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第55話:サイシャリィ
しおりを挟む「フィルボの皆さまをお連れしました!」
エルフのお姉さんが門の前で叫ぶと、しばしの沈黙ののちに静かに門が開いていきました。
その向こうでは、弓や剣を携えたエルフの皆々様が。わかりやすく兵士さんですね。
兵士さん達は通路の脇に並び、私達に道を譲ってくれていました。非常に秩序立った光景です。
「皆さま、ようこそお越しくださいました」
兵士さん達でわかりやすく縁どられた道の上には、見目麗しい女性がいらっしゃいました。
艶やかな銀色の髪に、麗し気な泣き黒子完備の瞳。シミ一つない真っ白な肌は木漏れ日のグラデーションにより美しく映え、唯一色彩が見られる薄桃色の唇が男性を魅了することは間違いありません。
そしてなにより……こちらもまたでかい……!
「これはこれは、ネグノッテ女王自ら出迎えとは」
「お久しぶりですねデノン王。偶然、町の視察中に到着の旨を伝えられたものですので、こうして待たせていただきました。良いサプライズでしょう?」
「かないませんな。……いや、予定よりも早い到着をまずはお詫びしたい」
デノンさんが一歩前に出て、なにやら聞き捨てならない会話を嗜んでおられます。
え、この人女王? 国のトップさんですか!
はぇぇ、どうりでお綺麗でいらっしゃる~。
「このまま立ち話に花を咲かせても良いのですが、今回はお客さまも多いご様子。一度宮殿まで行きましょうか?」
「そうですな……なるべく早く部下を休ませてやりたい」
「あら、ドワーフを別の大陸から連れてきたのですか?」
女王様の瞳は、良い笑顔のマッソー達を見てきょとんとしておられます。
「いやぁ……違うんですが、その、色々ありまして……」
「……心中をお察しすることはできませんが、その表情が嘘でないのはわかります……お疲れ様でした」
「久しぶりに労われたわぁ……」
なんかもうこれだけで、デノンさんったら重大な交渉を即OKしそうな程に感動してるんですが。
一体誰が、彼をここまで追い込んでしまったのでしょう……。
「と、その前に……初めまして、森の管理者さん?」
「あ、はいどうも~。光中心和と申します~」
こういう挨拶は変に気負わない方が良いってのは、デノンさんとの謁見で学習済みです。女王様の急な話題変換にも対応してみせますとも。
「ご活躍は色々、伺っておりますよ?」
「あはは~、気にしてくれてたみたいで。ありがとうございます~」
「えぇと、そしてそちらは……」
女王様が私からえっちゃんへと視線を移しました。
その瞬間、彼女の時間が止まります。
「……貴方……いえ、貴方様は……」
「久しぶりねぇネグちゃん。すっごく綺麗になって、お姉さん嬉しいわ♪」
えっちゃんが投げキッス。まさか飛来するハートが目視できるとは、イケメンに不可能はないのでしょうか。
「あ、あふん……!」
女王様はそのハートに心の臓を撃ち抜かれ、膝をカクンと折ってしまいました。次の瞬間、兵士さん達が私達に一斉に武器を向けます。
「およしなさい!」
「「ハッ」」
しかし、その緊張も一瞬。女王様の一喝により、即座に持ち場に戻っていく兵士さん達。すっげぇ鍛えられてますね~。
「んんっ、お見苦しい所をお見せしました……」
いえいえ、見苦しいだなんてとんでもない。むしろありがとうと言いたい気分ですよ。
この表情、今の反応……完全にこれは、【恋する乙女】の顔!
いいですねぇ、いいですねぇ。こんなん応援まっしぐら! ご飯三杯はいける話のタネですとも~!
えっちゃんも訳知り顔でうふふって笑ってるし、これはマウント取ってますねぇ! デノンさんは「せっかくの常識人が……」とか言って絶望してますけど、まぁ気にしない!
「で、では皆さま、こちらへどうぞ」
盛大に話を反らしつつ、女王は胸の谷間から一つの木の実を取り出しました。嫌味か。
その木の実は綺麗な空色をしており、硬そうな皮に覆われています。光沢が強く、木の実よりもボールに見えますね。
その木の実をぽいっと地面に放ると、木の実はみるみる成長し、巨大な薄っぺらい花をいくつもつけた樹になりました。
「わぁっ、フライングフラワーの樹ですね?」
「あら、流石は森の管理者さんですね。正解です」
フライングフラワー。樹なのに花とはこれなんぞ? という名前ですが、一番の特徴が花にあるから名付けられたのですね。
この樹の面白い所は、実がついても花が枯れない点にあります。
そして花は一定の魔力を帯びており、種が芽吹くことができる時期になると、その魔力を放出して空へと舞いあがる性質があるのです。
花は人一人が乗っても大丈夫なくらい大きくて頑丈なのですよ~。
「私の魔法により、一時的に急成長させました。種を飛ばした後は縮んでなくなってしまいますので、お早く花を回収してくださいね?」
「ふむぅ、ここに来るたびにこれに乗るのは、勘弁して欲しいんだがなぁ」
デノンさんは、苦虫を噛んだみたいな顔になりつつ花を一輪摘んでいます。騎士の皆さんも同様ですね。
「でも、なんで花を使う必要があるんです?」
私の質問に対し、女王様はにこやかに、しかし悪戯な笑みで応えてくれます。
「ふふ、私達エルフの宮殿が、どこにあるかという話ですよ」
女王様が指差すのは……ななめ奥?
私もまた、そっちを見てみます。
「……お~……」
その光景に、唖然としてしまいました。
何故今まで気付かなかったかは……おそらく、そういう特性をあれがもっているからでしょう。
敵意が無く、かつ教えて貰ないと、認識できないようにしていたんですね? 今ではわかりますとも。
だって……
「我らエルフは、古来よりあのお方の魔力にて繁栄し、守られてきました」
女王様の言葉を話半分に聞きながら、私と彼は見つめ合います。
……あぁ、少し、残念ですね。
「はるか昔に朽ちてしまいましたが、身に宿る魔力が尽きることはなく……慈悲と恩恵は今なお、エルフを照らしてくれている……我らが揺りかご、【世界樹の亡骸】です」
それは、巨大な一本の枯れ木。
枯れてなお、枝一つ折るだけでも宝剣を必要としそうな生命力。
まさにその名にふさわしい、樹木の王がそこにいました。
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