ドライアドさんのお茶ポーション

べべ

文字の大きさ
上 下
63 / 77

第56話:彼の亡骸

しおりを挟む
 
 世界樹。
 いと気高き樹木の王。
 謁見はもちろん初めてです。私が生み出す世間樹せけんじゅは、この世界樹の手前みたいな感じらしいので。

 故に、その雄大さに私は当てられました。
 既に葉は堕ち、枝も残りわずかといった枯れ木です。樹皮も剥がれているのでしょう、白ずんだ体が見て取れます。
 しかし、そんな外見では語れない程に、御身は生命力に満ちておりました。

 死した身で生命とはこれいかに? と思ってしまうかもしれません。しかし、本当にそうとしか表現できないのです。
 それが、身に纏った魔力故なのか、はたまたその身に纏う、王気故なのかはわかりません。
 わかるのはただ一つ。植物であるならば、彼に対し敬意を抱かない者はいないという事でしょう。

「……管理者様のそんな顔、初めて見た気がするな」

「そうねぇ。いつもは快楽と性欲を行ったり来たりしてるような顔してるものねぇ」

 おや? 私けなされてます? けなされてますよね?
 なんですか快楽(お茶)と性欲(ゴンさん)って。そんな顔なんてハイしてましたわごめんなさい。
 けどですよぉ~。私ったら超久しぶりにマジメな感じに世界樹に見入ってた感じなんですからぁ~? もう少しなにか情緒あるコメントが欲しかったです~。

「ふふ、さぁひとまずは世界樹へどうぞ。お話しはそれからで」

「はぁ……じゃあ、まぁ、行くかぁ」

「んふふ、私とココナちゃんは飛べるから、フライングフラワーはいらないわね?」

「そうですねぇ~」

 私の横で、えっちゃんがふよりと浮かび上がります。私はそもそも浮いてるので問題ありません。
 女王様もそれを見て納得したのでしょう。デノンさんと騎士さん達が乗り込んだのを見て、魔力を操りフライングフラワーを浮かせて行きました。
 空中に飛び上がり、世界樹を目指す傍ら、私はサイシャリィをちらりと振り返ります。
 そこは、森の中に広がる都市という名にふさわしいものでした。

 長年の研鑽と努力の末に生み出された、自然と生き物の調和。自然に生かされていると自覚した上での都市構造。
 つまるところ、家とかは基本枯れ木を使って、生きた樹は加工しないって感じです。世界樹に守られてるから、強度とか気にしてない感じですね~。

 私達を見上げるのは、エルフの皆さん。小さい子供は笑顔で手を振り、大人たちは少し警戒してる感じ?
 エルフが他の種族に対して警戒心が強いのは知ってますけど、少々悲しいですねぇ。なんとか仲良くなれないものか。

 ……まぁ、手段なんて一択ですよね? みんなでお茶を囲む、それだけです。
 それさえできればラブ&ピース。きっと皆さん心を開いて家族同然の在り方になってくれるはず!
 うぇへへへ……どんなお茶を飲もうか……今らか待ち遠しくて仕方ありませんよぉ。

「皆さん、もうすぐつきますよっ、着地に備えてくださいな」

「お、おう!」

 女王様の声が聞こえてきた所で、私の意識は世界樹に向かいます。
 おぉ、こうして近くで見たら、本当に大きい……けど、怖いとは感じませんね。
 なんというか、大きくて背の高い古時計の横でロッキングチェアを揺らしながら寝ているおじいさんをイメージしてしまいます。
 ドラマとかだと、奥さんがその状態で彼の死を悟って涙を流したりするんですよね。寂しいけど必要なシーン、うん。

 その世界樹の幹にはこれまた門のようなものがあり、私達を迎え入れてくれるかのように開いておりました。うん、門というか窓ですねこうしてみると。
 大きさは象が軽く入れそうな窓ですけど、世界樹の規模からしてみれば小さなものでしょう。

「ふぅ……皆さん、お疲れ様でした」

「うおぉ……やっぱ人間、地面に足つけてるのが普通な生き物なんだよ。生きた心地がしなかった」

 窓から入った皆さんは、人心地ついて気持ちを落ち着けていました。
 デノンさんったら、本当にフライングフラワーが怖いんですねぇ。ドキドキしちゃって可愛いのなんの。
 そして騎士さん達は……

「うぐ……!」

「こ、ここはいったい……!」

「我々は……ぐはっ」

 ええええええ。
 皆さんうずくまって、次々に倒れていくんですけどぉ!?
 なんかぷしゅーって感じにしぼんでって、元のフィルボに戻ってバタンキューしていきます!

「あらま、薬切れねぇ」

「まぁっ、皆さん本当にドワーフではなかったのですね?」

「う、うわぁぁ! お前たちぃぃ!」

 あらら……騎士さん、全滅。
 全員が体をピクピクさせながら、床に突っ伏しています。
 ちなみに、床はトゥルットゥルに磨かれた一枚丸太ですねえ。この空間自体がくり抜かれて出来てるらしく、樹齢がわかる感じに輪っかが見えますよ~。

「床に意識を向けてる暇があったら、こいつらを介抱してくれませんかね管理者様!?」

「あ、すみませんすみません。ゴンさん茶飲みます?」

「封印するって言ったよな!? 飲ませるかあんなもん!」

 それから数十分。
 騎士さん達は、全員仲良く寝室のベッドに寝かされて動けなくなっておりました。
 診断結果は、筋肉痛。そりゃああんだけバンプアップしてたらそうなりますよねぇ~。
 ゴンさん茶を飲むと、強烈なパワーアップの後に動けなくなってしまうのですね。効果時間は、一日くらいですか~。
 うん、とんでもない劇薬ですねぇ!
しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

この愛は変わらない

豆狸
恋愛
私はエウジェニオ王太子殿下を愛しています。 この気持ちは永遠に変わりません。 十六歳で入学した学園の十八歳の卒業パーティで婚約を破棄されて、二年経って再構築を望まれた今も変わりません。変わらないはずです。 なろう様でも公開中です。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...