可能性がございます。」
「巡礼途中で無ければならないと?」
「はい、巡礼途中であれば聖女殿と護衛騎士達のみ。」
「なら、私のお抱えの兵士を無理矢理護衛に組み込もう。護衛であれば簡単に近付ける。どうだ?」
「はい、それがよろしいかと。こちらをお渡ししておきます。」
男はテーブルに置いた香水を丁重にフリードへ献上する。
「ふっふっふ、これであの女もお終いだな。お前には感謝するぞ。成功の暁には褒美を与えよう。」
「これはこれは勿体無きお言葉ありがとうございます。成功お祈りしておりますぞ。」
受け取ったフリードはもう始末した後を想って愉快そうに笑っている。
軽くなった足取りでこの場を後にする。
「殿下が扱いやすい駒で大変助かりますぞ。」
もう居ない愚かな背中に向けて男は囁く。
「おい、失敗した時のために全ての証拠がフリード殿下を示すようにしておけ。決して私の跡を残さぬようにな。あと、聖女殿の巡礼も監視しておいてくれ。」
「かしこまりました。」
闇夜に溶け込む影は男に返事をするとまた消えていく。
「さて上手く邪魔者を排除しておくれよ、フリード殿下。」
月光に照らされた男の口は、裂けんばかりににやにやと笑っていた。
忍び寄る死神の鎌は着実に聖女の喉元へと近づいて行く。
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