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サルサでのんびり

忠犬カエ公

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時間にして約一時間。
土埃を払う少女は一時間もの時間を使って扉の前で膝から崩れ落ちていた。
けれど、誰も同情してくれない。普通落ち込む女の子がいたら大丈夫かいと声を掛ける。

でも、誰も声を掛けてはくれなかった。
それほどあの時の俯く少女は憐れで哀れでどうしようもなく、関わるのも遠慮してしまうほどだった。

だから、少女は諦めて立ち上がる。決して同情を誘えるかもなんて淡い期待はしていない。本当だよ。
安直な彼女の駆け引きは誰にも通じない。

哀愁の淵から復活した残念ポジティブ少女カエデ。
今一度、宿り木の庭の入口へと突き進む。もう怒っていないよね?


「はい、いらっしゃ……ふん。」

客に対して鼻息で返す女将。
ま、マナーのなっていない店だぜ。とりあえず土下座させてもらおうか。

睨み付けて威嚇してくるマールさん。私はその人の前までゆっくりと緩やかに歩み寄る。そして、着いたかと思えばそのまま流れる川の如く滑らかに両膝と両手を床へとあてがう。


「す、ずみばせんでした!!!」


後にその光景を見ていたバカップルは語った。あれほど見事な土下座は見た事が無い、惚れ惚れするほどの憐れさでしたと。この素晴らしき土下座は後世まで語り継がれることであろう。


「あんたね、もう次はないって言ったよね。客に迷惑を掛ける奴は他所へ行きな。」

「そ、そんな後生ですからお願いじます!もう迷惑掛けないですから掛けないですから!!」

「……………。」

「お、お願いでずぅ…。靴でも何でも舐めますからぁ。ここの床全部舐めて綺麗にしますからぁぁ…。」

『流石はご主人様です。そのド下僕精神素晴らしいです。もう一押しです、媚を尻尾を振りまくりましょう。』

こんな時でもなっちゃんはなっちゃん。でも、あともう少しで堕ちるらしい。なら助言を信じてプライドをゴミ箱に放り込んで来よう。

「ま、前払いですぐに舐めます。ここの隅が黒ずんでますね、じゃあ早速やっちゃいます。」

ベロンと舌を出して黒ずみ汚れに一直線。

憐れここに極まれり。

睨みを利かせてたマールさんが酷く慌てた様子で止めに入ってくる。怒りもドン引きの前では負ける。

「ちょ、ちょっとあんた!?止めなって!周りの目を見てみなって、まだ女を捨てるなって!」

「これまで犯した罪を考えればこのぐらい当然です。どうか贖罪をさせて下さい。任せて私の舌ならピッカピカにする自信あります。」

いっそ開き直ったくらい元気な舌自慢。マールさんは怒る暇もない。

「…………はぁーーー分かった。許す許すから舐めようとするんじゃない。それ以上は営業妨害で衛兵につき出すよ!」

許すの一言でピタリと止めた。
あと数秒止めるのが遅ければ行ってた。

「良いかい。次に客へ迷惑掛けたら追い出すどころか衛兵に連行してもらうからね。」

「はっ!かしこまりました!」

それは見事な敬礼だった。
後にバカップルは語る。
あれは真の主を見つけた忠犬のようでした、彼女の奴隷精神は類を見ないと。これもまた後世へと語り継がれるでしょう。

「はぁ、じゃあ改めて料金頂くよ。」

私は詫び料も込めて3割増しでお金を渡した。けれど、マール様はきっちりと料金分だけ受け取って残りは返金された。マール様の信念は大変敬愛すべきでございます。

「ほら、まだ飯を食ってないだろう?持っていくから席についてな。」

こんな私めに餌を与えて下さるなんてなんという御方だぁ…。
瞳から垂れそうになる涙を拭い私の席へと着席。

エスちゃん神や土下座神が居るけど私はマール神を信仰させて頂きましょうかな。

マール様が料理の乗った皿を両手に携えいらっしゃいました。
すると、自分に相応しい席に座る私を見て盛大にお溜息お吐きになられました。

「はぁーーあんたなんで床に座っているんだい!!さっさと椅子に座んな!」

おかしい。
ここが私めの席で妥当だと思うのに。マール様は慈悲深い。

「よ、よろしいのですか?」

「良いに決まってんでしょ、早く座りな!」

これ以上は不味い。
声音に怒りが再燃し始めたので急いで椅子に正座した。

ようやく食事にありつきます。

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