57 / 77
第50話:旅路
しおりを挟む「おぅえぇぇぇ……おぼろろろろ……」
「ぎゃああああああああああああ!? 濃厚な蜜が俺のズボンにぃぃぃぃぃ!?」
皆さんごめんなさい。楽しい旅になるって言ったな……あれは嘘だ。
今私は、妖生最大の酩酊感にガンガン頭を殴られています。
ピットを出て、およそ3時間といった所。ガタガタの道を走っていた所で、なんとも我慢が効かずリバースしてしまいました。
く、車酔い? これが車酔いってやつですか? 前に兎車に乗った時にはこんなことなかったんですけど……!
あ~、乗ったっつっても王様の家から畑までで、そんなに揺られてなかったですね……つまり、私の身体は今、長時間のガタゴトに対応できずに酔いよいになってると……!
くぅっ、出てくる体液が蜜や樹液だからいいものを、これが普通の人間なら大惨事確定な醜態です! え? もう既に大惨事? そんなー。
「ずびばぜん……酔いまじだ」
「あらら~、少し休む?」
「いやいや、このペースで休まれちゃあ何日たつかわかんねぇですって! あぁもう、上位妖精の蜜なんて高級品をぶちまけやがって、これだけでいくらになると思ってんだ……! 回収用の瓶!」
え、ちょ、ま、回収すんの?
やめて! それ私のゲ口ですよ!? 乙女のゲ口を保存だなんて何考えてるんですか!?
そんな私の訴えの視線に気づいたのでしょうか。デノンさんはジト目で私を見てため息をつきます。
「あのねぇ、俺らにとっちゃ、あんたら上位の存在は体全体まんべんなく、素材の山なわけですよ。ドライアドの蜜って言えば、舐めるだけで状態異常回復や一定時間の回復効果が得られる超貴重品ですよ? 一滴でも無駄にはできんのです」
「ろ、倫理的かつ、衛生的な観点は……」
「あ~……文献では、自分の手首を切って分け与えたり、口付けにより一命を取り止めたりといった内容が書かれてましたねぇ……まさか車酔いで吐かれて蜜を手にするなんて、想像つかない伝説を味わいましたよ」
の、のぉう!
ドライアドの蜜って、文献に載るくらいの貴重品!?
つまり、私の場合、『ガタゴト揺られて酔ってぶちまけ、蜜を回収することに成功』とか書かれるんです!?
ノット! ノットです! そんなん夢も希望もないですよ!
「デ、デノンさん……このことは、ご内密に……!」
「あ~……まぁ、あんたには借りが山ほどありますからね。別に内緒にするくらいはいいですよ」
よ、よかったです~。
しかし、なんともいえませんねぇ。デノンさんの手には、瓶にて回収された私の蜜があります。
あれが手に入った経緯を考えると……うん、も、もういいですね!
不純物ゼロの蜜ですもんね! そんなんだったらハチのロイヤルゼリーだって吐しゃ物ですよHAHAHA!!
人間と妖精の違い! アーハン? OK? パードゥン!?
よし! もうこれ以上は触れないでおきましょう!
「ふぅ……私、ちょっと上飛んでますね……兎車と同じスピードで追走しますので、おかまいなく~」
「んふふ、それがいいわね。少し風に当ってらっしゃいな?」
「ん、いってらっしゃい……しかし、ズボンの沁みは隠せんなこれ……」
いやぁぁぁ! 沁みとか言わないでぇ!
私は、逃げるように車の外に身を躍らせたのでした。
◆ ◆ ◆
兎車の外は、なんとも心地の良い世界でした。
森沿いを北西に、ぐるっと周る様に走っているのですけども、森以外は透き通るような草原が広がっています。
街道は整備されてないんですね……だからあんなに揺れたんですねぇ。飛ぶのに労力なんてかかりませんし、私は今後追走したほうがよさそうですとも。
私たちが向かっているエルフの里は、フィルボと同じく森に面しているそうです。エルフもまた、森と共に生きている民なのですね。
しかし、フィルボとは生き方がまた違うらしいです。フィルボは森の恩恵を受けながら森の外を開拓し、田畑を耕し生きる農協国家。
対して、エルフは森の木々に住まい、外の草原で魔物などの食料を狩って帰るという狩猟国家です。森の外には大型の魔物が多いので、食材も豊富って感じなんですね。
つまり、両者は生活が真逆なのです。同じ森仲間でも、こうも違うのだから面白いですよね。
狩猟を生業にしているだけあって、エルフには戦士が多く、また魔法を使う者も多いんだとか。その戦闘力があるからこそ、この時代を生きていられるってデノンさんが言ってました。
「つまり、そのエルフさん達と仲良くなれれば……デノンさん達も大助かり、と」
王様としては正しい判断で動いてますよねぇデノンさん。
走る兎の上に移動し、もふんと頭を撫でながら考えます。兎はぴくんと反応しながらも、走ることをやめません。うぅん健気。
しかし、森の中で暮らす民族……私、3~4ヵ月くらい管理者してますけど、まだお会いしてないですよねぇ。
中心には来ない人達だったんですかねぇ……?
「……まさか、ゴンさんが怖くて来れなかった? ん~、わからなくはないですね~。盗賊とか皆殺しにしてたらしいですし」
もしそうだったら、ゴンさんと仲が良い私がそこに行ったら、人質にでもされそうな気がしますね~。
……あっはっは! いやいやまさかそんな訳ないですよね~! 私大使様みたいなもんですし、わざわざゴンさんを敵に回すような事はしないでしょう!
『おい精霊様。なんか今、とてつもなく嫌な予感がしたぞ!?』
『そうねぇ、まるで兎車の上にハタでも突き刺さったような感じだわぁ?』
兎車の中で、デノンさんとえっちゃんがよくわからないお話しをしてますね。
しかし、私はそんなお話しを華麗にスルー。できる女はお偉い会話は聞かなかった振りができるのです。
そんなことより、エルフの飲むお茶を楽しみにしている方が何倍も楽しいですからね~。
かくして、私はエルフの里に向かい、ふよふよしながら胸を膨らませているのでありました~!
0
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる