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第63話:全力ご奉仕
しおりを挟むそれから、約1時間後。
私は、とある部屋の前にいました。
『ネグノッテ女王……管理者様はどうしたんだ?』
『……少なくとも、危害はくわえておりませんよ、デノン王』
扉一枚隔てた向こうで、トップ2人が会話しているのが聞こえます。
どうやら、私の事を話題にしているご様子ですね。
『……彼女に何かをやらせるつもりならば、悪い事は言わねぇ……すぐにその考えは捨てるべきだ』
『あら、すっかり彼女に心酔しているのでしょうか?』
『そうじゃねぇ! いや、そうなのが身内にいるが、そうじゃねぇんだ……!』
『ふふ、冗談ですよ。確かに、彼女には何をしでかすかわからない怖さがありますね』
うん、なんかこう、凄く失礼なこと言ってません?
『そうなんだよ……! あれと関わってると、培った常識が全く通用しねぇんだ! 俺、いつか禿げる。禿げる自信がある……!』
『まぁ、お可哀想に』
やっぱり失礼な事言ってますね!
これはもう、顔を出さずにはいられませんとも!
私は、扉を2回ノックして、ドアノブに手をかけます。
「失礼します~」
ドアを開くと同時に、カートを掴んで中に突入!
ふわりとスカートをたなびかせ、ふよふよと押す様を目に焼き付けるがいいです!
「なっ……か、管理者様……!?」
「あら、よくお似合いで」
ふふん、そうでしょうとも、そうでしょうとも!
今私は、いつもの葉を使ったワンピースではなく、別の衣服に袖を通しているのです。
脳天をカチ割らんばかりに屹立するフリフリカチューシャ!
黒と白を基調とし、全国の色々乏しい系女子の寂しさを隠してくれるふんわり素材!
エプロンは当然の如く完備、そして膝上設定にプライドすら感じるミニスカート!
もはやこんな格好は、漫画か勘違い喫茶でしか見られないだろうと確信できる、ザ・違和感!!
「それは……! メイド服、なのか?」
「その通り(いぐざくとりぃ)! どうですかデノンさん、これが【萌え】というものですとも~!」
そう、私は今、普通にメイドが見たら「ないない」と言っちゃうような、キャルンっキャルンの魔改造メイド服に身を包んでいるのです!
ふっふ~ん、こんな格好でふよふよしてたら見えちゃうって? だ~いじょうぶ!
ちゃんと、ドロワーズっていうもこもこを履いていますからね。仮に見えても恥ずかしくないですよ~! だってあれ、見た目からして短パンみたいなものでしょう?
「ふふふ、今まで一張羅を着込んでばかりいましたが、こういう服に身を包むのも新鮮な気分ですよね~。ねぇデノンさん? 私可愛いですか?」
もしも可愛いんでしたらば、一着もらってゴンさんに見せたいところですよね~。
うん、うん……ゴンさんに、ご奉仕……ヤバい、滾る。
「いや……」
デノンさんは、僅かに視線をそらしながら軽く咳払いをしています。
お? これはあれですね、綺麗過ぎて視線を逸らすとか、うっかり本音を言いそうになって咳払いでテレカクシとか、そんな感じの甘い純情って考えて……
「なんつうか……恐怖が、先に立つかな……」
「きょうふ!?」
ほわい!? なんでホラー!?
「いや……管理者様みたいなのが身の回りを奉仕するとか、命と胃がいくつあっても足りないっていうか……早々に退職金を支払っておかえり願いたいというか……」
「デノンさん! 歯に衣着せない本音トークは信頼の証だと思いますが、それ以上に失礼すぎやしませんか~!?」
「いや、だって……なぁ?」
むむむ……なんてお方でしょう!
良いです。そう言うならば、私こそが真のメイドにふさわしいという事を証明しようではないですか!
私はムスッとしたまま、押してきたカートの上にあるブツを準備します。
それこそはズバリ、先ほど買ってきたキノコ茶ですとも!
「うぇへへ……出来るメイドはお茶を美味しく出せるものです! 今美味しいお茶を淹れてあげますよ~」
「お、おう……」
「えぇ、ではよろしくお願いいたします」
まず、キノコ茶は種類にもよりますが、時間をかけて成分を抽出する必要があります。
今回選んだキノコは、マァタケ。心和の知識でもっとも近いのは、マイタケと呼ばれるものに近いですね。
ですが、丸いエルフさんが作ったキノコ茶は軒並み保存を効かせるために乾燥してるので、実はこの抽出が非常に簡単なんですね!
いやぁ、キノコだろうと葉っぱだろうと、お茶になれば誰でも楽しめる! お茶こそやはり世界を平和にする鍵ですね!
「管理者様? 思考飛んでないか? 管理者様?」
「はっ!」
いけないいけない、続きですね!
今回は、マァタケを事前に潰して、フレーク状にしてきました。
これをですね~、こう……生やした植物から筋を取り出しまして、網上に加工して……簡易的なティーパックを作り、中に詰め込みます。
こうすることで、キノコ茶をカップにぶち込んでお湯を注げば出来上がり! というなんとも素敵に速く作ることができるのですよ!
「という訳で~、お湯をトポトポと~」
うん……淹れた瞬間、部屋を包む良い香り……。
良いですねぇ。先ほどのモスマッシュとはまた違った感じで、大変心躍ります。葉の筋で作ったパックからも、僅かに成分がでてるのでしょうか? 香りが少し葉物っぽいです。
後は、ティーパックを取り出して……勿体ないから乾燥させときますか。
「さぁさ! できましたよ~!」
「まぁ、ずいぶん早いですね?」
「んぁ、そうなのか?」
「えぇ、キノコ茶は抽出にも時間がかかりますが……まぁ、あの店から買ったのならばそこに気を使わなくていいのはわかります。しかし、乾燥したものをお湯で戻してお茶にするので、それでも下準備はかかるものなのですよ」
あ~、つまり、普段は乾燥昆布から出汁を取るみたいに置いてたわけですね。
おやぁ? つまりこのティーパックを広めれば、美味しいキノコ茶を手早く美味しく飲めると……? これは後で教えておきましょう!
あ、でも長時間置いておくのもまた栄養の出方が違いますしどちらの手法も確立できるようにしなければいけませんね~。
「ままま、ひとまずどうぞ、召し上がれ~」
「あぁ……いただきます」
「ふふ、いただきますね?」
2人は、カップを手に取ってお茶を一口、飲みました。
一気にキノコの風味が広がるでしょう? けして煮立たせているわけでもなく、冷えたモノを温めなおしたわけでもない。
お湯という状態から直接抽出する、葉のお茶と同じ土俵で飲むキノコ茶! おそらく女王様でも新鮮ではでしょうか?
「……これは……! とても美味しいですっ」
「うぅん、相変わらず茶は美味いんだよなぁ」
いえ~い! どうですか、これがスーパーメイド心和ちゃんですとも!
「ふふふ、これで私がメイドとして素晴らしい事が証明されましたね?」
「いや、アンタは茶に関してのみ優秀だってのはもうフィルボの共通認識だからなぁ」
「シャラップ! つまりこのお城のお仕事全般下っ端家業はお任せくださいってことですよ!」
一度メイドやってみたかったんです! この機会、ここで逃してなるものですか!
「うぅん、でもなぁ……」
「まぁまぁ、本人の意思を尊重するのも大切ですよ?」
流石は女王様、話がわかるっ。是非にこの心和めにお任せください~。
結局その後、私の必殺のネゴシエイトが効いたおかげでデノンさんも折れ、私はメイドのお仕事をやれる許可を得たのでありました。
よ~し! 掃除洗濯炊事にお茶! 全力で楽しんでいきますよ~!
「大丈夫かね……」
「お手並み拝見ですね?」
「では、行ってきます~!」
意気揚々と敬礼し、その場を後にします。
ひとまず、お部屋の掃除からいきましょうかね~。
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